14.歯科

 歯科診療においては、抜歯、切開等の外科的処置及び盲のう把等の歯周療法処置をはじめとして観血的な処置を行う頻度が高い。したがって、患者の血液、唾液に接触する機会が多いので、歯科医師をはじめ歯科診療従事者は、常に適切な感染予防対策を行う必要がある。HIVは感染力が弱いので、原則的にはB型肝炎の予防対策に準じるが、感染予防に有効と思われる以下のような方策を示したので参考とされたい。
(1) 予診
 通常、HIVの抗体検査を行うことは必ずしも可能ではない。しかし、HIVの無症候性キャリアの場合は、本人の申し出がなければHIV感染者であるかどうかは不明である。
 したがって、十分な予診を撮ることが感染予防の第一歩であり、HIV感染が疑われた場合は、本人の承諾を得た上で検査を行う。
(2) 手指の保護
 HIV感染者とわかっている場合、あるいはHIV感染が疑われる場合は、傷の有無にかかわらず、直接口腔内に手指で触れることは避けるべきである。感染予防のためにはすべての処置にグローブを着用することが望ましい。
(3) 顔、眼の保護
 エアータービン、スプレーの使用時には顔に血液、唾液の混在した飛沫粒子を浴びることが多く、確実なバキューム操作(切削粉塵吸引装置を用い、診療終了後は水または次亜塩素酸ナトリウム液等を約2リットル吸引し、5分間空吸引する)を行うこと、ゴーグル(眼鏡)、マスクあるいはフェースシールドを着用し、帽子、マスク及びガウン等はディスポーザブルのものを使用することを検討する。
 万が一、眼に汚染血液が入った場合には、ポリビニールアルコールヨウ素剤で消毒することも有効とされている。
(4) 患者
 患者の口腔粘膜を消毒する時は、ポビドンヨード等を使用する。排出者の処理は、スピットンではなく、ティッシュペーパーを入れたビニール袋を使う。エプロンはディスポーザブルのものを使用する。
(5) チェアー及びユニット
 HIVに限らず感染症患者専用のユニットが確保されていることが望ましい。
 血液や唾液の飛沫汚染の恐れのある部分は、ビニールで覆い、ブラケットテーブルにはディスポーザブルのシートを使用し、診療後は破棄する。なお、チェアーは消毒液で清拭する。
 チェアーに付設した吸引装置のチップはディスポーザブルとする。また、チップをはずす時 はその前に吸引装置に十分水を吸引し、吸引管内に血液や唾液が逆流することを防止する。
 なお、ディスポーザブルのチップを使うのが不可能な場合は十分に水洗後、オートクレーブで減菌する。
(6) エンジンの使用
 歯科診療中、歯や骨を切削する場合は、できるだけ低速エンジンを用い、周囲への血液類の飛沫を避ける。また、その際にへッド類は使用後に取りはずしてオートクレーブで減菌できるものを使用することが望ましいが、不可能な場合には消毒を考える。さらに、へッド以外の部分はディスポーザブルの(ビニール製など)のカバーをし、周囲および床にも使用後に除去できるカバーを準備するとよい。 
(7) 麻酔
 局所麻酔を行う場合、ディスポーザブルの注射器を用いる。
(8) 印象物
 印象物には血液や唾液が付着しているので、作業従事者は全てグローブを着用し、印象物は採取後直ちに水洗いし、2%グルタールアルデヒド液に10分間浸す。なお、印象材は、印象表面の荒れ、寸法変化が考えられるので、アルギン酸系印象材よりもラバー系印象材を用いることがよい。
(9) 機材器具
 歯科診療の器具は使用後は、グローブ着用のもとで流水で十分洗浄し、オートクレーブ(121℃、2kg/cm3)で減菌するか、グルタールアルデヒドに10〜20分浸して消毒する。
 これらができないものではエチレンオキサイドガスを用いて消毒する。
(10) 患者への注意
 術後、特に創部から少量の出血などがあり、唾液中に混入するような状態で帰宅する際には、家庭での口腔からの排出物の処理に対し、注意を与えておく。