5.HIV感染カウンセリングのアプローチ例

注:ここに示したアプローチ例は、説明を容易にするため架空に設定されたものである。

(1) エイズ不安症候群
 40歳代の既婚の男性 彼がときどき行くバーのバーテンダーが男性同性愛者ではないか、そこで働いている女性が売春をしているのではないかと思っている。彼はその女性とは性的な関係を持ったことはないが、そのバーに出入りしているのでエイズに感染しているのではないかと心配し、かかりつけの医師に相談したがとりあってくれず、総合病院に検査を受けに来た。彼には、体のだるさや湿疹が出てきていて、それがエイズの症状に似ているという。彼は同性愛の経験はなく、数年前に売春行為を行う女性と性交渉を持った経験があるが、最近はない。
<相談者の背景>
(ア) まだHIV抗体検査を受けていないが、感染している可能性は少ないと思われる。
(イ) 40歳代の既婚の男性で、家族とともに生活している。会社員。
(ウ) 中学生の子供が2人いる。妻と子供の4人で生活している。家族は彼が検査を受けに総合病院に来たことを知らない。
<取り上げるべき問題>
(ア) 感染したのではないかという不安が強い。
(イ) 自分でその不安をコントロールできない。
〈かかわり方とアプローチ法〉
(ア) このケースは、専門医療機関に受診してきた当初から、感染しているのではないかという不安が高まっていた。カウンセラーは、まず本人の不安を受け止める。
 例:「…(という気持ち)ですね」
(イ) なぜ感染したと思うのか、何か危険な行為があったのか、確認する。
 性的関係、薬物使用、今までの受診歴など。
 例:「どうして感染したと思うのですか」
(ウ) エイズ、HIV抗体検査についての認識を確かめ、必要な情報を伝達する。
 例:「エイズをどう考えていますか」
(エ) もしHIV抗体検査を受け、その結果が陰性だったら安心できるか、陽性だったらどうするか話し合う。
 例:「検査を受けて、その結果が陰性だったら安心できますか」
 例:「検査を受けて、その結果が陽性だったら何が一番心配ですか」、
 もし必要があれば、抗体検査前のカウンセリングを行う。
 HIV感染が疑われるようなときは、必要があれば、次の点を事前に説明しておく。
1) 「もし陽性と出たら、精密検査をします」
2) 他人に感染させないためにどんなことに注意するか。
3) HIV抗体陽性=エイズではないこと。
4) 家庭や職場での生活の変化について具体的に説明し話し合う。
5) HIV抗体検査を受けるかどうか話し合う。



 
(2) 抗体検査前カウンセリング
 20歳代の男性
 
海外での性交渉あり。相手は売春行為を行う女性で、コンドームを使用しなかった。会社や同僚に受診したことを知られることを心配し、約6カ月間、受診しようかするまいかと迷った末、今後どうすべきかを最終的に決めるために医療機関に相談してきた。抗体検査を受けるかどうか決心がつかないでいる。
<相談者の背景>
(ア) HlV抗体検査はまだ受けておらず、感染の有無は不明である。
(イ) 妻があり、子どもはまだない。両親とは別居している。
<取り上げるべき問題>
(ア) 感染しているのではないかという不安があるが、HIV抗体検査を受けてそれを確かめる決心がつかないでいる。
(イ) 検査結果の情報をどう扱うか。プライバシーを保護するためにはどうしたらよいか。
(ウ) 本人に検査結果をどう伝えるか。
(エ) HIVの感染経路について説明し、検査結果が出るまでの生活指導をする(特に妻との性交渉について)。
<アプローチの方法>
(ア) このケースは、HIV抗体検査を受ける決心がついていない。まず、その決心の程度を確かめ、検査を受けようとする気持ちを支持する。
例: 「検査を受ける決心はなかなかつかなかったでしょうね」
「なぜ決心がつかなかったのでしょうか」
(イ) 本人は、HIV感染の可能性がどれくらいあるか、個人情報がどう守られるかを知ってから、決心しようとしている。その具体的な情報を与えて決心を促す
(ウ) 抗体検査の結果が何を意味するかを説明する。抗体陽性がすなわちエイズを意味するのではないこと。
例: 「検査で何が分かるか、知っていますか」
「検査で陽性ということは、どんな意味なのか分かりますか」
(エ) 検査を受ける決心をした場合、当面の生活について話し合う。
例: 「検査結果が出るまでの間、どう生活したらよいと思いますか」
「性交については、どう考えていますか」
「このことを奥さんに話すつもりですか」
「奥さんに移してしまったかもしれないと思っていますか」
「それなら、どうしたらよいと思いますか」
(オ) 本人のプライバシーを守るために、検査結果をどのように伝えたらよいかその方法を話し合う。
(3) 抗体検査後カウンセリング〔検査結果が陰性の場合〕
 40歳代の男性
 
