7.HIV感染症の治療法

(1) はじめに
 HIV感染症の治療法としては、(1)HIVそのものに対する抗ウイルス療法(抗HIV療法)、(2)低下した免疫力を回復させ、またそのことによりHIVに対する免疫力も増強させようとする免疫調節療法、及び(3)合併した日和見感染症、悪性腫瘍などに対する治療に大別することができる。
(2) 抗HIV療法
  1. AZT、ddI
     現在、抗HIV薬として有効性が確認され医薬品として承認されているのはAZT(azidothymi-dine、zidovudine、Retrovil(R))とddI(didanosine、Videx(R))の2剤で、さらにddC(za-lcitabine)が臨床試験されている。いずれもヌクレオシド系の逆転写酵素阻害剤である。
    1) AZTの投与法
     AZTの適応はAIDS及びARCで、投与量は当初、1,500〜1,200mg/日(分6、4時間毎)とされたが、特にわが国での投与例では骨髄抑制、消化器症状などの副作用が強く、継続投与が困難であった。臨床試験の結果、日本では400mg/日が標準的投与量とされた。
     この量では有効性が不変である一方、副作用は大幅に軽減された。
     米国でも適正投与量に関する検討が進められ、600mg/日(分6)が適当とされた。
     また無症候性キャリアでCD4陽性リンパ球数が500個/μl以下の症例ではAZT500mg/日(分5、4時間毎、夜間1回休薬)で発症予防効果が見られることが明らかとなった。
     このことから、通常CD4陽性リンパ球数が500個/μl以下となったら、AZTによる治療を開始する。しかし、厳密には、いつから治療を開始するのが最善なのかはまだ不明である。このような投与量の減量により副作用、特に骨髄抑制作用が著しく減少した。
     副作用により好中球減少のある症例には顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を併用するとよい。副作用による貧血に対し、エリスロポエチンを併用する試みもある。しかし、長期投与の成績はまだ明確ではなく、また長期投与によりAZT耐性株が出現し、効果が滅弱する。
    2) ddIの投与法
     ddIはAZTが無効となった症例、またはAZTに耐えられない症例が適応となる。ddIにはドライシロップと錠剤の2剤形がある。ドライシロップでは334mg/日(分2)が標準投与量で500mg/日(分2)まで増量できる。錠剤はドライシロップよりやや吸収がよく、250mg/日(分2)が標準投与量で400mg/日(分2)まで増量できる。錠剤は1回につき2錠組み合わせて服用する必要がある(例:100mg錠+25mg錠1日2回)。食間または食後2時間に服用する。副作用には末梢神経症及び膵炎がある。
    3) 併用療法
     AZTを単独で長期使用するより、途中でddIに切り替える方がよい。またAZTとddIの交互投与より、同時併用がよいと言われている。  
  2. インターフェロンα
     日本では少ないが、AIDSのカポジ肉腫に対する有効性が示されており、カポジ肉腫に有効な例ではp24抗原も減少するなど、抗HIV作用もあるとされている。平均l,800万単位/日程度の投与量が必要とされる。この量では副作用も多い。
  3. その他の抗HIV薬
     AZTと同系統のジデオキシヌクレオシドがいくつか試みられ、現在日本ではddCが臨床試験中(海外では承認されている国もある)である。2.25mg(分3)が標準投与量と思われる。この他d4T(stavudine)、3TCなども海外で、試験中である。HIVプロテアーゼ阻害剤も有望視されている。 
(3) 免疫調節療法
 海外ではジオチカルプ、イソプリノシン、インターロイキン2、わが国ではグリチルリチン、有機ゲルマニウム、ノイロトロピン、和漢薬などが試みられているが、有効性、有用性は明確でない。
 インターロイキン2などはHIVの複製を刺激する恐れがあるので、AZTとの併用が安全と思われる。

 (注)AIDSの発症予防として、変性ウイルスあるいは遺伝子工学的技法を用いて作成されたワクチンも最近試みられつつあるが、有効性、安全性は不明である(日本ではまだ試みられていない)。 
(4) 日和見感染症の治療
 日和見感染症が予後を決定することが多いので、日和見感染症の治療及び予防は極めて重要である。AIDSにみられる感染症には特殊なものが多いので、主な合併感染症の治療方法を以下に示す(表VII)。
 一般的注意点としてはAIDSにおける日和見感染症は一種類だけでなく、二種類もしくはそれ以上が同時に合併していることが多いこと。対処が遅れると重症、難治性となりやすいこと、また、一旦治ったように見えても再発が多いこと、などである。診断を確定し、また経過を追跡し確認するため、積極的に検査標本を採取する必要がある。

