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第9回アジア太平洋地域国際エイズ会議参加報告書

wAds2009、早稲田大学大学院政治学研究科政治学専攻
今野 大一

【初めに】

派遣事業において2009年8月7日・8日の「ユースによる事前会議」と本会議である8月9日から13日のアジア太平洋地域国際エイズ会議に参加してきた。本報告では【アジア太平洋地域のユースの活動】を、今後具体的にどう自分自身が活動に還元していくか、またそのときに強く感じたことを交えながら述べさせて頂く。

【アジア太平洋地域のユースの活動】

第九回アジア太平洋地域国際エイズ会議 The 9th International Congress on AIDS in Asia Pacificに先立ち、ユースによる事前会議 Youth forum が8月7日・8日と2日間にわたりインドネシア・バリのインナー・グランド・ホテル・バリ Inna Grand Hotel Baliにて行われた。地元の若者を中心とした実行委員、バリ・ユース・フォース Bali Youth Force(以下BYF)が主催し、アジア・太平洋地域から50カ国130人の若者が集まり、活発な意見交換が行われた。

この事前会議の目的は、本会議で発表する「若者の提言」の作成であり、BYFのメンバーを中心とする各国の若者は、開催の二ヶ月以上前からオンライン上で意見交換し、作成に奮闘してきた。

会議内容は一日目に、エイズに関する基礎知識から「包括的な性に関する教育」「スティグマと差別」「文化と信仰」「若者の社会参加」といった異なる議題に関する討論の他、参加者同士の交流を目的とした野外ゲームが行われた。2日目は、各国の若者による自国での経験発表に始まり、世界エイズ・結核・マラリア対策基金の事務局からマイケル・オコナー氏Micheal Oconnor、同理事会のコミュニティ代表団連携担当者のレイチェル・オン氏Rachel Ongによる活動紹介、実行委員による政策提言についてのワークショップ、最後には「若者の提言」作成への最終協議が行われた。

「若者の提言」の骨子は以下の通り。

  1. 若者の意志決定プロセスへの参画
  2. 若者主導による活動および若者のための活動への継続的な資金面強化
  3. エイズ対策における「人権」に関する活動の主流化
  4. 若者の性と生殖に関する権利の保障
  5. 若者への差別と偏見の払しょく

事前会議で協議されたこの「若者の提言」は、13日の本会議の閉会式で地元インドネシアの赤十字で活動するBYF実行委員長のレイチェル・アリニー Rachel Arinii氏(21歳)によって国際機関や各国政府に向けて読み上げられ、対応改善への要求が示された。

「(会議を通して)若者の声が届けられたことには達成感を感じる。今後も政治的な公約や若者への正しい評価を得られるように、次のステップを模索していきたい。」 とレイチェル・アリニー氏は意気込む。

以下特に国内の若者に求められること、必要なこととして感じたことを述べる。

(1)政策提言:日本国内の若者の活動との差

「若者の提言」作成に向けた取り組みのように、政策への提言という「政治的な動き」を事前会議を行うことで毎回具体的に作り出せていることは、若者の活動として評価に値することではないだろうか。それも、一国だけではなく実行委員を構成するメンバーの出身国はインドネシア、ネパール、インド、中国、ソロモン諸島、スリランカ、フィリピンなど多岐にわたる。文面において科学的な根拠が乏しい面が多少あるにせよ、経済、宗教、文化など様々な状況の差を乗り越えて一つの「若者の提言」を形にし、それを国際機関や政府に提言できていることは大きな成果だと感じる。

日本の若者の活動と比較した際、特にこの成果は際立つ。日本の若者の活動は、同世代の若者にエイズへの関心を持ってもらうためのイベントや街頭キャンペーンなどがほとんどで、政策提言という「若者の声を届ける」までには至っていないのが現状だ。とはいえ、行政・民間企業・有名人などと連携しあいながら、若者にとって魅力的な「エデュテイメント(Education+Entertainment )」を通し、比較的大きな規模で同世代にエイズへの意識喚起を促す日本の若者の活動は、もっと他国の若者に伝えていくべきことである。いずれにせよ、この会議に見られる若者の政策提言への取り組みから日本で活動する若者が得られるヒントは大きいと感じる。

(2)若者の発表数は?

