3.HIV検査

(1) はじめに
 AIDSはHIV感染後、長期間の潜伏期の後に発症する。HIVに感染すると、ウイルスと抗体が共存し、終生この状態を持続する。すなわち、血液中にはHIV抗体と同時にHIVが検出される。HIV抗体検査はHIV分離とほぼ同等の診断価値をもつがHIVを直接検出するわけではないので、HIV抗体検査の結果のみから判断することは必ずしも適切ではない。そのため、HIV感染の診断にあたっては病歴や生活歴、身体的所見及び検査所見などを総合的に判断する必要がある。
 感染してからの抗原、抗体の出現の予想図を示す(図III-1)。この図によると感染してから抗体が検出されるまでには平均6〜8週間要する。当然のことながら抗体が陽転する以前も血清中にHIV抗原、HIVゲノムが存在する。従って、抗原と抗体の変動を知ることにより、感染者のステージをある程度把握できる。
 1985年、西アフリカにおいてHIVに類似したウイルスが発見され、従来のウイルスはHIV-1、新しいHIVはHIV-2と呼ばれるようになった。HIV-2のgag、polのゲノムはHIV-1と高率に相同しているので血清反応でも交叉反応を示すがenvは50%以下の相同性しかないのでHIV-1抗体スクリーニング検査では検出できない。ただし、2型は西アフリカに多く、アジア・アメリカに非常に少ない。わが国では1994年6月現在1例見つかったのみである。
 ウイルス分離、ウイルスゲノムの検出はHIV感染の直接的な決め手となるが、検出率が低く、手技的にはなお進歩が望まれる。ウイルスの直接的な特定のDNAを増幅させるPCR(polymerase chain reaction)法は培養法の10〜1,000倍の高感度を示す。この方法は極めて微量なサンプルから特定のDNAをin vitroで増幅し、高感度に検出する方法としてウイルス感染症の診断に用いられている。しかし、逆に感度がよすぎるため極微量の外来ウイルスの混入によっても容易に誤った結果を引き起こすという問題がある。このPCR法は母子感染の早期診断、抗体が見つかる前の感染初期HIV-lとHIV-2感染の区別、感染後HIV抗体が長期間検出されない例、抗体産生能の悪い患者、HIV剤の薬効評価など特殊な場合には有用である。

 

表III-1 HIV-1とHIV-2の主要遺伝子とその産物
遺伝子 遺伝子産物
HIV-1 HIV-2
コア(GAG)
ポリメラーゼ(POL)
エンベローブ(ENV)

P18、P24、P55
P31、P51、P66
gp41、gp120、gp160

P16、P26、P56
P34、P53、P68
gp36、gp801(
gp1252)、gp140
P=蛋白:gp=糖蛋白、数字は概算分子量(Kd)
1) 時々RIPAで現れる。
2) WBキットではgp105として認められる。
WB法ではgp120とgp160のバンドはしばしば鑑別困難。
従って、結果の判定目的ではこれら2つの糖蛋白は1つの反応物とみなす。

 