 
表VII 感染症の治療法のまとめ


HIV感染症
1) AIDS、ARCの治療
AZT:400〜600mg/日
2) AIDSの発症予防
AZT:400−500mg/日(CD4≦500個/μlの場合)
原虫感染症
1) カリニ肺炎の治療
ペンタミジン:3〜4mg/kg/日 点滴(2〜3週)又は300〜600mg/日(吸入)
ST合剤:0.25g/kg/日
クリンダマイシン1.35g〜2.7g/日とプリマキン30mg/日の併用
2) カリニ肺炎の予防(再発予防)
ペンタミジンの吸入:300mg/回、1回/4週又は150mg/回、1回/2週
ST合剤:2〜4g/日(ロイコボリン又は葉酸と併用)連日または3日/週
ピリメタミン・スルファドキシン合剤(ファンシダールR):l錠/週
3) トキソプラスマ症
ピリメタミン:初日75mg/日、その後25mg/日
スルファジアジン(4〜6g/日)とピリメタミンの併用
スルファモノメトキシン(初日2g/日、その後1g/日)とピリメタミンの併用
ピリメタミン・スルファドキシン合剤(ファンシダールR):1錠/日
アセチルスピラマイシン:l.2〜1.8g/日
4) 赤痢アメーバ症
メトロニダゾール:1.25〜1.5g/日(10日間)
チニダゾール:1.5〜2.0g/日(7日間)
5) クリプトスポリジウム症
スピラマイシン:3g/日
6) イソスポラ症
ST合剤:8g/日(10〜14日間、その後2g/日を週3日)
真菌症
1) カンジダ症
フルコナゾール:200〜400mg/日(経口)
アムホテリシンB:lmg/日から漸増。維持量は0.3〜1mg/kg/日(点滴)
ミコナゾール:200〜400mg/日(点滴)
2) クリプトコックス症
フルコナゾール:同上
アムホテリシンB:同上
  髄腔内投与の場合は0.1mg/回から漸増。
  維持量は0.5〜0.7mg/回(週1〜2回)
フルシトシン:100mg/kg
ウイルス感染症
1) サイトメガロウイルス感染症
ガンシクロビル:5mg/kgを1日2回点滴
再発予防には5mg/kg/日連日、もしくは6mg/kg/日を週5回
2) 単純ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス感染症
アシクロビル:5〜10mg/kgを1日3回点滴
経口の場合単純へルペスには1,000〜l,200mg/日、帯状疱疹には4,000mg/日
再発予防には400〜600mg/日(経口)
ビダラビン:アシクロビル耐性単純へルペスに用いる。15mg/kg/日を15時間かけて点滴
細菌感染症
1) 結核
INH300mg/日、RFP450〜600mg/日、EB15mg/kg/日及びSM(またはKM)1g/日の併用
2) 非定型抗酸菌症
MACにはクラリスロマイシン800〜1,200mgとEB15mg/kgが基本型。無効時アミカシン、シプロフロキサシン、イミペネム、他の抗結核薬を試みる。
3) サルモネラ症
クロラムフェニコール、オフロキサシン、シプロフロキサシン
寄生虫
1) 糞線虫症
サイアベンダゾール:30〜50mg/kg/日、3日間
ピルビニウム・パモエート:5mg/kg/日、5日間
メベンダゾール:200mg/kg/日、3日間