今回の会議での若者による口演発表は二つだけであった。一つは①「若者主導の先進的な取り組み」 Progressive youth initiative という主に行政や企業とのパートナーシップの成功事例を扱ったセッション、もう一つは②「HIV予防における若者の視点」Youth Perspective on HIV Prevention という雑誌メディア・冊子を使ったエデュテイメントなどの若者視点の強みに焦点を当てたセッションで、一人につき10分で六人による発表、30分の質疑応答という形式であった。一つのセッションに二人の議長がつき、一人は若者の議長、もう一人は大人の議長で、それぞれ感じたことをセッションの中で話し進行していく、というスタイルであった。

[1]の発表者の国籍は中国、インドネシア、ブルネイ、スリランカ、フィリピン、そして私の日本、②はタイ、ミャンマー(ビルマ)、フィジー、インドネシア2人、1名不明であった。


今回口演発表を経験し感じたことは、「セッションの発表者を若者だけで構成することの発展性の無さ」である。テーマが決められ、さらに発表者を若者だけで固めると、当然発表内容は似通ってくる。さらに、若者の視点でセッションは進んでいくことが多いわけだから、「自分たちの強みや弱みがどこにあるのか」という認識を得るまでには至らず、結局「発表できて良かった」で終わってしまう感じが否めない。

今回のセッションでは、結局各国の若者の抱える困難は資金不足であるとか、そのためにパートナーシップを組むことが大切だ、と言ったような「いつも通りの回答」に終始してしまっていた。パートナーシップを組む上で「こういう共通性があるんじゃないのか」や「理想のパートナーシップのモデル化」まで踏み込んでいたものは残念ながら存在せず、国内での若者の活動に直接還元できる具体的な事例には出会えなかった。

むしろ、例えば「若者」として切るのではなく、「薬物使用とエイズ」をテーマにセッションを構成し、その中に若者の啓発活動の発表者もいて、薬物に携わるNGOや医療関係者も発表者として意見交換するというセッション、つまり若者とそれ以外のセクターとの横のつながりが発表者にとっても見えやすいものの方が聴衆にとっても得るものがあるのではないか。その方がより、立場の違いを認識し、「どんな協働の可能性があるのか」、「若者が自分たちの活動で注意するべきことは何なのか」という「気づき」があるのではないかと感じた。

国内26歳以下の若者による発表は、口演発表が1、ポスター発表が3、ブース出展が1ということで、参加者全体で言うと12人の国内の若者と出会った。
コロンボ開催のときは国内からは口演発表二つということで、発表数だけで考えると少しずつ前進している。今後はいかに組織的に国内の若者同士で国際会議に向けての動きを作っていけるかが課題になってくる。

(3)「若者以外の分野」への関心は?

「若者以外の分野」に関しても、問題意識を広げていくことが若者にも必要だと改めて感じた。その意味で事前会議に参加していた若者が、本会議での「若者以外を取り扱ったセッション(移民労働者やセックスワーカー、薬物使用など)」へあまり参加していなかったことは少し残念だった。「若者以外の問題」に対しても興味・関心を持ち、学ぶ姿勢を持つことで、当事者である「若者」という立場を客観的に捉えられることもまた事実だ。

例えば、日本国内でも芸能人による薬物使用が報道されていたが、本会議でも主要なテーマの一つとして、「薬物使用とエイズ」が上げられていた。アジア・太平洋地域の若者にとっても、注射器使用も含む薬物使用は深刻な問題であり、若者自身が関心を持つと同時に薬物に関連する活動にも関わっていく必要がある。これは国内の若者の活動においても同様である。
 
アジア・太平洋地域と言っても、置かれている宗教・経済・文化状況は様々であり、特に南アジア、東アジア、太平洋の国々の三者の若者の間では問題意識もそれぞれ少しずつ異なるということを肌で感じた。国際会議は「同じ志を持った仲間」として、異なる国の若者と出会い、よき部分は吸収し、切磋琢磨するきっかけを得られる場である。そのきっかけをもっと多くの国内の若者が獲得する環境が今後望まれる。


