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第9回アジア太平洋地域国際エイズ会議参加報告書
 

社会福祉法人はばたき福祉事業団北海道支部/ NPO法人レッドリボンさっぽろ事務局員
宮武 由紀子

■全体を振り返って
今回は私にとって2回目のICAAP参加となった。前回は2004年の神戸で、企業のブース担当をしたが、今回はエイズ電話相談や学校などにおけるワークショップ活動、HIV検査所の運営などに関わる団体で活動するスタッフとして参加した。そのため、前回と比較し、より日々の仕事や活動に直接的に活用できる知識、情報、アイデアを入手することができた。このような機会を与えて下さったことに感謝したい。いくつか参加したシンポジウムで印象的であったものを報告したい。

■シンポジウム (8月10日)
Men can change ? Reducing the Burden on Women and Girls and their Vulnerabilities to HIV

 「HIV感染しやすい女性や少女のリスク軽減のために男性が変わろう」というシンポジウムがあり、学校等で行う講演活動のヒントを得るため参加した。プレゼンテーターはインドネシアの男性向けDV防止対策に取り組むNGOのスタッフであった。これは、インドネシア社会の中で「New masculinity」つまり新しい「男性のイメージ」を構築することで、女性のHIV感染リスク軽減へつなげようという取組みに関する発表であった。ここでいう「感染しやすい女性、少女」は、インドネシアに根付くジェンダー観により男性から女性への暴力が存在するという背景のもとで語られており、日本の状況とは直接比較できないものであるが、現在日本では10人に1人の女性がパートナーからのDVを受けたことがあり、そのうちの5人に1人が命の危険を感じたことがあるという現状(平成21年3月内閣府発表)からすると、少なからず類似点はあると考えられる。また、女性のセックスワーカーを感染から守るのも男性だという発言があり、セックスワークが女性へのHIV感染と深い関係があることにも触れられていた。(今回の会議全体を通して感じたことだが、「セックスワーカー」に関するシンポジウムの多さに驚かされた。)現在、インドネシア政府では来年DV防止条例制定に向けて動いている。今年の7月にマレーシア王子妃であるインドネシアの元モデルに対する、王子のDVが報道されたことで、インドネシア全体の意識が高まっていることもこのような活動の背景にあるようだ。

 今回「新しい男性のイメージ」を作るためのプロモーションとして(1)男性向けDV暴力防止キャンペーンの実施 (2)DV加害者の行動変容プログラムの普及 (3)男性が「女性への暴力をなくす」ことを意識するワークショップの実施、が主な取組みとして行われ、キャンペーンにあたっては新しい男性のイメージを構築するためのポスターが掲げられていた。また、「若いうちから」という視点で少年サッカーチーム向けにワークショップを実施する例や、街頭キャンペーンの様子が報告された。この取り組みの課題として、(1)活動普及のための「男性」グループのネットワーク構築不足 (2)HIV分野及びセックスワーカーなどの女性グループとの連携不足 が挙げられていた。どの地域でもやはり、問題をひとつの団体で解決することへの限界を感じ、他団体との連携を重視していることが感じられた。また、男性が「新たな男性のイメージ」というメッセージに現在の自分たちへの否定的なメッセージだと捉えないようにアプローチすることが難しいとスピーカーの男性は語っていた。今後どのような取り組みが行われるのか注目したい。

HIVの分野で活動していると「男女」で分けて語られる「ジェンダー」の視点では語り切れないことが多いと感じるが、多くの人は自分の生まれた環境や、持って生まれたセクシャリティ、立場、年齢などによる「ねばならない」と向き合って生きていると思う。男性だけが「新しい男性のイメージ」を作っていくことだけがDV防止の解決策に直接的につながるわけではないと思うが、キャンペーンのように様々なスティグマやステレオタイプを超え、この取り組みのように「新しいイメージ」を個人が自分自身に対して作ることができるようなきっかけを活動を通して提供していきたいと感じた。


■シンポジウム (8月12日)
Encouraging and Enhancing Responsibility, Involvement and Participation of Private Companies During Economic Crisis
 