海外で売春行為を行う女性との性交渉あり。本人の話では、心配で仕事に身が入らなかったらしい。感染機会から3カ月後にHIV抗体検査の結果を受け、結果は陰性だった。
<相談者の背景>
(ア) 抗体陰性。
(イ) 40歳代。男性の会社員。 中間管理職である。
(ウ) 妻と2人の子あり。妻も子も、夫が検査を受けたことは知らない。両親とは別居。
<取り上げるべき問題>
(ア) 抗体陰性の意味について。
(イ) 今回の受診に至った責任について。
(ウ) 今後の本人の性行動の変容の可能性について。
(エ) 他の受診者や陽性者の心理の理解について。
(オ) 今後のよりよい受診体制の確立のため、医療機関側の改善すべき点について。
<かかわり方とアプローチの方法>
(ア) 抗体陰性の意味について、本人の考えを聞き出しながら説明する。
例:「陰性でしたが、それはどういうことか分かりますか」
(イ) 今回の受診に至った背景を考えさせる機会を持ち、感染機会を作った自らの責任について考えてもらう。
例: 「よかったですね。でももし陽性だったら家族に対してどう責任をとるつもりでしたか」
(ウ) 今後の性行動について考えてもらい、その行動変容をめざす気持ちを支持する。
例: 「ところで、今後また機会があったら同じようなことをしますか」
(エ) 心配して受診してきている人や陽性となった人への心理的な影響を考慮し、HIVに感染した人の気持ちを考えてもらうようるする。
例: 「不幸にして検査結果が陽性だった人もいますが、その人たちをどのように思いますか」
(オ) 今後の受診において、医療機関側の改善すべき点を聞き、今後の体制改善に役立てる情報を収集する。
例: 「今回の受診で、何か不都合なことがありましたか? 教えてください」
「今回の受診で、何か不安を感じましたか」
(4) 抗体検査後カウンセリング〔検査結果が陽性の場合〕
 40歳代の男性
 
約20年ほど前から男性同性愛行為がある。肛門性交あり。相手は今までに20人ほど。現在の相手とは自宅以外で月2〜3回会っている。この件について両親は知らない。現在の相手と一緒に総合病院に行き、検査を受け、結果は陽性と出た。相手の男性は抗体陰性だった。主治医からカウンセラーと話し合うよう勧められた。

<相談者の背景>
(ア) 臨床症状なし。検査上、免疫能低下は軽微で、無症候性キャリアの状態。いつ感染したかは本人にも分からない。
(イ) 40歳代の独身男性で自営業を営む。
(ウ) 両親と同居。他に弟あり。いずれも、本人の性生活、抗体陽性を知らない。
<取り上げるべき問題>
(ア) 抗体陽性の意味について。
(イ) これからどうするかを本人に考えてもらい、問題点の整理、解決策を決定し目標とする。
(ウ) 医療側が何を目標にして、何をしようとするかについて情報を提供する。
(エ) 感染源および二次感染者をどうするか。
(オ) 抗体陽性者としての本人の社会的立場と責任について。
<かかわり方とアプローチの方法>
(ア) 医療施設によって異なるが、欧米およびわが国のHIVカウンセリングの実績から、次のような内容と姿勢が基本的事項となる。
1) 説明と指導の基本的事項

 

  1. 告知
  2. 疾患の理解、HIV感染者の社会的立場と責任の説明
  3. 発病防止のための指導
    1. 体力維持のための指導
    2. 気力維持のための指導
    3. 通院の必要性の説明
  4. 二次感染防止のための指導   
    1. 感染の原則と具体的感染防止策の定時
    2. 消毒方法の説明と指導
    3. 一般衛生思想の説明と指導
  5. 家族などへの説明と指導
 
2) 本人に直接面談しながら話す。
3) 長時間かかることを計算に入れる。
4) 次回の面談を必ず決める。
5) 明確な言葉で話し、誤解を起こさぬよう注意する。
6) 告知は主治医が行う。主治医から医療側の方針と具体策をすでに話してある場合は、本人との連絡を速やかに、かつ密にとる。
7) 1回1回必ず締めくくり(総括)、話し合いの結果を確認する。
(イ) 抗体陽性が直ちにエイズでないことを納得してもらう。
例: 「抗体が陽性であることは、どういうことだか知っていますか」

