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第10回アジア太平洋地域エイズ国際会議参加報告書
 

公益財団法人エイズ予防財団
独立行政法人国立国際医療研究センター病院
エイズ治療・研究開発センター 心理療法士
飯田 敏晴

今会議には、主に2つの目的で参加させていただきました。第一に、今会議での発表のテーマでもあるHIV関連の神経認知疾患(HIV Associated Neurocognitive Disorder: 以下、HANDとする)についての情報収集、意見交換です。第二に、現在の研究テーマであるHIVと共に生きる人々(People Living with HIV/AIDS; 以下、PLHAとする)の意識・態度に応じたカウンセリング体制の構築に資する視点をより学ぶべく参加いたしました。以下のとおり成果を得ましたので、ご報告いたします。

1.HIV関連の神経認知疾患(HAND)について:Poster Session(8/28、Poster Exhibition)の発表

近年、長期療養過程にあるHIV陽性者に、一定の割合で、HAND、すなわちHIV関連の神経認知疾患の存在が指摘されている。そもそも、HANDは、疾患の重症度として軽度から重度を含んだ用語である。 (診断基準によってばらつきはあるが)疫学的な調査によって、軽度認知機能の障害が相当な頻度での存在が報告されてはいるものの、其の診断、原因、治療に至るまで、不明な点が多い。
こうした人間の高次脳機能の障害を早期に同定することは、cARTを継続していく上でも、陽性者の生活の質を維持する上でも、看過出来ない課題であることは言うまでもないが、疾患の特性上、障害が軽度である程、本人の自覚症状に発見の有無が左右されがちで見過ごされやすい。

本発表では、こうした問題意識を元に、報告者が担当した神経心理学的検査を実施したある一事例をめぐって、HIV医療における神経心理学的な見立ての重要性と、其の見立てに基づいた関わりの有用性について検討することを目的とした。発表当日は、日本や韓国を中心とした参加者が多く来場した。
たまたま、隣のポスター発表者が、類似したテーマで量的研究の報告(SuPB018)しており、量と質の両側面から議論する場に恵まれた。そのなかでは、身体や気分に関わる見立てだけではなく、人間の高次脳機能への見立ての必要性を再認識した。
すなわち、こうした人間の高次脳機能に関する視点を臨床の場に持ち込まずに当事者と接することは、極端に言えば、本人の自覚する困難さの原因を、本人の人柄等個人的理由に基づくものという誤った解釈をしかねない。

今後、今回学び得た知見をさらに収集していくことで、HIVに関連した軽度認知運動障害(Mild Cognitive Motor Disorder)エイズ脳症等の早期発見、早期治療に資する研究へと継続して取り組んでいきたい。

2.その他
発表の形式に限らずあ、多くの発表テーマに恵まれたが、とりわけ、以下の2点において学術的刺激と感銘を受けたように思われる。

第1に、HIV/AIDS領域におけるカウンセラーへの研修効果についてとりあげた演題である(SaOC07-03)。
インドにおいて、カウンセラーにHIV/AIDSに様々な内容から構成される研修を行い、その研修効果を量的な尺度を用いて評価したものであった。こうした量的な方法を用いて客観的・定量的に評価しようという試みは、私の知る限り、HIV/AIDSの分野では決して多くないように思われる。
今後、今回の研究成果を基盤として研修内容をさらに改善していきながら研究を進めていくようであり、次回の成果が期待される。統制群をおいた比較研究なども今後望まれるようにも考えられた。

第2に、プログラム全体を通じて、「stigma」と「discrimination」を直接演題名とした発表とセッションの多さである。
本テーマの社会的重要性は言うまでもないことだが、本会議においてもその関心の強さを感じさせた。従来の研究では、HIVが陽性でない、または不明な者から、HIVが陽性である人々に対する一方向的な態度や行動(例えば、偏見的態度や差別)を論じた報告が国内外の文献を含めて多かったように思われるが、どちらかといえば、当事者を対象とした研究が多く報告されていた。
とりわけ、「内面化されたスティグマ(偏見的態度や差別的な感情を自分に向けること)」に関する問題は、当事者にとって、抑うつや自殺率を高めるリスク因子となりうるものであり、今後、こうした意識や態度に、どのようなサービスが必要とされるが、さらに、個別の関わりにおいても、どのようにして低減をはかっていくか、具体的な方法論など、さらなる知見の積み重ねが必要なようにも考えられた。

3.会議の成果を国内で還元する計画
 本会議参加で得た情報・成果を下記に活かしていく。

本会議で得た知見を、内部での報告会において報告し共有をはかるとともに、引き続き、陽性者の意識や態度に応じた、または高次脳機能への視点をもったカウンセリング体制の構築に資するよう活かしていきたい。具体的には、今回得られた知見や、内外の専門家・活動家とのネットワークを活かして、各種研究への推進・補助を積極的に担い、当事者の利益に資するように務めていきたい。

4.謝辞
最後になりましたが、第10回アジア太平洋地域エイズ国際会議への参加にあたり、ご支援いただいた公益財団法人エイズ予防財団の皆様に御礼申し上げます。