4.AIDS発症に伴う病像

(1) はじめに
 HIVに感染しても一般的には無症状であるが、少数例では2〜8週の潜伏期の後に急性単核球増多症様、あるいはインフルエンザ様と表現される急性期症状を呈し、これが2〜3週続いた後軽快し、無症状となる。通常この無症候性キャリア(AC)の時期が数年あり、その後、持続性全身性リンパ節腫脹(PGL)、さらに発熱、下痢、口腔カンジダ症、体重減少などを伴うAIDS関連症候群(ARC)の時期を経て、日和見感染症あるいはHIV脳症、カポジ肉腫、悪性リンパ腫などを伴ったいわゆるAIDSへと進行していく。
 このようなHIV感染症の病期、病態を分類する方法としてCDC分類(表IV-1)、またはWalter Reed分類(表IV-2)、WHOステージ分類(表IV-3)が提唱されている。なお、アメリカでは1993年1月より、臨床所見とCD4陽性Tリンパ球数とを組み合わせた表IV-4に示す分類を用いている。
(2) AIDSの診断基準
 AIDSはHIV感染症が進行した結果、後天的に高度の細胞性免疫不全に陥り、カリニ(Pneumocys−tis carinii)肺炎などの日和見感染症、カポジ肉腫などの悪性腫瘍あるいはHIV脳症を合併したものと定義される。 
    
表IV−1 HIV感染症のCDC分類
第I群 急性感染
伝染性単核球症様あるいはインフルエンザ様症状
第II群 無症候性感染
第III群 持続性全身性リンパ節腫張(PGL):鼠径部以外の2ケ所以上に3ヶ月以上持続して径1cm以上のリンパ節腫張がみられるもの
第IV群 その他の疾患の合併
サブグループA 全身症状
1ケ月以上続く発熱、下痢、10%以上の体重減少など
サブグループB 神経症状
痴呆、骨髄症、末梢神経症
サブグループC 二次感染症
C・1 サーベイランスの定義に記載されている12疾患:カリニ肺炎、慢性クリプトスポリジウム症、トキソプラスマ症、イソスポラ症、腸外糞線虫症、カンジタ症(食道、気管、肺)、クリプトコックス症、ヒストプラスマ症、非定型抗酸菌症(トリ型コンプレックス、カンサス型)、サイトメガロウイルス感染症、進行性多発性白質脳症、単純ヘルペス(慢性粘膜・皮膚型、全身型)
C・2 他の6種類の二次感染症
口腔毛状白板症、帯状疱疹(多皮膚節)、ノカルジア症、反復性サルモネラ症、結核、口腔カンジタ症
サブグループD 二次悪性腫瘍
カポジ肉腫、非ホジキンリンパ腫、原発性脳リンパ腫
サブグループE その他の症状
慢性リンパ性間質性肺炎、その他


     表IV-2 HIV感染症のWalter Reedステージ分類
ステージ 抗HIV抗体
virus分離
慢性リン
パ節腫脹
CD4細胞
(/mm3)
遅 延 型
皮膚反応
口腔カン
ジタ症
日和見
感染症
WR0 >400 正常
WR1 >400 正常
WR2 >400 正常
WR3 +- <400 正常
WR4 +- <400 低下
WR5 +- <400 消失and/or
WR6 +- <400 低下/消失 +-


