HOME >> 資料室 _ 関連学会情報 >> 第6回アジア・太平洋地域エイズ国際会議(メルボルン)/2001年 >> 参加報告書

第6回アジア・太平洋地域国際エイズ会議報告書

聖マリアンナ医科大学附属研究施設  立浪 忍


 専門分野について報告ということですが、今回発表した演題と関連させながら記載させて頂きます。

<発表1とその関連>

  日曜日のAnti-retroviral therapy: clinical out comes and program developmentのセッションで、日本のHIV-1感染血友病患者の追跡調査において肝硬変・肝癌といった症例が増加の傾向にあることを報告しました(Increasing critical liver diseases in the causes of death observed among hemophiliacs infected with HIV-1 through coagulation factor concentrates; Taki, Tatsunami(Speaker), Yamada: No.0859).

 これらの肝硬変や肝癌は、HCV感染に起因するものと考えられ、今回の会議でもとくにIDUにおけるHCV感染、HCVとHIV-1の重複感染が問題となっていました。

 例えば、この日(日曜日)午前中のEpidemiologyのセッションで、タイ北部のdrug usersにおけるHCVの感染率について報告がありました(HIV and hepatitis C virus infections among drug users in northern Thailand; Vinai Suriyanon et al: No. 1490)。1999年から2000年にかけて行われた2224人についての調査には873人のIDUが含まれており、この内35.1%がHIVの感染があり、87.1%がHCVに感染。Non-IDUにおいても5.3%のHCV感染が観察されたが、HCVのsexual transmission率は1~2%と考えられるので、これらのケースの感染原は刺青やinjecting medication by non-medicsであろうということです。HIVおよびHCV双方の感染予防のためにも種々の針についての普遍的な用心が重要であると結論されていました。

 なお、日本ではHCVの感染についてもHIVと同様に深刻な問題としてとらえ、その治療を開始していますが、タイにおける重複感染の場合には、HIVについての脅威が断然大きいということでした。会場にいたパキスタンからのある参加者(MD)も、同国ではインターフェロンは高価で使えない状況で、一度だけ自費を投じて患者を治療したことがあると話していました。

  なお、HCVについては初日(土曜日)の"Prevention"の中にAustralian Society for HIV Medicine(ASHM)によるシンポジウムがあり、多くの情報を得ることができました。オーストラリアでもIDUのHCV感染率は高く60~70%で、特に20代の若者(中でも女性)に高い感染率が認められるということです。

 なお、このシンポジウムではHCVの感染から慢性肝炎、肝硬変への移行、肝癌の発生などの割合と、それらの積の値について複数の演題を通じた整合性があり、最終的にはHCV感染症例の1~5%について肝癌が発症するという予測でした。HIVの重複感染がある場合にはこの値は変わるかもしれませんが、本邦のHIV感染血友病患者においてはHCVの感染率は99%であるので、既に死亡された症例も含めて同様の肝癌発症率を適応すると、長期の累積としては15~70例の肝癌が総数として発生することとなり、これらを予防することは非常に重要な問題です。

<発表2とその関連>

 2題目の発表は月曜日のポスターセッションで、日本の風俗業界で働く女性からのアンケート回答をもとにした解析結果を報告しました(Quantitative classification and characterization of sexual behavior among Japanese women in the adult entertainment business; Tatsunami, Hayashi, Okuni; No. 1370)。

 この演題では、風俗業種をW-v とW-nvに分けた場合、イメージとしてはW-vの方がriskyであるように見えるが、W-nvでは無防備なoral sexual intercourse が一般的で、この意味ではむしろより問題であることを報告しました。W-nvにおける回答者の年齢はW-vに比しより低く、この意味においても早期の教育が必要であると結論しました。ただし、このことは連名のHayashiがかねてより主張しているもので、今回は主成分分析と数量化理論により、その結論を視覚的に訴える図を得ることができたので報告したものです。

  丁度隣でポスターを貼っていたヴェトナムの参加者も、oral sex による交渉は"dry sex"と呼ばれる安価なsexual workとなっていて、コンドームの使用はないがしろにされる傾向であると言っていました。他の国でも同様のようです。なお、彼はヴェトナムのCSWについての教育・啓蒙・支援について報告(Promoting safer practices among sex workers in Can Tho Province, Vietnam; Luu Thanh Tue et al: No. 0813)をしていましたが、日本の男性がより若い相手を求めてヴェトナムに来ると言いながら、13歳でこの仕事をすることになってしまった女性の写真を指差しました。大変恥ずかしい思いがしました。

<発表3および4とその関連>

 火曜日のポスターセッションには2題の演題を出しました。1題はHAARTの効果と考えられる成績について(Tendency following approval of protease inhibitors for an improvement in CD4+ cell counts, plasma viral load and death rate among hemophiliacs infected with HIV-1; Tatsunami, Taki, Fukutake, Yamada: No. 0930)、他の1題は3-way data clustering の手法で計算したCD4+およびCD8+細胞数の経時変化について(Three-way data classification of CD4+ and CD8+ cell counts as applied to predict slow progression; Taki, Tatsunami(presenter), Mimaya, Yamada: No. 1729)報告しました。

 HAARTの効果に関しては、オーストラリア、アメリカ、香港からもHAART導入後の死亡数の著しい低下、CD4+細胞数、RNAコピー数の改善について、同様の報告がされていました。一方、タイでは3剤療法の選択肢がない場合の対応として、2剤(AZT+ddI/ddC)療法の効果を期待できるかどうか検討されていました(The influence of anti-retroviral drug therapy on the mortality of HIV-1 infected patients attending a single clinic in northern Thailand; Panita Pathipvanich et al: No. 1186)。

 報告した残りの1題について、は3-way data clustering という手法のため敬遠されがちでしたが、辛抱強く聞いて下さる方もいて、こちらにとっても良いトレーニングとなりました。

 なお、手法といえば、多変量をオッズ比に基づき検定し、有意な因子を抽出する手法が会議全体を通じて広く用いられていました。有意な変数にのみ信頼区間を表示するスタイルも多くの演題に共通でした。

 また、この3-way data clusteringのポスターを貼っていたお陰で、久しぶりにAIDS Feedback のRoger Bernard に会えました。相変わらずAIDS INCIDENCEのポスターを持ち歩いていましたが、それを見ると欧米各国で新規のAIDS発症数はピークを過ぎている中で、ポルトガル、ウクライナ、ラトヴィアでは増加していました。

  会議の全般的なこととして、オーストラリア、アメリカ、日本などからはHAARTによる成績の向上やadherenceの問題が報告される一方、アジア各国では治療薬、特にプロテアーゼ・インヒビターを使うことが困難な現実が窺えます。また、旧来からの風習や生活習慣に由来する女性や子どもに不利な状況も多く、例えばインドからは法律の中に女性差別となる条項が多々存在しているという報告もありました(Vulnerability of women within marriage due to unjust gender constructions of sexuality in law; Akshay Khanna: No. 0518)。しかしながら、そのような状況の中で、多くの演題から「できることを何とかやろう」という強い意気込みが感じられ、これが感動的でありました。

 なお会議運営についてですが、昼はランチの無料サービスがあり、これはとても便利でした。ただし、火曜日のポスターの抄録が、多数(1/3くらい)掲載されていなかったのは大変な不手際で、日本ならば再印刷であろうと思います。このことは、実務的な委員会レベルでは簡単に忘れ去ってほしくありません。

 文末になりましたが、今回の派遣事業のお陰により、何の苦もなく学会に参加することができました。特に宿舎は快適で、学会に専念することができました。ありがとうございました。