5.感染予防対策の原則

 感染症、特にHIV感染症、B型肝炎を始めとする血液を介する感染症の医療機関内感染予防にあっては、その病原体の種類を間わず、以下の点が常時励行されていることが必要である。
 血液、体液、臓器などは、HIVやB型肝炎ウイルスに限らず未知あるいは検査未実施の病原体を含んでいる可能性が高いので、常に慎重に取り扱う。
 診療に従事する者の皮膚、粘膜に傷や病巣のある場合で、直接血液や体液に触れるおそれがある場合には、常にグローブの着用等により接触を避ける。
 汚染を最小限にとどめるために、汚染された手指やグローブ又は医療材料等で周囲に触れないよう注意する。
 付着した血液、体液等は状況により、即座に洗浄、消毒などの適切な処置を行う。
(1) 検査の実施について
 医師が問診の結果等からHlVの検査の必要があると判断したときは、事前にその趣旨を説明し、本人の同意を得たうえで検査を行うべきである。なお意識を喪失した救急患者等のように同意を得られない場合には、医師の判断において行うことも認められる。
 なお、患者がHIVの検査の実施について了解しない場合は、感染している可能性があることを前提として対応する。
 また、医療に使用される血液、体液、臓器などに関してはその提供者が特定されない場合には、HIVの検査を実施し、提供者が明らかな場合には、提供者本人の了解を得たうえでHIVの検査を実施すべきである。
(2) 検査結果の告知について
 二次感染予防の観点から、検査結果については、本人に対して告知することを原則とする。
 ただし、告知は、医師が陽性者の心理状態等を十分配慮して慎重に行うことが必要である。
 また、陽性者の家族に対する告知は、陽性者本人の承諾を得て行うこととする。
 告知の有無にかかわらず、医師は二次感染予防の観点から、日常生活での注意事項の徹底を図るとともに、陽性者本人を通じて、性的接触者等が速やかに医療機関を受診し、相談、検査を受けるよう指導する。
(3) 検体等の取扱いについて
 HIVに感染しているか、感染の疑われる患者の血液、体液、臓器などや、それらに汚染された物を入れた容器には、原則として標識を付けて関係者に注意を促すこととする。なお、標識を付ける場合には、危険な病原微生物が含まれていることを示す標識を付けることとし、HIV感染のみを示すような標識を付けるべきではない。標識の方法等については感染予防対策委員会で検討するものとする。
 なお、標識のない検体でも他の病原体に汚染されてる可能性があり、慎重に取り扱う必要があることは言うまでもない。
(4) 秘密の保持について
 医療従事者が受診者に関する秘密の保持に留意することは当然のことであるが、HIV感染については、特に細心の注意を払い、次のような点に留意すべきである。
(ア) 患者に対する指示、指導、連絡等は医師が直接本人に伝える。
(イ) 患者本人以外の者からの電話等による患者に関する間い合わせには一切対応しない。
(ウ) 患者の病状等に係る証明書等の交付は、原則として患者本人以外の者に対しては行わない。
(5) 個室収容について
 通常の接触ではHIVの感染は起こらないため、他の患者への二次感染防止という観点からは、HIV感染者を隔離する必要はない。
 しかし、免疫機能の低下の兆候から明らかな病態の場合は、他の患者や外来者からの病原体による感染予防等、HIV感染者に対する医療上の必要性という観点から、個室へ収容する必要性が高い。また、大小便の失禁、中枢神経系の疾患による行動異常などの病状が重く、身辺を清潔に保ち難い患者についても、必要に応じて個室に収容する。 
(6) HIV感染者の保健指導について
 HIV感染者の日常生活上の保健指導については、以下のようなことに留意する。
(ア) 血液、分泌物が付着した物は、石鹸を用いて流水でよく洗い流す。洗浄が充分にできない物は、焼却することが望ましく、ゴミ集積場所に出す場合にはビニール袋等でしっかり包む。
(イ) 傷や月経時の出血は、なるべく自分で処理する。
(ウ) カミソリ、歯ブラシ、タオル等の血液のつきやすい日用品は、他の人と共有しない。 
(エ) 乳幼児に口移しで食物を与えない。
(オ) 食器は専用とする必要はない。
(カ) 排尿、排便後には、石鹸を用いて流水でよく手を洗う。
(キ) 性生活では、相手への感染予防のために体液が直接触れないように注意する。コンドームの使用は感染の予防に有効である。
(ク) 妊娠する可能性のある女性である場合は、母子感染の可能性等について理解が必要と考えられるので、あらかじめ医師への相談を勧める。
(ケ) 健康管理上、医療機関での定期的な受診を勧める。