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第9回アジア太平洋地域国際エイズ会議参加報告書

SWASH(Sex Work and Sexual Health)代表
要 友紀子

ICAAP2009におけるセックスワーカーコミュニティの報告

今年のICAAP2009には、アジア太平洋地域のセックスワーカー支援組織のネットワークから、14カ国、約80名が参加した。セックスワーカーとHIV/AIDSをテーマにした会議やワークショップがたくさん開催されたほか、公式プログラム以外に非公式に会議やウェルカムパーティーが開催されるなど、いつもどおり充実した内容と収穫だった。

●APNSWミーティング
開会式前日に行なわれたAPNSW(Asia Pasific Network of Sex Workers)ミーティングでは、さっそく、今回のエイズ会議で出したいセックスワーカーコミュニティからのステイメントの作成、議論に多くの時間が費やされた。議題となったのは主に、

など。

このステートメントはオーストラリアのグループ・Scarlet Alliance, Australian Sex Workers AssociationのWebサイトでみることができる。
http://www.scarletalliance.org.au/events/09_10/icaap_09
ステートメント作成過程の議論を紹介する前にまず以下に掲載する意訳をごらんいただきたい。

  1. SWは労働である。私たちの仕事が政府や宗教団体を含めたすべての団体に認められるべきであることを要求する。SWを非犯罪化し、男性、TG、女性も含めたすべてのSWを認めること。警察や軍隊や政府官僚によって乱用に結びつく刑法は人権侵害に結びつき、HIV支援とセクシュアルヘルスと人権へのアクセスを減少させる。私たちの仕事を規制するものを取り除くことを要求する。USAIDの基金政策は、男性TGのSWの特別なニーズを含めるべきである。

  2. SWは、すべてのSW政策の中心となるべきである。私たちはそれぞれのコミュニティを代表するリーダーであって、私たちのことを聞くべきである。独立した、説明責任ある、自律した、透明なオープンなSWの組織、ネットワーク、団体が、HIV予防の中心的存在となり、HIV防止とSWの人権について、影響力のあるコミュニティとしての中心的な存在になっている。SWは経験をシェアし、たがいに支援しあっている。SWたちは、長い歴史の間、強い運動を発展させてきた。活発な運動を成し遂げてきた。さらに、HIVセクターに関連したSWの問題を、国内政府、基金、UNに支援させるために、私たちの組織へのさらなる存続可能な支援をもとめていく。

  3. SWたちは尊厳を持って生活している。Ban Ki Moonさんは、警鐘を鳴らしている。「私たちは効果的なエイズ予防対策の障害となっている処罰法や、処罰を求める政策や実践、偏見や差別を取り除くときだ。」女子差別撤廃条約を批准し、SWとして働く女性の人権を認めること。TG男性のSWもまた差別から守られなければならない。SWの子どもやSWの親、保護者は権利がある。SWの子どもたちを排除するのをやめるべき。薬物を使用するSWは、私たちのコミュニティの一部であり、同様に尊敬が与えられるべきである。サービスや支援へのアクセスが与えられるべきである。SWのための法改正は、反差別的な保障、保護を含まなければならない。

  4. アメリカ合衆国政府の人身売買報告書は不正確であり、セックスワークと人身売買を混同している。反人身売買の法律は、SWの移動の安全な道を塞いでいて、脆弱性を増大させ、そして、警察や軍隊やNGOによる根拠のない摘発や強制的な救済、強制送還という結果になっている。反売春政策に投資している国連の関係省庁や、NGOの蔓延は、資源の非効果的な使用、繰り返し、SWのリーダーシップからの組織的な除外を行なってきた。アメリカの政権の誓約を破棄し、SWは、自らの移動の問題のエキスパートであることを認識すべきである。

  5. HIVとともに生活するSWには働く権利があり、幅広いSWとHIVコミュニティに幅広く働き参加する権利がある。犯罪化そして強制検査、100パーセントコンドーム使用政策はSWの権利を侵害している。世界的なARVの世界的なアクセスへのコミットメントを全うすべきだ。ケアや治療、性感染予防サービス、SWによって運営されているオーガナイズへの世界的なアクセス、コミットメントを達成すべきである。