  1. 原虫感染症
       
    1) カリニ肺炎の治療
     AIDS患者に見られるカリニ肺炎の多くは不顕性感染の再燃で、予防処置をしなければAIDSのほぼ7割に合併する。喀痰、肺胞洗浄液(BAL)、肺針吸引細胞診液などでカリニ原虫を確認する。原虫が確認されなくても臨床所見(症状、血液ガス所見など)、胸部X線等からカリニ肺炎が疑われれば治療を開始する。治療薬としてはST合剤とペンタミジンがあるが、AIDS患者ではST合剤にアレルギー反応を示すことが多いので、ペンタミジンを第一選択とする方が安全である。
    ア. ペンタミジン
     3〜4mg/kg/日を1〜2時間かけてゆっくり点滴静注する(one shotは不可)。筋注もできることになっているが、局所の疼痛が強く、膿瘍を形成しやすいので点滴静注がよい。効果がでるまで平均4〜6日かかるので、呼吸困難が強く、PaO2が65mm Hg以下の場合には短期間ステロイド(プレドニソロンまたはメチルプレドニソロン)を使用する。ステロイドの量、投与期間は色々で、プレドニソロン40mg程度の場合からパルス療法まである。いずれの方法でも臨床症状は劇的に改善する。ペンタミジンには白血球減少、腎障害、肝障害、低血糖、高血糖などの副作用があるので少なくとも週1〜2回の検査が必要である。2〜3週間ほど静脈内投与し、軽快してきたら副作用の少ない吸入療法(300〜600mg/日)に切り替え、さらに2〜3週治療する。
     軽症の場合には初めからペンタミジン300〜600mg/日の吸入でも充分治療できる。吸入粒子が肺胞まで達することが条件であるから、粒子径が3μm以下のものが多いことが望ましく、このためには性能のよい吸入器を用いる。吸入されたペンタミジシは肺胞にとどまり、血中にほとんど吸収されないので、上記のような副作用が無く安全である。吸入療法での副作用としては、吸入時の気道刺激による咳嗽が見られる。あらかじめサルブタモールなどを吸入させるとよい。
    イ. ST合剤
     ST合剤は1gまたは1錠当たりスルファメトキサゾール400mgとトリメトプリム80mgの合剤で、カリニ肺炎に対する有効率はペンタミジンとほぼ同程度で、約70%である。通常経口投与では、スルファメトキサゾール100mg/kg、トリメトプリム20mg/kg(体重50kgとしてST合剤12g/日)を3週間継続する。静注投与の場合は1日量を上記の4分の3程度とする。
     皮疹、発熱、白血球減少、肝障害などの副作用に注意する。AIDSでは特に皮疹の頻度が高く、激しい中毒性皮膚炎を呈することがあるので慎重に投与する。投与が長引く時はロイコボリン3〜5mg/日または葉酸4mg/日を併用する。
    ウ. その他
     ペンタミジン、ST合剤が副作用のため使えない例ではクリンダマイシン450〜900mg、1日3回とプリマキン30mg/日の併用を試みる。
     (注)日本では入手困難であるが、ダプソン100mg/日とトリメトプリム(15〜20mg/kg/日)の併用、あるいはトリメトレキセート45mg/m2日とロイコボリンの併用などの報告もある。
    2) カリニ肺炎の予防
     CD4陽性リンパ球数が200個/μl以下となった場合、あるいはカリニ肺炎の既往のある場合は必ずカリニ肺炎の発症あるいは再発予防策を講ずるべきである。
    ア. ペンタミジンの吸入
     色々な投与スケジュールがあるが、300mgを4週に1回または150mgを2週に1回の吸入が一般的な方法である。粒子径3μm以下の粒子が得られる吸入器を選択する。吸入療法は有効な方法であるが、上肺野への吸入が不充分であるため、時に上肺のカリニ肺炎、あるいは肺外のカリニ感染症を予防できないことがある。
    イ. ST合剤
     ST合剤2〜4g/日を継続または週に3日投与する。副作用防止にロイコボリン(3〜5mg/日)又は葉酸4mg/日を併用する。しかし長期投与は骨髄抑制などの副作用が早晩出てくるため困難な例が多く、ぺンタミジン吸入の方が現実的である。
    ウ. ピリメタメミンとスルファドキシンの併用
     ピリメタメミン25mg/日、スルファドキシン500mg/日の合剤(ファンシダール1錠相当)を1週に1錠服用する。簡便な方法であるが、皮疹、アレルギーなどの副作用があり、特にStevens-Johnson症候群など重篤な皮膚症状を呈することがあるので注意深く投与しなければならない。
    3) トキソプラスマ症
     トキソプラスマ症は主として潜伏感染していたToxoplasma gondiiの再活性化によるものが多く、限局性トキソプラスマ脳炎が臨床上最も問題となる。脳の他、肺、網膜脈絡膜、リンパ節などにも病変を起こす。脳トキソプラスマ症ではCT上多発性の低吸収域とその周辺のリング状のエンハンスメントが特徴である。脳リンパ腫との鑑別はしばしば困難であるが、脳リンパ腫は脳トキソプラスマ症より進行が緩徐なので、抗トキソプラスマ抗体価が高い(間接赤血球凝集反応または間接ラテックス凝集反応で1:1,024以上)場合には、診断的治療としてまずトキソプラスマの治療を2〜4週行い、無効であればリンパ腫の治療に切り替える。IgM抗体は陰性のまま経過することも少なくない。
     脳トキソプラスマ症には、ピリメタミン(初日75mg、分3、2日目以降25mg、分1)単独もしくはスルファジアジン4〜6g/日、分4またはスルファモノメトキシン1g/日、分l(初日のみ2g、分2)との併用有効である。
     ピリメタミン(25mg)とスルファドキシン(500mg)の合剤のファンシダールも有効であるが、半減期が長いので注意して使用する。
     アセチルスピラマイシン1.2〜l.8g/日、分4〜6も有効である。
     いずれも4週を1クールとするが、ピリメタミンを使用している時は葉酸またはロイコボリンを併用する。1クール終了しても全く無効であれば診断を再検討する。
    4) 赤痢アメーバ症
     腸アメーバ症、アメーバ赤痢及び腸外アメーバ症があるが、腸外のものはほとんどが肝膿瘍である。血清学的診断の的中率が比較的高い。
     治療にはメトロニダゾールl.25〜l.5g/日(分3、10日間)またはチニダゾール1.5〜2.0g/日(分3、7日間)を用いる。ここに示した投与量はいずれも肝膿瘍に対する治療量で、大腸炎に対してはこれより少なめの投与量でよい。
    5) クリプトスポリジウム症
     AIDSに見られる下痢症の10%前後がクリプトスポリジウムによるとの報告がある。確立された治療法はないが、スピラマイシン3g/日、分3がよいとの成績がある。ロペラミドなどの下痢剤を併用する。
    6) イソスポラ症
     Isospora belliまたはI.hominisの感染によるもので、下痢と発熱を伴う。ST合剤によく反応する。治療としてはST合剤8g/日(分4)を10〜14日、維持療法としては2g/日(分2)で週3日投与する。

