HOME >> 資料室 _ 関連学会情報 >> 第10回アジア太平洋地域エイズ国際会議(釜山)/2011年 >> 参加報告書

第10回アジア太平洋地域エイズ国際会議参加報告書
 

SWASHtg
梶畑敦子

2011年8月 釜山エイズ会議に参加して
2011年8月に釜山国際会議場(BEXCO)にて行われた会議に参加する機会を頂き、たいへん価値のある時間を過ごす事が出来た。今回会議で得た実績を国内に還元するため、ここに報告する。
私の加盟しているのは日本・東京に拠点を置くSWASH(Sex Work And Sexual Health)という団体で、セックスワークに関わる健康や安全の問題に取組んでいる。主な活動は、(1)HIV/STIについてなどの当該知識の啓発、(2)海外のセックスワーカー・グループとの情報交換や国際エイズ会議への参加など、海外とのネットワークの構築、(3)当該問題に関わる調査研究などである。
性風俗産業労働従事者およびその関係者・当事者以外にその問題に関心のあるメンバーが集まっており、私もその中の一人である。ということからセックスワーカーに関連する議題を追って参加したのでそれを主軸に報告させて頂くこととする。
国際会議初参加である私にとってはどれもこれも新鮮に映ったのだが、特に印象に残ったものをいくつか挙げその流れに沿って報告を行う。

・コミュニティフォーラム
今回の釜山エイズ会議には、セックスワーカーコミュニティから、オーストラリア、パプアニューギニア、ビルマ、タイ、パキスタン、ベトナム、フィジー、バングラデシュ、中国、インド、インドネシア、マレーシア、韓国、日本等、約14カ国から、約40~50名ほどの参加があった。従来の国際エイズ会議に比べれば、その規模は半分以下だそうだ。これには、多くの参加希望者がスカラーシップを得ることができなかったことが影響したからだ。
8月25日から始まったコミュニティーフォーラムでは、まず、初参加の韓国のグループ・Giant Girls(以下、GG)から、詳しい報告が行われた。GGの報告では、韓国性売買防止法の制定経緯と問題点の解説、国内の当事者運動の歴史とその多様性、GGの活動アーカイブなどが説明された。ICAAPにもAsia Pacific Network of Sex Workers(以下、APNSW)にも初参加のGGの自己紹介の時間がちゃんととられたのはよかった。

・各国の状況
まず各国の状況として、当たり前だがセックスワークが合法か非合法かによってずいぶんと状況が違うことを目の当たりにした。
8月27日に行われたプレナリーセッション「スティグマと差別を助長する、HIVAID対策・予防へのアクセスの法的障害」で行われた質疑では、タイの役人が、「性産業を合法化する」と発言した。その合法化の中身として、「セックスワークは仕事だという気づきを促進していく必要がある。サービスへのアクセスを労働者にとってしやすくしていくことが大事。チェンマイのエンパワーでやっているのは、啓発活動をしていて、そこにILOが入っている。ILOとのタイアップで、労働安全性の基準をつくる、チェンマイがいい例となっている」との事例を具体的に紹介した。一方、合法化以前に、未だ当事者の組織化が進んでいないフィリピンの参加者からは、「私たちはネットワークを持っていません。どうやってセックスワーカーの中にネットワークを作っていますか。セックスワーカーは自営業でお互いに接触していません」と、アドバイスが求められた。これに対して、他の参加者からは、「重要なポイントは、自分たちを組織化して、エンパワーする、自分たちの政策提言をしたりすること。2008年に国の対策に、セックスワーカーが関与できるようになった。私たちがやっているのは、ネットワークが政府関係の計画に参加できるようにすることです。」との意見が出された。