表IV-3 WHOステージ分類暫定案(1990)
臨床ステージ1: 
  1. 無症候性
  2. 持続性全身性リンパ節腫脹
    パフォーマンススケール1:無症候性、通常の活動可
臨床ステージ2: 
  1. 体重減少<10%
  2. 軽症皮膚粘膜症状(脂漏性皮膚炎、痒疹、爪真菌症、反復性口腔潰瘍、口角炎)
  3. 過去5年以内の帯状疱疹
  4. 反復性上気道炎(細菌性副鼻腔炎)
    かつ/又はパフォーマンススケール2:有症状、通常の活動可
臨床ステージ3: 
  1. 体重減少>10%
  2. 1カ月以上続く原因不明の下痢
  3. 1カ月以上続く不明熱(間歇的、持続的)
  4. 口腔カンジダ症
  5. 口腔毛状白板症
  6. 過去1年以内の肺結核の既往
  7. 重症細菌感染症(肺炎、化膿性筋炎)
    かつ/又はパフォーマンススケール3:過去1ヶ月間、日中の半分以上の床上安静生活
臨床ステージ4: 
  1. HIV消耗症候群(CDC基準による)
  2. カリニ肺炎
  3. 脳トキソプラスマ症
  4. 1カ月以上の下痢を伴うクリプトスポリジウム症
  5. クリプトコックス症(肺外)
  6. サイトメガロウイルス症(肺、脾、リンパ節以外)
  7. 単純ヘルペス感染症(内臓型又は1カ月以上続く皮膚粘膜型)
  8. 進行性多発性白質脳症
  9. 全身性地方病性真菌症(ヒストプラスマ症、コクシジオイデス症)
  10. カンジタ症(食道、気管、気管支、肺)
  11. 全身性非定型抗酸菌症
  12. 非チフス性サルモネラ菌血症
  13. 肺外結核
  14. リンパ腫
  15. カポジ肉腫
  16. HIV脳症(CDC基準による)
    かつ/又はパフォーマンススケール4:過去1カ月間、日中半分以上の床上安静生活
これらの臨床ステージはCD4数またはリンパ球数によってさらにA、B、Cに細分される



  リンパ球数 CD4数
>2,000 >500
1,000〜2,000 200〜500
<1,000 <200


      表IV-4 CDC新分類(1993)
CD4陽性
Tリンパ球数
臨床所見
(A)
無症候急性期
PGL
(B)
症候性で
A)または
(C)以外
(C)
AIDS指標疾患
を有する状態
(1)>=500/μl A1 B1 C1
(2)200〜499/μl A2 B2 C2
(3)<200/μl A3 B3 C3
PGL:Persistent generalized lymphadenopathy
アメリカの新しいAIDSの定義ではA3、B3、C1、C2、C3がAIDSに該当する。



     表IV-5 HIV感染症各種分類の対照表
  CDC分類 Walter Reed分類 WHO分類
無症候性
キャリア
(AC)
第II群 WR1
WR3 1)
WR4 1)

ステージ1(一部)
AIDS関連
症候群
(ARC)

第III群
第IV群A
第IV群C2(一部)

WR2
WR3 2)
WR4 2)
WR5 2)

ステージ1(一部)
ステージ2
ステージ3

AIDS 第IV群B
第IV群C1
第IV群C2(一部)
第IV群D
第IV群E

WR6 ステージ4
1) リンパ節腫脹のないもの
2) リンパ節腫脹を伴うもの


 AIDSの診断基準としては、1982年にアメリカのCDCが疫学調査の目的で作成し、1985年WHOにより採用されたものが広く用いられ、日本でもこれに準じて診断していた。しかし、1987年CDCはそれまでの症例の分析から、判定基準の枠を少し広げる修正を行った。この改訂によりHIV感染が未確認、あるいはHIV抗体が陰性でも一定の指標疾患が確定診断されればAIDSと診断してもよいことが明確にされたが、日本でもこれを受けて1988年、わが国に適合した「サーべイランスのためのAIDS診断基準」を作成した。なお、小児のAIDSについても基本的には上記のものと同じであるが、先天性の免疫不全、周産期におけるトキソプラスマその他の感染、母親からのHIV抗体の移行などの問題があるので、慎重に診断する必要がある。その際にはHIVの分離あるいはPCR法によるHIVプロウイルスの証明などが有力な手段となる。
 CDCは、1992年、診断基準を再び改定して修正拡大を行い、既存の23の臨床症状に3つの臨床症状を加えたほか、CD4陽性Tリンパ球数を診断基準に採用し、新たな診断基準は1993年1月l日よりアメリカで適用されている。ヨーロッパでは、European Centre for the Epidemio−logical Monitorng of AIDSは専門家と協議し、CD4陽性Tリンパ球数は診断基準として採用しない一方、CDCが取り上げた3臨床症状は診断基準に含めることをヨーロッパ各国に勧告した。ほとんどの国はこの勧告を受け入れ、新診断基準を採用し、同センターは1993年7月1日より新診断基準に基づくサーベイランスを行っている。
 わが国でも諸般の事情を考慮し、CD4陽性Tリンパ球数は診断基準として採用しないが、3臨床症状を診断基準に含めることとし、1995年1月1日より新診断基準に基づくサーベイランスを行うこととした(表IV-6)。
表IV-6 サーベイランスのためのAIDS診断基準
(厚生省エイズサーベイランス委員会、1994)
 わが国のエイズサーベイランス委員会においては、下記の基準によってAIDSと診断することとする。
HIV検査で感染が認められた場合
 酵素抗体法(ELISA)又はゼラチン粒子凝集法(PA)といったHIVの抗体スクリーニング検査法の結果が陽性で、かつWestern Bolt法又は蛍光抗体法(IFA)といった確認検査法の結果も陽性であった場合、または抗原検査、ウイルス培養、PCR法などの病原体に関する検査(以下、「病原検査」という。)によりHIV感染が認められた場合であって、下記の特徴的症状(Indi−cator Diseases)の1つ以上が明らかに認められるときはAIDSと診断する。
 なお、周産期に母親がHIVに感染していたと考えられる生後15カ月未満の児については、II によることとする。
II 周産期に母親がHIVに感染していたと考えられる生後15カ月未満の児の場合
 周産期に母親がHIVに感染していたと考えられる生後15カ月未満の児については、HIVの抗体確認検査が陽性であっても、それだけではHIV感染の有無は判定できないので、さらに以下の(1)または(2)のいずれかに該当する場合で免疫不全を起こす他の原因が認められないものをAIDSと診断する。
(1) HIV抗原検査、ウイルス分離、PCR法などの病原検査法が陽性で、特徴的症状の1つ以上が明らかに認められるとき
(2) 血清免疫グロブリンの高値に加え、リンパ球数の減少、CD4陽性Tリンパ球数の減少、CD4陽性Tリンパ球数/CD8陽性Tリンパ球数比の減少といった免疫学的検査所見のいずれかを有する場合であって、特徴的症状の1つ以上が明らかに認められるとき

