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第6回アジア・太平洋地域国際エイズ会議報告書

 

(財)財団法人エイズ予防財団  山田兼雄

 

第6回アジア、太平洋エイズ会議で配られた資料から

 メルボルンは大変きれいな町で市電のトラムに乗るだけでも訪れるのに値する町だと思う。ランチタイムと早めのディナータイムに2台のレストラントラムが町を走ってその中で観光しながら食事をする誠に優雅な観光企画をエンジョ-イできなかったことは大変残念な事であった。学会自体はアメリカの多発テロの影響でアメリカからのスピーカーが皆無と言っても良く、プログラムはかなりの変更を余儀なくされた。叉プログラム、抄録集に索引が無く重点的にポスターを見ることが出来ず、叉ポスターの貼る場所も個々に指定されていない状態でorganizationと言うことに関してはあまり向いていない人達という感じがしたが、アジア、太平洋のcommunityを理解し溶け込んでいくと言う点に関しては我々日本人より優れているのではないであろうか。アジア、太平洋会議の意義を理解し、次の会議の準備をする上でアジア、太平洋のHIV感染者/エイズ患者の流行の特徴を把握しておく為に今回の会議の会場で配られたUNAIDSの「The Status and Trends of HIV/ AIDS/STI Epidemics in Asia and the Pacific」. .October 4,2001を紙面の許す範囲で抜粋する。

  MAP(Monitoring the AIDS Pandemic)の地方版として本誌がメルボルンで配られた。会議の報告の代わりとして、概要を記して席を果たさせていただく。  

概略

 前回のクアラルンプールの会議ではアジア太平洋地域でHIV感染の流行が目立つ国としてタイ、カンボアジア、ミヤンマー、インドなどがあげられた。現在のところ感染の流行が顕著でない国としてばバングラディッシュ、香港、フィリピン、韓国、ラオスなどである。しかしバングラディッシュ,フイリピンのように危険な要因が存在しコンドーム普及率が低い地域では何時かは必ず流行する事は必定である。またこの2年間で増加の兆しが見られる国は中国、インドネシア、イラン、日本、ネパール、ベトナムなどがあげられる。アジア、太平洋のHIV感染の特徴は国全体としてよりも局地的に感染率の高い地域、或いはコミュ二ティーが存在する。ミヤンマーは国全体としては2%の感染率となっているが妊婦の感染率はある地域が5%、薬物静脈注射乱用者(intravenous drag user,IDU)はある地域では60%、セックスワーカーも地域的に60%である。インドのMaharashtra,AndhraPradesh,及びTamilNaduなどは各々人口が5000万を超える地域であるが妊婦の定点観測で3%を示しているところがある。インドネシア、中国も国全体としてよりも地域的な特徴が重要である。

 

感染ルート

 最初の感染ルートは,IDUの場合が多い。インドの北西部のManipur 中国の南西部のYunnan、ミヤンマー北部、タイの数都市など、この数年間、地域的に40%の流行を示しているところがあり現在でもIDUが感染流行の引火点となっている。ネパール、イラン、中国その他の国々では刑務所のIDUの感染率は高く、叉刑務所内で感染するものも少なくない。ベトナムのIDUの歴史は古く1997年以後IDUの感染者の数は急増している。

 男性同性愛者(men who have sex with men,MSM)アジア、太平洋でははじめはIDU,異性間接触が主な感染ルートみなされていたが、昔から男性同性愛の風習はあった。各国の女装をしている人達はむかしからあって、タイのkatoria,インドネシアのwaria ,バングラディッシュのhijra、インドのeunuchsなどであるが、社会的な制約から解放されたgayが近年現れ始めて、HIV感染拡大の要因となっている。日本でも1998年までは異性間の性的接触と男性同性愛とHIV感染数は殆ど変わらなかったが、2000年では男性同性愛が異性間性的接触の約倍となっている。

 麻薬静脈注射にかわって買売春が感染ルートの主役になってきている国が多くなって いる。女性セックスワーカー(FSW)のHIV感染率が近年急上昇してきている。インドネシ.アは長い間の沈黙の後に突然HIV感染がクローズアップされ、FSWの陽性率が高い。インドネシアはHIVに対して国が未だに公にする事を躊躇する姿勢を示すような社会的要因が存在する傾向がある。インドネシアの献血液の陽性率は1998年以前に比べ以降では10倍の増加を示している。

