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第6回アジア・太平洋地域国際エイズ会議報告書

愛知県衛生研究所  佐藤 克彦


専門分野でのセッションの概要

 全世界で約3、600万人と推定されているHIV-1感染者及びAIDS患者のうちアジア・太平洋地域はその約20%を占めると推定されている。しかしながら、同地域の感染者、患者のうちで抗HIV-1薬療法を受けられる人がまだ1%未満であるという事実を背景としてか、本会議においては私が発表した多剤併用療法を含む抗HIV-1薬療法における薬剤耐性の問題はメインテーマとはなっておらず、口演、ポスターを合わせても薬剤耐性に関する演題は散見される程度であった。しかしながら興味深い演題も少なからず存在していたので、以下に簡単に紹介したい。

 近年、抗HIV-1薬療法を受けていないHIV-1感染者に由来するHIV-1の薬剤耐性に関連した遺伝子変異が見出され問題となっている。現在までは欧米等の先進国を中心としてこの問題についての検討が行われてきたが、今回、ベトナムのDr. Caumontらのグループは世界的なHIV流行地であるアジア・アフリカ地域(ベトナム25名、コートジボワール99名)における抗HIV-1薬未治療者を対象とした薬剤耐性関連遺伝子変異の有無について報告していた。彼らの報告によると、コートジボワールの15名(15.1%)からネビラピンに対し弱い耐性を有する変異(I 135 T)が見出されたが、ベトナムにおける感染者からは薬剤耐性関連遺伝子変異は検出されなかったとしている。しかしながら、今後アジア・アフリカ地域への抗HIV-1薬療法の普及と共に、薬剤耐性株への感染が増加することも危惧されていることから、抗HIV-1薬未治療者を対象とした薬剤耐性関連遺伝子変異に関する調査の必要性は大きいものと考えられる。 また、アジア・太平洋地域を始めHIV感染者の大多数が経済的に貧困な発展途上国に存在することから、より安価なHIV検査法の開発が望まれており、これに関した2演題が先進国側から発表されていた。日本の杉浦らのグループは、AZT耐性関連遺伝子変異であるM41LとK70Rを検出できるPCR法の開発を報告していた。薬剤耐性変異の同定は通常塩基配列の決定を必要とするので、PCRを用いた同法はより安価な薬剤耐性株の検査法と言える。また、アメリカのDr. Flaniganらのグループからは、抗HIV-1薬療法の治療効果観察のためには、従来から使用されているCD4陽性細胞数とウイルスRNA量に代わり、全リンパ球数とp24抗原量が代用可能であるとの報告があった。これによりほぼ同程度の効果を得ながら、検査費用を1/20に軽減することが可能とのことであった。

 

その他参考となった研究発表の内容と理由

  私の勤務する愛知県衛生研究所では、公衆衛生学的な立場から流行状況の把握、感染経路の推定等の目的でHIV-1の分子疫学的な検討を行なっている。そのため私はアジア・太平洋地域の他の国々のHIV-1のサブタイプの流行状況に興味を持っている。本会議においては中国、タイ、フィリピン、バングラディシュの4カ国からサブタイプの流行状況の報告があった。中国ではB/C組み換え株が約60%でB型が約40%、タイではA/E組み換え株が60%でB型が40%、フィリピンではB型が約70%でA/E組み換え株が約20%の割合で検出されているとの報告があった。またバングラディシュでは薬物静注者の集団において、インドおける流行株と類似しているC型が約80%、gag領域がB型であるA/E組み換え株が約20%検出されたとの報告がなされた。特に、バングラディシュにおけるサブタイプについてはついては未だ論文発表等がなされていなかったので、興味ある発表であった。

  またDr. Chuachoowongらタイとアメリカの共同研究グループは5歳未満のHIV-1感染小児17名について血清と鼻汁中のウイルス量を測定した。その結果、血清中よりは低いものの、全ての鼻汁中から2.4x103?1.8x106コピーのHIV-1RNAが検出された。またウイルス量が1.3-2.5x105コピーの2検体の鼻汁中からHIV-1の分離にも成功した。この事は感染性のあるHIV-1が鼻汁中から分泌されていることを示しており、従来の血液、精液等に加え、鼻汁も感染源になる可能性が考えられた。今後感染予防を考える上で考慮すべき情報であると思われる。

 

選考基準となった会議における公的役割の成果

 私は共同演者らとの研究結果をもとに、以下の様なポスター発表を行なった。薬剤耐性試験のうち、感染者から分離したウイルスを薬剤と共に培養して薬剤耐性を判定するフェノタイプ分析を迅速に行うための基礎として、MAGIC5A細胞を用いたHIV-1の分離について検討を行った。その結果、MAGIC5A細胞と患者末梢血単核球の共培養により、血漿中のウイルス量が1x104コピー以上の場合、80%以上の割合で従来よりも迅速にHIV-1を分離する事に成功した。また、凍結保存されたbuffy coatを検体として用いた場合にもHIV-1が分離可能なことを示した。今後、抗HIV-1薬療法による薬剤耐性株の出現が大きな問題となる事が予想されるアジア・太平洋地域においては、HIV-1分離に必要な施設が整備されていない地域が非常に多い。今回の我々の発表により、buffy coatを凍結保存しHIV-1分離可能な施設へ輸送することで、将来より汎用性の高い検査法としてフェノタイプ分析を応用する可能性が開かれた。このような内容の発表に対して、アジア・太平洋地域の研究者からの反応もあり、またインドやタイの研究者から細胞株の分与について打診や意見交換を行い、愛知県衛生研究所という公的研究機関からの発表として公的役割の一端を果たしたと考えている。さらに、これらの国々は日本とは異なるサブタイプが流行しており、幅広いサブタイプでの迅速なフェノタイプ分析の確立に向けて、共同研究する可能性が開かれた。

 

会議の成果を国内で還元する具体的計画

 現在共同研究者らと本会議において発表した成果を国際誌に投稿するべく論文の準備を行っている。今後は研究協力者となっている厚生科学研究「HIVの検査法と検査体制を確立するための研究」において、得られた成果を元に迅速なフェノタイプ分析法の確立を行ない、国内におけるHIV感染者、患者の診療にその成果を還元していきたいと考えている。

 

会議の感想

 アメリカでの同時多発テロの影響を受け、抗HIV-1薬の多剤併用療法を提唱したことで知られるDr. David Hoの口演が中止になった他、変更、取りやめが多く、アブストラクトの一部が抜けるなどの大落丁(私の演題の抄録を含め約150演題分がすっぽり抜けていました)も、あり会議の運営に混乱があったと言わざるを得なかった。本会議は基礎や臨床だけでなく、多くのNGOを含めた社会科学分野の人達も参加していた。これは他の感染症の学会ではほとんど見られることのない良い特徴であると思う。今後はこの多彩なバックグラウンドを持った人々がより一層の協力をし、エイズという問題に立ち向かって行けるような体制ができればとの感想を持った。
 最後になりますが、第6回アジア・太平洋国際エイズ会議へ派遣していただき、発表をさせていただく貴重な機会を与えていただいたエイズ予防財団に感謝致します。