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第11回アジア太平洋地域エイズ国際会議参加報告書
 

国立国際医療研究センター 小児科(新生児内科)
細川 真一

はじめに
 一昨年の第10回に引き続き、公益財団法人エイズ予防財団による助成を受けて、第11回アジア太平洋地域エイズ国際会議(ICAAP11)に参加させて頂いた。さらには今回、当センター小児科の母子感染予防対策の結果を発表する機会を得た。会議参加によって、新生児の感染予防や感染児の治療方法の見直しなど、そこで得られた最新の知見を日常の診療に役立て、また、海外の医療従事者や研究者から得られた情報を院内講習会、国内関連学会などで報告することを目的とし、ここにその成果を報告する。
 
全体のプログラム構成から
 Program Bookに依ると、11月18日(月)からすでに各種団体によるPre Congress Community Forumが開催されていた。19日のWelcome Receptionを経て、Scientific Programの開催期間としては、11月20-22日の全日に各Sessionが開催された。
 プログラムの構成は、大きく、Plenary Session、Symposium、Skills Building Workshop、Oral Session、に分けられている。一昨年のPoster Displayは今年からE-Postersとして、会場のLCDディスプレイを利用して参加者各々が閲覧する形式に変更されていた。本会議参加の目的である「新生児の感染予防と治療方法」のみを取り上げた発表は、一昨年同様に、残念ながら無かったが、周産期関連のprevention of mother to child transmission (PMTCT)をテーマとした発表を中心に聴講した。
 
聴講したセッションから
  • Getting to Zero New HIV infection in Asia and Pacific: Possible or Impossible Dream
  • Getting to Zero New AIDS-related Death: What Works and How to Change the Game?
     一昨年同様にこのセッションは、本会議開催の一番初めのセッションであり、各国各団体が現状での問題点や今後の展望に付いての総括的な発表が中心であった。感染を「ゼロ」にするのは可能かどうかと言うテーマでの発表と討論である。FHI360(Family Health International)やUNAIDSからの演者が、ASEAN地域における全体の感染者数の推移などを説明し、インドネシア、ラオス、インドの代表者が各国の取り組みとその成果を報告していた。「ゼロ」にできるかどうかは分からないが、確実に感染者数は減っていることをデータを元に説明された。11/21の朝一番のセッションも前日同様に、どうすれば感染を「ゼロ」に近づけるかという内容であった。Anti Retrovirus Therapy (ART)を開始して、治療成績は確実に上昇しているが、AIDS関連の死亡者が減っていない。その問題の一つに治療開始後のフォローアップが不十分で、途中怠薬や合併症の治療が不十分である可能性が示された。
     
  • Elimination of Mother to Child Transmission (eMTCT) of HIV in Asia-Pacific
     HIV母子感染に対しては、各国が国全体のプログラムを策定し、検査技術も進歩して来たので、2015年までにHIVと梅毒の新たな小児感染者を減らす事は可能な状況である。テスト結果が陽性であればARTを早期に開始出来る。しかし、実際には妊婦へテストする機会をどう増やすかということが問題とのことであった。ASEAN地域で妊婦のHIV患者が抱える問題は梅毒や結核やHBV/HCVなどの感染症も合併しているので、理想はそれらも包括したintegrated Prevention of Mother to Child Transmission (iPMTCT)という考えで対応すべきである。しかし、中国からの報告では、MTCTは1.2%と低いが梅毒の治療は63.1%(HBVは94.2%)に留まる等、まだまだPMTCTからiPMTCTへ広げて行くのは難しいとのことであった。タイからは、新生児早期に検査することで治療開始が可能になって、エイズの発症を防げるため、早期検査を推奨していて、検査率も上昇しているが、Dried Blood Spotテストだと結果が返って来るまでに時間がかかる事が問題との事であった。
     
  • Biomedical Technologies for HIV Prevention
     主に検査手法についての発表であった。とくにインドネシアではDried Blood SpotテストによるHIV-1 DNA検出をPMTCTのスタンダードにしているとの事であった。
     
  • Operational Research for Better Practice and Policy: Strengthening Regional Research Networks to Answer Question from the Field
     オペレーションズリサーチとは、あるシステムの運用方法についての問題を、科学技術や道具を広範に用いて分析し、最適な解決策を見出すことである。具体的には、統計学的手法による解析やシステム簡易モデルの作成、シミュレーションなどによって、問題の発見と解決案の検討が行なわれる。この手法に沿った各国からの研究や調査結果報告である。
    <モンゴル>men who have sex with men (MSM) のHIV感染における検体採取およびその評価。手法としてrespondent-driven-sampling (RDS、被験者主導による検体採取)を用いた結果、以前のサーベイランスと結果が変わらなかったとの事。RDSでの結果は信憑性があって、検体提出者を対象に対策を立てて行く事が有効であると判断出来る。
    <ミャンマー>HIV検査の質を評価する。そのため、ミャンマー保健省は National External Quality Assurance System for HIV testingを設立した。検査数は年々増えているが、逆に検査率が減っている事が問題。
    <カンボジア>ART中の女性の予期せぬ妊娠の危険性について。家族計画の教育が必要。その教育方法についての研究。
    <ラオス>HIVウイルスの薬剤耐性遺伝子解析について。HIV遺伝子解析は薬剤の適切な使用のために必要。また、地域性や感染経路の解明にも繋がる。
     