議論となった点は、まず、1の、USAIDなど関係機関による基金支援が、男性・TGセックスワーカーも支援対象となるべきことについて。国連機関やグローバルファンド、世界銀行、フォード財団など、多くの機関や基金、財団がこれまでセックスワーカーのHIV予防支援や調査研究のために資金提供してきているが、女性セックスワーカーとMSMを分けたプロジェクトやプログラムとしてみなされてきている。これについて、いまから一緒にすべきというのはどういうことか、可能な提案かという意見が出された。しかし、この提案は、当事者であるTGセックスワーカー、男性セックスワーカーから提案されたものとしてステートメントに入れられた。MSMの問題は、セックスワーカーの問題も含んでいるが、MSMでありなおかつセックスワーカーである彼らのニーズや問題にはまだまだ理解や支援が得られていないという実状、実感からのものだった。

また、3の女性差別撤廃条約に関しては、この条約がセックスワークを労働として認めないものであることから、批准ではなく、反対すべきものではないかという意見があったが、意図としては、同じ女性として、セックスワーカーの人権も視野に入れて、セックスワーカーの女性の人権も訴えていってもらいたいという期待がこめられたものになった。

4の人身売買対策に関する項目に関しては、特に出稼ぎセックスワーカーの受入国となる日本のような先進国では近年深刻な問題である。また、セックスワーカーであることに加えて外国人労働者であることが、より社会的立場を不安定にさせていることから、センシティブな問題であり、理解を促すのは非常に難しい。特に、ビザの厳格化による移動の制限について、どのように弊害をもたらしているかを説明するとき、説明の仕方によっては、入管政策(水際対策・入国管理)のさらなる厳格化を呼び起こすことにもなりかねず、ここの部分の表現については慎重な注意を呼びかけた。こうした複雑な背景を伴う問題は、ステートメントに短文で理解されやすいように盛り込むのは難しいと感じた。

以上のステートメントのほか、多言語使用に関する要求も出されたので意訳を紹介しておきたい。原文は
http://www.scarletalliance.org.au/events/09_10/ICAAP_pre2011/
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「私たちICAAP2009のSWたちは、2011年のICAAPでの多言語の使用を求めます。」

ICAAPは、資源の無駄遣いをしていると思います。なぜならたくさんの人たちが集まるのですが、私たちは英語を話す人たちの話を聞くだけになっているからです。アジア太平洋圏のマジョリティは英語を話しません。ICAAPのマジョリティは、すべての地域を代表するために、英語以外の言語も使用すべきです。

私たちは、2009年ICAAPで一日にバハサインドネシア語を話す人々のなかでスピーカー、パネリストは一人だけだったと認識しています。これらのパネリストたちは、有力な影響力のある意思決定機関の英語以外の言語を話す人々や指導者を含んでいなかった(アジアパシフィックのコミュニティでの、その言語で、コミュニティの声を聞いてくれる人がいなかった)。多言語でSWとコミュニケーションできるパネリストたちが必要だ。そうすることでSWは様々なバックグラウンド出身のSWは英語以外の言語でその会議に実践的に「参加」することができるのです。

私たちは会議での通訳の設置を試みる必要があると感じています。しかしながら、これについては、多くの問題があります。1、ヘッドセットには、常に通訳が入手可能とは限らないということ。2、演者が、通訳に対して配慮がなく、とても早く話している。3、すべての言語を英語に翻訳することなしで、英語以外の言語を話す人たちは、質問を聞いたり聴衆のコミュニケーションすることができない。4、通訳者が持っている文化的な偏見は通訳それ自体が間違った情報に基づいた言葉や適切ではない言葉を使っているということを意味する。このようにして、その結果、通訳は要点をつかめないようなものにしてしまっている。翻訳者たちの価値観、価値意識が聞き手に影響を与えている。

英語、バハサインドネシア語、タイ語、ビルマ語、モンゴル語、ヒンズー語、中国語、ピジン英語、テトゥン語

2011年のICAAPのSW関連の要約、要旨集や、奨学金を監督するためのSWによる委員会に。私たちは、SWではないが、SWプロジェクトで報告したい報告者を許容したくはない。彼らは2009年に、私たちについて報告をしているが、2011年では、私たちは、SWがSWの問題について報告することを要求しています。

