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第6回アジア・太平洋地域国際エイズ会議報告書

港町診療所  沢田 貴志


 今回の会議で語られた事を一口で言うならば、「HIVの焦点はアジアに移りつつある。私達 は準備が出来ているのか?」といったところではないか。タイやカンボジアでの啓発活動が一定 の成果を出し、感染者の新規発生を頭打ちにしている事が伝えられるが、抗体陽性率の目に見え た減少が見られる地域は限られている。成功したかのように見られる地域でも、引き続き多数の 発病者のケアに社会資源が追いついていない現状がある。タイでは限られた資源の中でケアを促 進するために地域の様々な社会資源との連携や感染者自身のグループへの支援が行政の施策に盛 り込まれている。

 こうした中、もっとも象徴的だったのは中国の様子である。つい最近まで陽性率が極めて低い 国といわれていた中国が推定60万人の感染者が予想されるようになった。しかし、報告されてい るのは2万5千人に過ぎず、中国保健省は危機感を持っていることを率直に報告していた。大半が 貧しい農村部にすむため医療を受けられる状況にあるのはわずか2500人から7500人。日和見感染 症治療などで継続的な医療の提供をうけているのは、500人から1,500人に過ぎないのではないか という予想である。治療とケアの提供が予防の推進には不可欠であるという一方で、ほとんどの 感染者に医療が届かない現実がある。

 感染にさらされやすい人々は、多くは社会的な困難を抱えた人々である。これらの人々に有効 な予防やケアの手法を開発するためには当事者自身の参加が重要であることが言われてから久し い。今回の会議での大きな収穫はこうした第一線の現場にいる当事者達が横の連絡をとり始めた ことである。10月 7日の昼過ぎに行なわれたセッションでSeven Sistersという新しいネット ワークのおひろめがあった。これは、GNP+(感染者団体)、ASAP(アジア太平洋エイズ学会)、 APCASO(NGOの連合体)という従来エイズ会議の中枢に関わっていたネットワークの他に、 AHRN、APRainbow、APNSW、CARAM Asiaという4つのネットワークが加わっている。これらのネッ トワークはそれぞれ、薬物使用者・性的志向性における少数者・性産業労働者・移住労働者の人 権を守るためのadvocacyを通じてエイズに対するvulnerabilityを下げるための活動をしている 団体の連合体である。

 これまで当事者の参加を促進するネットワークはそれぞれに存在したが、ことなる環境にある 人々相互の横の繋がりは決して強くはなかった。今回このseven Sistersが出来た事の意味は、 vulnerableな立場に立たされた人々が健康を保ちやすい環境を促進するための啓発に大きな効果 があるだろう。今回の期間中さっそく会議場と展示場の間をそれぞれのグループが直面している 課題に則したメッセージを書いたプラカードを下げて行進を行ない私達も参加をした。

 当初私は今回の会議で、地元オーストラリアの存在感が薄い印象を持った。しかし、他の出席 者の話しを聞いてみると、sexuality・harm reduction・vaccineといった分野ではオーストラリ アが会議をリードする部分が大きかったようである。どうやら私が主として参加していたhuman right・migrant・regional strategy といったセッションでは意識的にアジアからの参加者を中 心に組み立てていたようである。治療環境が整い・差別や格差の問題があっても声をあげやすい オーストラリアと、自己のアイデンティティを示しグループを形成するところすら困難なことも あるアジアとではおのずと戦略も異なってくる。マレーシア・タイ・フィリピン・インドネシア といったアジアからの参加者を前面に立てたことはアジアの多数派でありかつより困難な状況に あるアジアの人々にオーストラリアの組織委員会が配慮した結果であろう。co-chairのDennis Altman が歓迎メッセージでseven sistersの意義を強調しているのはその表れなのであろう。

 一方、私が参加していたmigrantのセッションでは、前回のクアラルンプールでいかに多数の 人口移動がアジア太平洋地域で起きていて、migrantがvulnerableな立場におかれているかとい うことが中心に語られたが、その後昨年migrationとHIVについての地域サミットがUNDPなど国連 機関も参加する中で行なわれ、送りだし側と受け入れ側でどのような責任を持つかが話しあわれ た。結果、出稼ぎに行く人々を対象とした予防啓発を行なうプログラムが実施されたり、human rightに関わるNGOが受け入れ国側での実態のモニタリングと提言を行なう動きが進められて いる。

 今回、私はメルボルン大学日本語学科のCaloryn Stevens講師のご厚意でICAAPに用意した在日 外国人に関する発表をメルボルン大学で発表させていただき意見交換をする機会があった。この 際に、メルボルンの公共機関での外国人医療の対応状況について若干の情報を得られた。

 私達が訪問したRoyal Women's Hospitalは、ベッド数200床程度の中規模の病院であるが、10 人の通訳を雇用し言葉が不自由な受診者に対して17の言語のサービスを提供している。また外部 の通訳派遣会社との契約で70言語まで対応が可能である。これらの通訳は全て研修をうけ州政府 の資格認定を得ており、受診者が負担する通訳費用は無料である。私達に説明をしてくれた通訳 センター主任は、日本で通訳を雇用している医療機関が少なくHIVの告知すらもトレーニング を受けた通訳の確保がままならないこと聞き顔を曇らせていた。また、健康保険を持たない外国 人急病人の医療費については、支払困難な患者のための予算が州政府から病院に対して与えられ ており、外国人オーストラリア人に関わらずこの制度で対応されるという事であった。

 会議運営におけるアジアの人々への配慮、医療機関の中での少数者への対応など日本が学ばな ければならない事が多いことを気付かされる会議であった。