HOME >> 資料室 _ 関連学会情報 >> 第6回アジア・太平洋地域エイズ国際会議(メルボルン)/2001年 >> 参加報告書

第6回アジア・太平洋地域国際エイズ会議報告書

HIV/AIDS看護研究会 市橋 恵子(看護婦)


1.はじめに

 「寒い!」メルボルンに到着した初日の印象であった。第4回のマニラ会議に出席したときには、あの外気の暑さは会場内の参加者の熱気に重なっていた。あれから4年を経て、会議の雰囲気もあの熱病のように浮き足立ったような空気から、落ち着き、そしてさめていたと感じたのは私だけだったのだろうか。アメリカにおける同時多発テロのあおりを受けて出席をキャンセルせざるを得なかった人たちを覚えての会議であった。開会式では、UNAIDSのピーター・ピオット氏が暫定的ではあるがカンボジアでの予防活動の成功に触れる一方で、日本について言及し若い世代でのコンドーム使用の減少が続いている事実を指摘した。今回の会議で特に目立ったには女性たちの発言であった。会議2日目に行われたUNAIDS主催の「Reducing HIV vulnerability among Rural and Island Women in Asia Pacific」には急遽、マレーシア、トンガ、モンゴル、キリギリスタン、フィジーの首相夫人がスピーカーとして登場、「First ladies From the region-special symposium」としてセッションがもたれた。特にモンゴルとキルギリスタンは母語で、HIVに対する自国の女性たちが置かれている脆弱性についてスピーチを行った。彼女たちが率直に語るということが、HIVが医学や健康の問題を超えた社会的なイッシューであるという事実を十分にアピールすることになったのである。このファーストレイディーズセッションは2年後に再びオーストラリアで継続されるとのことであった。閉会式ではオーストラリアの外相にリードされた33ヶ国の閣僚たちのHIV会議があり、閣僚全員が登場した閉会式では大胆に「HIVは政治問題なのだ」と語られていた。

 

2.Treatment and Careーtreatment is Prevention

 会議初日のプレナリーにおいて、Stefano Vella(President of the International AIDS Society)は最初にこう語った。「ケアと治療は予防に欠かせない。」マレーシアの感染症専門医Adeeba Kamaruzamanは日和見感染症の予防には早期の抗体検査(VCT)が必要であるとかたり、タイの赤十字リサーチセンターのPraphan Phanuphakは治療へのアクセスとして、クリニカル・トライアルが今のところベストではないかと提案した。

  タイでHIV診療に携わっている日本人ドクター有吉紅也氏は初日に行われた「Meet the Expert:Treatment & Care」の席上でDavid Cooper(National Center for HIV Epidemiology and Clinical Research,Australia)及びStefano Vellaに対しこう切り込んだ。「抗HIV薬2剤(逆転者酵素阻害剤)で100人が治療でき、3剤では20人しか治療できない医療経済の現実があるとしたらどちらを選択するか?」CooperもVellaも答えは3剤で20人であった。有吉氏の質問の背景には、1ヶ月でも長く生きて子どもの成長を見守りたい感染者の母親の存在など、HAARTにアクセスできない経済的な問題を抱えたアジアの感染者の姿がある。次々と質問にたつインドの医師たちにも同じ悩みがあり、どのようなコストエフェクティブな治療戦略が考えられるか(たとえばある医師の問いはアジアの人たちは先進国に比べて体重が軽い。その分薬剤の用量を減らすことでコストの削減ができないか等)そのジレンマを治療先進国も治療に手が届かない国も双方抱えながらのセッションが続いた。今回のプログラムにはAFAO(Australian Federation of AIDS Organization)とTAG(Treatment Action Group)が企画したTreatment Access Stream 6th ICAAPと題したサテライト(10月3日全日)と6日間のワークショップが行われた。これから治療に入るであろう人々への準備も含めたセッションであった。ワークショップ「アドヒアランスと初回のアクセス」のセッションでは、「アドヒアランスとは何か」という講義から入り、実際に現在服薬中のPWA(オーストラリア人)が自分の体験を語っていた。出席者からの質問は、「副作用とはどのようなものか」、「いつ開始するのか?検査値とどのような関係があるのか」「ARVをやらないのに太ってきた。リポジストロフィーは本当にARVの副作用なのか」といった質問が出された。治療に関しては、南北格差をどう縮めるのかという医療経済の問題と共にHAARTを先行して導入した国々の失敗が後発の国々に再び起こる事のないような方法論も模索していかなければならない。

  経験を伝え、最良の方法で治療へのアクセスが図られるための戦略作りは先行した国々が貢献できることの一つであると感じた。それにしても、「treatment is Prevention」という呼びかけは、後に予防戦略の中で修正が必要になってくるだろう。

 

3.Home and Community Based Care

 アジアにけるHIVケアは在宅ケアしかもコミュニティ全体がケアと取り組むと言う印象を強くうけた。

 会議初日の看護のセッションは突如中止となった。(理由はわからないまま)2日目にはClinical research and quality of Careのセッションが行われ、オーストラリアや日本の服薬に関する演題の発表があったが会場の参加者は発表者かそれにかかわった人という閑散さであった。3日目と4日目にもそれぞれワンセッションづつコミュニティをベースにした在宅ケアについての報告があった。伝統的なhealerと呼ばれる役割を持つ人々がPLWHAに関わる事で社会のもつエイズ患者への偏見、差別が取り除かれているという報告(カンボジア)やデイサービス(インド)の報告など、コミュニティのなかでNGOやNPO主導型のコミュニティケアが主流であり、既存のケアシステムのなかでPLWHAをケアしている日本の状況とは異なる光景が展開されていた。特にIDUでHIVポジティブの方々へのケアのセッションが設けられていた。(残念ながらこのセッションには参加できなかったが。)筆者は会期中にホストシティのNGOであるGMHC(Gay mens' health Center)が企画した彼らのリヴィングセンターを訪問した。ビクトリア エイズ カウンシルが第3者機関であるNPOに資金を提供し事業を委託しているこのリヴィングセンターに登録しているPLWHAは約400名。マッサージ、栄養相談、エアロビクスのクラス 食事の宅配といったサービスが提供されていた。また宿泊していたホテルでよく顔を合わせたエジプトからの参加者は私に「アジアにはまだケアがある。しかしアフリカにはケアもないんだよ」といっていた言葉が印象的でした。アジアにはアジアのコンテキストにのっとった細やかな地域での助け合いの延長としてのケアー、そのマンパワーがまだ残されている。アフリカはそのマンパワーさえ不足するほど状況は深刻であるのだ。

4.終わりに

 今回の会議への参加を可能にしてくださいましたエイズ予防財団を始め、関係諸機関にお礼を申し上げます。また、一緒に参加させていただいた他のメンバーの方々とも様々な機会を通して、情報の共有や交換ができた事も収穫でした。

 この他女性とHIVについてなどの報告をHIV/AIDS看護研究会機関紙および全体の印象記を「看護学雑誌2月号」(医学書院)に掲載する予定です。