HOME >> 資料室 _ 関連学会情報 >> 第9回アジア太平洋地域エイズ国際会議(インドネシア)/2009年 >> 参加報告書

第9回アジア太平洋地域国際エイズ会議参加報告書

特定非営利活動法人 ぷれいす東京/(財)エイズ予防財団リサーチレジデント
大槻 知子

8月9日~12日にインドネシアで開催されていた第9回アジア太平洋地域エイズ国際会議に参加したので、以下の通り報告します。

・HIV/AIDSとビジネス
所属団体で関わっている厚生労働科学研究班でも取り組んでいるが、HIV陽性者の80%が労働年齢人口であるという現在、HIV陽性者の就労は陽性者自身だけでなく、雇用主側からの関心にも十分に値するテーマではないだろうか。本会議では、Asia Pacific Business Coalition on HIV/AIDS (APBCA)らによるビジネスの現場からのHIV/AIDSへの対応に関する発表があり、雇用方針の枠組みや社員教育の実践例などが紹介されていた。例えば陽性者の就労促進に関し、日本でも既にHIV/AIDSに関するグローバル・ポリシーを持っている多国籍企業からアプローチを始め、その取り組みを他の企業へと広げていくことなどもひとつの方法ではないかというアイディアを得た。また、そのアプローチは営利企業に限らず、非営利の法人などに対して応用することもできる。

「HIV陽性の従業員を失うことは、企業にとって有能な従業員を失うということである」という言葉が、どちらかというとHIV/AIDS予防のメッセージとして紹介されていたが、それは同時に解雇されたり働きにくさを感じて仕事を辞めたりするHIV陽性者をなくすことが、企業にとって有能な従業員を確保し続けることにつながる、と読み替えることができるのではないかと感じた。

・ジェンダー・セクシュアリティの多様性に対する取り組み
「トランスジェンダー」や「性同一性障害」といった言葉だけではくくれない、文化に根ざした特色のある様々な性のかたちを紹介する演題がいくつもあったが、それは無意識のうちに頻用されがちな「多様」という言葉の中で、どれだけたくさんの性のあり方が存在していたか、あらためて気づかされるものであった。あるパネリストが発した「わたしたちの経験は、ほかの誰の経験にも翻訳できない」という言葉に象徴されるように、ひとつひとつのコンセプトを、各地域のさまざまな文化的・社会的特性にあわせて丁寧にとらえ直す作業が必要であろうと考える。

ジェンダー・セクシュアリティの属性に限らず、ごく細分化されたニーズに対し、それぞれに特化したHIV/AIDSのプログラムが必要だという呼びかけに対し、果たして限られたリソースをどう充てていけばいいのであろうかと途方を失いかねない印象があった。一方、当事者自身のイニシアティブでコミュニティの中でピア・サポートのプログラムを育てたり、他のグループと恊働して築いたネットワークでリソースを有効に活用したりという取り組みが各地でなされていることに希望を感じた。また、性について語ることのスティグマのある文化の中で、性感染症としてのHIV/AIDSについてどのように語る機会をつくり出し、メッセージを発していくか、それぞれの文化圏にあわせたユニークな、時にユーモアのある数多くのアイディアに触れることができたのも幸いであった。

調査研究そのものに重きを置いた演題よりも、比較的アドボカシーや活動報告、実践例の紹介といった趣の演題がプログラムの中で目立っていたというのが、会議全体を通しての印象である。HIV陽性者が日本エイズ学会学術集会に参加することを支援する「HIV陽性者参加支援スカラシップ委員会」の業務の中でも感じていることだが、学会は決して医学などの専門家がフォーマルかつアカデミックな議論をするだけの場だけではなく、HIV陽性の当事者を含め参加者ひとりひとりに対するエンパワメントの効果もあり、このように規模の大きい国際会議ではその意義もことさら大きい。様々なバックグラウンドを持った人材が、学会の場で多角的な切り口からHIV/AIDS領域の最新の知見を収集し、研究手法やメッセージの表現方法などの潮流を知り、世界各地から集まる専門家や支援者らとのネットワークを構築することにより、各地域のHIV/AIDSをとりまく状況に有益な変化をもたらすことができると考える。自分もまた、概念的なアイディアから具体的なノウハウまで、会議参加を通して得たものを国内での業務や活動の中で広く共有し、還元していきたい。

最後に、今回の会議参加の機会を与えてくださった財団法人エイズ予防財団に感謝します。ありがとうございました。