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第6回アジア・太平洋地域国際エイズ会議報告書

早稲田大学アジア太平洋研究センター 助手  兵藤 智佳


 「私が、こうして会議でスピーチできるのは、薬へのアクセスがあるからです。しかし、それはけして贅沢なことではありません。私たちは、すべての人が情報を得ることができ、医療を受けることができる社会をつくるためにこの会議に集まったのです。」

  開会式でインドネシアから来たPWAの女性が力強く述べた言葉は、「なぜ、私がこの会議に参加するのか」を確認させるものでした。この彼女の言葉を反芻しつつ、今回、私は、主に、genderの視点に関連するセッションに参加しました。今回の全体会議の構成は、4つのテーマで全体が区分され、その4つのテーマのひとつがgenderとsexualityであったこともあり、連日このテーマに関して多くのセッションが組まれていました。それは、HIVに関わる人々のこの分野に関する関心の高まりを示すものでもあります。社会的・文化的に構築されたgenderの構造が、HIV感染や治療へのアクセスに大きな影響を及ぼすことは、研究者のみならず、政策決定者やコミュニティーにおいても、すでに共通認識として盛んに論じられてきています。これらの認識を持ちつつ、今回は、特に議論された点、新しい視点を中心にセッションの報告をしたいと思います。

 まず、1点目として、genderとsexualityの文脈でindigenousの視点が注目されていたことが挙げられます。ニュージーランドのマオリやオーストラリアのアボリジニーの女性や同性愛者、トランスジェンダーといった人々が当事者の視点から土着の文化に存在する「性に関する文化や概念」、特に、「性の多様性を認める文化」について声を挙げていたのが印象的でした。全体会のレベルでも「文化、宗教とHIV」についての発表があり、アジア・太平洋における「性とcolonization」についての分析がなされていました。それは、colonial な歴史背景の中で、性への規範の存在が「文化」によって正当化される際に、それは、誰によって語られる誰の文化であり、それによって影響を受けるのは誰なのかという問い直しを迫るものでした。これらの視点は、今後、アジア・太平洋の地域の枠組みでHIVについて考える際の大きな課題として提示されたように思います。

 2点目として、「女性への取り組み」ですが、90年代、女性は「社会的に弱い立場にあるグループ」として政策やプロジェクトの対象になってきました。そして、女性が感染を防ぐために「いかにして情報へのアクセスを促し、交渉力を高め、コンドームを使用させるか」の努力が行われてきました。それ自体は、ひとつの試みとして評価できる一方で、それらの根底にある社会の「ジェンダー構造」を変容させる努力を怠ってきたのではないかという批判があちこちでなされていました。特に、暴力のセッションでは、男性と女性の力関係を問題視してきたフェミニズムの枠組みを見直すべきだとの声が盛んに提示されていました。ジェンダーが「女性」の問題ではなく、男女の関係性の問題であるとの認識が改めて確認されているのだと思います。しかし、性産業に従事する人々や夫からの感染の危険を恐れる女性が、すぐになんらかの対策を必要としているのも実際的な問題であり、今後、それらのバランスをいかにとっていくかが大切なのだと思います。

  3点目として、グローバリゼーションが進行する中で、アジア地域における移民のHIV感染と予防、ケア問題が、ジェンダーの枠組みでも重要な課題との認識が高まりつつあります。特に受け容れ国、送り出し国の双方において女性が危険な状況におかれていることが、様々な国から発表されていました。性産業に従事する女性のみならず、domestic workerとして働く女性や、海外での漁業に従事する夫の妻の危険性についての発表も見られました。この問題は、まさに国境を越えた取り組みが必要な事柄であり、連携が必要とされるのだと思います。私は、個人的にも日本のオーバースティ外国人労働者の医療サービスを受ける権利について発表を行いましたが、従来の「国民概念」を基礎とする政策枠組みでは提供できないサービスを「人権」としていかに保証できるかが現在、各国政府に問われています。

  以上が個別のセッションに参加する中で印象に残った点ですが、その他の会議全体にかかかわる事柄として、今回、アジア・太平洋の国々で、高いレベルの政治的なコミットメントが見られたことが報告できると思います。たとえば、フィリピン、インドでは保健大臣が会議に参加しており、NGOとの懇談を持っていました。アジア・太平洋においてこれらの動きが見られる一方で、日本政府もまた「海外協力」だけではない、国内政策へのコミットメントが求められるのだと思います。

  その他、このアジア会議は、歴史を重ねる中で、NGOが力をつけ、参加してきた流れがありますが、今回も多くのNGOが様々な形で参加をし、積極的な発言を行っていました。特に、今回は、セックスワーク、同性愛、移民等、様々な事柄に関わるNGOが、分野を超えてHIVをキーワードに横のネットワークを組織的なものにしていたのが成果として挙げられます。国家単位で動いていたものの考え方が、そうしたネットワークの動きの中で見直しを迫られています。新しい発想や力として今後、日本のNGOもそうしたアジアの動きに積極的にかかわっていきたいものです。