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第6回アジア・太平洋地域国際エイズ会議報告書

広島大学医学部附属病院 薬剤部 畝井 浩子


 今回の会議参加にあたっては、前回・前前回のアジア太平洋地域国際エイズ会議へ参加された方々の報告を聞いて、治療に関した情報収集というよりむしろ、アジアの他の国々における薬剤師の役割とアドヒアランスのあり方について、そして各国のNGOが実際にはどのような活動を行っているのかといったことが頭にあった。
 昨年は国際会議が南アフリカで行われたこともあり、アフリカにおける貧困と感染の広がりが注目された。しかし、身近なアジアについては、まだ一般的には関心が低く、広島大学薬学科のある研究室では、エイズがセミナーの課題として与えられたが、セミナーに招かれたときの内容は、HAARTと新薬について、そして米国などの予防やアフリカでの現状についてなどで、アジアに注目した学生は1人もいなかった。そのような中で、この会議で感じた事を、帰国後の勉強会あるいはセミナーなどで伝えることができればと思っていた。

  Treatment & Careで自分がプレゼンを行ったセッションでは、Population Council South & East Asia-Thailand officeのProgramme officerと話す機会を得た。「タイにおけるほとんどの薬剤師は、ただ薬を患者さんに渡すだけであり、服薬援助などは全く行っていないのが現状であり…… 云々。今後、薬剤師のトレーニングを行っていきたいので、そのプログラムを教えてほしい」とのことであった。この会議の翌週に、広島では"アジア地域エイズ専門家研修"があった。そのときやはり、チームの中で薬剤師は何をしているのか?どのような役割を果たしているのか?といった質問を受けた。タイからは、偶然薬剤師が参加しており、このoffice を知っているので帰国してこのProgramme officerと連絡を取るとのことであった。アジアでは、経済的な面からもまだ薬剤師数が少なく、各国の薬剤師の役割には隔たりが大きい。会議でのコミュニケーションをきっかけに、他の研修を通して薬剤師に関わる輪が広がっていくことは、専門分野の立場から会議に参加できた大きな収穫であったと思う。

  アドヒアランスのセッションで発表していたオーストラリアの医師によると、オーストラリアでも薬剤師はほとんど服薬援助には関与していないとのことだった。しかし、ポスターセッションで、同じオーストラリアから、"The Community Pharmacy Dispensing Of Oral HIV Drugs-A pilot Project"として、調剤された薬を患者さんへ渡す時の説明を、服薬アドヒアランス向上のポイントの一つに位置付け、病院と調剤薬局の連携つくりのための試みが報告されていた。日本ではまだ、院外処方せんの発行率が95%以上の病院にあっても、抗HIV薬だけは特別であり院内処方せんでといった傾向がある。現在、ブロック拠点病院を中心としたエイズ医療に携わる拠点病院薬剤師の育成はすでに行われていて、そのネットワークが効果を上げつつある。しかし、それ以外の薬剤師はエイズに対する関心度は非常に低く、ほとんどが誤った知識のまま自分たちとは無関係と思っている。今後、いわゆる町の調剤薬局とのいわゆる薬薬連携の体制つくりを行い、裾野を広げる必要があると考える。

 これまでのいろいろな会議で、常に服薬アドヒアランスが話題の中心のひとつとなっていた。しかし、今回の会議におけるアドヒアランスのセッションでは、会場にいるのは開始数分前まで日本から参加したもうひとりの薬剤師と演者3人の5人だけ、本当にこのセッションは行われるのだろうか?と不安になっていたところ、直前になってやっと20名近くとなりほっとしたという、日本エイズ学会では考えられないような状態であった。俗に北と南という表現がよく使われるが、日本や欧米ではあたりまえに行われている3剤併用療法を行うことができるのは、世界的に見るとその中のいわゆる北のごく一部であるという現実が、この人数に反映していたと思われた。
  服薬アドヒアランスに関しては、これまでもジュネーブやダーバンでも臨床や社会科学のセッションで多く取り上げられ、飲めない理由などの実際の問題点なども含め、他、様々な面から検討されてきた。しかし、今回の会議では、あるインド人は、我々は1日に1回しか食事をしていない言い、それではネルフィナビルは飲むことができない。また、あるタイの人は我々は1日に6回の食事を取ると言い、それでは食間がないのであって、ddIやインジナビルを飲むのは全く不可能なのである。では、イスラム教の人々は断食のときにはネルフィナビルを服薬するにははいったいどうするのか?
  新薬の開発は、現在欧米や日本を中心として行われ、そしてその高価な薬剤のほとんどは富の集まるいわゆる北で使われる。従って、食事は基本的には1日3回であるという概念から始まって、これまでの服薬アドヒアランスが、いわゆる北の概念や価値観を中心として検討されていたのは、当然と言えば当然かもしれない。アジアの多くの地域における服薬の最も大きな問題は、薬剤が高価であり手に入れることが困難であるという点にあると考えていた。また、貧困の中で1日に1度わずかな食事を取る事がやっとという、多くの人達がいるのも事実である。これまでも、告知の問題などでは文化的背景が問われてきたが、服薬の問題点においても、経済的・社会的背景だけでなく、根本にはアジアの其々の地域が持っている独自の文化的背景があることを、あらためて実感したといってよかった。
  全体を通して、この会議においてはどの国からも薬剤師の存在はほとんど見えなかったというのが印象である。我々日本の薬剤師は、臨床薬剤師として米国のClinical Pharmacyをその対照としていて、ほとんどの目は欧米に向いているのが現状と言える。しかし、日本もアジアの一員であり、文化的・歴史的にも密接な関係がある。我々は、もっとアジアのチーム医療の現状にも目を向けるべきであると思った。

 今回の会議では、アジアにおける爆発的なHIV感染の広がりが指摘され警告がなされていた。しかし、日本においてもその危機感はほとんど無く、日本国内のHIV感染症の増加にさえ危機感がほとんど無いと言ってよい。今回、各国のNGOについてブースやポスター発表から、それぞれが独自にいろいろなトレーニングコースや情報提供の活動を行っていることなどの様々な活動の一端にふれて、これからはNGOが大きな役割を担うと言われたワークショップでのスピーチを実感した。2年後のアジア太平洋地域国際エイズ会議は日本で開催される予定である。この準備が、人々のエイズへの関心度が高まるきっかけとなることを期待したい。
  今回、メルボルンという東南アジアとは地理的にも社会的背景としてもちょっと離れた地域での開催ではあったが、発表やブースを通してアジアにおけるエイズを、その一部とはいえ肌に感じることができたことは貴重な経験だった。最後に、今回このような貴重な機会を与えていただいたことを、派遣事業として学会へさせていただいたエイズ予防財団をはじめとするみなさまに感謝いたします。