(特徴的症状)

1 カンジダ症(食道、気管、気管支又は肺)
クリプトコックス症(肺以外)
クリプトスポリジウム症(1カ月以上続く下痢を伴ったもの)
サイトメガロウイルス感染症(生後lカ月以上で、肝、脾、リンパ節以外)
単純へルペスウイルス感染症(1カ月以上継続する粘膜、皮膚の潰瘍を呈するもの又は生後1カ月以後で気管支炎、肺炎、食道炎を併発するもの)
カポジ肉腫(年齢を問わず)
原発性脳リンパ腫(年齢を問わず)
リンパ性間質性肺炎/肺リンパ過形成:LIP/PLH complex(13歳未満)
非定型抗酸菌症(結核以外で、肺、皮膚、頚部もしくは肺門リンパ節以外の部位、又はこれらに加えて全身に播種したもの)
10 ニューモシスチス・カリニ肺炎
11 進行性多発性白質脳症
12 トキソプラスマ脳症(生後1カ月以後)
13 化膿性細菌感染症(13歳未満で、へモフィルス、連鎖球菌等の化膿性細菌による敗血症、肺炎、髄膜炎、骨関節炎又は中耳・皮膚粘膜以外の部位の深在臓器の腫瘍が2年以内に、二つ以上、多発あるいは繰り返して起こったもの)
14 コクシジオイデス症(肺、頚部もしくは肺門リンパ節以外に又はそれらの部位に加えて全身に播種したもの)
15 HIV脳症(HIV痴呆、AIDS痴呆又はHIV亜急性脳炎)
16 ヒストプラスマ症(肺、頚部もしくは肺門リンパ節以外に、又はそれらの部位に加えて全身に播種したもの)
17 イソスポラ症(1カ月以上続く下痢)
18 非ホジキンリンパ腫(B細胞もしくは免疫学的に未分類で組織学的に切れ込みのない小リンパ球性リンパ腫又は免疫芽細胞性肉腫)
19 活動性結核(肺結核(13歳以上)又は肺外結核)
20 サルモネラ菌血症(再発を繰り返すもので、チフス菌によるものを除く)
21 HIV消耗性症候群(全身衰弱又はスリム病)
22 反復性肺炎
23 浸潤性子宮頸癌
※ 19のうち肺結核、22、23は1994年の新たな診断基準で採用された特徴的症状である。
※※肺結核及び浸潤性子宮頚癌については、HlVによる免疫不全を示唆する症状または所見がみられる場合に限る。

