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第8回アジア太平洋地域エイズ国際会議参加報告書
 

MASH大阪
山田 創平

 2007 年 8 月にスリランカのコロンボで開かれた、アジア太平洋地域エイズ国際会議に参加したので以下に主な成果を報告します。

 私自身は、“ A socio-geographical method for estimating the MSM population accessing an area with gay commercial venues in Osaka, Japan for the purpose of developing HIV prevention education materials and programs. ”という内容でパネルでの発表を行いました。

  この発表は都市社会学/地理学的な研究方法に立脚したもので、大阪地域で、とりわけ HIV 感染に対して脆弱な立場におかれている MSM に対して、有効な予防プログラムを提供するために、基本的な情報である人口規模を、まず推定してみようという試みです。

  私自身の報告内容に関して、開催期間中、あるいは帰国後に複数の研究者からレスポンスを頂きました。主な指摘の内容は、「今までに見たことのない内容で興味深い」といったものや、「 CBO が独自に実施できる研究デザインになっている点が重要だ」といったものでした。意見を交換した研究者とは現在でも論文をシェアするなど、関係が続いています。

 今回参加して、私自身が印象的だった点を挙げると次のようになります。

 とりわけ、私自身が都市社会学の研究者だということもあり、「量」に還元できない「質的」な研究、とりわけ、都市と地方の比較研究に強い興味を持ちました。

  その意味で、非常に印象的だったのは、 La Trobe University (オーストラリアビクトリア州立ラ・トローブ大学)の Dr.Stephen Mcnally (スティファン・マクナリー)による研究でした。


  この研究グループでは、“ Same-sex seeking cultures and patterns of sex between men in Indonesia and Thailand ”というタイトルのもと、以下のような問題意識に立ち、インタビューを軸とした質的研究を展開しました。


 具体的には、半構造化面接を以下のクライアントに実施しました。
  Indonesia , 55
   Surabaya, 25  (人口 350 万人)
   Batam Island, 10  (人口 71 万人)
   Manado, 20  (人口 41 万人)

  Thailand , 50
   Chiang Mai, 25  (人口 70 万人)
   Bangkok, 25  (人口 716 万人)

 この中には、都市と地方が混ぜ込まれており、 MSM の性行動様式がそのような都市と地方の文化的な背景の違いによってどのように変わるかが分析されました。
 例えば、ある地方では次のようなインタビューが展開されました。

研究者   :あなた自身の社会的ネットワークの中の人々が、あなたの性的パートナーとなることはありますか?
クライアント:はい、もちろん
研究者   :サークルとか?
クライアント:学生のサークルとか。学生サークルに性的なつながりはあります。中学生で、いつも会ってセックスするバイクタクシーの友達とか、僕は彼らを下宿に連れて行きます。

一方で、都市では次のようなインタビューが展開されました。

研究者   :あなたのネットワークを図で描ける?
クライアント:それは性的ネットワーク?それとも友達関係?
研究者   :両方だよ。
クライアント:僕のグループの中で性的なネットワークは描けない。
研究者   :誰も同じグループの中でセックスしないってこと?
クライアント:ううん。その言い方は違うよ。それはルールなんだよ。そういうことをしないっていうのは。

 これはあくまでも一例ですが、ここには都市と地方での人間関係、とりわけ性関係のありように関する社会的文脈の違いが、明瞭に見て取れます。 MSM という言葉には、クライアントの「社会」「文化」的な背景が含まれていません。しかしながら、性関係は常に「社会」「文化」的な背景の中で起こるので、 MSM という言葉は、それら諸現象の説明としては、不十分なはずです。現状の予防研究では、社会的文脈に対する視線が、決定的に不足しているというのが、当該研究の言わんとしているところです。

  今後、わが国でも、人文社会学的な研究手法の予防への応用が本格化して来ることと思われます。その時に、社会をミクロに、微視的に解釈することが、とりわけ Hard to reach population に対する対策を検討するときに重要になることと思われます。国際会議での研究上の問題意識も、確実にそのような方向にシフトしてきており、当該問題に対する意識は広く国際社会にも共有されつつあるもとの実感した次第です。