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第10回アジア太平洋地域エイズ国際会議参加報告書
 

特定非営利活動法人りょうちゃんず 副理事長
早坂 典生

2011年8月26日~30日まで、韓国の釜山で開催された第10回アジア太平洋地域エイズ国際会議に参加したので報告します。

「Diverse Voices, United Action(多様な声、団結した行動)」を会議テーマとし、会場はアジア最大ともいわれる会議場「BEXCO(Busan Exhibition and Convention Center)」において、開催されました。アジア太平洋地域から、2900名以上の参加者と報告がありました。
今回の私の目的は、私自身が2011年3月11日の東日本大震災に被災した経験や、特定非営利活動法人りょうちゃんずのメンバーとして支援を行った経験を伝えるべく会議に参加しました。また、隣国である韓国のHIVを取り巻く状況を知り、今後の外国人支援活動の一助や予防啓発活動にもいかすように参加しました。セッション内容については、様々な方々が報告すると思うので、私は参加を通じて感じたことや気づいた点を中心に報告します。

今回の目的である震災時の対応については、別紙のようにメッセージ(別紙参照)を、エイズ予防財団のブース及び会場内にて手渡しを行い、少しでも私たちの思いが伝わればと、手に取って読んでもらいました。反応は様々でしたが、じっと見入ってくれる方や励ましの声をかけてもらったときは、本当にうれしかったです。
私自身も震災後の混乱と不安を経験しましたが、他のHIV陽性者の安否確認と、抗HIV薬の持参状況やニーズの把握を行い、合わせて医療機関や薬局と連絡を取り、抗HIV薬や血液製剤についても、一定の確保を確認しました。このことは、これまで築いてきた医療機関、薬局、行政との信頼関係や、HIV陽性者同士の集まりを続けてきたことが、役に立ちました。日本では、当たり前のように受けられると思っていた治療が、このような大震災があった場合、すべてを失うこともあり得ることを改めて実感しました。大震災からすでに5か月以上経過していますが、このような経験はこれからもNPO法人りょうちゃんずの活動を通じて発信し、東北地方の震災復興が進む中で、HIVにかかわる体制構築にも関わっていきたいです。

会議全体の印象ですが、当初4000名を予定していた参加者が、最終的には2900名とのことでした。これは、ICAAP10の開催にあたり、実施主体や運営方針で二転三転するなど準備が遅れたことや、韓国政府が会議参加者の査証発給をしないケースが多数あったと聞きました。まだまだHIVに対する理解や支援が少ないとの印象を持ちました。そのことは、釜山市内を歩いても、ICAAP10のポスターや旗など、一切見られませんでした。
展示ブースについても、エイズ予防財団はとてもいい場所に設営されていましたが、製薬企業など派手なブースはなく、さびしい印象でした。国をあげてとか、市をあげてという印象は少なく、会議場内だけでやっている感じが、とても残念でした。
そのあたりは、韓国のHIV陽性者と話し合う機会に恵まれ、事情を聞いてみました。
NGO活動は、政府の方針に影響を受けやすく、意向に沿った活動をするか、意向に合わなければ予算が切られたり、活動基盤が不安定であることと、そのために国際の場面に出ての政府要求や対立構造に動いたり、イデオロギーや宗教が強く出てしまい、NGO活動に参加しにくいケースも多いことを、聞きました。そのため、多くのHIV陽性者は、NGO活動に参加することも少なく、HIV陽性者のネットワークも遅れているとのことでした。
さらに、HIVに対する差別や偏見が多く、理解が進んでいないことや、就労時間や職種制限があること、支援をする団体がなく医療者との結びつきが強いこと、一方では表に出ずに満足している陽性者も多いことなど、聞くことができました。

日本でも、政府の方針や予算に影響を受けることはありますが、極端に活動が制限されることは少ないため、韓国のNGO活動は、とても厳しい様子でした。このようなことが、政府との対立構造や、抗議行動になり、問題解決を複雑化しているかもしれません。
日本でも、表に出て活動できる人は少ないですが、ようやくHIV陽性者の理解が少しずつ進み、NPO法人りょうちゃんずも支援団体の一つとして認知されるようになりました。また、様々な団体が存在し、サービスを受ける側も、サービスを選択できるようになってきています。ここにくるまで10年も20年もかかっているので、韓国もHIV陽性者たちがまとまることには、時間がかかりそうですが、日本と同じように、様々な考えをもった人たちが、それぞれに求める支援活動や発言をしていけば、変われるだろうと思いました。
そのために、NPO法人りょうちゃんずが取り組んでいる電話相談やピアカウンセリング研修のノウハウが、役に立つのであれば、ぜひ協力していきたいと思います。同じ東アジアの国として、交流の多い国として、一緒にできることがあれば、よいと思いました。