(2)検査の種類
 現在わが国で一般的に実施されている検査法は以下のとおりである。
  1. HIV抗体の検出
    1) スクリーニング法
    PA法(particle agglutination method)
    PHA法(passive hemaggulutination method)
    ELISA法(enzyme-linked immunosorbent assay)
    2) 確認法
    Western blot法
    IFA法(immuno-fluorescent antibody assay)
  2. HIV抗原の検出
     ELISA法
  3. ウイルス分類培養
  4. プロウイルスDNAの検出
    PCR法
    PA法、PHA法及びELISA法はスクリーニング法として簡便であり、偽陽性は出るものの(約0.3%)偽陰性はほとんど出現しないので、まず最初はこれらの検査を実施するのが実用的である。しかし、これらの検査で陽性の場合には非特定反応による偽陽性反応の可能性もあるため、より精度の高いWestern blot法やIFA法などで確認する必要がある。
     しかし、これらの検査で判定不能という結果が出ることがある。その場合は、もう一度確認するか、1〜3カ月後に再検査を行うなど経過を追うべきである。感染の疑いが濃厚な場合はHIV抗原検査を行えば感染が確認される場合もある。ただし、判定不能のため診断が確定しなくても、HIV感染の疑いがある場合には、感染予防などについて適切な指示を行っておくことが望まれる。
(3)Western blot法の結果の判定
 Western blot法の結果の判定については、以下の注意が必要である。
  1. 判定に際して
    1) HIV抗体についてのWestern blot法によるバンドは図III-2に示すようなHIV溝造蛋白であるP18(15)、P24、P31、gp41(41-42)、P51、P55、P66、gp120(110-130)、gp160などに対して出現するが、感染経過や病状の進展によってバンドの出現頻度や組み合わせが異なる。
    2) P24に対する抗体は種々のバンドのうち早期に出現し、IDS発症後消失する傾向がある。
    3) HIV抗体についてのWestern blot法ではHIV構造蛋白以外の混入夾雑蛋白により非特異的バンドが出現することがある。
    4) エンベロープに対して出現するバンド(gp41、gp120、gp160)はHIV抗体としての特異性が高く、これらのバンドが出現するときには診断的意義が高い。
    5) Western blot法を自ら抗原から調整して検査を実施する場合、その調整工程で抗原を流失させてしまう可能性があることや、キット化されたものでも、特定のバンドが出にくいことがある。このため、検査の際には必ず、陽性コントロールと陰性コントロールをおいて実施し、判定の参考基準とする。
  2. 判定基準
     各キットはそれらの特徴によって判定基準が設けられている。従ってキットを使用した場合はその判定基準に従う。WHO及びCDCでの判定基準は表III-2のとおりである。
     Western blot法はPA法又はPHA法あるいはELISA法でスクリーニング検査をしたことを前提とし、その結果が陽性のものについて判定する。
     スクリーニング検査の結果陰性の検体について、Western blot法を行うと偽陽性判定保留になる場合があるからである。判定保留の場合には、同一検体についてIFA法を実施してみるか、経過を追って採血し、Western blot法による再検査を実施していく。例えばp24とp51のバンドは非特異的なバンドであることが多い。特にp24が単独で出現した場合には感染後の経過日数がしていることは極めて重要である。バンドが検出されるということはHIV制御蛋白に対する抗体の存在、あるいはウイルス構造蛋白が部分的に変化したも少ないことが要因であるか非特異低バンドである可能性が高い。
     Western blot法での陰性判定基準を、“バンドが出現しない場合”と規定の存在を意味するかもしれないからである。Western blot法はHIV感染症であることを直接診断するものではなく、HIVに対する特異抗体が存在することの可能性についての情報を提供するものであることから、HIV感染症であることの診断は、病歴、生活歴、身体的所見、除外診断を含めて総合的に診断する。なお、この基準は今後の研究及び検査法の改良や開発により変更されることがありうる。
    ※:Virus Information Exchange Newsletter, WHO Global programme on AIDS. Vol17. NO2.June1990.

    表III-2 Western blot法の判定基準
      WHO CDC
    陰性 バンドが出現しない場合 左に同じ
    陽性 3本のエンベロープバンドのうち2本が検出された場合 3本のエンベレープバンド及びp24のバンドのうち2本が検出された場合
    判定保留 バンドは存在するが陽性の判定基準に合わない場合 左に同じ

 

(4)結果の判定とその意義
  1. HlV抗体が認められない場合
     下記のいくつかの場合を除けば、HIVに感染していないと判断してよい。HIVに感染していても陰性反応を呈する場合としては、次のようなものが報告されている。
      
    • 感染後、抗体が陽転するまでの、6〜8週間程度の期間(抗体の出現に数カ月から数年を要する例やHIVの感染を受けても抗体が認められない例も報告されている。)
    • HIV感染症で高度に免疫機能が低下し、抗体産生能の低下によってHIV抗体が検出できなくなっている状態
  2. HIV抗体が認められた場合
     (すなわち、IFA法により陽性との結果が得られた場合、又はWestern blot法で特異的と考えられるバンドが検出された場合)
     自己免疫疾患患者、頻回受血者、妊婦、経産婦などでは、HIVに感染していなくても偽の陽性反応を呈することがあるので病歴を再確認し、他のメーカーのキットを使用して再検査を行えば、判断の材料となる。また、新生児の場合は母親からの移行抗体があることを考慮に入れねばならない。以上のような場合を除けばHIV感染症であると判断してよい。