9.無症候性キャリア、AIDS患者に対する指導・カウンセリング

(1) 指導・カウンセリングの前に
 HIV感染者(キャリア及びAIDS患者)を診察するには、HIV感染者と医療側の双方に、この疾患についての十分な理解が不可欠である。
 HIV感染者は、病気におびえ、将来に不安を覚え、さらに、周囲の人とどう関わったらよいかを悩んでいる。
 臨床の医師には、感染者に適切な物理的医療を行うことは勿論のこと、感染者の心埋的支えになることが要求されている。
 さらに、HIV感染などの感染性疾患の診療には、疫学的考え方や実行力が求められている。
 そして、この職務を遂行するには、この疾患の医学面の理解だけでなく、社会医学的視点からの理解と実践が必要である。
(2) 無症候性キヤリアに対する指導・カウンセリング
 本人の了解のもとでHIV抗体検査をしているので、原則としてなるべく速やかにHIV感染の事実を告げる。なお、説明や指導の時期や方法は、感染者の心理状態や性格に応じて調整する必要がある。
 無症候性キャリア(以下キャリア)には自覚症状がなく、今までどおりに生活できる体力も気力もある。また、キャリアは比較的若い活動的な年齢層に多いため、事実を告げても、疾患を十分に理解し、すぐに納得し、それに合わせた行動をとれるとは限らない。時間をかけ、じっくり話し合って、本人がどんな事態に直面しているかを理解してもらう。
 そのためには、緊密な患者医療者関係を作る必要があると同時に、医療側に時間的・人的余裕が必要である。
 また、感染者が正確に事態を知ると、将来の発病や死・自分の社会的立場に対する不安が強くなる。心理的に不安定のままキャリアを放置すべきでなく、カウンセリングの導入を考慮すべきである。
 診療の目的は、医学的には病勢の把握、免疫力の保持、合併症の早期発見・早期治療、公衆衛生学的には二次感染の予防、社会医学的には物理的及び心理的支援である。それらを実現するための指導・カウンセリングが主要な点である。主な具体的事項は以下のとおりである。
  1. HIV抗体が陽性であることの意味の説明
    HIVとは何か
    HIV感染とは何が――キャリアであることの意味
    AIDSとは何か
    今後どうなる可能性があるか
    発病した時の自覚症状の説明
  2. 診療の方針の説明
    一緒に病気と闘おうとする姿勢を示す――感染者の協力を求める
    何をする用意があるかを具体的に説明する
     身体に対する対処の説明――薬、検査の説明
     心理的支援のあることの説明――カウンセリングの説明
    何でも相談できること
    個人情報が守られること
  3. 発病を防ぐための指導
    体力の維持について
     バランスのとれた栄養
     アルコールを控える
     麻薬・覚醒剤を絶つ
     適度の運動
    気力の維持について
     仕事の継続
     社交の充実
     適度の運動
     カウンセリング
     感染者を全面的に受け入れてくれる理解者を作ること
     定期的通院について――具体的利点を説明し、理解と協力を求める
     症状の把握
     免疫力の評価
     適切な治療
     情報の収集
  4. 二次感染を防ぐために
    感染経路を説明し、理解を得る
     血液:注射の回し打ち、輸血について
     精液、膣分泌液:性交渉、コンドームについて
     母子感染について
    何に気を付けたらよいか――感染者の生活様式に合わせて具体的に
     日常生活について
     性行為について
    消毒の理解と実践――原則、方法の説明
     加熱、焼却について
     家庭でできる消毒の仕方
  5. 感染者の社会的立場の説明、社会人としての義務の理解と実践
    HIV感染状況の理解
     日本、世界の現状の説明
    この疾患に関しての一般市民の理解度について
    プライバシー、個人情報について
     医療機関、役所が安全であること――守秘義務の説明
     法律の説明――具体的報告事項の説明
     個人情報の取扱いについて――本人が注意すべきこと
     自己決定権について
    社会的義務について
    疫学の考え方の説明と協力の要請
     自分の社会的義務の自覚
     今の自分に何ができるかを考えてもらう
     家族・友人・パートナーとの関係を考えてもらう
(3) AIDS患者への指導・カウンセリング
 日和見感染の種類によっては、カリニ肺炎のように、軽快後は通院経過観察にできる場合がある。臨床医としては、残された時間を患者が有効に利用できるよう、できるだけ正確に病状と見通しを説明すると同時に、二次感染の防止のたの注意事項を話さねばならない。その内容は次のとおりである。なお、患者には病気の自覚が十分にあるので、他人への二次感染の可能性は少ない。
