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第9回アジア太平洋地域国際エイズ会議参加報告書

東京大学大学院医学系研究科修士課程
根本 努

2009年8月9日より14日までインドネシア・バリにて開催されたアジア太平洋地域国際エイズ会議に、エイズ予防財団より派遣させていただいた。本稿では、特に若者(Youth)、そしてMSM(Men who have sex with men: 男性とセックスをする男性)に関連する事前会合の中から印象に残った点、また発表として報告された事実などを、報告をしたい。そして、最後に本会議での成果および感想を述べ、本稿を閉じることとする。

§1.Stigma and discrimination / Youth Pre-congress

今回も本会議に先駆け、2日間の若者事前会合 Youth Pre-congress が開催された(8月6日・7日 於 サヌール・インナー・ビーチ・リゾートホテル)。アジア太平洋地域より50か国130名以上の若者が参加をし、日本からも筆者を含め4名の若者活動家らが参加をした。参加をした1日目のセッションの報告をする。

1日目の午前中は、4つのグループに分かれ、分科会を行った。筆者が参加したのは、インドネシア出身の若者活動家 Hendri Yulius氏とフィリピン出身 Igor Mocorro氏がファシリテイトした、「Stigma and discrimination 差別と偏見」というセッションに参加した。

■ 【概要】

  1. ゲーム:Ice-breaker (身体を動かしながら、緊張した雰囲気を壊す)
  2. 講義:「Stigma」と「Discrimination」の定義など
  3. グループワーク: イラストを見ながらディスカッション
    --- 2-3名の小グループに分かれ、イラストが「どんな差別や偏見」を表しているか話し合う。
    ---その後、何グループのチームかが全員の前で共有をした。
  4. フリーディスカッション
    ---「Stigma」「Discrimination」と聞いてどのようなことを考えるか。自分が差別や偏見を持ったことがあるか。

■ 【報告(1.-3.)】と【感想(4.以降)】
1. 説明の中で、「Stigma」と「Discrimination」についての説明があった。
「Stigma」と「Discrimination」とは、全く別の言葉であるが、エイズの文脈では二つ同時に語られることが多い。知らないものへの恐怖や知ろうとしない無関心が、偏見(セルフ・スティグマという自己に内在する偏見もある)を生み出し、差別というアクションにつながる。

2. 友人であるインド人の若者活動家 Himakshi Piplaniの発言が非常に印象的で、自分もいつもあてはまるような行動をしてしまうと感じた。

「私たちは、本当にちっぽけなことから偏見を持ってしまう。性別、国籍、人種、肌の色、セクシュアル・オリエンテーション、そんなこと以前に偏見を持ってしまう。例えば、制服のスカートの短さ・長さ、ipodで聞いている音楽、今みているドラマ、話し方、くせ、食べ方。そんな小さなことが自分と違う、私たちのグループと違うというだけで、「あの人は…」と、偏見を持ってしまう。」

インドだけではなくて日本でも同じことが起きるし、筆者自身も同じような偏見を持つこともある。

3. 家族の目、仲間の目、コミュニティの目、社会の目を気にして、性に関する情報や正しいHIV感染予防法にアクセスできないこともある。それは差別や偏見によって起こる。「たとえば同性との性行為を行うこと」や「セックス・ワーク」が犯罪である国、またHIV陽性者が入国し、勤労できない国もある。そのような国では、HIV陽性者、ゲイやセックス・ワーカーに対する差別や偏見は非常に大きいだろう。そうすれば、そのような人たちは、自分たちの健康のための情報やサービスをますます受けにくくなってしまう。

4. 日本では、そうした差別や偏見を助長するような法律はないが、HIV陽性者、ゲイ、セックス・ワーカーや薬物使用者などに対する偏見は色濃く残っている(2004年に行われた日本総合的社会調査では、日本人の同性愛者に対する否定的態度が明らかにされている)。当事者(エイズの影響を強く受ける人々)が声をあげ、自分たちの権利を主張することができる社会になることが理想的である。その一方で当事者でない人々(ほとんど社会の大部分の人々)も、当事者へのヘイト・クライム(憎悪に基づく犯罪)をなくし、当事者を理解したうえでサポートできる社会になることが大切である。

5. 抗レトロウイルス薬が「ない」ことではなく、「検査が受けにくい」「友達と性について話しにくい」「相談したいのにできない」といった差別や偏見が、エイズの最初の症例からパンデミックの状態になってしまったことを考えさせられた。今後は特にMSMとエイズに関する二重の偏見に関する活動にもっともっと興味を持ち、活動ができたらと思った。

6. こうした偏見をなくすために、果たして日本で行っているような「コンドームを配るだけ」「”二人”の愛の重要性を呼び掛けるだけ」で、差別や偏見がなくなる時が来るだろうか。「HIVに感染した」が「風邪をひいた」くらいの気持ちで言うことができる日がくるであろうか。何らかの形で小さな「成功体験」が積み重なり、それが科学的根拠となり、政策となるように当事者が動いていけるような社会づくりが必要である。まずは小さなところからでいい。

§2 MSM/TG Pre-congress “200Forum”(8月7日)

Youth Pre-congressの2日目は、欠席し、同日に開催されたMSM/TG(トランスジェンダー)の事前会合に参加させていただいた。1日に約200名以上のMSMが、HIVに感染していることから名付けられた”200Forum”に参加した。全体で150名前後の参加者があっただろうか。オーストラリア・ニュージーランドの参加者が数多い印象を受けた。

■ 【概要】
1. 午前: Plenary (講義を何本か聴講)
2. 午後: 分科会: Sub-regional Groupに分かれてそれぞれの持つ課題について議論