また、大会中にNGO団体や活動家が政府や製薬企業対して様々な要求や訴えを起こす行動がありました。
今回は、アジア各国と欧米各国の政府間のFTA(自由貿易協定)により、製薬企業に有利な特許の使用や治療薬の高騰化が進むことが問題視されていました。
インドのジェネリック薬は、インド国内だけでなく、近隣国やアフリカなど多くの途上国で使用されていますが、FTAにより国外への輸出制限がされそうになっているなど、途上国にとって抗HIV治療薬へのアクセスが阻害されるという大きな問題でした。このことは大会を通じて、終始抗議行動や、初日のケアサポートのセッション会場には、多くの人が入り込み、発表が中止されるなど、荒れた一面もありました。日本では、医療も社会保障も一定のサービスが受けられますが、治療薬の問題は、国際社会では変わることなく続く問題であることを実感します。

さらに、PWAラウンジについて報告します。PWAラウンジは、会場内に設置されており、HIV陽性者限定の交流スペースです。これまでの国際会議では、プライバシーを配慮し、場所は非公開となっていましたが、今回、抄録にも場所が明記されていました。プライバシーを心配する人にとっては、入りにくかったかもしれませんが、私には、場所がわかりやすくとても入りやすい場所でした。
スペースは広くありませんでしたが、食事やドリンクも十分に準備され、マッサージ機や仮眠スペースも設置されていました。韓国の民族衣装を着たスタッフや学生ボランティアが、笑顔で迎えてくれました。ときには日本語で、もてなしてくれたり、満席の場合でも場所を確保してくれたり、とても居心地のいい時間を過ごすことができました。人を迎えるときは、このようにやらないといけないと感じました。そして、会場には、韓国の民族衣装の体験試着に加えて、K-POPのDVDが流されていたのは、今の韓国の文化の流行を表現しているようでよかったです。
また、ボランティアと話をすると釜山だけでなく、国内各地から大学生が集まっていると聞きました。神戸のICAAPでもスタッフの苦労話を聞いていましたが、準備や運営にあたっているスタッフのご苦労は計り知れないと思います。心地良い空間を提供してくれたスタッフにとても感謝したいです。一生懸命に接待してくれる学生たちには、HIV陽性者と間近に接した経験を忘れることなく、HIVの予防につなげて幸せになってほしいと切に願います。

国際会議に参加すると日本とは全く違う価値観に出会います。日本では当たり前のサービスが、国際社会では受けられない、マラリア、結核、HIV、そしてC型肝炎も感染症と位置付けられ、多くの人が命を落としている。さらに、紛争や宗教、貧困や人身売買など、厳しい現実がある。日本で暮らす私たちは、そのことに何も語ることができませんが、日本にいて貴重な治療薬を使用していることを、改めて多くの人に感じて欲しいと思いました。そして、改めて健康に生きていきたいと思います。

今回の派遣を通じて、日本のHIV陽性者の方と話ができました。国際会議が初めてとのことで、熱心に情報収集を行い、自分たちの活動に生かそうと一生懸命でした。新しい人たちとの出会いは、単に会議に共にしたというだけでなく、私たちの活動を通じて、一緒取り組むことができたら、うれしく思います。また、ブース展示では、日本からHIVと人権情報センターが参加していました。日本NGOを代表しているわけではありませんが、これまでも長く続けていることには、敬意を表します。
さらに、ICAAPの前日には、厚生労働者の担当者と東アジアの保健担当者との実務者会議があったと聞きました。日本の枠にとらわれず、行政官同士の連携・交流が図られ、国際間でのHIV対策がさらに進むことを期待します。
そして、日本は、治療体制も整い、福祉制度も整っています。さらに、行政やNGO連携も少しずつ、進んでいます。このような取り組みを国際的にもっとアピールしていけるよう、HIV陽性者が、参加でできるように、これからも日本のひとりでも多くのHIV陽性者を国際会議に派遣して欲しいと願います。

最後に、今回、参加した経験は特定非営利活動法人りょうちゃんずの活動を通じて、日本の皆さんにも伝えていきたいと思います。また、この派遣に際し、お世話になったエイズ予防財団の皆様やジャンププラスの皆様、会議先で出会い知り合いとなった皆様、お世話になった皆様に、感謝いたします。NPO法人りょうちゃんずの活動を通じて、またお会いできることを楽しみにしています。ありがとうございました。

以上