 できれば心理状態を把握するために、本人の感想を聞き出し、共感の態度を示す。

例: 「陽性と聞いて、どう思いましたか」
「なるほど、そう思いましたか」
「…ということですね」など。
(ウ) 本人が問題と考えている点を出させ、整理、評価を手伝い、解決策を作るのを援助する。
例: 「今、困っていることやこれから困ることには、どんなものがありますか? 思
      うままに話してくれませんか」
「何が一番困ることなのが、一緒に考えさせてください」
「どうしたらよいと思いますか」
「なるほど、でもいろいろ考えもあると思いませんか…」
(エ) 主治医の治療方針を細部まで感染者に理解させ、医療への積極的参加を促す。
例: 「あなたは主治医の治療について、どう思っていますか」
「もう少しやって欲しいと思っていることにはどんなものがありますか」
(オ) 感染者としての社会的責任を考えるように持っていく。微妙な問題があるので、慎重に、彼(彼女)の心情に共感しつつ話しを勧める。
例: 「あなたは、このウイルスを持ったまま生活していくことになりますが、そのことをどう感じていますか」
「あなたの立場について、どう考えていますか」
「他の人に、(あるいは家族に)何をしてあげたいと思っていますか」
「…それはとても大切なことだと私も思います。」
「他の人に、(あるいは家族に)自分が抗体陽性であることを話しますか」
(カ) 感染源および二次感染の可能性がある者への配慮を促す。これは本人の尊厳とからむ問題であり、自分から当事者に打ち明けるよう促すが、無理をしないよう慎重に、時間をかけて働きかける。しっかりした信頼関係がないと、感染者は医療に対し消極的になったり、回避したりするようになる恐れがある。
例: 「あなたがうつしてしまったかもしれない人は、今どうしているでしょうね」
「何かその人にしてあげられることがありますか」
「何か私たちに手伝えることがありますか」
(5) 検査結果の説明に不信を持ったとき
 10歳代後半の血友病の大学生
 
先月、いつもかかっている病院へ行って、主治医にHIV抗体検査を希望し、検査を受けた。病院でその結果を聞いたら、主治医は心配ないといったが、カルテに「抗体+」という記載があるのを見てしまった。ただし、何の抗体かは分からなかった。本人は不安となり、大学の保健管理センターを訪れ、カウンセラーとの面談を希望した。主治医は、本人が血友病のため数年前から抗体検査を実施しており、陽性であることを確認していたが、本人が恋人もいないし性的経験をないというので、陽性か陰性かはいわずにHIVの二次感染防止についての一般的な注意だけをしていた。

<相談者の背景>
(ア) HIV抗体検査は陽性。HB肝炎抗体検査も陽性。
(イ) 10歳代後半。
(ウ) 本人には最近恋人ができ、将来結婚も考えて交際している。血友病であることは話してある。
<取り上げるべき問題>
(ア) 患者はカルテをのぞいて抗体陽性であると思っていることから、一種の罪悪感と同時に主治医に対する不信感を持っている。
(イ) 恋人にHIVのことは何も話していないため、話しをしなければいけないという気待ちと、恋人を失うのではないかという恐怖感の葛藤がある。
<かかわり方とアプローチの方法>
(ア) 「抗体+」という記載に関する本人の誤解を解く。
例: 「あなたが見たカルテに書いてあった抗体陽性というのは、いったい何の抗体ですか」
(イ) 主治医にHIV抗体検査の結果を確かめるよう本人を促す。
例: 「主治医から陽性か陰性か教えてもらうことが必要ではありませんか。教えてもらうかどうかの決断は、やはり自分自身でしなくてはならないでしょうね」
「その後の対策は、検査の結果次第で検討しましょう」
「主治医にしっかりと対策を聞いて書き留めた方がいいですよ」
「そのメモを見せてくれませんか」
(ウ) 主治医から正確な結果を知らされるまで、どのようにして恋人への二次感染を防ぐかを話す。
例: 「抗体が陽性か陰性がはっきりするまで、恋人と性交渉をする場合には、コンドームを使用しなければならないと思いますが、どうですか」
(エ) 恋人にHIVのことを話さなければいけない気待ちと恋人を失うのではないかという恐怖心の葛藤をいったん受け入れたうえで、検査結果がはっきりした後に再び考えようと提案する。
(6) 死の恐怖が強い無症候性キャリア
 20歳代後半の未婚の男性
 
HIV抗体検査の結果は陽性であったが、症状はない。血友病を患っており、凝固因子製剤の輸注が週2〜3回必要な状態である。同病の仲間数人がエイズにかかって死亡していることもあり、死を極度に恐れ、抑うつ状態に陥っている。
 また、仕事をときどき休まなければならず、職場の人に怪しまれるのではないかと不安を強め、病院のカウンセラーに面会を求めた。

<相談者の背景>
(ア) HIV抗体検査は陽性であるが、症状は出ていない。
(イ) 20歳代後半の未婚の男性で、会社員である。
(ウ) 両親と同居しており、2人とも本人の抗体陽性を知っている。
<取り上げるべき問題>
(ア) 死の恐怖が強い。自殺の危険はない。
(イ) 職場から調べられるのではないかという不安が強い。
(ウ) 家族の心理的動揺とそれに対する支援。
<かかわり方とアプローチ方法>
(ア) 死の恐怖について
1) まず、死に対する気持ちの表出を促し、その気持ちを受け止める。
2) 同病の仲間が死んでいったときにどんな体験をしたか、何を感じたか、本人の死の恐怖に影響を与えている体験の意味を明確化し、カウンセラーと共有することで、死に対する恐怖を軽減し、死に立ち向かう気持ちの準備をする。
例: 「今までのどんな体験が、あなたの死に対する考え方に影響しているのか、聞かせてくれますか」
「死のどういうところが恐いですか」
3) 周囲の支援状況を確認する。本人には独りぼっちでないことを伝える。しかし、他人に本人の問題を伝えることは、気持ちの支えになる反面、何か障害を生じる場合もあるので、十分考慮のうえ、誰に何を伝えるか、話し合う。
例: 「あなたの体験や気持ちを他に誰が知っていますか。誰に分かってもらいたいですか」
「誰に何を伝えて、何を伝えないでおきますか」
「人に言えないようなことはどんなことですか」
4) 仲間の死に接した経験から何か得ることがあったか。そこから、建設的な意味を見つける。
例: 「あなたは、友達が死と向かい合っているのを見て、何か学ぶことがありましたか。それはどんなことですか」
「あなたのその経験で、他の人に伝えたいことはありますか。他の人のためになることはありますか」
(イ) 職場に知られてしまうのではないかという不安について知られてしまうとどうなるのか具体的に考えさせ、不安の中身を明確化し、具体的な対応策を考える。
例: 「あなたは他人に知られるということに過敏になっていませんか」
「どうして職場に知られると思っているのですか」
「知られると、どんなことになりますか」
「それでは、どうしたらよいか考えましょう」
(ウ) 本人同様、家族も心理的動揺は強いと思われるので、家族への心理的支援をしたい旨伝える。
例: 「御両親も心配しているでしょうね」
「一度御両親とも話したいですね」
(7) 「私はこれからどうなるのでしょうか」
 30歳代の未婚の男性
 
