HOME >> 資料室 _ 関連学会情報 >> 第10回アジア太平洋地域エイズ国際会議(釜山)/2011年 >> 参加報告書

第10回アジア太平洋地域エイズ国際会議参加報告書
 

特定非営利活動法人 動くゲイとレズビアンの会(アカー)
藤部 荒術

参加目的
第10回アジア太平洋地域国際エイズ会議(ICAAP10)には、以下のA、Bの目的をもって参加しA,Bいずれの分野においても口頭演題による発表を行った。
   
A.  HIV検査事業における行政-NPO連携、MSM向けHIV/エイズ施策における行政-NPO-研究者の三者連携について口頭演題による研究発表、および関連発表、論文の収集。
   
B.  ゲイ/MSMを対象としたHIV予防介入啓発プログラムの実践についての口頭演題発表。また、アジア太平洋地域各国のゲイ/MSMコミュニティを取り巻く環境を反映して実施されている独自の予防介入プログラムの具体的実践や手法の収集。

韓国の釜山にアジア太平洋地域の各国から約3,000人の参加者を集めた第10回アジア太平洋地域国際エイズ会議(以下ICAAP10)は、アジア太平洋会議としては、過去最大規模の会議となった前回第9回会議(イベントネシア・バリ)に比べると、期間中の発表点数や展示の数、カバーする地域における事業の地理的な多様性の点で縮小傾向にあった印象を持った。しかし、ゲイ/MSM関連のテーマについては、ゲイ/MSMに対するスティグマや差別が、感染の拡大を引き起こしており、これまで無視されてきたゲイ/MSM層に対する組織的で、さらに拡大・深化した介入実践が必要である、というメッセージがこれまで以上に繰り返し確認されていた。

ゲイ/MSMを始めとするKey Affected Population(KAP)に焦点を当てることの重要性が強調され、MSMをテーマにしたプレナリー” Prevention in the Rapidly Changing MSM Communities of Today”(MoPS4)が開かれるなど、アジア太平洋地域の国際エイズ会議がゲイ/MSMへの対策が重点を置くべきものになってきている、という変化を確認できる機会となった。
その中、A、Bに参加目的をわけて、以下にICAAP10の参加報告をする。
A. HIV検査事業における行政・NPO連携、MSM向けHIV/エイズ施策における行政・NPO・研究者の三者連携について
●日本国内の行政-NGO連携調査研究についての口頭演題の発表

“Where there is the Political Will, There is the Way!” というOral Session(SaOD07)において、日本全国の地方公共団体のHIV施策におけるNGO連携と個別施策層対策の推進と課題に関する研究について口頭演題発表を行った〔演題名は、“Creating Behavior Change through Workshop for MSM: LIFEGUARD”(MoOE16-02)〕。発表内容は以下のようなものである。
発表を受けて、タイやインド、インドネシアなどにおいてHIV予防・啓発活動に関わる各国発表者との間のディスカッションを行った。発表について、質問票調査の対象となる「地方自治体」を選抜するプロセスや、大都市のエイズNGOと地方都市の地方自治体との連携における課題についての質問などを受けた。行政-NGO連携を含む日本のエイズ政策のシステムと、他国のそれを共有し意見交換をする貴重な機会となった。
B. アジア太平洋地域のゲイ/MSM対象の予防介入啓発プログラムについて
●日本国内におけるゲイ/MSM向けのHIV/エイズ予防介入プログラムについての口頭演題の発表

"Engaging Communities not Condoms"というOral Session(MoOE16)において、日本国内のゲイ/MSMを対象としたゲイバーベースのエイズ予防介入ワークショップ『ライフガード』の実践について報告・発表を行った〔(演題名は、“Creating Behavior Change through Workshop for MSM: LIFEGUARD”(MoOE16-02)〕。発表は、2001年から2011年まで毎年開催されているゲイ/MSM向けのワークショップ型の予防介入プログラム『ライフガード』の独自性や工夫点、プログラム構成の基盤となるコンセプトについて、教育資材のイラストや写真を交えながら、運営面でのより実践的な側面に焦点をあてたものであった。