(付記)AIDSに関連する特徴的症状の診断法

カンジダ症(食道、気管、気管支又は肺)
 内視鏡もしくは剖検による肉眼的観察又は患部組織の顕微鏡検査によって、カンジダを確認する。
 ただし、嚥下時に胸骨後部の疼痛があり、かつ紅斑を伴う白い斑点又はプラク(斑)が肉眼的に認められ、粘膜擦過標本で真菌のミセル様繊維を顕微鏡検査で確認できる口腔カンジダ症が存在する場合はカンジダが確定診断されなくとも食道カンジダ症と診断してよい。
クリプトコックス症(肺以外)
 顕微鏡検査又は培養によるか、患部組織又はその浸出液からクリプトコックスを検出することによって診断する。
クリプトスポリジウム症(1カ月以上続く下痢を伴ったもの)
 顕微鏡検査によって診断する。
サイトメガロウイルス感染症(生後1カ月以上で、肝、脾、リンパ節以外)
 顕微鏡検査によって診断する。
 ただし、サイトメガロウイルス性網膜炎は眼底検査によって、網膜に鮮明な白斑が血管にそって遠心状に広がり、数カ月にわたって進行し、しばしば網膜血管炎、出血又は壊死を伴い、急性期を過ぎると網膜の痂皮形成、萎縮が起こり、色素上皮の斑点が残るという特徴的な臨床像から診断してよい。
単純へルペスウイルス感染症
 1カ月以上継続する粘膜、皮膚の潰瘍を形成するもの又は生後1カ月以後で気管支炎、肺炎、食道炎を合併するもので、顕微鏡検査又は培養によるか、患部組織又はその浸出液からウイルスを検出することによって診断する。
カポジ肉腫
 顕微鏡検査によって診断する。
 肉眼的には皮膚又は粘膜に特徴のある紅斑又はすみれ色の斑状の病変を認めることによる。
 ただし、これまでカポジ肉腫を見る機会の少なかった医師は推測で診断しない。
原発性脳リンパ腫
 顕微鏡検査もしくはCT又はMRIなどの画像診断法によって診断する。
リンパ性間質性肺炎/肺リンパ過形成:LIP/PLH complex(13歳未満)
 顕微鏡検査によって診断する。
 臨床的には胸部X線で、両側性の網状小結節様の間質性肺陰影が2カ月以上認められ、病原体が同定されず、抗生物質療法が無効な場合はLIP/PLH complexと診断する。
非定型抗酸菌症(肺、皮膚、頚部又は肺門リンパ節以外、又はこれらの部位に加えて全身に播種したもの)
 細菌学的培養によって診断する。
 糞便、汚染されていない体液又は肺、皮膚、頚部もしくは肺門リンパ節以外の組織の顕微鏡検査で、結核菌以外の抗酸菌が検出された場合は非定型抗酸菌症と診断する。
10 ニューモシスチス・カリニ肺炎
 顕微鏡検査によって、カリニ原虫を確認する。
 ただし、最近3カ月以内に運動時の呼吸困難又は乾性咳嗽があり、胸部X線でび漫性の両側間質像増強が認められ、又はガリウムスキャンでび漫性の両側の肺病変があり、かつ、動脈血ガス分析で酸素分圧が70mmHg以下であるか呼吸拡散能が80%以下に低下しているか、又は肺胞−動脈血の酸素分圧較差の増大がみられ、かつ細菌肺炎を認めない場合は、カリニ原虫が確認されなくとも、ニューモシスチス・カリニ肺炎と診断してよい。
11 進行性多発性白質脳症
 顕微鏡検査もしくはCT又はMRIなどの画像診断法によって診断する。
12 トキソプラスマ脳症(生後1カ月以後)
 顕微鏡検査によって診断する。
 臨床的には、頭蓋内疾患を示唆する局所の神経症状又は意識障害がみられ、かつ、CT又はMRIなどの画像診断で病巣を認め、又はコントラスト薬剤の使用により、病巣が確認できる場合で、かつ、トキソプラスマに対する血清抗体を認めるか、又はトキソプラスマ症の治療によく反応する場合はトキソプラスマ脳症と診断する。
13 化膿性細菌感染症(13歳未満で、ヘモフィルス、連鎖球菌等の化膿性細菌による敗血症、肺炎、髄膜炎、骨関節炎又は中耳・皮膚粘膜以外の部位の深在臓器の腫瘍が2年以内に、二つ以上、多発あるいは繰り返し起こったもの)
 細菌学的培養によって診断する。
14 コクシジオイデス症(肺、頚部もしくは肺門リンパ節以外に又はそれらの部位に加えて全身に播種したもの)
 顕微鏡検査又は培養によるか、患部又はその浸出液からコクシジオイデスを認めることによって診断する。
15 HIV脳症(HIV痴呆、AIDS痴呆又はHIV亜急性脳炎)
 就業もしくは日常生活活動に支障をきたす認識もしくは運動障害が臨床的に認められる場合、又は子供の行動上の発達障害が数週から数カ月にわたって進行し、HIV感染以外にこれを説明できる疾病や状況がない場合をいう。これらを除外するための検査法としては、脳脊髄液の検査や脳のCT又はMRIなどの画像診断や病理解剖などがある。
 これらは、確定的な診断法ではないがサーベイランスの目的のためには十分である。
16 ヒストプラスマ症(肺、頚部もしくは肺門リンパ節以外に、又はそれらの部位に加えて全身に播種したもの)
 顕微鏡検査又は培養によるか、患部組織又はその浸出液からヒストプラスマを検出することによって診断する。
17 イソスポラ症(1カ月以上続く下痢)
 顕微鏡検査によって診断する。
18 非ホジキンリンパ腫(B細胞もしくは免疫学的に未分類で組識学的に切れ込みのない小リンパ球性リンパ腫又は免疫芽細胞肉腫)
 ここに挙げたリンパ腫の中にはT細胞性のもの、組織学的な型の記載のないもの、又はリンパ球性、リンパ芽球性、切れ込みのある小リンパ球性もしくは類プラスマ細胞様リンパ球性と記載されたものは含まない。
 顕微鏡検査によって診断する。
19 活動性結核(肺結核(13歳以上)又は肺外結核)
 細菌学的培養によって診断する。培養結果が得られない場合には、X線写真によって診断する。
20 サルモネラ菌血症(再発を繰り返すもので、チフス菌を除く)
 細菌学的培養によって診断する。
21 HIV消耗性症候群
 通常の体重の10%を越える不自然な体重減少に加え、慢性の下痢(1日2回以上、30日以上の継続)又は慢性的な衰弱を伴う明らかな発熱(30日以上にわたる持続的もしくは間歇性発熱)があり、HIV感染以外にこれらの症状を説明できる病気や状況(癌、結核、クリプトスポリジウム症や他の特異的な腸炎など)がない場合にHIV消耗性症候群と診断する。これらは確定的な診断法ではないがサーベイランスの目的のためには十分である。
22 反復性肺炎
 1年以内に2回以上の急性肺炎が臨床上又はX線写真上認められた場合に診断する。
23 浸潤性子宮頚癌
 病理組織学的検査による。

