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第6回アジア・太平洋地域国際エイズ会議報告書

芳賀赤十字病院小児科 三浦 琢磨


A.  専門分野でのセッションの概要

 この会議で最も多く目立った発表者は途上国の人々であり、そのため、治療、検査、予防 等の実状が日本とはかけ離れた発表が多かった。そのため、ここでの発表をそのまま日本に 当てはめるのは無理があると思われるものが多かった。実際にHIV感染者の治療に当たってい る者として興味を引く演題は午前中と夕方のサテライトシンポジウムに集中していた。最も 重点的に発表されていた演題はHIVNAT (the HIV Netherlands Australia Thailand Research Collaboration)によるもので、オランダ、オーストラリア、タイが製薬会社の協力のもとタ イで行っている臨床研究であり、1992年に開始された。資源が限られている環境における治 療戦略としてはかなり成功していると思われ、日本もこういう形の途上国に対する援助を考 えていくといいのではないかと思う。

  この研究の第一の目的は国際的に受け入れられたGood Clinical Practice and Laboratory (GCPL)ガイドラインによって機能するタイにおけるHIV臨床研究機構を設立することで、第二 の目的はトレーニングセンターとしての機能をもたせることである。過去5年間に1200人以上 のHIV陽性患者が参加している。その成果をいくつかあげると、

  1. ABC(アバカビル)/COM(コンビビル)(1日4錠)とIDV(インディナビル)/COM(コンビビル)(1日8錠)の両者でアドヒアランスを調査したところ、治療続行できた群では両者のアドヒアランスに差はなかったが、治療を開始した群では有意に前者でアドヒアランスが良かった。

  2. 高価なプロテアーゼインヒビターが使用できない途上国で行える治療として逆転写酵素阻害剤(NRTIs)の併用療法が考えられるが、耐性が出現しやすいと考えられるため、耐性を調査したところ、NRTIsの2者併用療法では3者併用に比べて、耐性の頻度が高い。しかしNRTIsの3者併用療法では耐性の頻度が低く、耐性がでても他剤に感受性があるという結果が得られた。


B. その他参考になった発表

  1. HIV療法の長期間の毒性、リスクファクター、そして管理日本でもHAARTが長期化するに従って、副作用が問題となりつつあるが、Dr.MinaJohnの発表ではプロテアーゼインヒビターではリポジストロフィーが、NRTIsでは乳酸アシドーシスが重大な副作用として注意が必要であり、リポジストロフィーではネビラピン等の非ヌクレオシドNRITsへの変更が進められる。ただしNRTIsでもリポジストロフィーは起こり、ゼリットの方がレトロビルよりリスクファクターとして重要視される。また乳酸アシドーシスは乳酸のモニターでは予知できないことを強調していた。

  2. プロテアーゼインヒビターを含む治療からネビラピンに変更したところ、ウィルス学的な効果は変わらず、総コレステロールと、中性脂肪の低下が認められた。

  3. アジアパシフィックにおける抗レトロウィルス療法の使用1999年の世界のHIV/AIDSは3360万人で、そのうち、アジアパシフィックでは東南アジアに600万人、東アジアとパシフィックに53万人、オーストラリアとニュージーランドに1.2万人認められる。大部分の感染者は途上国に存在し、すなわち資源が乏しい環境における抗レトロウィルス療法についての戦略が必要である。貧困はHIV/AIDSを助長するが、HIV/AIDSは貧困を永続させる。そしてHIV/AIDSを貧困の問題に変換することは敗北である。貧困な人を殺す全ての病気の内で悪い政府ほど致命的なものはない。NRTIs1剤の使用では効果は殆ど無いが、2剤ではやや効果があるので、2剤併用を上手く使用するのが、現実的である。

  4. 母子感染予防では、途上国ではネビラピンが対費用効果が高い。

  5. ワクチン現在第II/III相進行中。ここ2-3年で結果がわかる。6.資源が乏しい環境においては、CD4リンパ球数を測定する替わりに、全リンパ球数を使用することにより、費用を節減できる可能性がある。


C.選考基準となった会議における公的役割の成果

 安価で効果的な針刺し事故対応システムを開発し、その効果を発表したものであるが、費用があまりかからず、比較的簡便な方法であるところから、途上国でも採用可能と考えられ、実際的な質問が多かった。しかし医療機関の整備が不十分な地域ではまだとてもそこまで考える余裕はないという感じもあった。今後もっと簡便にした方法への改良、針刺し事故予防へのフィードバック等の検討が必要と考えられた。


D.会議の成果を国内で還元する具体的計画

 会議の成果を病院内および栃木県HIV感染症研究会、栃木県エイズ連絡協議会での発表などを通して還元していく予定である。また臨床的には現在かかわっているHIV感染者の長期治療の問題点を早期に見つけるようにして、この会議での情報を元に、より良い医療を提供していきたいと考えている。

E.会議の感想

 HIV/AIDSの国際会議としては、国際エイズ会議、米国のレトロウィルスと日和見感染会議等に出席したことがあるが、他の会議と比して、より医学的な面を意図的に(?)少なくしているように見受けられた。特に、NGOや感染者等の発表が多く、雰囲気も和気藹々、各々が真剣に言いたいことを言うといった感じが全面にでており、医者の会議しか殆ど出席したことのない当方としては大変興味深く、勉強にもなった。特にHIV/AIDSの問題は政治、社会、経済、人種、地域、宗教等様々なありとあらゆる事柄がからんでいるため、純粋に医学的に解決できない部分が多いということが実感として感じられた。今後は他の業種の人々との協力のもとに包括的な活動をしていかなければならないと強く感じた。