(ア)〜(オ) キャリアへの指導・カウンセリングの項で記載した(ア)〜(オ)の内容と同じであるが、AIDS患者はすでに自覚症状があり、キャリアに比べて病気・死への不安がより具体的である。したがって、カウンセリングの比重が大きくなる。
(カ) 病状の説明:正確に知らせ、見通しを含めて説明する。数年以内に致死的な事態になる確率が高く、患者本人に病状を話して、今後どう生活するかを決める手助けとする。
また、これから行おうとしている治療への心構えを作り、協力を得るためにも病状と治療内容の説明は不可欠である。説明の際は、患者の心理状態を考慮にいれ、柔軟に対応する必要がある。
(キ) カウンセリングの導入:主治医、看護婦、ケースワーカーあるいは患者の家族、友人がカウンセリング技術を持ち、実施できるとは限らない。また、十分な人的・時間的条件がない場合もある。厚生省及び(財)エイズ予防財団でカウンセラーの養成事業が行われているので、問い合わせるとよい1)。
(ク) 精神神経症状が出現する患者も多いので、心療内科、精神科との連携も大切である。
(ケ) 発症患者の診療は入院して治療することも多い。したがって、看護職を含めコメディカルスタッフとの意思の疎通、連携も大切である。
(コ) HIV感染者やAIDS患者には子宮頚部異形成の有病率が高いことが報告されているので、子宮がん検診を定期的に行うようすすめる。
(サ) 凝固因子製剤による感染者に対しては救済給付がある2)。
(4) HIV感染者の家族・友人への指導・カウンセリング
 キャリア、AIDS患者本人と相談して、誰に話すかを決めてから、直接面談で病気の説明を行い、指導・カウンセリングをする。HIV感染者は、いずれは重症化することが予想され、しかも精神・神経症状の出現することがあるので、早期に親しい人に病気の性質、見通し、治療内容を説明しておくことが望ましい。また、二次感染の可能性が高い人は、家族・友人であり、二次感染予防の意味からも、病気の理解が不可欠である。その内容は次のとおりである。
(ア)〜(オ) キヤリアへの指導・カウンセリングの項で記載した(ア)〜(オ)の内容と同じである。
(カ) HIV感染者の心理:感染者が病気と死を恐れていること、さらに、今まで生活してきた社会から阻害されることをも恐れているのを理解してもらう。家族や友人から理解され、受け入れられることは、感染者にとって強い心の支えになる。
(5) HIV感染のカウンセリング
 「HIVとカウンセリング」(厚生省エイズ結核感染課監修)が出されているが、その要点に沿って、カウンセリングの概要を述べる。
(ア) HIV感染者の現状:HIV感染者の苦しみは、一つにはエイズを発症した場合、生命の危険があるにもかかわらず、根治的な治療法が今のところ発見されていないことであり、二つには周囲の人々から過度に忌避的な態度を示されることのあることである。言ってみれば、二重の苦しみを持っている。
(イ) カウンセリングの目的:HIV感染者の苦しみを理解し、彼らにとってもっとも懸命な生き方は何かを一緒に考え、心理的社会的支援を行う。さらに、社会に対する自覚ある行動を促すことも目的となる。
 また、カウンセリングの対象はHIV感染者だけではなく、必要に応じて、その家族や友人にまで広げる場合もある。 
(ウ) カウンセリングの原則:カウンセリングの原則は、HIV感染者が自分の生き方を決めることができるよう、側面から助けることである。カウンセラー自身の人生経験や知識を相手に教え込むことではない。これがもっとも大切な原則である。
 カウンセリングの比較的短期の目標は、さし当たっての、情緒上、行動上の混乱を収め、そのコントロールを回復させることである。そしてより長期の目標は、人間的な成長を通じて新しい生活の可能性を開かせることである。
その原則は相手の自己決定を助ける
相手の不安や怒りの言葉に耳を傾ける
相手と一緒に考える
信頼関係を大切にする
一人で活動せず、相談できる指導者や同僚を持つ
(エ) カウンセラーの心構え(要点のみ)
自分の価値観をカウンセリングに持ち込まない
相手を尊重する
常に研修を重ねる
(オ) カウンセリングの進め方(要点のみ)
信頼関係を作る
問題点を整理する
解決の道を考える
意思決定に協力する
進み方を評価する
終わり方を考える
 

 
1) 連緒先: 厚生省エイズ結核感染症課
東京都千代田区霞が関1-2-2
TEL:(03)3591-3060(直通)
(財)エイズ予防財団
東京都港区虎ノ門1-23-11
寺山パシフィックビル
TEL:(03)3592-1181
2) 連絡先: 医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構(略称:医薬品機構)
業務部受託給付業務担当者    
東京都千代田区霞が関3-3-2
新霞が関ビル9階
TEL:(03)3506-9415(直通)