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第10回アジア太平洋地域エイズ国際会議参加報告書
 

SWASH
要 友紀子

●釜山エイズ会議までの準備と私たちの役割
今回の釜山エイズ会議が行われる8ヶ月前、私たちSWASHメンバーは、エイズ予防財団とICAAP10組織委員会共催による日韓ワークショップに参加させていただいた。この訪韓日程に合わせた2010年12月16日から21日の間に、ソウルのセックスワーカー関係団体と、釜山エイズ会議に向けた会談と交流を行なった。
韓国のセックスワーカー運動は、韓国性売買防止法反対運動として国際的にも有名で、大きな力を持っているが、エイズ予防啓発の取り組みや、国際エイズ会議においては、あまりその名を知られていなかった。6000人のセックスワーカーの動員力を誇る最大勢力・HANTEOの代表、Kang氏が、2009年のバリエイズ会議に参加し、APNSWと初めて接触したくらいだった(このバリエイズ会議参加のきっかけは、Kang氏が韓国LOCメンバーや、Korea HIV/AIDS Prevention & Support Centre(KHAP)との関係を構築する中からうまれたものだという)。
そもそもKang氏は、法律の問題だけでなく、活動内容からもわかるようにセックスワーカーの福利厚生にも幅広く関心を持っている人物であることから、HANTEOの釜山エイズ会議への関心は高く、また、韓国にある、もう一つのセックスワーカー支援団体・Giant Girlsも、これからエイズ予防の取り組みを始めていきたいと思っていたことから、両者の関心の高さと参加の意志を確認することができた。
そして、それ以上に、これまで国際エイズ会議に参加してきた海外グループの、韓国のセックスワーカー運動への期待・注目度は高く、アジア各国の仲間たちは、彼女らと釜山で会えることを楽しみにしていた。
日韓ワークショップの訪韓後、私たちは加盟するAsia Pacific Network of Sex Workers(以下APNSW)の釜山エイズ会議に向けたオンラインミーティングで、韓国グループとの会談を報告した。その結果、私たちSWASHが、釜山エイズ会議で、韓国をフィーチャーしたサテライトミーティングのオーガナイズと、交流会のセッティングを担当することとなった。 そのため、私たちはその後、韓国グループとの打ち合わせ、準備等で、6月末に二度目の訪韓を経て、8月を迎えた。

●サテライトミーティング「The Impact of Laws on South Korean Sex Workers」
8月28日、わたしたちが企画、オーガナイズしたサテライトミーティング「The Impact of Laws on South Korean Sex Workers」を開催した。パネリストは、Yeoni(Giant Girls,韓国)、Julie Kim(Migration Project, Scarlet Alliance, Australian Sex Workers Association,オーストラリア)、要友紀子( Migration Project, SWASH,日本)の、3ヶ国からの発表で、それぞれの国で働く韓国人セックスワーカーの置かれている状況と調査結果について共有した。

●オーストラリアにおける韓国人セックスワーカーの状況

・オーストラリアのセックスワーク
オーストラリアでは、セックスワークはほとんどの地域で合法か、非犯罪化、もしくは容認されているため、セックスワーカーたちは、労働での被害経験についてサポートや救済を求めることができる。それらのサービスは、セックスワーカーのためだけのものが存在する。また、オーストラリアのセックスワーカーコミュニティには、ピアエデュケーションと組織化の伝統があり、その結果、STI/HIVの感染率は極めて低い割合となっている。韓国籍の人々は、オーストラリアに観光で来ることができ、ワーキングホリデーや、学生ビザ、結婚ビザで、セックスワークの仕事を選択することが可能だ。
韓国人セックスワーカーコミュニティは、日本と同じく、2004年頃から徐々に広がっていった小さなコミュニティだ。彼女たちは観光ビザでいろいろな国や労働現場を行き来し、それぞれの場所で短い期間滞在する事が多い。国の反人身売買政策がはじまった2005年以降、移住労働のセックスワーカーたちは、プライベートな労働形態で働くことが多くなった。

・人身売買対策の問題
オーストラリアでは、人身売買の被害は、一般的なセックスワークの中で起こりうるということが認識されていない。移住労働者の社会的立場やセックスワークであることに起因する劣悪な労働状況があるという問題背景は明らかにされないでいる。そのため、政府の行う反人身売買政策は、アジア系のセックスワーカーをターゲットにし、しばしば入管や警察、保護救済組織が彼女たちの労働現場をチェックしに行っている。
国の反人身売買政策にとって、自主的に働いている外国人セックスワーカーは、拘束か強制送還の対象でしかない。人身売買被害者であれば、サポート、ビザ、お金の面でできる限りの支援が受けられる。オーストラリアの反人身売買の法律においては、セックスワーカーの彼女がどのような労働環境を希望するか、あるいは、どのような労働現場で働くことに合意してたかは問題ではなく、人身売買被害者の体(てい)を成しているか(そうでなければ強制送還)が重要となっている。その結果、セックスワーカーの公的支援へのアクセスの希望は減少した。