(3) AIDSの臨床像
  表IV-6に掲げた条件を満たせばAIDSと診断される。AIDSの指標疾患は種類も多く、また一つの日和見感染症でも侵される臓器によって症状が異なってくる。例えばサイトメガロウイルス感染症であっても呼吸器症状が主症状のこともあれば、眼症状で気付かれることもあり、また進行するとサイトメガロウイルスによる副腎炎のため副腎不全を呈することもある。さらにいくつかの日和見感染症が合併していることも多く、病像はかなり複雑である。合併する日和見感染症としてはカリニ肺炎、サイトメガロウイルス感染症、カンジダ症、抗酸菌症などが多く、特に前二者の頻度が高い。
 検査所見としてはCD4陽性リンパ球の減少が顕著で、ほとんどの例で200個/μl以下である。10個/μl以下のことも珍しくない。CD4/CD8比も逆転(1以下)し、0.3〜0.1程度となる。血清中のp24抗原(HIVコア抗原)はHIV感染初期に陽性で、ACの時期には陰性のことが多いが、AIDSを発症する頃から再び陽性となる。抗p24抗体は次第に低下するが、抗外被(エンブ)抗体(抗gp120抗体等)は最後まで陽性のまま推移する(図III−1)。またβ2ミクログロブリン、ネオプテリン、IgG、IgAなどが上昇する。経過観察にはCD4陽性リンパ球の絶対数もしくはその%、CD4/CD8比、β2ミクログロブリン等が指標として適している(表V)。

 

