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第10回アジア太平洋地域エイズ国際会議参加報告書
 

国立国際医療研究センター 小児科(新生児内科)
細川真一

はじめに
報告者は、現在、国立国際医療研究センターにおける日常診療で多くのHIV陽性妊婦から出生した児の診療に従事している。成人領域では新薬や新しいプロトコールなどの報告は多いにも関わらず、小児、とくに新生児領域に置ける診療のアップデートは日本国内では難しい状況にある。今回、公益財団法人エイズ予防財団による「第10回アジア太平洋地域エイズ国際会議」派遣事業の助成を受け、本会議に参加する機会を得た。会議参加によって、新生児の感染予防や感染児の治療方法の見直しなど、そこで得られた最新の知見を日常の診療に役立て、また、海外の医療従事者や研究者から得られた情報を院内講習会、国内関連学会などで報告することを目的とし、ここにその成果を報告する。

全体のプログラム構成から
Congress Programに依ると、8月24日(水)からすでに各種団体によるPre Congress Community Forumが開催されていたが、Scientific Programの開催期間としては、8月26日(金)の夕方のOpening Ceremony & Welcome Receptionを経て、27-29日の全日および30日の午前中に各Sessionが開催された。
プログラムの構成は、大きく、Plenary Session、Symposia、Skills Building Workshop、Oral Session、Poster Displayに分けられている。また、Oral SessionおよびPoster Displayにおいては、Track A(The evolving epidemiology of HIV in Asia and the Pacific)、B(Advances in basic and clinical sciences)、C(Meeting the challenge of Universal Access-Treatment, Care, Support, Prevention and Social Protection)、D(Building and supporting leaders and advocates-Politics, Economy, Religion, Culture, Youth, Media)、E(Engaging Communities for effective responses-PLWHA, MSM, Sex Worker, Transgender, IDU, Migrant, People in prison)、F(Overcoming human rights, legal and policy barriers)とテーマごとに細分化されていた。本会議参加の目的である「新生児の感染予防と治療方法」のみを取り上げた発表は残念ながら無かったが、周産期関連の内容が比較的多いと思われたTrack A、B、Cにおける発表を聴講した。

聴講したセッションから

ポスターセッションから
Oral session同様に、HIVに梅毒やHCV感染を合併している場合の疫学やその対応についての報告が多くみられた。 など。
また、新生児関連では、各国で早期診断の重要性が報告された。ウイルス量の検査を施行している国もあれば、抗体陽性の有無で論じている報告も見られた。しかし、現在の傾向では、診断のためには基本的にウイルス量をチェックすることになっているようである。
など。閲覧できたポスターの中では、小児の感染患者は多剤併用(HAART)を実施している報告もあったが、日本のように「HIV陽性妊婦から出生した児にAZTを6週間予防投与」という報告は見受けられなかった。
HIV感染による、または長期ARTによる副作用の報告も多く見られた。
など。我々の施設では、新生児に関して言えば、生後早期からのAZT投与における貧血は高頻度で見られていて、大きな問題であると考えているが、ポスター発表においても新生児や小児の治療と貧血に注目した発表は見受けられなかった。

補)プログラムでは、Track A-Fで各50-100くらいのエントリーが有り、かつ、8/27-28の3日間でスケジュールは全て異なっているので、プログラムの予定から集計すると総計1000程度のポスターを閲覧できるはずであった。しかし、実際の会場では、多くのポスターが貼られておらず、日本のように「演題取り下げ」の断り書きもなく、ポスターのパネル会場はポスターも見学者もまばらな印象を受けた。

全体の感想
自分にとって初めての国際学会参加ということもあり、初日はどのブースに行けば自分の求めるテーマの発表が聴講できるのかわからなかった。最終日に近づき、プログラムの全体像がようやく把握できて、発表内容も理解できるようになった。自分の専門領域である新生児そのものの発表は無かったが、母子感染についてはMDG4/5/6という目標からも、予防や治療についての戦略の面でも、さらなるScaling upとImprovingが必要であると言う発表が多く見られた。日本も世界の一国でかつASEANの近隣国として、これらの活動に協力し、日本からも積極的に報告する必要があるものと考えた。多くの国々では、HIV対策としては未だ感染妊婦中心で、新生児や小児では「感染児」に焦点が当てられている。日本では、感染児が少ないながらもその予防や減少のために、選択的予定帝王切開や母乳禁止やAZT予防投与などの標準的予防対策が取られている。ASEANがPMTCTに重点を置きつつ有る状況で、我々のこのような経験を報告して行く意義は有るものと考える。今回、本会議に参加して、HIV感染対策の対象とする患者グループが女性/男性/習慣/年齢等様々に異なる事、また戦略も国策から共同体での教育までレベルが様々に異なることを認識した。今後、このような大局的な見地も踏まえながら、一介の新生児科医としては目の前の感染妊婦から生まれくる新生児の感染予防および不幸にも感染してしまった新生児の治療に、今いっそう努力すべきであるとの認識を新たにした。

謝辞
 今回、このような有益な学会に参加する機会を与えていただいた、公益財団法人エイズ予防財団に深謝する。また、忙しい病棟業務を残したまま出張する事をお許し頂いた、小児科松下竹次医長、佐藤典子医長、赤平百絵医長、およびスタッフ、フェロー、研修医の各位にもこの場を借りて深謝する。