HOME >> 資料室 _ 関連学会情報 >> 第6回アジア・太平洋地域エイズ国際会議(メルボルン)/2001年 >> 参加報告書

第6回アジア・太平洋地域国際エイズ会議報告書

国立公衆衛生院疫学部客員研究員  林 素子


はじめに:

 わたしには、本第6回アジア太平洋地域国際エイズ会議参加の目的が幾つかあった;(1)聖マリアンナ医科大学立浪先生との発表「Quantitative classification and characterisation of sexual behavior among Japanese women in the adult entertainment business」(1730)。(2)厚生科学研究費補助金エイズ対策研究事業「HIV感染省の医療体制に関する研究班‐海外モデルとしたHIV感染症の医療体制の確立に関する分担研究班」と他の2班合同による来年度企画案中のシンポジウム参加予定者との打ち合わせ、(3)UNAIDSがオーストラリアMacfarlane Burnet Centerに委託しているアジア地域におけるドラッグ・ユーザーのHIV感染リスク調査の日本についての情報交換の確認、(4)最新情報の入手、(5)国内外の関係者とのネットワーキングおよび情報交換などである。

 

全体的感想:

 今回のメイン・テーマとして、「Breaking down Barriers」と言うことで、コミュニティーにおける効果的な活動;効果的なケア、サポート、予防および、それらを十分に受けることができることを目指すことがかかげられていた。ここでいう取り除かなければ成らないバリア(障害)は、国と国、コミュニティー間、地域での感染者とその影響を受けた者とそうでない人との間、コミュニティー・グループと政府の間、政府のレベル間、科学者間、研究者間、治療や情報を受けることが出来る人とできない人の間、異宗教間などなどの間にあるものを指している。本学会主催側は、学会開催の目的として参加者の知識や経験の分かち合いにより御互いに学ぶことと、一般やメディアが感染の広がりの現状に注意を払うことを目指していた。しかし、残念ながら今回の会議は前回のマレーシア会議に比べメルボルン市民の関心もあまり感じることができなかった。目についた一つとしてあえてあげるならば、Exhibition hallの建物に一般の人も見られる写真展示空間があり人の目を引いていたことぐらいである。オーストラリアは感染者数がそれほど多くないためか、主催者の掲げているコミュニティーを巻き込んでという感はなく、むしろ開会式典でのオーストラリア人によるスピーチにしてもそれほど危機感が伝わってこなかった。

 9月11日のアメリカでのテロの影響もあり、Dr. Davit Hoを初めアメリカからの研究者の参加が取りやめになったこともあり全体的には静かな会議であった。が、その一方取りやめ者が多かったためかポスター・セッションにしても展示場所がどこでもよかったり、Skilled building workshopのとりやめや口述演者の変更などがあったり、アブストラクトがオープニングの日に間に合わなかったり、その上非常に見にくくどこで、何をやっているのかを掴むのが困難でこちらは混乱のしっぱなしだった。

 

治療・ケアに関して:

 先進国を含む世界全体を見た場合、HIV/AIDS治療は目覚しい進歩を遂げているが、世界中の感染者の約20%にあたる750万人のHIV/AIDSの人が生活しているアジア・太平洋地域の殆どの国は発展途上国であり、十分な医療を受けることが出来ない状況にある。これらの地域では感染者の数は年々増加しているが治療においては殆ど変化がないままである。そのような状況で起こってくるのは薬剤の値下げ、先進国からの支援である。NGOを中心としたマーチでも口々に「Drug for all」という叫び声が放たれた。このところ過去数回の会議で話題になっている「南北(貧富)格差」の問題が続いており、途上国においてはなんら朗報がなく、むしろ先進国とのギャップに対する苛立ちの方が大きくなっているのが感じられる。

 途上国では、ケアとして先進国同様にコミュニティー・ベースに移行していこうとしているが、感染者の数が急激に増加しているにもかかわらずスティグマや差別があり、感染者は安心してコミュニティーでの生活のできない状況にある。この問題もあまり改善されていないのが現状で、PWLH/Aの人が自分たちや家族の置かれている状況を訴えていた。ますますAIDSは単に医療だけの問題でなく、さまざまな要因が背景にあることを認識させられる。その対策の一つとして、今年6月にニューヨークで国際連合HIV/AIDS特別総会が持たれた。今回の会議では、国連総会を受け「Global AIDS and Health Fund」に関するワーキング・グループも同時に会議を持ち、1日は日本のJICAが主催となりセミナーが開かれた。その中でワーキング・グループにより紹介されたドラフト案として、HIV/AIDSに対する政府の強いコミットメント、評価やモニタリングの導入によるNGOの強化と有効利用、途上国の自立を促すなどがあげられていた。

 情報社会のためどこにいても最新の情報をアクセスすることができるかもしれないが、坑レトロウイルス薬をと言う前にやらなめればならないことが途上国には山済みされているのではないかと思う。坑レトロウイルス薬や適切な治療を受けることができない人の叫びはよく理解できるが、それ以前に衛生面の改善、日和見感染症の予防と治療、性感染症の治療、インフラストラクチャーの改善、医療従事者のトレーニングなどがある。さらに言うならば、政府の強いコミットメントである。

 

まとめ:

 治療・ケアとは少し離れるが予防においても同様で、できることからはじめ自立・責任を果たして行くことが新たな感染者を増やさない、コミュニティーでの安心した生活を可能とするのではないかと感じた。

 ここ最近の学会の傾向としてやはり治療を受けられる者と受けられない者との格差と、それに対する支援と倫理・人道的訴え、さらにそれに応えることができない先進国への非難が目につく。一方で、先進国の支援による予防プログラム活動の紹介が行なわれている。活動の紹介もマニュアルの紹介のようで、私には先に述べたように自分達の経験を分かち合うといものには思えなかった。私が発表で期待したいのは、プログラムの問題点や実施の困難さや効果であり、やり方の説明ではない。

 せっかくエイズ予防財団から貴重な機会を与えていただいたが、正直今回の学会そのものは少々期待はずれであった。しかしながら、日本、海外のAIDSに関わっている人と意見を交わし、ネットワーキングすることができ、さらには私の目的の大半を果たすことができたと思う。次回は神戸での開催となる。学会長の吉崎先生を初め委員の先生にも率直な私の意見を伝える機会があったのは大変ありがたく、総合的には実りのある参加であったと確信している。

 今回学んだことを活かし、これからの世界を担って行く大学生をはじめできるだけ多くの人にできる限り、世界的な視野を持ち、病気の背後にある文化・社会・経済・政治的な要因などについても考えら得るような情報提供と育成を行ない、これからも微力ながらもバリアを少しでも取り除き、感染者とその家族が安心して暮すことができ、新しい感染者を少しでも抑えられるように努力していきたいと思っています。

 最後になりましたが、第6回ICCAP参加の機会を与えてくださったことに感謝いたします。財団関係者のみなさん御疲れさまでした。