2.カウンセリングの方法

(1) カウンセラーの心構え
 カウンセラーは、HIV感染者のカウンセリングに当たって、特に次の点に注意しなければならない。
(ア) 自分の価値観をカウンセリングに持ち込まない
 カウンセラーは、自分の価値観や信念とは異なる価値観や信念を認め、かつ受け入れる心のゆとりがなければならない。また、カウンセラーの抱きがちな偏見がカウンセリングの展開を妨げることもあり得る。そのため、前述したように、指導者と常に話し合う習慣を平素から作っておくのがよいだろう。しかし、どうしても来談者との間に葛藤が生じてしまうときには、他のカウンセラ一と交代することを考えてよい。その場合も指導者や同僚の意見を十分に聞いたうえで行う必要がある。 
(イ) 来談者を尊重する
 カウンセラーは、来談者の診断名、治療経過、個人的情報、さらには周囲の人々の個人的情報など、カウンセリングを通じて知り得た個人情報を本人の了解なしに他人に伝えたり公表してはならない。
 ただし、来談者の許可を得たうえでなら、治療上必要な情報を他のスタッフや来談者の周囲の人に伝える場合もあり得る。その場合は、どのような情報を誰に伝えるかについて、はっきりと来談者に相談しておくことが必要であり、また、治療上必要な情報を伝えた相手方にも秘密を守ってもらうことが必要である。
(ウ) 常に研修を重ねる
 HIV感染者の問題と取り組み始めると、いろいろな悩みがカウンセラーの心の中に浮かぶことだろう。自分の無力さに絶望したり、カウンセリングを通じてHIV感染者からHIVに感染することはないと理性的には分かっていても、恐れを感じていたり、同性愛行為などへの違和感が心に浮かぶこともあるかもしれない。そういうとき、専門家としての倫理感や義務感との葛藤に苦しむことになる。
 一般的にいって、カウンセリングを始めると、カウンセラーは自分自身が抱く心理的問題と向き合わないわけにはいかなくなるので、これまで自分がよりどころにしていた価値観の土台がゆらぎ、多少とも不安になることが、知られている。
 こういうとき、カウンセラー自身が自分を知るためにカウンセリングを受けたり、同僚や先輩と話し合ったりすることが必要で、それがHIV感染者に対するカウンセリングにかかわらず、その他のカウンセリングにもきっと役立つ。 
(2) カウンセリングの進め方
 来談者の生活背景、性格などはすべて異なることから、カウンセリングの進め方も一律ではないが、前述した原則を踏まえ、定型的なカウンセリングの流れを進めてみよう。
(ア) 初めてのコンタクト
 初めて相談に来た来談者は、情緒的に混乱し、どうしてよいか分からなくなっていることが多い。その場合には、まず来談者の混乱した気持ちをそのまま受け止め、来談者の感じている不安感などを一緒に感じるようにする。来談者はカウンセラーに受け止められるとき、初めてその混乱に直面することができる。ちょうどカウンセラーという鏡を通して自分を見るような格好になる。
 カウンセリングに訪れてはみたものの、カウンセリングを恐れているような人には、気持ちを落ち着かせるように日常生活の話などから話し始め、カウンセラーへの信頼感や安心感を損なうことのないような配慮が望ましい。 
(イ) 問題点を整埋する
 ある程度の信頼関係が持てる状態になったら、何が心配なのか、どのようにしたいのかなど、来談者が感じているであろう問題を来談者と一緒に整理する。問題がはっきりするだけでも、人はずいぶん落ち着くことができる。もっとも、カウンセラーが、来談者の話から理解した問題点をすぐに来談者に言ってしまうのは必ずしもよくない場合もある。来談者が気づいていない問題、あるいは避けている問題については、たとえカウンセラーが推測できたとしても、それを口にする時期などについて慎重であることが望ましい。
(ウ) 解決の道を考える
 ほとんどの場合、解決のためのみちはすぐには見つからない。したがって、早く答えを出してはならない。また、解決方法は一つではないかもしれない。カウンセラーだけで解決できないことも多い。そのためには、日頃がら、広く関連の情報を収集したり、他の職種や機関などから協力が得られるような関係を作っておくなど、なるべく多くの解決のための可能性を考えられるように準備しておきたい。
(エ) 意思決定に協力する
 時間をかけて問題点が整理されてくると、来談者の考え方や行動に変化が現れてくる。
 たいていは考え方より行動面での変化の兆しが早く現れる。カウンセリングの原則の項で述べたように、カウンセリングとは来談者が自分で自分の生き方を決めるのを助けることであるから、一見小さく見える変化に対しても来談者の注意を喚起し、できることならば来談者が行動面だけでなく、言葉としても自分の変化をカウンセラーに述べることができるところまで持っていきたい。 
(オ) 進み方を評価する
 HIV感染者へのカウンセリングがうまく進んでいるかどうかの判断は、たとえば次のようなことを目印にするのがよいだろう。
1) 情緒的支援について
  • カウンセラーとの人間関係はどうか。
  • 家族、友人、同僚など周囲の人々を動員して支援システムを作ることは可能となっているか(考えてみたか)。
  • 患者会など同じ病気を抱える人との関係作りは考えてみたか。
  • その他来談者の持つ支援資源(たとえば宗教など)を十分確認したか。 
2) 生活支援について
  • 公的サービスの活用は十分検討したか。
  • 家族、友人、同僚など周囲の人々の協力を得るのに成功しているか。
3) 考え方や、行動パターンの変容について
  • いままでの考え方、行動パターンをカウンセラーとともに振り返り、うまくいかなかったやり方を適応できるようなものに変容させていく方向へ進めているか。
  • 来談者の視野を広げ、問題の持つ積極的な側面や現実的な側面への認識の幅を広げる方向に進んでいるか。
4)  健康状態の管理について
  • 必要な検査や治療、病気や症状のケア、または医学的な情報が提供できているか。
  • 健康に害のある行動に気づかせ、変化させ、感染を他に広げる恐れのある行動を自制させるのにどの程度成功しているか。
(カ) 終わりを考える
 来談者が問題状況を一応乗り越え、周囲の援助を受けながらでも自律的な生活を送れる見通しがついたら、カウンセリングの終結を考え、それを来談者との話題に出す。カウンセラーから離れていく不安は当然感じるだろうが、これについては、自由にかつ十分に話し合う。また、生活目標を明確にし、来談者の自律性を援助する。そして門戸はいつも開いていること、問題が生じたらいつでも相談に応じる用意のあることを伝えておく。普通、終結を話題に持ち出してから2〜3カ月かけてゆっくりと終わるのが望ましい。面接間隔を延ばしていって徐々に終わることもある。
 しかし、HIV感染者のカウンセリングにおいては、終結がない場合を考え、来談者には必ずしも終結を話題に出さず、来談間隔の伸縮で対応することもある。