1. 全身症状
 全身症状としては発熱、全身倦怠感、易疲労、慢性的あるいは反復する下痢、食欲不振、体重減少などARC様の症状を認める。発症前に認められていたリンパ節腫脹は、AIDS発症の頃には消失することが多い。この他脂漏性皮膚炎、カポジ肉腫などの皮膚症状もみられることがある。
2. 日和見感染症(表IV-7)
 日和見感染の中で最も多いのがカリニ肺炎で、約4分の3の症例に認められる。CD4陽性リンパ球数が300個/μl以上で起こることはまれであるが、200個/μl以下になると発症の危険性が高い。CD4陽性リンパ球数が少ない患者に労作時の息切れや発熱があったら、まずカリニ肺炎を考慮にいれ、胸部X線と血液ガスを検査する。PaO2の低下があれば胸部X線で異常陰影を認めなくても誘発喀痰検査や気管支肺胞洗浄、肺生検などで積極的に診断をつけ、早期に治療を開始したほうが予後がよい。原虫症としてはカリニ肺炎のほか、クリプトスポリジウムによる下痢症、トキソプラスマ症、イソスポラ症などがある。


表IV-7 AIDSの主要な日和見感染症

微生物 主要感染部位 主要疾患









ニューモシスチス・カリニ 肺炎
クリプトスポリジウム 下痢症、胆嚢炎
トキソプラスマ 脳炎
赤痢アメーバ 下痢症
糞線虫(腸外) 肺、胃腸、脳、血液 播種性感染症(下痢症)
イソスポラ 下痢
カンジダ属 口腔、咽頭、食道 口腔カンジダ症、食道炎
クリプトコックス 脳、肺、リンパ節 髄膜炎、肺炎、リンパ節炎
皮膚、眼、血液 膿疱、網膜炎、真菌血症
ヒストプラスマ症 肺炎、播種性感染症
非定型抗酸菌 リンパ節、骨髄 リンパ節炎、播種性感染症、
肝、脾、血液、肺 肝脾腫、肺炎
サルモネラ 腸、血液 下痢症、反復性菌血症
結核菌 肺、腸、髄膜 結核症
サイトメガロウイルス 肺、腸、眼 肺炎、腸炎、脈絡網膜炎、
肝、脳、副腎 肝炎、脳炎、
副腎感染症炎
単純へルペスウイルス 皮膚、粘膜 単純ヘルベス、口腔ヘルペス、性器へルペス、
水痘帯性疱疹ウイルス 皮膚 帯状疱疹(多層性)
 
