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第8回アジア太平洋地域エイズ国際会議参加報告書
 

東京大学大学院医学系研究所国際保健計画学教室
伊藤 千顕

 私は、日本と東南アジアにおけるマイグラント(国際人口移動)の HIV/AIDS を含む健康・保健問題に取り組んでいるため、集会名に「 Migrant 」「 Migration 」「 Mobile 」とつくシンポジウム、セッション、ワークショップを中心に参加した。

•  専門分野でのセッション概要

 私が参加したのは、「 Health and Human Rights of Migrant Workers in Asia 」、「 State of Health Report on Migrant Friendly Testing 」、「 Rights of Migrant Workers in Asia 」、「 Infrastructure, Mobile Populations and HIV: What's at Stake? 」、「 ASEAN Regional Perspectives on Mobile Populations and HIV Vulnerability Reduction 」、「 Migration, Cross Border and HIV Vulnerability 」、「 Migration: Risks And Opportunities 」の集会であった。

  特に有意義だと感じた集会は、日本の援助、マイグラント、 HIV/AIDS を直接結ぶ数少ない機会である「 Infrastructure, Mobile Populations and HIV: What's at Stake? 」と、マイグラントへの HIV 検査の義務化に関した「 State of Health Report on Migrant Friendly Testing 」であった。

  前者の集会では、 JICA や JBIC が深くかかわりスリランカでの大型インフラ事業における建設労働者や地域住民へ対しての感染症対策が報告され、アジア開発銀行や国際機関などは今後の対策の重要性を理論的に指摘していた。同時に、どのような対策が効果的であるか未知の部分が多いため、さらなる研究調査の必要性が強調された。

  私自身もエイズ予防財団の事業に関連して、最近ラオスとタイにおけるメコン第二国際橋架橋に関連したラオス国内のエイズの現状について調査した経験があるため、インフラ事業に関する HIV/AIDS 対策を過去の good practice から学び、多様なパートナーシップを活用しいかに scale up させていくか、という点において、この集会から得た知見は多かった。

  ただ、この集会に限ったことではないが、プレゼンテーションの時間の関係で、討議すべき内容の深さと広さに比べ、質疑応答の時間が短いと感じた。例えば、前述のメコン第二国際橋架橋のエイズ対策にかかわったタイの NGO 関係者からは、インフラが完成した後の対策についての課題に関する質問があったが、完成後の対策までドナーがコントラクトの条件として入れられるかどうか等、もう一歩踏み込んだ議論に発展しなかったのは残念であった。

  一方、後者の集会においては、世界約 60 カ国近く、アジアでも多くの国で行われているマイグラントに対しての HIV 検査の義務化に関して、人権侵害の観点から活発に討議された。本会議がおこなわれる約 2 ヶ月前にもカンボジアで開かれた「 Joint WHO/UNICEF/UNAIDS Technical Consultation on Scaling Up HIV Testing and Counseling in Asia and the Pacific 」において、アジア太平洋地域におけるマイグラントに対する HIV 検査の義務化に反対した勧告を、 WHO/UNICEF/UNAIDS が行っていたが、 HIV 検査の義務化問題は、プライバシーの侵害、強制送還、偏見・差別の助長等、深刻な人権侵害を引き起こす非常に重大な問題である。

  加えて、特に滞在資格がないマイグラントに関しては、このような政策によってかえって彼らから HIV 検査を遠ざけ、治療の機会を失う政策である、という意見が多かった。また、このトピックは、マイグラントの権利をいかに保護していくべきか、という議論において他のマイグラントに関する集会においても頻繁に取り上げられた。

  集会ではなかったが、 前回の ICAAP 神戸において知った、マイグラントのような hard-to-reach-population を代表性の確保をしつつ調査する RDS ( Respondent Driven Sampling )という研究手法に関して、 RDS を実際に使った研究をした研究者と意見交換をすることができたことも有意義であった。

 

• 選考基準となった会議における公的役割の成果

  ポスターにて、「 The HIV related Sexual Behaviors among Japanese Businessmen in Thailand 」という題で、タイにおける日本人駐在員の HIV 感染リスクに関する発表をした。見ていただいた方からは、「駐在員を移動人口として見なす研究はめずらしく面白い」「インターネットを使い工夫した調査方法で挑戦的な研究」「日本人に関する情報が少ないので興味深かった」、という感想を頂いたので、発表した成果があったと考える。また、ポスターにメールアドレスを記載しておいたため、後にメールで連絡・問い合わせがあった。

  今回の会議では、複数の集会でエイズにおける民間企業の役割が注目されていたが、自分の発表に関連して言えば、日本企業に関しては、エイズ蔓延国にも多くの駐在員を派遣しているのにもかかわらず、駐在員に対してエイズ対策をしている日本企業は非常に少ないのが現状である。 JICA や JBIC が途上国のエイズ問題に対して取り組んでいる一方、海外に住む日本人に対しては全くといっていいほど対策がされていないのは今後考えるべき問題である、という主張ができたと考える。

 

• 会議の成果を国内で還元する具体的計画

  前回の ICAAP 神戸に増して、科学的根拠に基づいた研究の重要性が多くの集会で指摘されており、研究者としてできること、すべきことの多さ、大きさを感じた。例えば、常に様々なリスクに対して脆弱であるマイグラント集団にとって、 HIV 検査の義務化に反証する科学的根拠の提供とこれを支える理論的なバックアップが必要不可欠であることを再認識した。

  とはいえ、代表性を確保した疫学的調査が非常に困難であるマイグラントの HIV/AIDS 研究に関しては、前述の RDS を含め GIS (地理情報システム)などを駆使した、在日外国人に関する研究で未だに試されていない研究手法を積極的に取り入れていき、まずは研究の質の向上を目指したい。

  また、長期的には今回発表した海外に駐在する日本人の HIV 感染リスクに関する調査を、海外に進出している日系企業におけるエイズ対策や中高年に対しての介入調査などに発展させていきたい。

 

• 会議の感想

  今回の会議は、私にとって初めてとなった 2004 年のタイ・バンコクでの第 15 回国際エイズ会議、 2005 年の神戸でおこなわれた第 7 回アジア・太平洋地域エイズ国際会議に引き続き 3 回目のエイズ会議であった。このため、参加前は、少なくとも自分の関心分野においては、すでに面識がある人ばかりが参加するのではないか、と考えていた。しかし、実際は、はじめて出会う人や、今回ようやく名前と顔が一致した人々が多かった。エイズにおける人口移動の重要性が指摘されている中、国際機関などが最も近年注目している分野のひとつとあって、新たに出会う人々から様々なプログラムを知ることができ、見聞を広げネットワークを作る非常に良い機会であった。実際、ラオスなど、 HIV/AIDS 情報が非常に少ない国からの研究者との交流ができたことは非常に貴重な機会であったと考える。