各国の発表を拝見していると当事者が積極的に関わっている団体もあれば、ほぼ学者先生の調査のためだけの団体もあり、それについて質疑応答の際に議論になることもしばしばあった。中でも印象的だったのが8月29日に行われたオーラルセッション「Nothing about Us Without Us!」という当事者主体のプレゼンテーションの質疑応答で、タイトルの設定にしては当事者の意見があまりにも少ないことを指摘されていた。批判の内容は、「当事者はどれくらい関与しているのか」ということから、「もう何年もこの会議に出席しているが、当事者の関与していない学者の発表にはもう飽き飽きしている」といったもの、「来年からはもっと身のあるものを」という当事者からの強い意見だった。

・オーストラリアの現状と、ピアエデュケーション
特にオーストラリアの「Scarlet Alliance」は、自国での取り組みについて斬新かつ興味深いプレゼンテーションを繰り広げていた。オーストラリアでは、国内のセックスワーカーグループが一同に会するセックスワーカー会議があって、統一圧力団体をもつことによって、ピアエデュケーション、情報交換、ネットワーク構築、予防啓発、アウトリーチなど、様々な課題に取り組んでいる。国には、労働衛生局のようなところがあって、セックスワーカーは、合法的な労働者としての枠組みに入れられている。例えば、セックスワーカーの権利だけじゃなく、雇用者にも、セックスワーカーの健康を守る義務があるなど、他の労働者と同じ労働者として扱われる。オーストラリアでは、セックスワーカーの感染率は世界一低く、国内のHIV予防のターゲットになっている層の中でも、一番感染率が低い。それはピアエディケーションがあるからでもあり、また、セックスワーカー当事者が予防啓発のマネージメント、トレーニング、リサーチの運営に関わることを大事にしていることも大きい。
オーストラリアではほとんどの地域でセックスワークが合法化されているため、ワーカーのモチベーションが日本のそれとは比べ物にならないほどポップだ。一番驚いたのは多くのワーカーが自分の体にセックスワーカーの象徴である赤い傘を自分の体に彫っていることで、話を聞いていても自分の仕事に自信と誇りを持っていることが伺えた。日本では「親に言えない」「大きな声で言えない」「危ない、汚い、だめな仕事」等とされていることが非常に残念に思えた。
Scarlet Allianceメンバーは今回の会議にも積極的に参加しており、活動者数は非常に多い。仕事の内容を聞くと、日本で言うところのSMクラブ・売春宿・ヘルス系の仕事が多いようだった。10年以上仕事に従事している方も多く、日本でよく起こり得るような危険なケースの話をすると、「危険な目にはあったことがない」という意見を聞き驚いた。仕事に従事するようになったきっかけを聞いても、いわゆるネガティブなもの(家庭環境の不遇さ、経済的な危機)ではなかった。  特にピアエデュケーション(当事者教育・カウンセリング)に力を入れているようで、その点が大きな力を発揮している。この点は日本には少ない横のつながりであると思う。

・FTAとTRIPSプラス問題
今回のICAAPでは、APNSWのメンバーグループみんなで、知的財産権の貿易関連の協定TRIPSの問題についても勉強したので、ここで紹介したい。  国際エイズ会議とって、PLWHA(HIV / AIDS と共に生きる人々)のすべての人が、エイズ治療薬にアクセスできることは、大きな目標の一つであり、その鍵を握っているTRIPS、FTA、WTOの問題は避けられない。
エイズ治療薬、抗レトロウイルス薬にとって、TRIPS、FTA、WTOは、製薬会社の開発する新薬等の知的財産権を保護する基準をつくっている。知的財産権とは、新薬を開発した企業が、特許期間中、独占的に医薬の製造・販売を許されることである。新薬の開発には長い年月と莫大な投資が行われるため、このような権利保護が認められている。例えば有名な企業では、アメリカの大手・ファイザー社などがある。しかし、この特許期間が満了すると、他の企業でも、同じ成分・同じ効き目の薬を製造・販売できるようになる。これがジェネリック医薬品(後発医薬品)といわれるものである。Cipla, Ranbaxy, Aurobindoなどは後発医薬品企業である。
抗レトロウイルスの3つの組み合わせのサンプルは、stavudine, lamivudine, nevirapineである。毎年患者一人当たりの価格は世界で最も安い。後発医薬品の価格競争は薬品の価格を下落させる意味では最も効果的であることを示している。過去4年の間(2000年3月から2005年の1月まで)に先発医薬品会社は後発医薬品の価格に一致してきている。