私たちは、研究者たちやプロジェクトワーカーズが私たちを召集、分割すること自体に反対する。上層で企画運営している人たち、地位を表現するような呼び方に反対する。意思決定機関でえらい人たちばかりが呼ばれる。一部の人が発言している。SWの中でも有名な人ばかりが話すということも反対。連帯したコミュニティである。私たちはそのように扱ってほしい。

奨学金の対象者はより多くのSWに拡大すべき。奨学金は、SWに同伴しているSWコミュニティが指定した通訳に与えられるべきである。部分的な奨学金給付ではなく、すべての人に対して奨学金を求めます。
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以上のような言語問題は、同じくエイズ予防財団の国際会議派遣事業にも反映させていっていただきたい。現在の派遣事業の助成対象は、英語での論争可能な人が条件となっているが、こうした条件の緩和を検討していただくことはできないだろうか。そうすれば、私たちは後継者の若者を会議に連れていき、経験を積ませることができる。英語ができる人はたいていたくさんの国際会議参加の経験者である。

●参考となった研究発表
参加した公式プログラムの会議の中で参考になった、「Sexworkers rights are human rights」(8月11日10:45-12:15)のセッションで発表された調査、プロジェクトを紹介したい。

パキスタンの報告。
パキスタン国内には、推計136,300人の女性セックスワーカーがいるという。このグループは、「HIV予防における女性セックスワーカーの人権、そのための不可欠な役割を実践するための支援的環境創造」と題するプロジェクトの発表を行なった。

このプロジェクトは、欧州委員会からのファンドで実施され、ターゲットは、女性セックスワーカーとその家族、最終的な受益者は、女性セックスワーカー、その子どもたちや家族のほか、地域の警察、自治体(議員)、識者、メディア、NGO関係者などである。

このプロジェクトの目的は、女性セックスワーカーコミュニティに対するスティグマや差別を無くし彼女たちの社会的地位を向上させることであり、とくに、パキスタン・オカラにおける、女性セックスワーカーコミュニティの民俗学的な研究を通じて、当事者に関連するステークホルダー(政策立案者など)に影響を与えられるような、意識改革と啓発キャンペーンのための考察と手段を開発することである。

そのなかで、このプロジェクトでは、当事者らの利害を守り、法的サポートを提供するネットワーキングのための自助グループを組織し、キャパシティビルディングワークショップを通じてサービスを提供した。また、彼女らの子どもたちに対しては、虐待や育児放棄から保護するために生活技能に関する教育やケアを提供した。

その具体的内容とは、
【キャパシティビルディングワークショップ】

【ネットワーキングのための自助グループの活動】

女性セックスワーカーの民俗学的研究の成果としては、以下のようなことが明らかになった。

その他、このプロジェクトの業績は以下となっている。

今後の課題としては、

継続/発展させる活動

●感想
アジア太平洋地域の中でも日本は例外で先進国であるから、当事者の動員やインタビュー調査などにおいては、他のアジアの国の当事者とバックグラウンドが違い、当事者の動機づけが難しいと思った。日本人セックスワーカーのことだけでなく、日本で働く外国人セックスワーカーについてもである。例えば、日本でワークショップ開催のために当事者を動員させるとき、お昼ご飯やコンドームの提供では動機づけにならないだろう。また、ファンドレイジングに関しても、その規模が違いすぎて、そのため、各国のプロジェクトや調査手法、実施内容で参考になる部分と参考にならない部分があるが、世界的に共通した影響を受けている反人身売買政策のグローバリゼーションの問題は、かなり共有できると思ったし、参加者の反応も手ごたえを感じられた。

アジア太平洋地域の先進国の中では、オーストラリアが参加していたが、人権啓発の部分でスキルと実績を持ち合わせてはいるが、ではこの団体のスキルと実績を日本で同じように実施しても効果的ではないだろう。日本は人権や権利ベースで物事が動かない国であり、また、コミュニティにおいてもしかりである。アジアの国々とこれからも連帯、連携しながら、取り入れられそうなところとそうでないところをよく見極めて活動に生かしていかなければいけないと思った。そのためには、自分の国の事情や実状をよく知っていないといけないというのが一番重要なことだと思った。

次回のICAAPではぜひ日本の実状に照らし合わせて行なった調査とアウトリーチの成果を発表したいと思う。