  • National Leadership to Promote the Use of Quality Improvement (QI) Methods to Implement Guidelines: Examples from the Asia-Pacific Region
     各国がそれぞれにHIVに対する標準的介入方法を持っているが、それを実際に適用する際に知識や経験の違いが大きい事が問題である。結果、本当に介入を必要としている患者に充分有益とはなっていない可能性がある。そこで、Quality Improvement (QI)の手法を用いて、HIVケア(治療)とケアの充実とART使用方法といった一連の繋がりを改善する試みが各国で実施されている。このセッションでは、タイ、ベトナム、パプアニューギニアからの報告であった。採用されているモデルは、HIVQUALと呼ばれるもので、 HRSA(アメリカ、DHHS)が提唱している、診療ガイドラインに基づいた臨床指標の測定、集計データの使用、必要な患者への焦点集中、などを指標とする。各国からの報告をまとめると、CD4細胞数をチェックしてARTを開始する事は妊婦の早期診断という観点からも重要ということは強調されていた。また、HBVや結核などの合併症が依然として問題であるとも言われていた。
     
  • Improving the HIV Cascade of Services: Advances in Reducing Loss-to-Follow-Up between HIV Testing, Pre-ARV Care, and Sustained Adherence to ARV
     サービスの対象患者グループを同定し、そのグループへ集中的に介入する。そのハイリスクグループには妊婦も含まれるので、妊婦へのART、その治療を継続させる事、母子感染予防、出生した児への検査、治療、という流れ(カスケード)に沿って、効率よく介入できるという考え方である。ベトナム、インド、カンボジアからの発表内容では、いずれの国も、妊婦のART開始までは対象に対する実施割合が高いが、その後のフォローアップが出来ていない。つまり、出生した児への検査ができていない実情が窺えた。討論でもHIV cascadeに沿って実施しているが、最終的にフォローアップできなくなるので、どう対策を立てるのか、と言う質問が出ていた。
     
  • Children and Adolescent: Treatment and Care Challenges (Youth and Children)
     小児への治療成績についての発表であった。タイからは、治療開始時期に関係なく、Virus Loadの低下が認められたが、nevirapineの効果は悪いとのことであった。また、青年期には「Happy teen program」という名前のHIVについての①知識②技術③性活動④生活を教育するプログラムがあるとのこと。マレーシアからは、感染児のVirus Loadをモニタリングし適切な薬剤に変更する事が重要との報告であった。まとめられたデータからは、薬剤変更した時期の中央値は151週で、80週からVLが1000以上になっている事が多い。また、その変更することになる危険因子としては、男児、NNRTIの使用、CD4<15%が上げられていた。マレーシアも小児HIV感染症は全体の1%と低いが、貧血が多く、5年生存率は88%とのこと。死亡原因としては敗血症、肺炎、結核などが多いが、低出生体重児も多いため、それが死亡率の上昇に寄与している可能性も高いとの事であった。
     
E-Postersから
 今年は、一昨年の紙媒体のポスター発表でなく、会場に設置された13台のタッチパネル式のLCDディスプレイを学会参加者が各自で操作して閲覧する方式に変更された。個人的には、今回の当科の発表を元に、参加者同士の議論を求めていただけに、その場が与えられなかったのは残念であった。PMTCT中心の発表はいくつか見られ、早期診断の重要性が報告されていたが、やはり、新生児中心の報告は見られなかった。一昨年は、新生児(小児)に対する検査としてウイルス量の検査を施行している国もあれば、抗体陽性の有無で論じている報告もあったが、現在は、診断にウイルス量をチェックすることになっている。
 
全体の感想
今回は、当科でのHIV母子感染予防対策の結果報告を主な目的として参加した。一昨年の参加時には、妊婦の母子感染管理や新生児の感染予防(感染した児のフォローではなくて)などの発表が少なく、当科の成績と各国各施設との成績比較などの議論を期待していたが結果としては実現しなかった。他の発表では、日本の様に「標準的母子感染対策によって感染率は低い」のような発表は無く、妊婦への検査徹底、妊婦への早期ART開始、などを強調した報告が多く見られた。いくつかの国では母子感染率は1−2%という報告も有って、日本も成績が特別良い訳ではないことを認識させられた。検査も乾燥紙法によるHIV-DNAでのウイルス量測定やCD4カウントでの治療判定などWHO標準であり、発展途上国、ASEANなどといった違いはほとんど無いことが理解出来た。各国は、その検査実施率や治療後のフォローアップに重点を置いている。それでも、我々が研究調査しているような、妊娠期の胎児への感染やARTの影響、出生後の児(感染、非感染に関わらず)のフォローアップ、といった報告は全くなく、我々の経験を報告して行く意義は有るものと考える。今後、今までの我々の成績を詳細に検討して、HIV母子感染対策のエビデンスを発信していけるように、今いっそう努力すべきであるとの認識を新たにした。
 
謝辞
今回、このような有益な学会に参加する機会を与えていただいた、公益財団法人エイズ予防財団に深謝する。また、忙しい病棟業務を残したまま出張する事をお許し頂いた、小児科松下竹次医長、佐藤典子医長、赤平百絵医長、およびスタッフ、フェロー、研修医の各位にもこの場を借りて深謝する。