献血時のHIV抗体検査でHIV感染を疑われ、専門医に相談するようアドバイスを受け、受診してきた。再度検査を受けた結果も陽性であった。症状は出ていない。仕事の関係で外国で生活していた経験がある。現地で、女性と1年以上同棲していた。婚約者がおり、性的な関係もあるが、検査結果のことは話していない。両親にも話していない。精神的に非常に不安定な状態で、婚約者に感染させてしまったのではないか、いつ発症するのだろうか、これから自分はどうなってしまうのだろうか、等の不安が強まっている。

<相談者の背景>
(ア) HIV抗体検査は陽性であるが、症状は出ていない。
(イ) 30歳代の未婚の男性で、会社員。
<取り上げるべき問題>
(ア) 発症不安
(イ) これから自分はどうなってしまうのであろうかという不安
(ウ) 婚約者に感染させてしまったのではないだろうかという不安
<かかわり方とアプローチ方法>
(ア) このケースは、献血時の抗体検査により、HIV感染を疑われており、医療機関に受診してきた当初から不安が強い状態であった。カウンセラーは、まず本人の不安を汲み取り、受け入れる態度をとることが必要である。
例: 「…と感じているんですね」
「…という気持ちですね」
(イ) 再検査を受ける前に、どのようなHIV感染の機会があったかを確かめるとともに、HIV抗体検査の結果の意味、HIV抗体陽性とはどのようなことと本人が認識しているのか確かめ、話し合う。このことで、検査を受ける際の不必要不安感が減り、検査結果を受け取ってからのショックも小さくなる。HIV抗体陽性=エイズではないこと、その他のエイズに関する医学的知識も提供する。
例: 「どういう感染の機会がありましたか」
「HIV抗体陽性をどう考えていますか」
(ウ) このケースの場合、HIV抗体検査の結果は陽性であった。本人の不安を受容しながら、不安の中身を整理して、対処すべき問題を明確にしていく。
1) 発症に対する不安
 身体の状態を具体的に知りたいようだったら、主治医に聞くように言う。次に、本人が発症をどのようにしたら防げると思っているのか尋ね(「どうやったら防げると思いますか」)、必要な情報を伝達する。
 このまま、エイズを発症して死んでしまうという絶望的な気持ちに打ちひしがれているような場合は、医学はまだHIV感染や、エイズを解決することに決して絶望しているわけではないことを伝え、本人自身も望みを捨てずに回復をめざすように励ます。
例: 「予後や治療法に望みがないと思っていますか」
「自分でよくなる方法を考えませんか」

 症状が出現したらそれに対してどう対処するか、具体的に考えて、現実面に目を向けさせるとともに、これからの人生をどのように送るか積極的に人生設計を立てることで、建設的な面に目を向けさせ、積極的に生きる意欲を持たせ、不安を最小限にとどめる。

例: 「これからの人生をどう考えていますか」
「これからの人生をどのように送ろうと考えていますか」
2) これから自分はどうなってしまうのだろうかという不安
 「どのようになってしまうのであろうか」ではなく、「どうしようか」というように、積極的に人生設計し、病気に支配されるのではなく、自分で自分をコントロールできるよう本入の意欲を回復させていく。
例: 「これからの人生を生き生きとしたものにしたいのですか。それともHIVというウイルスのために死んだように生きるつもりですか」
「今のあなたの生き甲斐は何ですか」

 また、周囲の支援状況を確認しておくことも重要である。

例: 「このことを誰かに話しましたか」
「あなたにとって、心の支えになるような人は誰ですか」
3) 婚約者に感染させてしまったのではないだろうかという不安
 性交渉について、どのようなやり方が危険か情報を伝える。また、婚約者にHIV抗体検査の結果を話したかどうか尋ねる。話していない場合は、話すことが必要なことを伝える。
例: 「彼女が知らないでこのまま生きていくと、どうなるでしょうね」
(8) 症状が出現したとき
 40歳代の血友病の男性
 