 アジア,太平洋の特徴は感染ルートとしての危険因子が単一でない場合が多いと言う事である。例えば中央バングラディッシュのMSMの46%が結婚し、34%がFSWに通い、バングラディッシュ力車と言える人達の76%が結婚し69%がFSWに通っている、9%がIDUである。かくグループでIDUをしている人達も決して少なくないのが現況である。感染ルートの多様性を示す事実として,タイのIDUはサブタイプB,FSWはサブタイプEと初期は決まっていたが,現在ではIDUでサブタイプEが少なくない。チエンマイのIDUの3分の2はサブタイプEである。ミヤンマーはもっと複雑である。ヤンゴンではIDUも異性間もサブタイプBが圧倒的であるが、タイの国境に面した所では、IDUも異性間もサブタイプEが見られ、どちらが優位と言う事は出来なくなって来ている。叉ベトナムではサブタイプEがIDU、セックスワーカー、いずれにも見られる。結局現在では両者からどちらのタイプも見られる状態になっている。

 

流行はどうなるのか

 流行は必ずしも画一にはいかない。危険な要因が現存しても直ちに流行が発生するとはいえない。例えばバングラでディシュのようにFSW、MSWが大変危険な状況にあってもHIV感染は低い。だからと言って、何かの要因が加わって急に流行することがありうる。タイとカンボジャはFSWとクライエントとの協力態勢により流行を抑えることに成功した。従って現在流行が始まっていない国々も流行している国々の対策を見習って流行を未然に予防する事が望まれろ。

 

社会の変化

 中国は始めは局地的にIDUならびに非衛生的な血液事業から感染が始まったが、社会の変革で性感染が増加しつつある。STIは1980ならびに1990年初期に徐々に増加しその後1997年に43万、2000年に86万と急増した。膨大な人口を有する国であるから、世界のHIVの流行に影響を及ぼす事になる。インドネシアは急速な経済成長を遂げて社会が変化した事と、政治的な変革があったことで若者が田舎から都会に移動した。都会化が社会の人心に変革を来たし、また若者の行動を変革し。IDUを流行らせ、性を開放させるか結果となっている。日本では婚前のセックスは珍しいことではなくなって来ているが、さらに18歳から24歳の女性野約40%が今までに5人以上パートナーを経験している事実は驚くべき事で、は日本の過去では全く考えられないことであった。

 

移動による感染の流行

 住民が移動するルートと方向が決まっていて、それに従って感染ルートが決まってくる。ラオス労働者は隣国のタイに出稼ぎに出かけてFSWに接触する。ネパールのBahjangからインドのBangaloreに働きにいく。またDoti,Achhamから、インドのMumbai「ボンベイ」に移動する。MumbaiではHIVの流行は厳しい。Mumbaiから帰国する労働者の10%が感染している。 女性の移動も売春をインドでしたかどうかで感染率が著しく異なる。インドネシアの場合にはFSWの移動が激しいのが特徴である。1年位で移動する。このために感染症の伝播が著しい。叉お客も土地の人間でないことも多い。バリでは5人中4人が土地の人間ではない。

 

何が出来るか

 アジアが希望が持てることは、アジア全体から見た場会には危険な習慣が広まっていなくて局地的であるということである。特殊なグループに予防対策を試みることによって全体の流行を抑えることが出来る。タイは1991年に大きな予防対策を試みた最初の国である。1989年に国の大々的なサーベイランスがスタートし、これらのデータが議会で論議されて、1991年に1000万ドルの予算が計上された。FSWのところでコンドームの使用率は1989年20%、1990年に30%、1990年代の半ばで、90%となった。新たな感染者は1990年に14万人、2000年には3万人と減少した。しかし現実は必ずしも楽観すべき状態ではなく、特に北部の状態は厳しい。若者の25%が感染し、妊婦の10%が感染している。カンボジアはタイについで努力した国である。その成果が警察官と軍人で示されている。

 

総括的な対策が好結果に結びつく

 ネパールではコンドームの使用によりHIV感染、梅毒感染が減ってきている事は事実である。しかしこれだけでは十分ではない。サーベイランスでも行動調査まで含めたサーベイランスをすることが必要で、インドのタミール地方で行ったサーベイランスはこの様な意味で成功している。しかしこの様な努力も長続きしていないでコンドームの使用率もプラトーに達して叉減少している傾向が同地方で見られている。オーストラリアのビクトリア地方でIDUとMSMの新たに感染者が1985,1999年と逐次減って来ていたが2000年になって再び増加してきている。絶え間ない挑戦が必要である。

 

目標の設定

 時代とともに目標が変わっていくことも稀ではないタイの例を考えると1990年代はFSWに関係した感染予防が主な目標であったが2000年ではFSWからの感染は77%から12%に下がり、その代わりに夫から妻えの感染が9%から43%に増加した。IDUの感染は5%から18%に増加している。この様にアジアのHIVの予防はFSW,IDU,その他の危険なグループに気を配っていかなくてはならないが、やはり若い人達を危険な行動から予防する事が一番大切なことであろう。