-WTOの健康規定
WTOに加盟する国(150ヶ国)は、TRIPSの設ける知的財産権の最低限の保護基準に従わなければならない。しかし健康のために使用される以下の保護規定が存在する。
自国よりもより安い他国から特許医薬品を輸入すること。たとえば非ヌクレオシド系抗ウイルス薬(efavirenz)はタイで特許を取得し、特許権者はメルク社である。メルク社の非ヌクレオシド系抗ウイルス薬は価格統制のためオーストラリアでは一錠ごとに1ドルかかる(たとえオーストラリアで特許を取得したとしても)。メルク社の非ヌクレオシド系抗ウイルス薬はタイでは10ドルかかる。従ってタイの企業もしくはタイ政府はオーストラリアからメルク社の特許医薬品である非ヌクレオシド系抗ウイルス薬を輸入することができ、自国内において1.5ドルで販売することができる(0.5ドルは輸入代)。

・特許強制実施許諾
特許権者の承諾なしに特許医薬品の後発医薬品を製造もしくは輸入すること(政府や非営利目的とした公共機関は特許強制実施許諾を使用する)。たとえば、国立の病院はメルク社の承諾なしにインドから非ヌクレオシド系抗ウイルス薬を輸入できる。特許強制実施許諾は強力である。どのような理由であれ発行することができる(たとえば薬品が高すぎるとき。)全ての抗レトロウイルス剤に適用する(ジンバブエ)。特許期間の期限まで(インドネシア)。特許権者に少額の支払いをするときなどは、特許強制実施許諾を与える政府は支払額を決定することができる。たとえばインドネシアは0.5%を支払った。従って、後発医薬品の価格はとても低い(本体価格と0.5%の特許権使用料)。多くの国々が抗レトロウイルス剤の特許強制実施許諾を発行している。

WTO加盟国は、こうした基準や規定に則り、国内法を整備したり、各国の厚生労働省にあたる部門に設置されている医薬品規制局(DRA)が、薬の効果性や安全性、品質テストを行い、製造販売認可、特許を与え、自国内で販売することを可能とする。

-自由貿易協定(FTA)とTRIPSプラス
TRIPSプラスの規定は、先進国と二国間の自由貿易協定(FTA)で生じる。例えば、EUはASEAN、インドと、アメリカは、ASEANの韓国と個別に、日本は、ASEANの個別の国々となっている。これにより、特許期間の延長が認められるなど、以下の点が変更されることになる。
こうしたFTAがもたらすTRIPSプラスの負の影響は、エイズ治療薬を必要とするPLWHAの人々をさらに苦しい状況に追い込む。ICAAP10で、激しいFTA批判が繰り広げられたのもそのためだった。
  FTA=Genocide scenario(FTA=殺戮のシナリオ)
  FTA=Death Under Patent(FTA=特許の下に死す)
  Don’t trade away our lives!

・他国グループメンバーや国内活動グループとの交流
他国グループメンバーとの交流として公式に行われたのは、開会式・閉会式のレセプションであり、非公式で行われたのは閉会式前日にもたれたAPNSWのみでの打ち上げで、これ以外にも空き時間や休憩時間などに顔見知りになったメンバーとたくさんの交流を図ることが出来た。
中でも国内の積極的な活動家と知り合えるきっかけができたことがよかった。国内でも今後コミュニケーションを図ることで、より一層自国での活動が活発になることと思う。 今回参加させて頂いた会議を国内で還元するためにメンバー同士で振り返りの会も行い、報告のための機会も予定しているので今後も積極的に国内外での活動を行っていきたい。