月に3〜4回凝固因子製剤の輸注を行っていた。職場では血友病であることを明らかにし、自己注射もしていた。数カ月前からときどき微熱を認め、その都度扁桃炎として治療を受けていた。数週間後顎部リンパ節の腫れに気づき、体重も減少していることが分かり、いつもかかっている総合病院を受診し、入院した。HIV抗体検査の結果は告知されていなかったが、以前から免疫力の低下を指摘されており、患者自身は自分がHIV感染者だと思って生活してきた。そのため症状が出てきたとき、本人はエイズをまず最初に考えた。

<相談者の背景>
(ア) HIV抗体検査の結果は3年前から陽性で、このl〜2年リンパ球機能の低下を指摘され
   ていた。今回ARCと診断された。
(イ) 40歳代の既婚男性。会社員。
(ウ) 子どもはいない。両親が近くに住んでいる。
<取り上げるべき問題>
(ア) ある程度予期していたことが現実のものとなった混乱。
(イ) 病気の進行度、治療に対する不安。
(ウ) 妻への感染の不安。
(エ) 両親の混乱と焦燥感。
<かかわり方とアプローチ法>
 (主治医と看護婦がカウンセリングを行う場合を状況設定している。)
 予期していたエイズが現実のものとなったときの混乱に対するカウンセリングは、以下の(ア)、(イ)、(ウ)であり、主に疾患の説明、状態の説明、患者への勇気づけ、妻の感染についての検査、妻および両親への説明を行うことと情緒的に支援していくことである。
(ア) 治療の内容と有効性、副作用などについて詳細に主治医から説明がなされる。
 完全な治療法はまだないが、ある程度の効果は期待できること、効果も相手により異なるので決してあきらめないこと、気力の低下は病状に影響を与えること、栄養の保持、精神的安定性も治療に大きく影響することを話す。あるいは、状態がどのように変化したときにどのような対処法があるかなど具体的に患者の疑問に答える形で説明する。
(イ) 本人の了解を得たうえで、妻にも本人に対する説明の場に同席してもらい、二次感染について、その可能性、予防法、検査法などの説明を行う。この際、妻にHIV抗体検査を受けるよう勧め、その結果が陰性であることを確認する。妻は本人の入院生活を支える役目を果たすと思われるので、妻の精神的安定性を保ち、明るく患者に接するように勇気づけることが、妻に対するカウンセリングの中心となる。
(ウ) 本人の両親は本人が小さいころから血友病のことで心配してきたため、かなり感情的に混乱し、その悲運を嘆いていた。そこで、本人、妻と同様に病気、状態、予後に対する説明が主治医によって十分になされる必要がある。また、両親の「今、親としてできることは何か」という問いかけに対し、「本人自身の苦痛、不安を軽減するような支援をしてほしいこと、そのためにも気持ちをしっかりと持ってほしいこと」など伝える。
 このようなアプローチによって、本人の周囲には治療者、家族の支援が存在することを実感してもらい、それにより、絶望感、孤独感が軽減され、スムーズに治療を開始することができる。
(9) HIV感染者との結婚
 20歳代の女性
 
彼女は、会社で知り合った男性と婚約している。しかしその相手の男性は7〜8年前、手術の際の輸血でHIVに感染した。この男性は結婚を望み、彼女も彼を愛しているが、それだけに結婚後彼をずっと世話していけるかどうかを考えると、婚約がとても心の重荷になっている。彼女と彼の家族は、2人が婚約していることを承知しており、結婚にも賛成だが、婚約者がHIV感染者であることは知らない。職場の人は、2人の仲は知っているが、男性がHIV感染者であることは全く知らない。彼女は、彼との結婚のことを相談するべく、一人で彼の主治医のもとを訪れた。
<相談者の背景>
(ア) 女性は、HlV抗体陰性。
(イ) 女性は同じ会社に勤める独身のOL、両親とは離れて住んでいる。なお、男性は20歳代の独身。男性も両親とは離れて住んでいる。
(ウ) 女性は適齢期だが、家族から早く結婚を勧められているわけではない。男性は、経済的にも完全に親から独立しており、結婚に関しても自分たちで決められる状況にある。
<取り上げるべき問題>
(ア) 結婚するかどうかについて(2人の意思決定)
(イ) 結婚に伴う感染の可能性と感染予防について。
(ウ) 将来の結婚生活、子供への影響について。
(エ) 家族へ相談するかどうかについて。
<かかわり方とアプローチ法>
(ア) 結婚に伴う感染の医学的知識を認識・確認する。
例: 「結婚することによって、奥さんとなるあなたにも、感染の機会があることはご存じですか」
(イ) 彼女や将来の子供に対するHIV感染のリスクを伝える。
例: 「あなたの子供にも感染する可能性があることをご存じですか」
(ウ) まず、二人でじっくりと結婚について話し合ってもらう。特に感染という現実的な問題と2人の愛情について、さらに将来の見通しについて十分話し合う。
例: 「万一のことがあったなら(男性の死亡)、その後の生活はどうされますか」
「それでも迷うようなことがあったら、今度は彼も入れて3人で話し合いましょう」
(エ) 結婚という事柄上、家族に相談すべきか、もし相談したときの親の反応、影響を話し合う。
例: 「ご家族の方は、きちんと理解してくださると思いますか」

