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第10回アジア太平洋地域エイズ国際会議参加報告書
 

独立行政法人国立国際医療研究センター病院
エイズ治療・研究開発センター コーディネーターナース
小山 美紀

第10回アジア太平洋地域エイズ国際会議への参加にあたり、ご支援いただいた公益財団法人エイズ予防財団の皆様に御礼申し上げます。
自身のテーマである、PLHIVへの包括的支援についての課題定期、情報収集、意見交換を目的に本会議へ参加しましたので、以下のとおり報告いたします。

MSM陽性者の背景、及び支援

・Poster Session(8/27、Poster Exhibition)の発表
cART導入成功後、治療上安定期を迎え一件安定している外来通院中のPLHIVが、長期療養時代を迎えた今、日常生活の中でどのような課題を抱えているか、MSM陽性者に焦点を当て今後のケア課題について検討することを目的として発表を行った。
インドやマレーシアからの参加者からの質問に対しdiscussionを行ったが、「HIV感染者の中でMSMはまだ少なく、把握できている数は極一部だと考えている。隠されているMSMへの支援が課題である。」とのコメントを受けた。27日のプレナリーセッションにおいてもyoung MSMやTGへのアクセスが十分に届いていないことへの問題提起が成され、その背景にあるStigmaやDiscriminationへの取り組み、医療面だけではなく心理社会的サポートの必要性が再確認された。

・主に参考になったMSMに関するセッション・発表

  1. Epidemiology of HIV in Men having sex with Men (8/28 10:50-12:00)
  2. Plenary session:Prevention in the rapidly changing MSM communities of today(8/29 9:00-10:30)
  3. Poster session: Creating a Moral Life Course : Internalized Stigma and Marriage in the Lives of Chinese Men who Have Sex with Men, Dr, Kyung-Hee Choi
8/28 Plenary sessionにおいてタイのMinistry of Public HealthのFritz van Griensven氏の発表の中で、MSM/TG HIV陽性者の抱える課題として、以下が挙げられた。
  Lose or less self-pride
  Lose or less self-esteem
  Lose or less self-efficacy
  Lose or less self-determination
  Lose or less respect for others

 StigmaやDiscrimination廃絶に向けた法的・社会的取り組みは勿論、当事者自身のinternalized stigmaへの取り組みが課題として共有された。当事者に対するself-educationプログラムについても、各国からの様々な活動報告がなされていた。社会的・心理的脆弱さに対し、外部からの基盤整備とともに、当事者自身のエンパワーメントが重要となる。Peer-educatorの取り組みに関する発表も非常に参考になった。

また、中国人MSMにおける結婚に対するモラル感情についてのポスター発表では、結婚や家庭観におけるモラル意識に日本との共通点が感じられた。家族からの期待・internalized stigmaと、自身の望む生活との板ばさみにあるMSMへの支援については、法的・社会的な状況の改善を短期間で望むことは困難であり、Kyung-Hee Choi氏のDiscussionにも挙げられていたが、心理面のサポート・心理職との連携は有効であると考える。

地域における予防啓発・支援活動

予防啓発について:地域が主体となった検査機関・医療機関へのアクセス向上に向けた様々な取り組みの発表をきくことができた。初のHIV感染者判明から30年を迎えるに当たり、新規感染者およびAIDSによる死者をゼロにするという公式メッセージも発信されていた。現在、勤務場所が治療の場である病院ということもあり、陽性判明後の当事者への支援が主であるが、予防啓発・検査において、医療機関で出来る支援についても継続して考えていきたい。

HIV/AIDSと人権

学会期間中に行われていたFTAへの抗議活動を含め、人権擁護や権利獲得に向けた意識の高さを肌で感じた。また、主にIDUやFSWに関してのDecriminalizationに関する発表が多く見られた。UNAIDSからは、38のアジア地域の国の内、19の国が同性愛を禁じ、29の国がsex workを犯罪とみなし、15の国が陽性者の入国や滞在に関し何らかの制限を行っているという報告があった。これら感染者への差別・懲罰的な扱いがstigmaを増強させ、支援を届きにくくしているとの見解が述べられた。懲罰ではなく、保護への政策転換について議論が行われた。 治療・予後が多くの国で改善し、“生きる”権利から、“よりその人らしく生きる”権利に移行する中で、第18回国際エイズ会議のテーマが「Rights Here, Right Now」であった流れもあり、「人権」というテーマは今後重要となる視点と考える。

会議の成果を国内で還元する計画

本会議参加で得た情報・連携を下記に活かしていく。
 ・ACC内への報告会
 ・ケアプログラムの見直し、院外(国内外)連携の構築
本会議で再確認した包括的支援の重要性について、内部での報告会を行い、また、実際の看護支援の見直し、及び院外連携の構築につなげていく。
また、各国支援団体との情報・意見交換を行えたことで、母国へ帰国される外国人陽性者や海外へ生活拠点を移そうとされる日本人陽性者に対する情報提供や連携の一助につながると考える。医療連携がネックとなり、帰国や海外移転に困難を生じることも少なからず存在するため、グローバル化の流れに沿い、自己実現が阻まれる事のないよう連携を試みていく。

感想

本会議は、自身にとって初のICAAPへの参加であった。学術研究に主体をおいた発表より社会学的視点に主を置いた発表、各支援団体による活動報告が中心である点が印象的であった。ポスター会場においては、登録に比べ実際に掲示された発表数の少なさに驚いたが、形式や立場に捕われることなく、自由に意見交換・連携の構築できる場である点において、非常に有意義な会議であると感じた。
日々の臨床において、病院では解決できない問題についての相談が多くよせられており、医療従事者として、どこまで患者の生活に即したケアが行えるか、包括的ケアを目標としながらもどのような介入が可能であるのかを課題と感じ、本会議に臨んだ。本会議の参加を通じ、PLHIVの多様な身体的・心理的・社会的背景に対応するためには、当事者・地域・公的機関・医療機関様々な立場からの取り組み、連携が必要であることを再実感した。
また、The ICAAP Herald 8/31版にDiverse sexualities, one realityというタイトルでTsdendemberal氏は、本会議で発信された輝かしいアイデアや知識をどのように効果的な実践に活かすかが課題であると投げかけている。理想や計画が勿論スタートには必要であるが、実践がなければ現状は変わらない。本会議で得た情報・支援へのideaを実践に移し、連携事例を積み重ね、具体策・具体的連携システムの構築に取り組んでいきたい。