7.減菌・消毒

(1) 一般的事項
 これまでの実験によると、HIVは現在日常診療の場において用いられている消毒薬の指定濃度よりも、はるかに低い濃度でかつ短時間で不活化されることが知られてきた。
 このため、日常生活においてHIVに感染することは、ほとんどないが、医療機関内では、通常の場合よりもさらに厳密な感染予防対策が求められており、HIVよりも感染力の強い病原体の混入も考えた減菌、消毒を行う必要がある。
 また、汚染物質の材質や形状、汚染状態によっては、消毒時間を長くした方が良い場合もあるので、このような観点から、WHOではHIVの不活化実験で得られた結果よりもかなり厳しい消毒条件を示している。
 現在のところ、日本ではHIVより感染力価が高く、感染者の多いB型肝炎ウイルスに対する減菌消毒に準ずることにより、安全を期することができると考えられる。
(2) B型肝炎ウイルスの減菌・消毒法*1
(ア) 加熱殺菌
 流水により十分に洗浄したのち、一般の病原性菌の消毒法として用いられている次の方法により完全に減菌される。
ア. オートクレーブ
イ. 乾熱減菌 
ウ. 煮沸消毒(15分以上)
(イ) 薬物消毒
 薬物消毒のうち、HIVウイルスに対しての疫学的検討から有効性が確認され、また最も広く用いられているものは塩素系消毒剤である。しかし、金属材料に対しては、本剤に腐食作用があるため、非塩素系消毒剤を用いる。なお、消毒する対象物が蛋白質でおおわれている場合には、薬物により蛋白質が凝固し薬物の効果が不十分となりやすいので、作用時間を長くすることが必要である。いずれにしても、使用後すみやかに十分に洗浄した後に、薬物消毒することが望ましい。
ア.
塩素系消毒剤
次亜塩素酸剤
有効塩素濃度 1,000ppm*2
消毒時間 1時間
イ. 非塩素系消毒剤
(a) 2%グルタールアルデヒド液
(b) エチレンオキサイドガス 
(c) ホルムアルデヒド(ホルマリン)ガス
*1 改訂 B型肝炎医療機関内乾性対策ガイドラインより抜すい
*2 WHOが示したHIVの消毒法では、次亜塩素酸ナトリウムの濃度を0.5%としているが、B型肝炎医療機関内感染対策ガイドラインでは、実用性についても考慮し、1,000ppm(0.1%)で十分としている。
(3) HIVの不活化実験等に基づくデータ及びWHOが示した消毒法
 
  HIVの不活化実験に
基づくデータ
WHOが示した
消毒法
オートクレーブ
(減菌)
121℃、20分(藤本等)*1 121℃、20分
煮沸 10分(藤本等) 20分
次亜塩素酸ナトリウム
100ppm、30分(藤本等)
52.5ppm(Martim等)*2
0.5%、
10分〜30分
グルタールアルデヒト 2%、15分(藤本等) 2%、
10分〜30分
ホルマリン水 1%、20分、37℃(藤本等)
0.5%(Martin等)
5%、
10分〜30分
イソプロピルアルコール 50%、5分(藤本等)
35%(Martin等)
エタノール 80%、5分(藤本等)
50%(Martin等)
70%、
10分〜30分
  紫外線
(5×103J/m3)
放射線
(2×105rad)
不活化されない
(Spirre等)*3
*1 北里大学藤本進客員教授等が、試験管内でHIVの不活化実験を行った結果に基づき、HIVの減菌、消毒法を示したもの。
*2 Martin L.S.等がHIV(105)に対し、室温21〜25℃、2〜10分、通常の消毒条件で行った不活化実験の結果を示したもの。
*3 Spirre等の実験結果 Lamcel、26、188〜189、1985

(4) 消毒法の実際
 現場において、減菌、消毒の方法を選択する場合は、まず、目的が減菌なのか、消毒なのかを整理する必要がある。
 その上で、汚染を広げないために最も適当な方法をその都度考え、具体的な方法を決定するとよい。
 減菌が目的である場合は、オートクレーブを使用するが、便用できない場合には条件の厳しい消毒法を行う。
 消毒が目的である場合は、汚染物の材質や形状、汚染状態によって消毒法を選択するとともに、十分な水で洗い流すことが、最も簡便で効果の高い消毒法であることも忘れてはならない。
(ア) 手指等の消毒
 常に清潔を保つよう心がける。感染者の血液や体液で汚染された場合、十分に水で洗浄することはHIVの濃度を下げ感染予防に役立つが、塩素系消毒剤やエタノール等*1による 消毒と水による洗浄を併用することは、より有効な手段である。
(イ) 口腔、眼の消毒
 眼などに血液等が飛んだ時には、ポリビニールアルコールヨウ素剤による消毒と、多量の水による洗浄を行う。
 ポリビニールアルコールヨウ素剤による点眼消毒剤は、精製水又は食塩水で4〜8倍に希釈して使用する。
 ポリエチレン製容器を使用すると効果が減少するのでポリプロピレン製容器に入れて、希釈後は冷暗所(冷蔵庫)に保管する。
 口腔粘膜などへの使用は、ポリビニールピロリドンヨウ素剤がある。
 ヨウ素剤の使用後、中和の必要がある場合は亜硫酸水素ナトリウム液(1〜2%)を用いる。
(ウ) 汚染器具の処理
 容器に入れてオートクレーブで通常の操作を行えば減菌できる。再使用する物については、器具の損傷を防ぐために水で十分洗浄した後、オートクレーブで減菌する。
 また、エチレンオキサイドガス減菌器による処理も有効である。
 消毒法としては、次亜塩素酸ナトリウム液、エタノール等に一定時間漬けるか煮沸する。
 グルタールアルデヒドも器具の消毒に用いるが、人体には使用できず、また、蓋つきの容器を使用するなど蒸気を吸い込まないようにする必要がある。
*1 エタノールはHIVには有効であるが、B型肝炎ウイルスの消毒には適切でない。
(エ) 室内備品等
 次亜塩素酸ナトリウム液やエタノール等をガーゼや脱脂綿に十分含ませたもので清拭する。
 環境の消毒用にはヨードホルム液がある。
(オ) リネン類
 硫酸紙袋等に入れオートクレーブするか、次亜塩素酸ナトリウム液に浸す。その後、通常の方法で洗濯する。
 また、エチレンオキサイドガスも有効である。
 さらに、汚染が激しい時には焼却する。
 HIVに対する消毒法の基準については流動的なところも多々あり、今後の実態調査等の結果を踏まえ改訂されるものと考えられる。