     

  2. 真菌症
    1) カンジダ症の治療
     口腔カンジダ症の場合はフルコナゾールがよい。50〜100mgを1日1回投与する。局所療法としてアムホテリシンBシロップ(100mg/ml)4mlを1日に3〜4回含嗽・服用するのもよい。すぐ飲み込まず数分間、口内に含んでいるよう指導する。その他の薬剤としてはイトラコナゾール(l00〜200mg/日、分l)も入手可能である。
     カンジダ食道炎ではフルコナゾール200mgの経口投与と共に、口腔カンジダ症の治療も兼ねアムホリテシンBシロップの含嗽・服用による局所療法を行う。ケトコナゾールもよいが肝障害に注意する。
     深在性カンジダ症でも以下に述べるようなアムホテリシンBその他の抗真菌薬による全身療法と局所療法を行う。
     全身投与としてはアムホテリシンBやフルコナゾール、ミコナゾールの点滴静注、フルコナゾール、イトラコナゾール、ケトコナゾール、フルシトシンの経口投与がある。アムホテリシンBの全身投与は通常1日lmg(3時間以上かけて点滴静注)から開始する。投与量を徐々に増量(例:2mg、5mg、10mg以後10mgずつ増量)し、0.3〜lmg/kg/日を維持量とする。総量1mgを1クールとする。ミコナゾールはしばらく200mgを投与し重篤な副作用のないことを確認してから増量する。フルコナゾールは200〜400mgを1日1回経口投与する。局所療法としては呼吸器カンジダ症ではアムホテリシンB5〜10mg、1日4〜5回の吸入、またカンジダ性膀胱炎では15〜20mgを100mlに溶解した溶液の1日1〜2回の膀胱内注入を実施する。
    2) クリプトコックス症
     クリプトコックス症の中ではクリプトコックス髄膜炎が最も多い。これにはアムホテリシンBの全身投与が基本で、無効な場合は髄腔内投与を追加する。フルシトシン100mg/kg、分4の併用もよい。フルコナゾールは髄腔内移行が良好であるため、フルコナゾール経口投与もよい治療法と言える。
     アムホテリシンBの全身投与法は前項と同じである。髄腔内注入の場合は0.1mg/日から開始し、徐々に増量しながら2〜3日毎に注入する。0.5〜0.7mg/日を維持量とする。
     フルコナゾールは100mgを1日1〜2回投与する。効果は髄液中、血中クリプトコックス抗原量を追跡調査して判断する。

      