 その結果、本当に相談してもよいと判断したら、そこでさらにじっくり話し合う。

例: 「ご両親が反対されたとしても新しい家庭を築いていくよう決心していますか」
「ご両親のほかに相談できる人はいませんか」
(10) HIV感染者が子供を望むとき
 30歳代既婚の男性
 
彼は以前は同性愛者であり、ひょっとしたら感染しているかもしれないという不安を持って、自発的に医療機関を受診してきた。HIV抗体検査の結果は陽性であった。本人は妻にこれを話し、妻も検査を受けたところ、結果は陰性であった。以後妻も定期的に抗体検査を受けている。この出来事によって夫婦関係がうまくいかなくなったという様子は見られず、情緒的な動揺も夫婦の間で処理されている。この夫婦には子供はいない。本人は自分の生きた証にと、子供を望んでおり、妻もこれに同意している。本人のHIV感染の事実を知っているのは、妻の他は本人の兄だけで、本人の両親も妻の両親も知らない。
<相談者の背景>
(ア) HIV抗体検査の結果は陽性で、CD4リンパ球数が極瑞に落ち込んでおり、発症が近い状態である。
(イ) 30歳代の既婚の成人で、会社員である。子供はいない。
(ウ) 妻は、夫とは別の会社で働いている会社員である。
(エ) 本人には、未婚の兄がいる。2人に子供ができた後、もし2人がエイズになったら、その兄がその子を養子にしてもいいと言っている。
<取り上げるべき問題>
(ア) 子供は欲しいが、はたして感染させないで安全につくることができるか。
(イ) もし感染した場合どうするか。
<かかわり方とアプローチ法>
(ア) 意思決定への援助
 まず、妻や生まれてくる子供のHIV感染の危険性をどの程度認識しているか、子供が欲しいという希望がどのくらい強いものであるか、子供ができたあと夫も妻も発症したらどうするかを確認し、そのうえで子供をつくるかどうかの意思決定を援助する。夫婦同伴で面接することが望ましい。
1) 妻や生まれてくる子供のHIV感染の危険性をどの程度認識しているか確認し、必要な医学的情報を伝達する。
a) まず夫婦がどのように認識しているか確かめる。
 「妊娠にはどのような危険があると思いますか」
b) 正確な医学的情報を伝達する。
 分かりやすく、具体的に。
2) 子供が欲しいという希望がどのくらい強いか確認する。
 「子供が欲しいというのはどういうお気持ちからですか」
3) 子供ができたあと、夫も妻も発症したらどうするか確認する。
a) 夫が発症した場合、勤務を続けることができなくなる可能性があるが、生まれてくる子供を養う経済力を維持できるか。社会福祉を受けられるか。
b) 誰が子供の世話をするのか。身近な人で助けてくれそうな人はいるのかなど。
c) 周囲の支援状況の確認
「あなたの身近な人はどのように考えていますか」
「ご両親には知らせていないようですが、どうしてですか」
「お兄さんは、どのように考えていらっしやいますか」
(11) 告知を受けていない血友病患児を持つ家族
 小学生のこの血友病患者は、乳幼児期に血友病の診断を受けて以来、血友病専門の医療機関で継続的に治療を受けている。HIV感染に関して定期的にHIV抗体検査を受けている。
 家族は抗体検査の結果を知りたいとは思うが、陽性という結果を知ったところで、治療法がないとあきらめている。また、陽性という結果を聞くことに対する恐怖がある。さらに、もし現在陰性でも将来陽性化するのではないかとの根拠のない不安もあり、いずれにせよ血友病治療の続行の必要性に変わりはないと考えている。血友病の治療および発症時のことは現在受診中の医療機関に任せてあるものの、万一抗体検査が陽性であった場合の生活や今後発症したときのことを考えると不安で夜も眠れない。
<患児の背景>
(ア) HIV抗体検査を定期的に受けており、結果は陽性であるが、家族は知らない。CD4/8比の低下はないといわれており、臨床症状もなく、元気に学校に通っている。
(イ) 小学生。血友病患者。
(ウ) 母親の兄が血友病患者であり、母親は血友病保因者である。父親は自営業者で、息子の疾患には理解があり治療に協力的である。
<取り上げるべき問題>
(ア) 両親の持つ不安の具体的な内容を確認する。
(イ) さまざまな不安に対する対応。
(ウ) HIV感染の告知について。
(エ) HIV感染の告知を希望したときの対応。
(オ) 医療機関への信頼。
<かかわり方とアプローチ法>
(ア) 両親の持つ不安を具体的に把握する
 まず、カウンセラーと家族との接触の場をつくる。患者家族グループや診療現場において家族と話し合いを行うようにし、家族の不安や聞きたいことが自然に出てくるようにする。また「何が一番不安ですか」と問いかけ、不安の内容を確認する。
(イ) さまざまな不安の対応   
1) 発症についての不安
 HIV抗体の有無にかかわらず、患児の状態は医療側により継続的に観察されていることを再確認させる。加えて、医療機関が十分に対処してくれているという信頼と安心感を持たせる。加えて、医師からの告知をただ漠然と待っているだけでなく、もしHIV抗体検査が陽性であったら、また、症状が出たら親としてどのような態度、行動に出るか積極的に、具体的に考えさせるようにし、出てきた問題点を考える。
例: 「今現在、陰性であることが分かったら安心できますか」
「今現在、陽性であることが分かったらどうしますか」
「症状が出そうな状態になったら、主治医の先生は知らせてくれると思いますか」
「もし症状が出たら、今かかっている医療機関および医師はどのように対処してくれますか」
「もし症状が出たら、あなた方はこの子に何をしてあげられますか」
2) 感染についての不安
 もしHIV抗体検査が陽性であっても、通常の生活では家族や他人への感染の危険性が低いことを理解させる。将来成長して恋人、結婚問題が起きた場合にも、感染の危険性と予防方法について正確な情報が得られることを納得させる。
3) 学校生活についての不安
 通常の学校生活をして何ら差し支えないこと、もしHIV抗体検査が陽性であっても、差別される必要のないことを理解させる。必要なら主治医が血友病とHIV感染および学校生活について、学校の先生に直接説明する旨を伝える。
4) 今後の治療についての不安
 患児が血友病であることから、血液凝固因子の補充療法は避けられない治療法であることの再確認。現在、血液凝固因子製剤は、現時点でもっとも安全性が高いと考えられているものであること、また今後とも、より安全な血友病の治療法の研究が継続されていることを理解させる。
(ウ) 医師からHIV感染の告知を受けるためのより積極的な姿勢をつくらせることにより、これまでの漠然とした不安から告知により生じると思われるより具体的な不安に対処できるように持っていくことも可能である。
例: 「あなたは自分の子供がHIVに感染しているかどうか知らないままの方が安心できますか」
「HIVに感染しても発病を予防する方法がいろいろ試みられていますが、あなたはそれらを自分の子供のためにしてみようとは思いませんか」
(エ) 医療機関、医師への信頼
 患者と医療機関、特に医師との信頼関係がもっとも重要であり、今後症状が出ることが予測される場合、あるいは症状が出た場合にはそのことが正確に主治医から告知され、現在受診中の医療機関で信頼できる治療と看護が得られることの確認が不安を軽減させ得る。
 また、この家族は、HIV感染の告知を受けようとする意思がないので、このような場合には、少なくとも両親の中に告知を受けようとする意思を育てることを考慮すべきであると思われる。告知することによって、相談者の姿勢も漠然とした不安を持つ状態から、より具体的で現実的に、不安に対処するような方向に替えることができ、医師と患者家族の間でより信頼あるコミュニケーションができるようになる場合がある。またHIV感染症に対しても将来より効果的な治療法が開発される可能性のあることに希望を持たせる
(12) 血友病患児のケアに父親が非協力
 小学生の血友病患者
 
