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第10回アジア太平洋地域エイズ国際会議参加報告書
 

特定非営利活動法人 ぷれいす東京
加藤力也

■自分がかかわっている分野を中心としたテーマの報告

自分自身が共同著者として名前を連ねている研究発表でもある、「Creating a Better Work Environment for Everyone - An Approach of "We're Already Living Together with HIV/AIDS"」("我々は既にHIV/ AIDSと共に生きている"のアプローチ – すべての人にとってより働きやすい環境づくり)のセッションについて報告する。

日本国内には約18,000人のHIV陽性者が暮らす一方、働く陽性者が職場で自らの陽性を開示している割合は低く、HIVを身近に感じる機会に乏しい。
そのため、陽性者が共に働く仲間であるとか、社会生活を継続する存在であるという認識が生まれにくく、疾病に対する理解を得ることが困難となったり、差別・偏見を生む原因となることがままある。
そこで、企業の社員に対して参加型のワークショップを行い、その中でHIVの基礎情報を提供しながら、その過程でHIV当事者スタッフの陽性カミングアウトを行い、HIVをより身近に感じてもらえるような工夫を行った取り組みについて報告された。
結果、外見からは分からないがHIV陽性者が身近にいるかも知れない、出血時などには標準的な予防策で対処出来る、HIV陽性者が当たり前に受け入れられる職場は誰にとっても働きやすい環境であるというような参加者の理解を得ることが出来、受講者のその後の意識や行動に肯定的な変化をもたらしたことが付け加えられた。

このセッションは、「仕事そのアイデア – イノベーションとHIV」の枠組の中で発表されたが、このカテゴリーの他の国からの演題は、ほとんどが性行動や予防、MSMの文化的・法的背景などを研究したもので、実際に陽性者当事者の社会生活参加に直結する発表は日本からのものだけであった。
上記発表の中の企業研修には、自分自身がHIV当事者スタッフとして参加しており、参加者の様子などを直接観察することが出来ており、この研修が彼らの意識にどのような影響を及ぼしたのかを肌で感じることが出来たのは非常に有益な体験であった。
それをより客観的に考察し纏めたものを聴講したのだが、こういった取り組みが叶うのは治療など根本的な問題がある程度クリアされていることが前提であり、そうした意味で日本だからこそ可能なプログラムであったということを実感した。
他のアジア太平洋諸国では、国によってHIV当事者の置かれている状況が違うものの、治療体制の整備の不充分さ、より強固な疾病に対する偏見の存在、MSMに対する社会的なタブー視など、当事者が社会参加するためのハードルがさらに高いケースが多く見受けられ、そのため今回の日本の発表のような具体的な陽性者と社会生活との関わりに言及したテーマが他になかったのではないかと推察する。
そうした視点を持ち得たのも、国際会議という場に参加したからこそであり、自分の住む国を外から見るという貴重な体験を得られたように感じる。

■その他参考となった研究発表の内容と理由

「Trends in HIV epidemiology」(HIV疫学の動向)
「アジア・太平洋地域でのHIVの流行の概要」、「アジア・太平洋地域の10ヶ国における陽性者MSMを取り巻く問題の研究」、「パプアニューギニア首都における性的暴力のHIV予防阻害について」、「中国における親密なパートナー間でのHIV/エイズ伝達のダイナミクス」、「パプアニューギニア首都での男女間のアナルセックスについて」、「インドにおける長距離トラックドライバーの間でのHIVに対する青年期のトラック業界での影響」といったセッションから成り、各国のHIVについての大まかな動向を知るためには有効だと思い聴講した。

パプアニューギニアからの発表では、バースコントロールのために男女間において行われるアナルセックスによってHIV感染が拡大するなど、日本とは異なった事情を知る機会となった。
またレイプなど日本では感染原因としては少数であることが、大きな問題となっている国があることも分かり、感染予防に対する考え方や取り組み方に差異が生じざるを得ない理由も理解した。
中国から、特定のパートナー間でのHIV告知に関する報告があったが、これについては同様に日本においても問題となるケースがあり、具体的な解決方法までは網羅されてはいなかったが、共通の問題を抱える国もあるのだということを認識出来た。
全体を通して、日本国内においてはほぼ問題となっていない様々なことが原因となってHIV感染が拡大している国が、アジア・太平洋地域には多いということ、また逆に日本においてMSMの感染拡大が重要視されているのに対し、必ずしもそれが世界的な傾向ではないということを知り得たことも収穫であった。

■会議の成果を国内で還元する具体的計画

日本国内の状況のみを見ていては、視点の偏りが生じる危険性がある。
今回の国際会議参加によって、海外諸国での状況やHIV予防啓発の取り組み、ケア実態、ピアサポートなど様々なことを知った。
視野の拡大によって、陽性者当事者スピーカーとしての活動に良い影響をもたらすと考える。
特に海外派遣される要員の前でのスピーチでは、実際に彼らが向かう国々の現状を知ったことでよりリアリティーのある内容を盛り込むことが可能となると思う。
それ以外の場でのスピーチでも、世界の中で日本がどのような位置にあるのかを踏まえた話が出来るので、より客観性を持った説得力のある活動が可能となる。
これにより、HIVへの理解を推進し、引いては予防啓発へと繋がって行くものと思う。
さらには陽性者の社会参加促進に関しても、これまで以上にグローバルな視点を持って取り組んで行けると考えている。
今回セッションで取り上げられた企業に留まらず、積極的にHIV当事者を受け入れる企業が今後増えて行くように働き掛ける意欲が増した。
実際に、帰国後障害者職業センターとの連携により、別の企業への研修開催をするなど活動を拡大している。
またピアサポートグループでの活動においても、参加者の満足度をより高めるために、他国(例えばシンガポール)でのピアサポートの状況を参考にしてより工夫を凝らすようにして行きたい。

■会議の感想

今回初めて国際会議に参加させて頂いた。
緊張感と一定の期待感を持って臨んだが、予想以上に得るものが大きかったように思う。
セッションだけではなく、各国の展示ブースなどにおいて様々な国の方々と交流を持ち、それぞれの国でのHIVに対する取り組みを垣間見られたのは、国内だけで活動していては決して経験出来ないことだったと思う。
さらには、FTAに対する抗議行動の激しさも経験し、これにより聴講したかったセッションの中止などもあったが、韓国での日本にはない深刻な問題の所在を知ることにもなった。
またこうした行動の起こし方、事態の収拾の仕方、韓国政府の姿勢など、報道には乗らない実態を肌で感じることが出来たのは、ある意味貴重な経験だったと言える。
さらには、同じ日本国内で活動している方々と、この機会に親密な交流を持てたことも自分としては大きなメリットだった。
自分が所属しているのとは違う団体、取り分け薬害関連で活動しておられる方と接点を持てたことは、今後の活動に大いに役立つと思う。
この先も可能であればこうした国際会議に参加し、国内での活動にいい形で還元して行けることを希望している。