  3. ウイルス感染症
    1) サイトメガロウイルス感染症
     サイトメガロウイルス感染症はAIDSの指標疾患の中ではカリニ肺炎に次いで多くみられる感染症で、網膜炎、肺炎、副腎炎、食道炎、腸炎、脊髄炎などを起こす。大部分が不顕性感染の再燃である。カリニ肺炎の予防策がとられるようになったので、サイトメガロウイルス感染症が今後最も多い合併症となるであろう。網膜炎が初発のことが多いので、定期的眼底検査が重要である。
     治療にはガンシクロビルが用いられ、初回治療では80%以上の症例に有効であるが、中止すると再発するので、維持療法を継続する必要がある。白血球減少、血小板減少などの副作用があるため、1〜2週に1回程度の血算を行いつつ投与量を修正する。
     治療量は腎機能が正常の場合、5mg/kgを1日2回(10mg/kg/日)で、これを点滴静注により2〜3週投与する。再発予防には5mg/kg、1日1回で連日、もしくは6mg/kg、1日1回で週5回の投与を行う。薬剤の排泄経路が腎なので、クレアチニンクリアランスが80%以下の場合は、それに応じて投与量を減ずる。維持療法中に再発するようであれば、1日2回投与の治療量にもどす。
     好中球数減少のためのガンシクロビルが継続できなくなった場合には顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を用いるのもよい。
     (注)フォスカネット(phosphonoformate)もサイトメガロウイルスに有効と言われているがわが国では入手困難である。単クローン抗体による治療も検討されている。
    2) 単純へルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス感染症
     口唇あるいは外陰部の単純ヘルペスは経口アシクロビル1,000〜1,200mg/日、分5〜分6で数日以内にほとんどが軽快する。痂皮ができるまで治療する。重症のもの、食道炎あるいは脳炎を伴うものではアシクロビル5〜10mg/kg/回、1日3回(8時間毎)の点滴静注を行う。維持療法はまだ定まったものは無いが、経口アシクロビル400〜600mg/日、分2〜分3が妥当と思われる。
     アシクロビル耐性の単純へルペスにはビダラビン15mg/日を15時間かけて点滴静注する。
     帯状疱疹にはアシクロビル5〜15mg/kg/回を1日3回点滴静注する。経口薬の場合はアシクロビル4,000mg/日(分5)。
    3) その他
     進行性多発性白質脳症はパポバウイルス(JCウイルス)の、また口腔毛状白板症はEBウイルスあるいはパピローマウイルスの感染によるものと考えられる。白板症にガンシクロビルが有効であったとの報告があるが、これらに有効な抗ウイルス療法はまだ開発されていない。

     

  4. 細菌感染症の治療
    1) 結核
     本症も大部分が潜伏感染の再発である。多くは肺に再発が起こり、急速に肺外に進展する形をとるので結核の既往のある患者では注意が必要である。抗結核剤に対する反応は、比較的良好であるが、通常より長く治療(菌が陰性化してから少なくとも6カ月)する方が安全である。非定型抗酸菌との鑑別には時間がかかるので、血液、骨髄、BAL液、胃液などから抗酸菌が検出された場合ならば、すぐに抗結核剤による治療を開始する。
     イソニアジド(INH)300mg/日、リファンピシン(RFP)600mg/日、エタンブトール(EB)15mg/kg/日とストレプトマイシン(SM)(またはカナマイシン(KM))1g/日(当初2カ月間毎日、その後2〜3回/週)の四者併用療法がよい。不規則な治療をすると耐性化しやすいので患者教育も大切である。
    2) 非定型抗酸菌症
     非定型抗酸菌症は薬剤耐性のものが多く、治療が困難である。菌種としてはMycobacterium avium-intracellulare complex(MAC)が多い。M.kansasiiではエタンブトール、INH、リファンピシンなどの抗結核剤が効くことが多いが、MACではほとんど効かない。MACにはクラリスロマイシン800〜l,200mg(分2)とEB15mg/kg/日の併用が比較的よい。クラリスロマイシンが無効または使えない場合は、代りに、アミカシン、シプロフロキサシン、イミペネムなどを試みる。
     (注)クロファジミン、アンサマイシン(リファブチン)が有効であったとの報告があるがわが国では入手困難である。
    3) サルモネラ症
     非チフス性サルモネラ菌による下痢症や菌血症が見られる。クロラムフェニコールまたはオフロキサシン、シプロフロキサシンなどのニューキノロン系抗菌剤が有効である。
     再発が多い点に注意する。

     

  5. 寄生虫症の治療
     寄生虫疾患で多いのが糞線虫症である。腹部膨満、腹痛、下痢、嘔吐などの消化器症状が主である。確診は糞便あるいは十二指腸から幼虫を見出すことである。
     治療にはサイアベンダゾール30〜50mg/kg/日、分2、3日間連用、またはピルビニウム・パモエート5mg/kg/日、就寝前服用、5日間連用が用いられる。わが国では適応疾患として承認されていないが、メベンダゾール200mg/kg/日、分2、3日間連用も同等に有効である。いずれも2〜3クールくり返す。ただしピルビニウムは血中に吸収されないので、腸管外の糞線虫症には無効である。