HOME >> 資料室 _ 関連学会情報 >> 第10回アジア太平洋地域エイズ国際会議(釜山)/2011年 >> 参加報告書

第10回アジア太平洋地域エイズ国際会議参加報告書
 

長崎大学熱帯医学研究所臨床感染症学分野 COE研究員
土屋 菜歩

第10回ICAAPに参加して

6年前、神戸でのICAAPが臨床疫学研究でHIV/エイズに関わるきっかけとなり、前回のバリ、今回の釜山でのICAAPに発表者として参加することができ、非常に感慨深いものがありました。今回のICAAPで興味を持って見た点、印象に残った点について報告させていただきます。

1.自分の研究の関連分野について
北タイランパン県ランパン病院で行ってきたコホート研究から、口演、ポスター1題ずつ発表しました。口演はタイのジェネリック抗HIV薬による治療導入後の治療薬変更とその原因について、ポスターはHAART導入前後の死亡率と通院患者数の変化について検討したものです。口演では治療開始から副作用出現までの時期やWHOのガイドライン変更による現在の変更状況と今後の見通しについて質問、議論がありました。タイでこれまで第1選択薬として使用されてきたd4T/3TC/NVPの組み合わせは、アジア太平洋諸国を含む他の途上国でも広く使用されていますが、長期使用により生じる副作用やその危険因子についての情報を他の参加者と共有することができたのではないかと思います。治療の成否を規定する因子としてアドヒアランスやピアサポート、経済的な負担や地理的な理由などが他の発表で多数指摘されており、治療の成否、それによる薬剤変更の規定因子が臨床的、生物学的な因子のみならず社会的、経済的因子も同様に重要であることを再認識しました。

 また、今後自分が関わる予定の研究分野として、IDUの性行動と夫婦間感染についてベトナムを中心に発表を見てきました。運良く発表者の方とセッション後に話す機会も得て、IDUの性行動は時期によって多様に変化していくこと、IDUの男性から性交渉で感染する女性が多いこと、IDUの女性、特にCSWの女性は非常に脆弱な立場にあることが分かりました。今後の研究、プロジェクトの際に考慮する必要がある情報を得ることができました。

2.印象に残ったセッション、発表

SuPS3 Plenary Session3 (Recent progress in basic and clinical HIV research: Outcomes from Asia and the Pacific) CAPRISA004,iPrEX、そしてつい最近発表されたHPTN052の結果から抗HIV薬の予防的投与でHIV感染を減らせることが明らかになり、今年3月のCROI,7月のIASではその話題で持ち切りでした。今回のICAAPでもplenary sessionでPrEP, TnTが取り上げられていました。これまでのHIV予防対策の流れからPrEP, TnTに至るまでの経緯、治療開始時期の考え方をまとめた発表があり、その後PrEPの特性や実施に際しての注意点、懸念等が発表されました。アジアではタイで大規模臨床試験の一つが進行中であり、来年以降の結果が待たれるところです。同じセッションの中で、開発中の薬剤や新しい治療について最新の知見が発表されたのも興味深く聞きました。1つ残念だったのは、PrEPのコストの問題についてあまり深く触れられていなかった事です。誰が払うのか、という疑問の提起で終わるのでなく、どうやって費用を捻出し、維持していくのか、費用対効果を考えてどの地域のどの集団に対して行うのか、ということを現実的に考える時期がすぐそこまで来ていると思います。
   
SuSAT13 (HIV and AIDS Data Hub: The Application of Data to Better Inform Planning and Programming) 欧米やアフリカ諸国に比較して、アジアからの大規模研究や報告は数が少なく、情報を集めるのにいつも苦労します。アジア諸国の最新情報が1か所から得られ、比較もでき、誰にでもアクセスできるというこのデータベースができたことは、患者さん、医療者、HIV/エイズ対策に関わる全ての人々にとって大変ありがたいことです。知り合いにも紹介し、今後大いに活用させていただくと思います。データの収集、管理方法、データの質など気になったところについても非常に活発な議論が交わされていました。使用者の側からもフィードバックをしながら、データベースの質を高めていくことができるのではないでしょうか。大いに期待しています。

3.今後の活動への還元、および会議全体をふりかえって
2年に一度のICAAPは、古くからの友人や思わぬ人と再会したり、情報交換をし合う中で新しい友人ができたりする貴重な場です。また、様々な参加者と意見を交わすことで、自分が普段携わっている研究や医療という視点以外でHIVを見つめなおすことができる機会でもあります。今回もその2つの点でいろいろな方から刺激を受け、また頑張ろうという気持ちになることができました。途中、活動家の逮捕や警察によるセッションの中断、開催者と当事者による説明など波乱もありましたが、そのことで感染者やそこに関わる人達の人権について参加者全体の意識が高まり、むしろまとまりが出たようにさえ感じました。

 HIVを取りまく状況は日々変化しています。私は臨床疫学の研究者という立場から今後も関わっていくことになりますが、常に現場の生の声とそこにいる仲間達の思いに向き合って研究し、それを還元していきたいと考えています。ICAAP参加を支援していただいたJFAPの皆様、ありがとうございました。