 カリニ肺炎に次いで多いのがサイトメガロウイルス感染症で、3分の1以上の症例に認められている(重複感染を含む)。サイトメガロウイルス感染症では間質性肺炎と網膜炎が多いが、副腎炎、腸炎、脳炎、骨髄炎などにも注意が必要である。眼底検査を定期的に行うことによりサイトメガロウイルス感染症やトキソプラスマ症を早期に発見できることがある。ほかのウイルス感染症としては単純へルベス、帯状疱疹がかなり頻繁にみられる。EBウイルス感染も少なくない。AIDSで見られる口腔毛状白板症、進行性多発性白質脳症もウイルス感染症である。
 細菌感染症では抗酸菌症が多い。結核はCD4陽性リンパ球数で見ると、他の日和見感染に先だって発症することが多いとの報告があるので、結核の既往のあるHIV感染者では注意して経過観察する必要がある。非定型抗酸菌症によると発症も散見される。菌種としてはMycobacte−rium avium intracellulare(トリ型コンプレックス)が多い。サルモネラ症や一般細菌感染症の例もある。
 真菌症では口腔や食道のカンジダ症、肺アスペルギルス症、クリプトコックス骨膜炎などに注意する。
 なおHIVの感染経路によって発症する日和見感染症の種類にも差があり、サイトメガロウイルス感染症は性行為でHIVに感染したAIDS患者に比較的多く見られるのに対して、血液を介しHIVに感染したAIDS患者では少ないと言われている。さらにカポジ肉腫も同性間性的接触によるAIDS患者に多いが、血液凝固因子製剤による感染者、受血者、静注薬物濫用者など、血液を介した感染者では非常に少ない。血液製剤による患者が多い日本ではカポジ肉腫は少ない。
3. 呼吸器症状
 AIDSではカリニ肺炎やサイトメガロウイルスによる肺炎が多いので、AIDSの症状としては呼吸器症状が最も多い。カリニ肺炎は発熱、咳嗽、呼吸困難などで発症するが、初期症状は大部分が体動時の息切れである。急速にPaO2が低下し、呼吸困難が進行する。胸部X線上、初期には異常を確認し難いことも少なくないが、通常、両肺にび慢性または小斑点状の陰影を認める。中、下肺野に病変が強い傾向があり、肺動脈陰影の輪郭が、シルエットサインで不明瞭となることが多い。確定診断には喀痰、あるいは肺生検(気管支鏡下または経皮的)、気管支肺胞洗浄、擦過診などで得られる材料を用い、顕微鏡的にはカリニ原虫を証明することが必要である。治療にはST合剤またはペンタミジンを用いるが(後述)、AIDSではST合剤にしばしばアレルギーが認められ、または両剤とも骨髄抑制その他の副作用を有しているので注意が必要である。
 サイトメガロウイルス肺炎はカリニ肺炎に次ぐ重要な日和見感染症である。サイトメガロウイルス感染症は同性間性的接触によるAIDS患者に合併頻度が高く、STDとしての側面もあると思われるが、カリニ肺炎の病原体同様、不顕性感染の率が高く、免疫不全のために顕在化したものと解釈される。これは間質性肺炎で、A-Cblock型の病態を示し、PaO2の低下が顕著である。胸部X線上は通常両側性び慢性の陰影を呈する。確定診断は生検または気管支肺胞洗浄などの材料で核内封入体を証明することが一つのよりどころとなる。
 初期に尿中にサイトメガロウイルスが排泄されることも多く、診断の一助となるが、尿中サイトメガロウイルスが陰性であっても、サイトメガロウイルス感染症は否定できない。サイトメガロウイルス感染症は全身性の感染症で間質性肺炎のみならず、網膜炎、副腎炎、食道炎、腸炎、脳炎、脊髄炎などを起こすことも多い。
 また、結核、非定型抗酸菌、真菌による呼吸器感染も多い。一つの病原体が確認されても他の感染症がいくつか重複していることも少なくないので、丹念に起炎菌をさぐる必要がある。
 結核症は結核菌の毒力が強く、HIV感染後、免疫があまり低下しない時期にも発症し、いわゆる日和見感染症とは異なる。HIV感染後は、結核に感染しやすく、また結核既感染者の少なくとも30%がHIV感染後、一生のうちに結核を発症すると言われている。結核症に特有な臨床症状はないが、その9割が肺結核症であり、咳、痰、微熱、疲れやすさ、寝汗等が2週間以上も継続するようであれば結核症の可能性を疑い検索を進める。確定診断は、結核菌の証明によるが、肺結核症の6割はレントゲン写真上の所見で診断されている。HIV感染後免疫不全が進むにつれ、レントゲン写真上の所見が非定型的になり、鑑別のために気管支鏡的検索を要する。感染した結核菌が薬剤に対し感受性があれば、結核症の治療成績は良好であるが、多剤耐性菌感染で発症した際には、発見から死亡にいたる期間が短く、致命率80%とその予後は極めて悪く、迅速な診断、治療が必要である。
4. 消化器症状
 初期の症状としてはARCの時期から口腔カンジダ症(oral candidiasis、oralthrush)が見られ、また単純ヘルペスウイルスによる口内炎、口唇ヘルペスも多い。口腔毛状白板症(oral hairy leukoplakia)もしばしば認められるが、これはEBウイルスやパピローマウイルスによる感染症の一部と見られている。
