健医感第35号

昭和60年7月12日

都道府県衛生担当部(長)長 殿

厚生省保健医療局感染症対策課長

AIDS患者発生時等における留意点について

 昭和60年7月12日付健医発第881号厚生省保健医療局長通知においてAIDS患者の発生が確認 された場合における2次感染防止、衛生教育等の面での御高配をお願いしたところであるが、 今般、AIDS調査検討委員会の意見を踏まえAIDS患者発生時等における留意点を別添のとおり取 りまとめたので、参考とされたい。 
別添

AIDS患者発生時等における留意点

1.伝播経路
 後天性免疫不全症候群(AIDS)は、ウイルスによる感染症であることが確認されつつある。 諸外国及び我が国におけに患者発生の実態からみて、疫学的には血液及び分泌液を介した伝播 が考えられ、それはB型肝炎ウイルス伝播様式と類似している。空気感染、飛沫感染、飲食物 を介した感染及び通常の接触による感染の報告はない。

2.診断
 別添の「AIDSの臨床診断の手引き」を参考とすること。また、抗LAV/HTLV−III抗体陽性を 感染の指標とする。

3.治療
 末だ研究段階であり、原因療法はなく、対症療法が中心となる。

4.予防
 現時点では、以下のような注意を守るのが妥当である。

(1) 一般的予防
1) 以下の物との性的接触によりAIDSに感染する可能性が高いことが知られている。
ア. AIDS患者またはAIDSの疑わしい者
イ. 男性同性愛者や静脈注射等による薬物濫用者
ウ. 男性同性愛者や静脈注射等による薬物濫用者等と交わる機会の多い集団
2) AIDSが疑われた場合には、直ちに医療機関で受診する。
(2) AIDS患者(疑わしい者を含む。)の発生時の予防対策
1) 患者のいる家庭での注意
ア. カミソリ、歯ブラシ、タオル等は、患者専用とする。
イ. 患者は、排尿、排便後は石鹸を用いて流水で十分に手を洗う。
ウ. 患者は、乳幼児に口写しに食物を与えないよう注意する。
エ. 患者の血液の付着した物は密封して焼却することが望ましく、分泌液の付着物等で廃棄できないものは石鹸を用いて流水で十分に洗う。
オ. 患者の血液又は分泌物で手指等が汚染された場合は、直ちに石鹸を用いて流水で十分に洗う。
カ. 性的接触による感染の防止には、コンドームの使用が有効であるとされている。
2) 医療機関での予防対策
ア. 患者の観血的処置に際し、患者の血液で汚染された器具からの感染に注意する。
イ. 患者の診療に際し、特に手指に創傷や炎症のある場合は、ゴム手袋を使用する。また血液の飛沫を浴びる恐れのある場合は、予防衣、マスク等を着用することが望ましい。
ウ. 手指が汚染された場合は、石鹸を用いて流水で十分に水洗いし、あるいは次亜塩素酸ナトリウム液(有効塩素濃度1%)に浸した脱脂綿で拭きとる。また着衣、ベッド、床等の汚物は、直ちに紙、布等で拭きとった後流水で十分に水洗いするか、次亜塩素酸ナトリウム液で消毒する。
エ. 患者から血液等を採取する場合は、注射針が一体となっている注射器または注射針を固定した注射器を用いる。これならば、注射針を外すことなく採取した試料を安全に排出させることも可能である。再使用可能な注射器を使った場合は、再処理に先立って次亜塩素酸ナトリウム液で消毒することが必要である。
オ. 検査用に採取した患者の血液又は分泌液の容器には、注意を促す標示を付ける。
カ. 食器等は、一般患者の場合と同様に扱ってよい。
キ. 面会も特に制限する必要はないが、乳幼児等抵抗力の弱い者との濃厚な接触は避けるよう配慮する。
ク. 普通の接触では感染しないため、特に患者を隔離する必要はない。ただし、重症の下痢、大小便の失禁、中枢神経系の感染による行動異常等病状が重く、身辺を清潔に保ちがたい患者は、個室に収容する。
ケ. 入院中の患者に対しては、次の指導を行う。
(ア) 血液等の汚染があった場合は、石鹸を用いて流水で十分水洗いすること。
(イ) カミソリ、歯ブラシ、タオル等は、専用とすること。
(ウ) 排尿、排便後は、石鹸を用いて流水で十分手を洗うこと。
コ. AIDS患者又は抗LAV/HTL一III抗体陽性者に対しては、2次感染防止の必要がある場合には、日常生活での注意事項の徹底を図るとともに、その者を通じて性的接触者が速やかに医療機関で受診するよう指導する。
サ. その他の点については、B型肝炎ウイルス・キャリアの扱いに準ずる。
(3) その他都道府県における対応
1) 衛生教育及び広報活動
 患者のほとんどを占めるのは男性同性愛者と静脈注射等による薬物濫用者であり、空気感染、飛沫感染、飲食物を介した感染及び通常の接触による感染の報告はない。
 したがって、一般住民が本症候群にり患するおそれは少ないと考えられるので、一般住民に無用の不安を与えないよう、都道府県において、必要に応じ、ラジオ、テレビ、新聞等の報道機関又は広報紙、パンフレット等を利用して、正しい知識の普及啓蒙を図ることが望ましい。
2) 相談窓口
 一般住民からの個別的な健康不安についての相談は、当面、本留意点及び「AIDSの臨床診断の手引き」(昭和60年7月12日健医発第881号厚生省保健医療局長通知「AIDS調査の実施について」)を参考にして、可能な限り都道府県(保健所を含む。)担当者が受けることが望ましい。
 一般医療機関からの専門的相談については、都道府県がAIDS調査に係る医療機関等の協力を得て専門的窓口を設置することが望ましい。
3) その他
 患者及び患者家族の秘密保持には、格別の注意を払う必要がある。