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第6回アジア・太平洋地域国際エイズ会議報告書

筑波大学大学院 博士課程 人文社会科学研究科
現代文化・公共政策専攻
Campus AIDS Interface スタッフ
新ヶ江 章友


 今回、私は国際会議に初めて参加した。私のような駆け出しの研究者にこのような機会を与えていただいたことに感謝し、この経験を今後NGOでの活動や私自身の研究に十分に活用していきたいと思う。今回の会議に際し、様々な場面で指導していただいた方々に、この場をかりて深く感謝いたします。

 文化的・社会的な側面からのエイズ研究を行うつもりである私にとって、今回の国際会議から得たものは非常に大きく、また現在、文化的・社会的な側面からの研究でどのようなことが行われているのかの地図を描くこともできたと思う。私自身は特に、日本における男性同性愛者とエイズ・権力・身体について関心をもっているが、現在日本に住む男性同性愛者が置かれている困難や混乱、そこで何が問題になっていて、彼らをめぐる医療・政治・学術研究などのどのような言説があり、それら様々な言説や問題が彼らのとる行動とどのような関わりをもっているのかを、人類学という視点で研究したいと思っている。

 文化人類学的視点による質的研究はエイズ学会などでいくつも発表されているが、日本の文化・社会構造とエイズに関するより総合的で全体的な視点をもって行われた研究は、日本では数多くは見られないように思う。アメリカの文化人類学者であるエリザベス・ミラーが、ハーバード大学の博士論文で『ボーダーレスな時代:現代の日本におけるエイズ、ジェンダー、権力』という論文を1994年に発表しており(Miller, Elizabeth. 1994 A Borderless Age: AIDS, Gender, and Power in Contemporary Japan. Harvard University Ph.D.)、海外の何人かの研究者もこのような日本に関する研究を行っている。この研究の成果は、エイズの問題に携わる一個人が、とかく忘れがちな「行為者」としての視点を提供してくれ、様々な活動を行う私たちがより客観的に相対的に「行為者」としての自分について考えるきっかけを与えてくれるものと思う。エイズについて語ることの権力、そこに働く力関係についての分析的な視点は、単なる研究としての研究なのではなく、予防という視点からも十分に意味のある研究なのではないかと思う。

 以上のような私の研究的視点を踏まえた上で、私が聞いたセッションについてその要約と自分自身の感想について述べたいと思う。どのような研究を行うにおいても、まずは先行研究の吟味が必要であるため、今回の会議でも様々な分野のセッションを横断的に聴講した。以下は私が聞いた中で印象深かったセッションのいくつかである。

○ 市民反乱・社会情勢・エイズ
 国内紛争、戦争、難民、貧困問題とエイズの関係についての、非常に興味深いセッションであった。特に現在注目されている、アフガニスタンの難民問題とストリート・チルドレンのHIV感染率についての研究発表もあった。パキスタンの国境近くにあるクエッタでは、アフガニスタンからの難民が避難してやってきている。それはアフガニスタンで長く続いていた戦争や干ばつなどのためである。ここではゴミをあさるストリート・チルドレンがあふれていて、この子供たちに対してHIV抗体検査が行われた。対象は、7歳から15歳までのストリート・チルドレン。250人のうち12人が抗体陽性であった。感染した子供は、お金のために受け身のアナルセックスをした男性同性愛者と静脈注射常用者であった(Mehmod Sultan Paracha)。インドネシアは、マスコミの煽動的な報道のためにPLWHAに対する差別問題が表面化してきており、特にイスラムの宗教的な感情によって、セックスワーカー、同性愛者などは罪人として強く非難されている。感染者だけでなく、彼らをサポートしている人々も攻撃の対象となり、罪人を支援することも罪であると考えられている。しかしこの背景には、単に宗教的な問題だけではなく、政治的・経済的な情勢の不安定も考えられる(Alfan Faizin, Titin Redjeki, Indonesia)。その他、戦争で荒廃したカンボジアの国境付近のHIV感染率がアジアで最も高いのはなぜかということを、歴史的・政治的な問題から考察した発表も行われた(Margaret A Atkin, Cambodia)。

○トランスジェンダー:問題と対応
  この発表は、圧倒的にインドの研究者によるものであったのが印象的であった。特に南インドの例で言うならば、男性の身体をもっていて女性の服装をし、男性でもなく女性でもないとみなされている人々がいて、その人たちは「第3のジェンダー」と考えられている。西洋のホモセクシャルの概念とは全く異なっているといえるだろう。彼らは去勢されていて、受け身のアナルセックスやフェラチオをするセックスワーカーとして働いており、HIV感染の危機にさらされていることが示唆された。このセックスワーカーのグループにもヒエラルキーが存在し、そのトップの「グル」と呼ばれる人を予防政策に取り入れることによって、予防介入がうまくいったということを述べていた。またカンボジアでは、伝統的にSTDの感染は女性の月経時の血液によって感染すると信じられており、アナルセックスなどを通して感染するということは考えられていないという。文化によって、セックスや精液に与えられたイメージも異なっており、その文化の文脈による予防介入のあり方が必要であるといえる。(Tun Samphy, Cambodia; Stanley Moses, India)

○国内・国際的な活動に対する、パートナーシップの評価
  このセッションでは、フィリピン、オーストラリア、インド、日本から、活動をする上でのパートナーシップについての発表がなされた。このパートナーシップとは、NGOと政府の関係であったり、またはサポートグループ内での人間関係であったり、様々である。特に面白いと思ったのは、やはり国によってNGOと国家・政府との関わり合いが異なるということであった。例えばフィリピンなどでは、エイズの予防政策を実行していくうえで、この活動に力を入れると公約した女性の立候補者を選挙で当選させていく過程などを発表していた。最後は、日本の同性愛者に対する予防啓発について、各都道府県がどのような対策をとっているのかについて発表された。非常に興味深い発表であったといえる。(Nuevas T.Montes, Philippines; Edward J Reis, Australia; Shabana Azmi, India; Masaki Inaba, Akitoshi Yanagihashi, Japan)

○男が差異をつくりだす
  HIV感染の危機にさらされる女性に対して、男性がどのように関わっていけばよいのだろうか。そのような状況を改善するには、男性が変わっていく必要がある。これはジェンダーの視点からの予防についてのセッション。インドネシア、カンボジア、インドの発表が行われた。インドネシアでは、タクシーの運転手に対してエイズ教育を行った後、タクシーに乗ってきた客にコンドームやパンフレットを渡すという方法をとって、このような介入の仕方が有効であるかどうかが研究された。カンボジアでは漁師に対する抗体検査が実施され、高い割合で陽性であることが分かった。インドでは大学に入ってきた新入生に対する性行動が調査され、性的活動を行うと答えた半数の男性が男性との性交渉ももっており、性行動のパターンは文化によって異なることがよく分かる。予防介入は、これから性交渉をはじめようとする若者に対して急務に行われる必要があることが示唆された。 (Wirawan N Dewa, Indonesia; Nirmala Murthy, India; Po Samnang, Cambodia)