・スカーレットアライアンスの調査
アジア系セックスワーカーの調査は、中国、韓国、タイのセックスワーカーによって行われ、特に、労働状況、サービスや情報へのアクセス、公的機関へのコンタクトにおいて、移住労働ではないセックスワーカーとの比較や、リスクと搾取からの防衛という観点に着目された。調査の結果、日本と同じような特徴が多く見出された。韓国人セックスワーカーについては以下のような結果となっている。
他の国のセックスワーカーと比べて平均年齢が低く、25-29歳が最も多い。他の国のセックスワーカーの年齢層はもっと高い傾向にある。また、ほとんどの人が高卒か大卒。70%の人はあまり英語が話せず、26%はよく話すことができる。そして回答者全員が韓国を母国と思っている。入国に際しては、ほとんどの人が観光ビザで、滞在期間は1年以内。大多数は、オーストラリアに来る費用(渡航費や仕事をみつける)に、2000AUD(約16万)を支払い、6000AUD(約47万)以上支払った人はいなかった。
全体の結果としては、プライベートではない労働現場で働く、移住労働のセックスワーカーの90%、移住労働ではないセックスワーカーの96%が、定期的に報酬を受け取っている。移住労働のセックスワーカーのほぼ半数の人は、契約を交わしていない。契約をしているセックスワーカーのうち95%以上は、「労働状況はよい」、あるいは、「契約条件がきちんと守られている」と答えた。客については、全体の90%が「(いやなとき)断ることができる」と答え、95%の人が、仕事の時にコンドームを使っている。収入については、4分の3以上の人が、「満足している」と答えた。入管に働く現場まで来られた経験をした人は、半分以上おり、自分の労働環境における権利についての知識を持っている人は90%だった。
サービスへのアクセス状況は、韓国人セックスワーカーたちの50%が、サービスと情報へのアクセスを困難に感じている。主な理由は、サービスの存在を知らない、または、韓国語で提供されるサービスを見つけることができないからで、ほとんどの人は、インターネットか友人からの情報に頼っているということがわかった。

●韓国のセックスワーカーに対する性売買関連法の影響

・韓国の法律
韓国でセックスワークに関する法律は2つあり、一つは、「性売買斡旋等犯罪の処罰に関する法律」で、もう一つは、「性売買防止法及び被害者保護等に関する法律」である。この二つの法律を性売買関連法と呼ぶ。この法律は2004年3月に制定され、同年9月に施行されて以来、7年の間セックスワーカーを抑圧している。セックスワーカーの権利は規定されておらず、セックスワークの根絶を目的としたものである。
法律が制定されて以来、セックスワーカーや性産業者は、厳しい法律による取り締まりや店をたたむリスクから逃れるために、違法取引の営業へと向かっている。

・健康への権利の侵害
コンドームの使用を客が拒否することはセックスワーカーの健康を維持する権利を侵害している要因である。セックスワーカーは実質的に客の要求を拒否することができないでいる。なぜなら、セックスワーカーは客との言い争いや、性産業からセックスワーカーを保護するという名目の下で行われる取り締まりを恐れるからである。
何人かのセックスワーカーは定期的に健康診断を行っているが、多くのセックスワーカーは、STDの身体的な兆候があった場合、個人的にかかりつける医者を探す。STDが発症して治療しないままでいる期間が長くなれば、より多くの人がSTDを持っていると自覚していないセックスワーカーと性交渉することによって、STDに接触することとなる。
警察の取り締まりはセックスワーカーの働く権利を侵害する大きな障害である。警察は客を装い取り締まりを行う。そしてセックスワーカーは売春の証拠を隠すために使用済みのコンドームを飲み込まなければならない。これは非常に危険で非衛生的である。

●オーストラリア、韓国と共通する日本の状況
私たちの外国人セックスワーカー調査の報告でも、オーストラリアの報告で示唆されたような、移住労働のセックスワーカーが抱える特有の問題に直面したことを紹介した。 セックスワークが合法化されているオーストラリアよりも、日本のほうがシビアだと思った、調査からうかがえる日本の状況認識をまとめると、次のとおりである。

また、韓国の法律の影響は、韓国国内で働いていたセックスワーカーたちの職場を奪って、彼女たちをアンダーグラウンドに追いやっただけではない。国内で働く場をどんどん失いつつある韓国人セックスワーカーたちが、働く場を外国に求め、出稼ぎに行く移住労働のセックスワーカーとして、さらにハイリスクでサバイバルな立場に立たされている。これは実際に私たちが日本で調査をしていて、韓国人セックスワーカーが日本に働きに来る動機として聞いた話だ。

