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第6回アジア・太平洋地域国際エイズ会議報告書

東京都衛生局感染症対策課 堀江 徹


 この学会ではBreaking Down Barriersのテーマのもとに、4つの大きな柱があったが、その大部分が社会的な問題を扱っていたように思う。興味のある演題が同時に進行していたため、聴きたい全ての情報を得ることは私の能力の問題もあり出来なかったが、世界各地からの発表やワークショップから良い刺激を受けた。

 

●ピア・エデュケーション

  思春期世代への教育や行動変化への働きかけは、プログラムが成功した場合、将来にわたる効果が最も期待される。フィリピン、タイ、インド、バングラデシュの教育現場ではピア・リーダーやピア・エデュケーターが有効に機能している例がある。教育現場でこのような試みを導入するには、教師が性教育に対するタブー性や古い認識を捨て、行動変化することが必要である。 ●ピア・サポート People living with HIV/AIDS (PWA)のピア・サポートをしている香港のNGOが中心のセッションに参加した。会議で発言の機会が与えられるのは、大きな前進であると主催者は感慨深い様子であった。お互いの連携を深め、治療・差別・雇用問題等を共有し、市民・行政・援助団体に働きかける活動を行っている。PWAの生の言葉ほど、社会に強く訴えるものはないので、社会がPWAに対して積極的に支援することが大切である。

 

●Behavioral Change Communication(行動変化コミュニケーション)

  会議の中で特に印象に残ったプログラムは、行動変化の理論と実践についてのSkills Building Workshopであった。これは、地域でのHIV/STDの予防に有効な教育材料を開発するためのインタラクティブなワークショップである。

 最初にProchaskaらが提唱した変化のステージ説の概説があった。行動変化は、無関心期・関心期・準備期・行動期・維持期と5つ(終了期を含めると6つ)のステージに分かれた時期を、らせんのように行き戻りつつ行われる。これらの理論をAIDS対策に実際に運用するために、有効な方法はピア・エデュケーションである。

 次に、ファシリテーターの事例紹介があった。アボリジニの村で、性病や正しい性行動を伝える際に、最初にアボリジニの伝統画に習い、男性・女性・血液・体液などのシンボルを描いた大きな絵を作成した。それに基づいて、専門用語でHIV/STDのことを話すのではなく、5感に働きかけて住民の関心を喚起させ、話し合いのきっかけを持ってもらった。人々の危険行動に対する認識は高まり、この試みは、オーストラリア全体に広がるようになったという。

 我々も7人程度のグループに分かれ、自分たちの活動にはどのようなバリアがあり、それに対する解決法にはどのようなものがあるか、絵を描きながら話し合った。まとめ終わる過程までファシリテーターは殆ど助言をせず、皆で話し合った結果をそのまま受け入れ、評価してくれた。最も有効に機能するピア・エデュケーションとは、プログラムに則って一方向に誘導するものではなく、人々に自由に話し合いをさせ、問題や解決方法を自ら導かせ、真の行動変化を起こさせるものだと強調された。

 

●低流行国での戦略

 HIV/AIDSの高流行国では、問題点や対応策を捕らえ易い面があるが、低流行国では社会全体の関心が低く、対応が遅れがちである。爆発的な流行期に移行した国の例を見ると、低流行の時期に楽観的に問題を捉えていた場合が多い。低流行期における対策の鍵はやはり「行動変化」である。日本は現在のところ低流行国に分類されるが、将来にわたってもこの状態を維持できるとは限らない。対策は行政の考え方のみで突っ走ってもうまくいかない。本人の価値観を考慮しない、一方的でお仕着せの「行動変化」を目的とした事業は、ニーズが多様化する中で効果も期待できないし、住民の主体性にブレーキをかけかねない。住民ニーズを探しつつ、行政として可能な部分ではしっかりと支える体制作りが大切と感じた。

●Injecting Drug User

  オーストラリアでは空港や動物園など公衆トイレ内に使用済み注射器を廃棄する入れ物があったのには驚いた。日本でも薬物乱用による検挙が増加しているなかで、静脈注射の回し打ちなどの危険行動によりPWAが増加する可能性がある。行政もこのような人を一義的に排除するよりは、社会生活の一員としてありのままを受け入れて、一緒に取り組んでいく方策もあることを認識した。

 9月11日の米国同時多発テロをきっかけに世の中には現実感がなくなっている。今までに民間機がビルに衝突したり、炭疽菌を郵便で送りつけるテロを想像し得ただろうか。予想もつかないことが次々に起こる世の中であるが、そのような時代だからこそ、日本におけるHIV/AIDSの将来に対して危機感と現実味を持って対策にあたらねばならないと痛感した。