1歳のときに血友病と診断され、月に数回凝固因子製剤を輸注している。5歳のときから母親が家庭内輸注療法を行っている。HIV感染のことは心配であるが、両親はHIV抗体検査の結果は聞きたくないと思っている。父親は患児の病気については母親に任せきりで、母親が病気のことを相談すると不機嫌になってしまうので、母親には家庭内に相談する相手がいない。最近よくかぜをひくので、心配になって母親が病院を訪れた。
<患児の背景>
(ア) HIV抗体は陽性であるが症状はない。免疫力にもほとんど問題はない。
(イ) 小学生男子。
(ウ) 父親、母親、弟および本人の4人暮らし
<取り上げるべき問題>
(ア) 両親はHIV感染の告知を希望していないが、エイズのことは気がかりである。
(イ) 病気に関して夫婦間で話し合いや協力がない。
(ウ) 患者である息子が学校で鼻出血などによって他の子にうつさないかと母親が心配している。
<かかわり方とアプローチの方法>
(ア) HIV感染の告知を希望しない人に、直ちにしかも無理に知らせるのは適当でないが、常にHIV感染者と思って行動することが家族および患者本人の身を守る手段であるということを折に触れ自覚させる必要がある。したがって患者および家族の状態、HIV感染の診断、治療などについての情報を、機会あるごとに与えることがまず第一に大切になる。このケースの場合、何度も感冒にかかったことがあるが、免疫の検査では異常がないことが伝えられたので母親は安心している。
 今後は、将来のことを考え、告知を受けようとする、より積極的な姿勢をつくってもらい、告知を受けることによって、家庭が漠然とした不安を持つ状態から、より具体的、現実的に不安に対処できるようにすることも大切である。
例: 「あなたは、自分の子どもがHIVに感染しているかどうか知らないままの方が安心できますか」
「HIVに感染していても発病を予防する方法がいろいろ試みられますが、あなたはそれを自分の子どものためにしてみようとは思いませんか」
(イ) 「鼻出血の際には、すぐに血を止めるようにし、血液のついたハンカチなどは自分で処理し、他の人に触れさせないようにしなさい」と子供に伝えるよう指導する。この母親の場合、血友病の診断を受けたときから患者を自分のせいで病気にしてしまったという罪悪感にとらわれてしまっている。そのような場合、その罪悪感について触れる必要がある。また、父親にも参加する機会をつくるように促す。
例: 「自分1人ですべての問題をかかえこんできたのではないですか」
「血友病であるという事実を事実として受け止め、父親にも患者の問題に入り込める余地をつくってあげてはどうですか」
「次にくるときには、お父さんと一緒にいらっしゃい」

