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第6回アジア・太平洋地域国際エイズ会議報告書

静岡県立こども病院 血液腫瘍科  高嶋 能文


 10月4日、米国におけるテロの影響も心配されつつのメルボルン行きとなった。
 第6回目となるこの会議は、第1回をオーストラリアで開催され、その後第2回から第5回を2年ごとにいわゆる発展途上国で開催されてきたが、再びオ-ストラリアで行うこととなりひとつの節目を迎えたのかもしれない。
 私は主にテーマ1)Treatment and Careのセッションを中心に参加したわけだが、その他のPrevention, Socio-economic, Gender and Sexualityのどのテーマにおいても、経済状態の違いや生活・宗教の違いを踏まえた、その地域に根ざした問題の提示とその解決に向けたプログラムがディスカッションされていたようだ。このような多彩な問題提示はアジア・太平洋会議ならではといえ、"Breaking down Barriers"のスローガンにふさわしいものである。

 治療に関してはオーストラリアや日本などといった治療薬の供給状況が整っている国とそうでない国との格差はいまだ大きいが、タイではオーストラリア、オランダと組んでThe HIV Netherlands Australia Thailand Research collaboration (HIV-NAT)という治療研究が1996年から進んでおり、大規模コントロールスタディが行われている。先進国の資本により発展途上国で治療研究を行うという図式はまったく問題がないとは言い切れないが、それだけアジア地域におけるエイズ問題は深刻であるといってよい。
 今回も治療あるいはワクチンに関してHIV-NATからの発表が数多くなされていた。治療に関する演題では、NRTIの2剤併用と比較して3剤併用のほうが効果があるとしたHIV-NAT 003 Cohotのような基本的な演題もあったが、多くの演題では「いかに抗HIV薬を少なくし、治療法を単純化できる(=内服しやすい)か」が大きなポイントになっていた。例えばAZT/3TCにSQV:1200mgを 1日3回併用する群と1400mg, 1日2回併用群とのランダマイズドスタディーである。48週での抗ウイルス効果に差はなかったが、1日2回群でやや副作用が多い印象であった。また、HIV-NAT001.3ではRTV:100mg/dayを併用することによってSQVを1600mg, 1日1回にしようという試みがなされた。24週ではCD4の上昇は1日1回群で優位に高く、抗ウイルス効果も問題なかったとされた。IDVでも同様の試みがなされ(HIV-NAT 005)、IDV:800mg/RTV:100mgの1日2回の投与でも48週で3回投与群と効果に差はなかったとした。ただし、減量や中止は2回投与群で多く、その主原因としては胃腸障害(主には嘔気と口腔内乾燥)であった。臨床的な尿路結石は3回群で20%、2回群で34%であったが、不可逆性のものはなかった。PI以外にもABC/COMとABC/IDVのランダマイズドスタディー (CNAB3014)が行われており、48週のウイルス抑制効果はABC/COMが優れており (HIV-RNA<400: 83%vs50%)、それには服薬のadherenceが関わっていることが紹介された。また、NRTI 2剤/PIを6ヶ月継続しその後同じ治療を継続する群とNRTI 2剤/ABCに"symplified"する群にランダマイズすると、ABCに変更した群が治療成功例が多いことも紹介された (CNA30017)。現在ではAZT/3TC/ABCの合剤であるTrizivirの登場により、より単純化した治療が期待されている。
 その他、インドからもコストや内服のしやすさの面からNRTI 2剤 (AZT/3TC)とNNRTI 1剤 (NVP)の併用が効果があったとの報告がみられた。

 HIVに対する治療の現状としては、抗HIV薬の供給状況は到底満足いくものでなく、上記のタイのような状況はかなり特殊な状況といえよう。抗HIV薬が使えない状況での治療としてimmunomodulatorに関する発表があった。インドや中国からはindian/chinese harbsによる抗HIV効果が示されたり、またpentoxiphillineのTNF-αの抑制効果により抗HIV効果が認められたとする発表があった。pentoxiphillineを33人に投与し、投与4週後には体重増加・CD4の上昇と炎症性疾患のマーカーであるTNF-α・NO・シトルリン値の低下が認められたというものである。わが国でもかつてはHIV感染者に対してグリチルリチンの投与を行ったり、現在でもいくつかのimmunomodulatorが試されている。このようにimmunomodulatorの効果は、先進国においては抗HIV薬の作用を補完し患者・感染者のQOLを高めるものになりうるし、抗HIV薬が使用できない多くの国においては当面抗HIV薬に替わるものとして使用できるかもしれない。

