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第8回アジア太平洋地域エイズ国際会議参加報告書
 

沖縄県中央保健所
宮川 桂子

私の今回の ICAAP への参加目的は、以下のとおりであった。

  1. ポスタープレゼンテーション  ‘Prevalence of HIV/STI among MSM presenting at public health offices for HIV testing in Okinawa Prefecture, Japan' の掲示。    
  2. 全国的にも、沖縄県においても著明となってきている、男性同性愛者のHIV感染を予防するための予防啓発活動についての情報交換。
  3. 保健所の役割として、HIV陽性者支援や、検査体制のあり方についての知見を得る。

今回、スリランカで開かれた ICAAP には、オープニングで大統領の参加とスピーチがあり、いかにこの学会が重要視されているかが認識された。しかし、その警備のため、到着日の会場では、 registration に時間がかかったり、初日に学会誌や学会バッグをもらえなかったりする不具合があった。

学会中は、主に、男性同性愛者の HIV 感染予防、 HIV 検査体制のあり方、性感染症や HIV の疫学などを中心に、セッションに参加した。

まず、 HIV の疫学については、男性同性愛者に HIV 感染が多いというのは、主に先進国のパターンであり、アジアの大部分を占める途上国では男女間の性的接触(主にセックスワーカーとそのクライアント)及び薬物使用者が主であるため、このリスクグループについての研究は比較的遅れていた。しかし、最近では、タイ、インド、ミャンマー、カンボジア、ベトナム、 PNG 、中国などの、 MSM の HIV 陽性率や、性行動調査などの情報が発表されており、研究が進んでいることがわかった。逆に、日本、韓国、台湾、シンガポールなどは、先進国であるため、ドナーの援助がなく、こういった研究や、MSM対象の予防啓発活動が(もちろん、無いわけではないが)非常に弱い、という指摘があった。こういう国で、いかに政策を進めていくか、と言う論議があった。 CBO を中心とした MSM を対象とする活動とともに、政府・地方自治体が、 MSM を対象とした調査や予防活動の重要性を認識し、政策として HIV 感染予防の中で最重要項目としていくための戦略が必要であると思われる。予防啓発活動については、ピア活動や、行政・政府との連携、コンドーム普及など、特別な目新しいものがあるわけではないが、地道にこういった活動をしていくしかないんだろう、との思いを新たにした。ただし、地域で、厳密にどういう人たちを対象としているのか、活動が実際にコンドーム使用率の向上につながっているか、あるいは、 HIV 感染予防にどれだけ寄与しているかどうかを判断するには、多くの場合難しい。

PITC(Provider Initiated Testing and Counseling) に関するフォーラムがあった。 VCT が世界的に認知され保障されてきている状況に基づいて、CDCやWHOが、陽性者へARTが施されるという条件の下で、医療の現場で患者が拒否を示さなければ、特別な説明や同意を求めることなく、ルーチン的に HIV 検査をしても良いという指針を出した事についての論議であった。アジア、太平洋地域の多くの国では、 ART の普及が不十分で、しかも、 HIV 陽性者への差別が現存する中で、 PITC への反論が強かった。一方、日本では、論議はされていないが、実際には、かなりの割合の病院で、手術や手技の事前検査としてルーチン的に HIV 検査が行われているのではないかと思われる。 HIV 陽性者へ ART を提供出来る、と言う条件は問題ないと思われるが、一方で、9割以上の妊婦で検査が行われている中で、スクリーニングで引っかかった妊婦への不適切な対応が報道された事があった。沖縄でも、産科医院でスクリーニングで陽性となり、確認検査もされずに病院へ紹介され、本人とともに病院スタッフもパニックになった事例があったと聞いたことがある。このように、医療機関での HIV 検査がどの程度行われているのか、検査前後の説明はどのようにされているのか、陽性判明後の対応を想定されているのか、などの調査が必要ではないかと思われた。

全体会の中で、特に印象に残ったのは、南アフリカ共和国から来られた、最高裁の判事であるという、 Judge Edwin Cameron のスピーチがある。スリランカを初めとするアジア・太平洋のいくつかの国では、同性愛が犯罪となっている問題を指摘した。また、法律上では犯罪でなくとも、警察が捜査の対象とする国があったりする。日本では、同性愛は違法ではないし、警察の捜査の対象ともなっていないが、社会における差別・偏見は根強く、彼のように、国の要職についている人が、同性愛者でかつ HIV 陽性者である、ということをオープンに出来る、という社会状況がいつか来るのかと言うこと自体が、全く疑わしい。南アフリカ共和国では、性指向による差別の禁止が憲法で保障されている、という。日本では、性同一性障害の人が、一定の条件を満たすことで、性転換手術や戸籍の性を変えることが出来る法律が出来たことにより、性同一性障害の人へのある一定の理解が得られるようになったと感じられる。法律が成立するためには、ある程度の社会的合意が必要であるが、法律が成立することによって、社会の意識を変えていく効果もあると思われる。同性愛への差別・偏見に戦う手段として、何らかの形で、性的指向による差別を禁止する法律・条例などを作ることは考えられないだろうか、という思いが生じた。

また、性指向に関する事では、 Carol Jenkins が、同性愛行為が人間以外の動物にも普通に見られる現象であること、これらの研究はまだまだ始まったばかりであることが指摘され、興味深かった。

今回の学会参加で得られたもの、今後の保健所における HIV 予防啓発活動として以下のようなことを考えた。

  1. 保健所職員として、MSM対象の HIV 予防啓発活動、また陽性者支援をしていこうという士気を高めることが出来た。具体的には、
    • 男性同性愛者の任意団体である、 GLOC ( Gay and Lesbian Okinawa Community )やそのほかの活動への技術的支援
    • 県や保健所での HIV/AIDS 対策予算の、 MSM 対策への振り分けの働きかけ
    • 県や保健所でのエイズ協議会への、ゲイや陽性者当事者の参加の働きかけ

  2. HIV 検査の質・数を高めていくために、以下のような事を考慮する。
    • 医療機関を対象に PITC や妊婦検診における HIV 検査がどのように行われているかの調査と、望ましい検査のあり方の普及
    • より多くの MSM が検査を受けやすくするためのアンケート・聞き取り調査等と、結果に基づく改善

  3. 基本的な疫学調査をするため以下のような事を考慮する。
    • コミュニティーベースの MSM を対象とした、 HIV 及びその他の性感染症の有病率及び性行動調査

  4. 性指向に基づく差別を減らすために
    • スクールカウンセラーを対象とした性指向に関するカウンセラーの意識、学校での実態に関するアンケート調査
    • 学校における性教育・エイズ教育の中に、性指向による差別偏見の軽減という視点を入れるよう、働きかけをする。

前回の神戸での ICAAP でも派遣事業による支援で会議に参加したが、あの時は国内で開催されたこともあり、他の派遣された人との交流はなかった。今回、約20名の方々と一緒に成田を出発し、旅行日程を共にすることによって、日本人同士あるいは、エイズ予防財団の方とも交流が出来たのは収穫であった。