■ 【報告(1.2.)】と【感想(2.以降)】
1. Plenaryセッションより:
1) アジア太平洋地域の疫学に関する報告:


2) MSMと世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金):


3)分科会: Developed Asia (先進アジア諸国)ディスカッション

Developed Asiaは、日本、韓国、台湾、香港、マカオ、シンガポールで構成されるがこのディスカッションでは、日本とシンガポールの参加者が集まったのみであった。お互いの国で情報交換をしながら、今後の連携に向けて話合いを行った。印象に残った点は以下の通り:


4. 今回初めてMSMの事前会合に参加をし、Youth以上のDiversityを感じた。今後さらにネットワークをひろげ、現在大学院で学んでいる疫学・社会調査の面から、自分にできることがないかを模索していきたい。


§3 本会議

8月9日より始まった本会議では、特に以下の点について、精力的に活動をした。

【成果と課題】 Youth/MSM関連のネットワーク構築・および関連するアドボカシー活動

  1. 日本人として唯一「バリ若者委員会 Bali Youth Force (BYF)」の運営委員会 steering committee の一人として活動に参画することができ、日本の若者の存在をアピールすることができた。(BYFは、インドネシア人7名、それ以外の若者8名で構成)

  2. 若者事前会合で作り上げられ、8月13日の閉会式で若者代表より読み上げられた「Youth Statement」の中に、日本の若者活動家らは、「日本の性教育制度」について、(必要な知識や性感染症に関する予防法を適切な形で教えてもらっていないということ、また多様な性に対する教育がないことなどから)満足していない、という記述を入れることができた。

  3. 8月12日に行われた International Youth Day --- AIDS Rallyの中心として準備段階から、活動にたずさわることができた。当日は、若者約100名とともに、若者の権利について訴えることができた。(成果として、翌日のICAAP公式新聞に掲載はされなかったが、翌日のマレーシアのメディアと日本の歯科医師の方々が購読されるメディアに掲載された。)

  4. 8月12日に行われた、韓国・プサン市で開催される「第10回アジア太平洋地域国際エイズ会議」の記者会見にYouth journalistとして参加。韓国のLocal organizing committeeの代表に対し、次回のYouth Scholarshipをさらに増してほしいとアドボカシーを行った。結果、8月13日の閉会式の際で、韓国のLOC代表がそのことについて明言するための布石を打つことができた。

  5. 2007年コロンボ会議に引き続き Youth Abstract Reviewer として、たくさんの抄録を拝読させていただいたことも今後の研究の中で大きな経験となった。

  6. 今後は、国際的な活動について関心や理解を示す日本人の若者活動家に引き継ぎをし、「日本の若者は元気である」ことをアジア太平洋地域の若者に伝え続けられるようにしたい。

  7. MSMに関しては、様々な方々とお会いすることができた。日本人の活動家の先輩方がご配慮いただいたおかげで、国際的に活動するMSMの方々たちに臆することなく(?)、ネットワーキングをすることができた。

  8. 帰国後に主に課された国際的な活動は二つ。ひとつは、Youth MSM Policy Briefの作成に当たり、オーストラリアで活動をするACONとの窓口の役割を担い、対話を進めていくこと。

  9. そして、事前会合で行われたSub-regional discussionとその後のCaucusで結成された緩やかなアライアンス 「DAN:Developed Asia Network」の日本側窓口のサポート活動ができればと考えている。

【成果と課題】 疫学/社会調査関連のセッションへの出席

  1. 今回の会議では、疫学/社会調査関連のセッションへ(特に科学的根拠に基づく公衆衛生分野 Evidence-based public health)の出席も積極的に行おうとしたが、発表のレベルが全体的に落ちていたのかもしれない。ネットワーキング・アドボカシー活動に比べ、セッションからは学びの少ない会議となった。

  2. タイトルに「Evidence-based」とついているセッションも統計学的な手法を用いずに、印象論で政策決定に反映させている事例等が報告されている等、今後の研究生活においての学びは少なかった。

  3. その一方で、疫学/社会調査といった分野の専門家が少ない、あるいはこのような会議の場に来ずに、国際エイズ学会HIV病理学・治療学会議 International AIDS Society-HIV Pathogenesis , Treatment and Prevention に多く参加してしまっているせいだろうか。

 

§4 まとめ

今回の会議では、今まで培ってきた若者分野でのネットワーキング/アドボカシー活動のほかに、MSMのそれらや疫学/社会調査を中心としたセッションに参加するなど、新たな活動をすることができ充実した時間となった。

2005年の神戸会議より、経年的に「アジア太平洋地域国際エイズ会議」に参加させていただいた。会議自体が、4年前に比べ、若者のプレゼンスは大きくなり、存在意義を増してきた一方で、若者の抱える問題点は変わっていない。今回提出されたYouth Statementを見ても、資金的なサポートの欠如、自分たちの身体を守るための性教育、性感染症予防のためのコンドーム等へのアクセス、人権への配慮など…問題はさほど変わっていない。

年齢制限のある若者らに、政策の待ったはない。またアジア太平洋地域で、人権等を配慮したMSM対策が早急になされなければならないこともデータが証明している。

個人としてできることは限られているかもしれないが、自分が若者として活動をしている際に、得られることのできなかった学術的なサポート、そして政策決定者への橋渡しを、これからは尽力をしていきたい。

最後になるが、今回アジア太平洋地域国際エイズ会議に派遣いただきました 財団法人 エイズ予防財団の皆さまに、感謝申し上げて本稿を閉じたい。ありがとうございました。

以上