 今後、患者がHIVに感染していることを告げなければならないときがくると思われる。
 母親中心の保育、父親不参加の傾向を少しでも改善しておかなければならない。

(13) 覚醒剤使用者
 20歳代の未婚の男性 
高校卒業後、上京して働いている。1年前、友人に誘われて覚醒剤を覚えた。それ以来、ときどき仲間で集まって覚醒剤を打っている。針を共有して静脈注射を打っているので、感染している可能性があると思い、HIV抗体検査を受けに受診してきた。
<相談者の背景>
(ア) HlVに感染している可能性があるが、まだ検査は受けていない。
(イ) 未婚。会社員。一人で生活している。
(ウ) 高校卒業後、家族から離れて上京した。それ以来両親とは接触がない。
<取り上げるべき問題>
(ア) 本人はこれから先アドバイスを受けたり、フォローアップの面接にくる意思がないように思われる。
(イ) 薬物使用や、その他一般の健康問題に関する健康教育。
(ウ) HIV感染の危険を伴う行動を制限する(針の交換や消毒、安全な性交渉、避妊)
(エ) 薬物依存の専門機関への紹介。
<かかわり方とアプローチの方法>
(ア) 秘密を守ることを伝える。
例: 「この部屋には私とあなたしかいません。誰も聞いていないので安心してください」
(イ) このような例の場合、面接が継続せずに途中で切れてしまう可能性が多いので、本人の健康を守るという姿勢を通じて、信頼関係を築くよう十分注意する。たとえば、覚醒剤使用者では感染していることの多い肝炎、梅毒などの定期的検査を継続し、信頼関係を維持するよう努める。
(ウ) HIV感染、エイズおよび感染予防方法に関する知識を確かめ、情報を与える。
例: 「エイズをどう考えていますか」
「どのようにしたら予防できると思いますか」
(エ) 生活状況、周囲の支援状況、日常の行動、病気になったらどうするかについて話し合う。
 この場合、実際上役に立つような具体的な話し合いをする。たとえば助けを求めるとすると誰に求めるか、確認しておく。
例: 「もし検査の結果が陽性だったら、誰に話しますか」
「もし検査の結果が陰性だったら、どうしますか」
(オ) HIV抗体検査について話し合う。検査を受けるのを断ったら、どのように感染を予防するつもりかを聞いて、それについて具体的に話し合う。
例: 「それではこれからどのようにして感染を予防していきますか」
(カ) 薬物依存症の場合、必要があれば専門機関を紹介する。
(14) 針刺し事故が起きた場合
 30歳代の看護婦 HIV感染者からの採血の際、誤って使用済みの注射針を指に刺した。
<相談者の背景>
(ア) 針刺し事故以前のHIV抗体検査は陰性だった。再度検査する予定。
(イ) 30歳代の既婚看護婦で、HIVについての知識はかなりある。
(ウ) 夫と一児あり。両親とは別居。
<取り上げるべき問題>
(ア) 医学的知識の再確認。
(イ) 今後の経過観察の説明。
(ウ) 看護婦としての職業意識の動揺。
(エ) 針刺し事故の再発防止。
<かかわり方とアプローチの方法>
(ア) HIVの感染経路と頻度、医療行為を介しての感染についての具体的統計や事例を説明する。
(イ) その病院に、感染予防対策委員会などが決めた具体策がある場合は、それについて理解を求めるよう促す。この際、秘密の保持に十分な配慮を要する。
(ウ) 心理的な打撃により、HIV感染者への医療活動を回避するようになるかもしれない。
 その結果、自らの医療従事者としての自覚が揺らぎ、そのことで悩むこともあり得る。
 そのようなときには、医療従事者とは何か原点に立って話し合い、医療従事者としての自覚を促すような支援を行うことが必要になることがある。
例: 「あなたの医療への心構えに変化がありますか」
「どんな変化ですか」

 万一、職を離れようとするなら、次のような問いかけを試みて、自分で納得できる決断を促す。

例: 「あなたは、自分で納得した行動をとろうとしていますか」
「看護婦になろうとした当時の思いと、今のあなたの思いとの間には、矛盾がありませんか」など。
(エ) 本人のプライバシー保護を考慮し、できるだけ人数を限って事故発生時の状況を調査し、再発の防止に役立てる。
例: 「何が事故の原因だと思いますか」
「これから、どうしたら同じような事故が防げると思いますか」