(4)タイの友人が発表した移民のセッション

「健康と尊厳へ向けて移民の権利を守ること」Protecting Migrant Rights to Health and Dignity というセッションで、偶然非公式のパーティーで知り合ったタイのセックスワーカーが口演発表をするということで誘われ、軽い気持ちで参加した。その人はナムというニックネームで、優しい表情が印象に残る美人だった。元はミャンマー出身で今はタイのチェンマイでセックスワーカーをしており、EMPOWER FOUNDATIONという財団(以下のURL参照)で活動しているという。
http://www.empowerfoundation.org/

そのセッションは衝撃的だった。ナムだけでなく、スピーカーのほとんどが、英語をあまり話せないのだ。スピーカーが自国の言葉で話し、それを会場の友人が逐一訳す、という状況が始まった。それに聴衆もざわざわと話し始め、聴衆同士でビンタをしあって遊んだりと「小学生の学級崩壊」のような状態になった。この状況に戸惑う私は「何なんだよこのセッションは。つまらないのに来ちゃったなあ。」と最初は思っていた。

しかし、そのセッションの議長がセッションの途中でこう問いかけた。

「今この部屋で起こっていることが(このセッションの状況が)、ここ(エイズ国際会議)に来ることができなかった移民の人を含む、世界中の移民の現在の問題を表していることをみなさんお気づきですか?」

この問いかけで、私は180度視点を切り替えられた。

「聴衆の皆さんで同じ移民だという方は手を上げてください。」

議長が投げかけたこの質問に対して、軒並み手が上がった。そしてその人たちはマイクを手に持ち、「私は東ティモールでセックスワーカーをしています」など自分のことについて話し始めた。ここまで聴衆が自分をさらけ出すセッションは初めてだった。


多くの移民がその国の言葉を満足に話すことができないとしら、という想像。移住した国で抱える困難をここまでリアルに感じることも、想像したこともなかった。
移民労働者やセックスワーカーが言葉を十分に話せない状況の中、safer sex を含むコミュニケーションや「交渉ごと」を満足に行うことができるだろうか。

研究者などの「高度な教育を受けてきた人たち」だけに「話す機会」を限定していないエイズ国際会議だからこそ、私はこの「気づき」を得ることができた。エイズがもたらす被害や影響を受けているのは、自分のような若者だけではない。むしろ、「自分が今置かれている状況」に気づくこともできず、気づいていたとしてもその状況を変える力も持てずに苦しんでいる人たちだ。移住した国の言葉を話すことができないこと、それは移民に立ちはだかる苦難に対しての「声にならない声」と受け取ることもできる。

バリのデンパサール空港から東京への帰国便に乗ろうとするとき、「ナムのように遠くはなれた国の移民の人たちに対して、''自分自身が今後何ができるのか?''」と思いを巡らせた。自分のような豊かな国に偶然生まれた一人の若造が、いったいあの部屋でビンタをして遊んでいた移民の人たちに何ができるのか。

「移民のセックスワーカー」という匿名のイメージに出会ったのではなく、偶然出会い、同じときを過ごしたナムという友達が移民のセックスワーカーだったのだ。血の通った一人の友達が私に新たな問いを投げかけているようだった。

「ダイチ、来てくれてありがとう。」

セッション終了後の彼女の言葉と表情が今も胸に残っている。

今私にできるのは、国内にも多く存在する「移民」と呼ばれる人たちがどんな人たちなのかということに少しでも興味を持ち続け、何かしらを考えていくことだと思っている。

このように、若者の参加者にとっては、若者以外のイシューとも出会い、今後の自分とエイズとの関わりを発見する場でもあると思う。

若者と呼ばれる時期はいつの日か必ず終わりを告げる。そのことによって、エイズと私の関わりも終わってしまうのか?その問いに対しては私は「NO」といい続けたい。


今後も自分に何ができるのか、何に対してなら最も自分が貢献できるのかを模索していきたい。その考えるきっかけを下さった貴財団に対して改めて感謝を申し上げたい。また、今後もこの経験を還元できるよう精進していきたい。身の引き締まる思いである。

以上