発表を受けて、シンガポールや韓国など、アジア各国の都市においてゲイ/MSMのためのHIV/エイズ活動に従事している行政の担当者やNGOワーカーたちからのアプローチを得た。このような国際エイズ会議での発表の場が、研究的な情報収集や成果発表の場となると同時に、国内での実際の実践の機会を、他国での地道なフィールド活動における経験との、共通点や違いと引き合わせることで、互いの仕事の意味を確認しあう、貴重なネットワーキングの機会である、という事実を改めて認識することができた。

●アジア太平洋地域のゲイ/MSMコミュニティでの予防啓発理論の手法、実践事例の収集

各国のMSM/ゲイ男性を対象としたHIV予防理論を、国内で開催するゲイ男性向けHIV予防プログラムの企画立案・実施に還元するためオーラル・セッション、ポスター発表のチェックを行った。国内プログラムに還元するための観点から参考になったものを以下に一部紹介する。

"Do We Really Know These Guys"(MoOE09)というOral Sessionにおいて、フィリピン、タイ、スリランカ、カンボジアなどのアジア諸国で同性間性的接触を通じての感染が上昇していることの背景や要因を指摘する研究が発表された。感染リスクの知識を持っていても感染のリスク行動が生じるその背景や(ゲイ)アイデンティティの持ち方など、日本国内のゲイ/MSMの予防介入実践においても参考になる多くの示唆を得た。

また、日本を含むアジア太平洋地域の大都市のゲイ・コミュニティにおいては、スマート・フォンやインターネットを使用したソーシャルメディアを通じて性的パートナーを探すことが急速に普及していることが指摘されている。会議において、インターネットやソーシャルメディアがHIV感染率とどのような関係にあるのか、に注目した研究がいくつか見られた。“Global Meet Local and Local Meet Local on Smart Phone Gay Applications: Representation, Risk, and Vulnerability to HIV”(SaPD058)などがその一例である。

また、巨大なゲイ/MSM人口を抱える中国におけるMSM/ゲイ対象とした予防介入活動の進捗に注目して会議に臨んだ。対象人口の巨大さに比べて、会場で探すことができた実践の発表の数は少ないように感じられたが、以下がその具体例である。中国において、ゲイ/MSM層への本格的な予防啓発介入に先立ってリスクアセスメント調査の実施やゲイ/MSM向けの啓発資材の開発など、確実に予防啓発が開始されていることがうかがえた。

“Routine Behavioral Tracking of MSM in Kunming, Nanning and Honghe Prefecture, Southwestern China: Key Findings from 2010 Study”(SaPA026), “Exposure to Interventions Helps: Health Care Seeking among FSW in Yunnan, China”(SaPA038), “Evidence-based IEC Material Development Targeting Men Who Have Sex with Men in China”(SaPE065)。
会議の成果を国内で還元する方法について
今回のアジア太平洋地域の国際エイズ会議で得た成果を還元すべく具体的には以下のことを実施予定である。
  1. 地方自治体との連携で開催するMSM向けHIV予防プログラム『LIFEGUARD』の今年度版の企画立案・実施・および成果の発表に還元する。
  2. HIV/エイズ施策における地方公共団体-NPO連携をテーマにした研究発表および論文執筆により、多くの関係者に情報を還元する(日本エイズ学会、公衆衛生学会)。
  3. インターネットを使ったMSM向け予防啓発プログラムなど各自の実践の様子や、中国、韓国などアジア太平地域のゲイ/MSMコミュニティの声を、購読者に感染者・MSMを含むコミュニティ向けの会報(『QM』、発行部数=500 部)およびWeblog(http://d.hatena.ne.jp/QMblog/)に発表する。Weblogにおいては、「ICAAP10」のカテゴリーを作成し、すでに一部成果の報告を開始している。
    http://d.hatena.ne.jp/QMblog/searchdiary?word=%2A%5B%B4%DA%B9%F1%B3%F8%BB%B3ICAAP10%5D
最後に
5日間におよんだ会議参加を通して、実り多い、充実した時間を過ごすことができました。最後に、このような会議への参加というチャンスを与えてくださったエイズ予防財団にこの場を借りて感謝を申し上げます。