 抗HIV薬が多くの人々に供給されない理由はその価格による。今回、Trade Related Intellectual Property Rights("TRIPs")「知的所有権」に関しての議論があった。患者・感染者側は今すぐにでも薬を内服できることを望んでおり、製薬会社や政府に廉価での輸出やまたは自国で廉価な抗HIV薬を生産できるように求めている。しかし一方では開発にかかる莫大な費用の問題や安全性の問題などから安易にそれができない状況にある。会議中に発行される新聞には、"Drugs for All!"としてすべての人々が同様に抗HIV療法を受けられる権利を主張したシュプレヒコールがあがったことが掲載された。

 未だ抗HIV薬を十分に使えない国が多い現状においては仕方のないことかもしれないが、抗HIV薬の副作用に関する報告は多くはみられなかった。副作用に関してはサテライトシンポジウムの中で特にlipodystrophy(脂質代謝異常)についての総説講演があった。lipodystrophyはHIV感染自体やNRTI、PIの作用が複雑に絡み合っておこるために病態の完全な把握は困難である。今までのランダマイズドスタディーの結果、AZTに比べてd4Tはlipodystrophyの危険性が高く、lipodystrophy/fat wastingの発生はAZT/3TCで19~43%なのに対しd4T/ddIでは46~54%、d4T/3TCでは57~70%であるという報告が示された。また、PI併用のほうがfat wastingがよりおこりやすいとの報告も示された。カナダからも同様に、d4T曝露によるlipodystrophyの危険度は約6倍、PIでは約2倍と報告された。
 数々のswitching studyの成績も提示され、PIからNVPまたはABCへの変更ではコレステロールや中性脂肪の低下などの効果がみられるが、EFVに変更しても効果は少ないことが示された。他にd4TからAZTまたはABCへの変更も効果があるとされた。
 代謝異常のモニタリングには体組成の評価の他、脂質検査、インスリン抵抗性、乳酸のモニタリングが必要とされ、特に長期にNRTIを内服している場合には乳酸のモニタリングの重要性が示された。我々の施設ではBioelectrical Impedance Analysisにより体組成の評価を経時的に行っており、同時に行った乳酸値の測定では症状が出なくても正常上限の2倍以上の症例を認めておりポスターで報告した。

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 その他治療に関しては、抗HIV薬に対する耐性出現の問題や免疫再構築に伴う日和見感染の重症化の問題、HCVやマラリアなどの重感染の問題が報告された。
 また、日和見感染としての結核の問題と母子感染の問題については特に重点的に議論された。

 ワクチンに関してはタイでのスタディーが進んでおり、1999年からHIV subtype B/Eのrgp120によるワクチン(AIDSVAX)の第3相試験が2500人の健常人を対象に行われている。2000年よりvCP1521によるワクチン(ALVAC)にgp120 またはgp160でboostするという健常人を対象にした第1/2相試験が行われているが、最終的な結果が出るまでには今しばらくの時間がかかりそうだ。
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 以上、主に抗HIV療法について主に報告した。発展途上国のかかえる多くの問題をそのままわが国に置き換えることは難しいかもしれないが、今回の会議で議論されたことををどのようにわが国の問題にリンクさせ、取り入れることができるかが今後、重要であろう。
 抗HIV療法の問題は抗HIV薬供給の問題から内服にいたる環境の問題、adherence、副作用の問題、さらにはワクチンまでと幅広い問題を含んでおり、今後もTreatment and Care, Prevention, Socio-economic, Gender and Sexualityのすべてにわたって包括的に考えていく必要があると思われた。