 口腔カンジダ症はAIDSの指標疾患には含まれないが、カンジダ食道炎、及び深在性カンジダ症は指標疾患となっている。口腔カンジダ症のある例に嚥下痛、胸やけ、心窩部痛、胸骨下痛などの症状がある場合は、カンジダ食道炎を考慮する。食道造影で食道潰瘍を認めるが、確定診断には病変部位の内視鏡所見、あるいはその部位の生検所見が必要である。サイトメガロウイルスや単純ヘルペスウイルスも食道炎を起こすことがある。
 AIDSに伴う消化器症状としては慢性の下痢も頻度の高いものであり、これが消化・呼吸不良を招き、るいそう(スリム病)の原因の一つとなる。AIDSの下痢症はサイトメガロウイルス、サルモネラ菌、赤痢菌、赤痢アメーバ、抗酸菌のほか、ランブル鞭毛虫、糞線虫、原虫といわれているクリプトスポリジウムなどの感染によることが多いが、原因不明の場合も少なくない。なお、口腔から直腸にいたる種々の部位にカポジ肉腫や悪性リンパ腫の浸潤、転移が発生しうる。
5. 神経症状
 AIDSに伴う神経症状は、初めトキソプラスマ、クリプトコックス、各種ウイルスなどによる中枢神経の日和見感染症あるいは原発性脳リンパ腫によるものと考えられていたが、HIVそのものによる脳症、痴呆症がかなり多数(約40%)存在することが明らかになり、注目されている。
 これはHIVによる亜急性脳炎または亜急性脳脊髄炎で、進行性の痴呆性を呈するところから、AIDS痴呆症候群(AIDS dementia complex)と呼ばれる。集中力の低下、健忘、無関心、運動失調、振戦などで始まり1〜2カ月ないし数カ月で高度の痴呆へと進行する。ついには嗜眠から昏睡にいたるが、途中、誤飲による肺炎その他の感染症に陥る例が多い。痴呆症候群や他の神経症状が初期症状であることも珍しくない。
 AIDS痴呆症候群では脳萎縮が認められ、臨床的にもCTなどで確認できる。大脳皮質は比較的保たれているが、皮質下灰白質と白質に病変が強く、また脊髄の空胞化も多い。臨床的に神経症状を呈していなくとも病理所見の存在する例が少なくない。これらの病変は脳細胞や脳内の単球/マクロファージ系の細胞がHIVに感染した結果であろうと推定されているが、不明の点も多い。 
 AIDS痴呆症候群以外の中枢神経疾患では日和見感染によるものが圧倒的に多く、中でも脳トキソプラスマ症が多い。脳内に壊死巣及び壊死性肉芽腫が多発し、脳炎様症状を呈する。CTでは多発性の低吸収域と、その辺縁が円形あるいはリング状にエンハンスされる病巣があり、その周辺に浮腫像を認める。合併頻度では、脳トキソプラスマ症に次いで、クリプトコックス症、脳リンパ腫、進行性多発性白質脳症の順である。脳トキソプラスマ症と脳リンパ腫瘍の鑑別は困難なことが多く、CT像も類似しているので、診断的治療に頼ることもある(後述)。クリプトコックス髄膜炎では髄液にクリプトコックスを証明する。進行性多発性白質脳症はパポバウイルスによる感染症と考えられている。進行性多発性白質脳症の症状は神経症状、片麻痺、運動失調など多彩で、進行性である。CTスキャンでは白質部に低呼吸巣が散在性に認められる。
6. 悪性腫瘍
 AIDSに特徴的な悪性腫瘍はカポジ肉腫と非ホジキンリンパ腫であるが、免疫能が低下しているため、異型細胞が生じたときにそれを認識できず、上記以外の悪性腫瘍もできやすい状況にある(日和見悪性腫瘍)。カポジ肉腫は血管肉腫の一種と考えられ、皮膚病変で気づかれることが多いものの、口腔、消化管、肺、肝など、どの臓器にも発し得る。皮膚病変も頭部、体幹、四肢いずれの部位にも発生するが、初めは小さな斑状の淡紫色の病変で、柔らかく、偏平であるため、一見皮下出血斑と見間違えやすいので、注意深い観察が必要である。大きくなってくると赤褐色の隆起性病変となり見分けやすくなる。この時期には数も増え、またリンパ節、その他の臓器に多発することが多い。これらは多中心的に発生することが多く、必ずしも転移とは限らない。古典的なカポジ肉腫が主として下肢に発生し、進行がゆっくりとしており、病変の数も少なく、比較的良性な経過をとるのと異なる点である。
 悪性リンパ腫は脳原発のリンパ腫が主であるが、その他の部位にも発生する。非ホジキンリンパ腫でsmall non-cleaved typeあるいはim-munoblastic typeのB細胞由来のものである。バーキットリンパ腫様のものが見られることからEBウイルスとの関連が注目されている。
 HIVに感染した女性では、子宮頚癌の前身症状である子宮頚部上皮の異形成の有病率が高い。また、これらの病因に深く関与していると考えられているヒト乳頭腫ウイルス(HPV)の感染率も高く、HIV感染による免疫能低下状態がHPVによる子宮頚部細胞の悪性化を促進する可能性も考えられる。従来の研究から異形成の一部は、数年〜十数年後に浸潤性子宮頚癌へと進展することが知られていることから、エイズ診断基準の特徴的症状に浸潤性子宮頚癌が追加されることになった。