●セックスワーカーのためのHIVプログラムにおける反人身売買政策の悪影響に関する議論
最終日の8月29日、Common Groundに設けられた、「Dialogue on the Impact of Antitrafficking Programmes on Sex worker HIV Programming」では、セックスワーカーのためのHIVプログラムに、反人身売買政策がどのような悪影響を及ぼし、どんな結果をもたらしているか、それぞれの国の状況について話し合った。
UNAIDSの関係者はこのテーマについて、「人身売買対策の評価については、UNの中でも、考えの違いがあり、各地域でもさまざまな対策がある。国際基準や、各国の法律の基準が違うので、その中で共通の問題をみつけて、人身売買の法律がどこまで何ができるのか、どこまでをセックスワーカーの人とするのかというのが難しい。」との認識を示した。
基準をつくるためには根拠が必要で、その根拠を確かめるためには、調査や情報が必要になってくる。そこで出てきたのが、「情報を集める人へのpayはできるのか?」という質問だ。それに対し、UNAIDSの人は、「基金を出す機関にお金を出すのがUN」だと説明するに留まった。
エンパワーのノイが感じている問題意識は、「私たちは、被害者の人を、セックスワーカーとして支援することができない」。つまり、私の解釈では、セックスワーカーとして働いていて被害に遭った人を、セックスワーカーとして支援できない、なぜなら“セックスワーカー(売春婦)”だから。しかし、人身売買被害者としてであれば支援ができる、こんな社会や国の支援のあり方は間違っている、と言いたかったのではないだろうか。また、ノイは、セックスワーカーの労働者としての権利を訴えてきた、当事者を多く抱える団体の主宰者であることから、「アメリカや日本政府からは、私たちは人身売買のブローカー、トラフィッカーとして疑われる」という問題もあり、こうした見方をされることは、セックスワークと他の労働が別々のものとされる問題とも通じていて、そのせいで、ノイは、「人身売買に関する会合に行けない」という。(セックスワーカーの支援団体なのに、なぜ反人身売買の会合にくるのかと思われたりするということか)。セックスワーカー支援と反人身売買はまったく矛盾しない。それどころか、本来この2つは同じ意味を持つほど同義語に近いはずだ。それがなかなか理解されないできているため、現在のような政策的矛盾=反人身売買が新たな人身売買を生む、に至っている。
国による新たな人身売買とも言える国家的犯罪の事例は、各国から次々に報告された。マレーシアに出稼ぎにきた中国人セックスワーカーは、ビザがあるのに人身売買被害者として捕まえられ、母国に送り返されてしまったという。警察にレイプされることもあるという。
シンガポールの事例では、人身売買対策のお金の出し方の問題が指摘され、600人のセックスワーカーを捕まえる、と予算の使い方があらかじめ決められているという。
カンボジアでは、反人身売買政策の結果、セックスワークは形を変え、仲間に搾取されて働いたりするようになったという。
こうした失策の結果が次々とあぶり出される中、スカーレットアライアンスが提案したのは、「Anti-TIP report」を出そうということだった。各国政府に影響を与えるアメリカ国務省が発行する、人身売買対策に関する各国評価の年次報告書のAnti版を出すことで、対抗していこうというものである。スカーレットは特に、人身売買を定義する、「商業的な利用」という表現に問題を感じている。私は、これまでそのような性質(Anti版)のものを出したことがあるので、改めて共通フォーマットを作成してつくるのがよいのではないかと、スカーレットの提案に応えた。さらに、私から提案したことは、「IOMなどがおこなっている被害者の聞き取りや事実確認作業がそのまま政府の公式記録となることについて。政府系機関のリテラシーに基づいた記録・文書が残り、それがあらゆる計画のベースになるということに問題を感じている。私たちのような当事者支援、現場のアウトリーチに関わってきた民間団体のほうが、事件の詳しい事情や背景に精通しているのではないか、なんとか介入できないものか」、ということと、「セックスワーカーがいかにして被害に巻き込まれるのかの事例検証、また、いかにして事前に被害を防止する効果的な策を打つことが可能か、その成功例、実例を蓄積することが、人身売買対策だと思う、それを証明できるのは私たちしかいない」と呼びかけた。これに対し、ノイは、「IOMに関しては、人身売買被害者だけでなく、あらゆる被害者全員に支援するべきだ、強制送還の過程における被害も明らかにすべきだ」と訴えた。
現場と政治が繋がっていると感じられる、とても有意義な会議だった。このような議論は、大使館と警察発表だけを頼りに政策立案を考える人々にはできないレベルだと思った。

●今回の収穫と還元
今回の収穫は何といっても、韓国人セックスワーカーのための取り組みに繋がる、韓国Giant Girlsと、オーストラリアのScarlet Alliance・Migrant projectとの信頼関係の構築だった。この収穫はすでに、さまざまな形で還元されつつある。
まず、Giant Girlsは、9月23日の性売買防止法施行日に合わせた、韓国セックスワーカー結集抗議イベントでの声明発表にあたり、APNSWメンバーから署名を集めた。この日の一連の活動については、日本国内のメディア媒体でレポートするため企画を申請中である。
また、国内イベントでは、エイズ文化フォーラムin京都へのブース参加が決定、研究においては、今年度内にオーストラリアからスカーレットのメンバーが来日し、共同研究を行うことになっており、なんらかの形でGiant Girlsにも参画してもらいたいと考えている。来年以降も、韓国のグループと日本国内でフォーラムを行う計画案が上がっている。
このようなすばらしい機会を私たちに与えていただいたエイズ予防財団のご支援に心から感謝したい。