「経済不況の中でNGO、NPOの活動に企業をどのように巻き込むか」という内容のシンポジウムに参加した。プレゼンテーターはマレーシアのHIV、エイズに取り組むNGOスタッフ2名であった。「あなたがもし企業で(例えばネスレで)働いているとしたら、この不景気にNGOの活動にお金を出そうと思いますか?HIV感染リスクの高いセックスワーカーやIDU(薬物常用者)やMSMのサポートをしているんです、だから協力してください!と言われたら、それを身近に感じ、協力しようと思えますか?」という問いかけに始まった。参加者の多くは首を横に振っていた。私自身もそうである。マレーシアでもNGOはお金が集まってこないという永遠の(?)課題を抱えていたらしい。企業はお金は出したくないが、「商品(物)」ならば提供できるよ、という傾向もどうやら同じらしい。もちろん商品でも協力の大きな力になるが、それでは活動を維持、拡大していけないというのがNGOの現状だ。彼らは続けた。「HIVの問題がどこにあるか、何に取り組むべきかを私たちNGOは良く知っているが、それは企業にとって、言ってしまえば関係のないこと。彼らは常に何か「New look」つまり新しい視点や展開、提案を待っている。それをいかにその企業のセールスやイメージに繋げて行けるかがカギだ。」と。

 彼らはいくつかの成功事例を紹介していた。
(1)「Air ASIA」という航空会社からの協力を得るために無料の航空チケットを提供してもらった。そのお礼に「社員教育」という名目でHIVに関する知識情報を提供するレクチャーを行った。その後、そのチケットをオークションで現金に換え活動費に充てた。HIVと航空会社…一見関係なさそうに思えるが、多くの人が移動し、様々な土地で仕事をする環境にある企業としては社員の健康管理としてこのプロポーザルは有効であったのだ。

(2)「J&J(ジョンソン&ジョンソン)」との取り組み事例は、漁業の街でHIV感染が拡大しているという調査結果に基づき、ターゲット層が漁業に携わる男性、年齢層向けの新商品の発売プロモに合わせ、HIVの啓発メッセージをパッケージに印字して販売した。
商品のセールスに直接つながった上、無料で啓発ができたという事例だ。この時J&Jはシェルター運営のサポートを長く行っていたが、顕著な結果が現れることがなく、何か新たな社会貢献事業を探していたそうだ。「新商品が出るタイミング」をリサーチしたNGOの戦略がここにはあった。サポートされるタイミングも重要な要素だ。

(3)広告代理店へのアプローチとして、プロモーションはやはり「デザイン性」に富み、多くの人に受け入れられるものが望ましいと考え、「お金はいりません、技術だけをください」と依頼。5社にアピールし1社が協力。そうやってプロモーションツールを整え、さまざまな場所でその企業名が見られることにより、イベント時の協賛企業が1社2社と増えていったという。

これらの事例から、資金的な活動基盤を作るにはやはりある程度の忍耐の時間はかかるということと、協力を得るNGOも賢くならなければならないとうことを学んだ。自分たちの主義主張だけで協力者を募れるかというとそうではない。それぞれに立場があるということを踏まえ、共に協力し合える「プログラム」を提案する力が必要だと締めくくっていた。国内でも上記のような取り組みを既に実施している団体もあると思うが、地域や活動内容に合わせて戦略的に協力の輪を広げる努力を私自身もしていきたいと感じた。

■会議の成果を国内で還元する具体的計画

※以下のような機会に参加したシンポジウムの内容を元に還元していく
<はばたき福祉事業団北海道支部にて>
― 2009年9月に実施される医療系専門学生(100名対象)向け講演にて報告 
― 2009年8月~HIV検査相談室サークルさっぽろの広報活動において企業へ様々なサポートをアプローチ

<NPO法人レッドリボンさっぽろにて>
― スタッフ育成のための勉強会(研修会)の開催(2009年11月、2010年1月予定)
  スタッフ育成件交流のための定期勉強会(1か月1回実施)にて報告。
  シンポジウムに基づくワークショップを実施。
  さらに、約80名の会員へ会報で、一般にはブログ上で報告。
― 電話相談員対象 ケース検討会の実施 (毎月第1木曜)
― 講演スタッフ対象 スタッフ育成勉強会
(2009年6月開始~月2回10月まで実施)
― 予防啓発ライブアーティスト向け勉強会の開催(2009年10月末予定) 
札幌市主催のHIV・AIDS予防啓発活動「WAD」におけるHIV予防啓発
ライブ(RED RIBBON LIVE in Sapporo)にて、出演アーティスト対象に