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国連エイズ特別総会報告
 

財団法人エイズ予防財団
理事長  島 尾 忠 男

 
国連のエイズ特別総会は2001年6月25-27日の3日間ニューヨークの国連本部で開催され、各国代表のほかに関係するNGOの代表も参加し、参加総数は3000名となった。特別総会は今回が第26回であるが、特定の疾病を対象に開催されたのは今回が初めてであり、エイズの流行がいかに全世界にとって大きな問題であるかを示している。

日本は森喜朗前総理を団長、植竹外務副大臣を次席に、政府代表3名、政府代表代理5名、随員14名、顧問5名からなる大代表団が出席した。筆者は顧問の一人として今回の特別総会に参加した。

本会議場では朝の9時から午後1時まで、3時から6時までと7時から9時まで3回に分けて総会が開かれ、各国代表が演説を行った。第3日は各国代表の演説は午後6時で終了し、引き続き決議採択の総会に移行した。総会と平行して4つのラウンド・テーブル討議、重要な課題についての特別行事などが行われた。

各国の演説時間は5分に制限されていたが、守る代表はほとんどなく、中には倍近く熱弁をふるう代表もあった。演説は英、仏、ロシア、中国、スペイン、アラビアの6国連公用語に同時通訳される。

森日本主席代表の演説

森日本主席代表の演説は第1日正午過ぎに予定されていたが、前の代表演説の時間超過の影響を受けて午後1時過ぎになり、事務総長主催の代表団昼食会出席者への集合のアナウンスと重なり、残念ながらやや空席が見られる状況で行われた。
昨年の沖縄でのG8サミットで日本が提唱してエイズ、結核、マラリアなど感染症対策に対する先進諸国の資金面、技術面からの協力を呼びかけ、同意を得、さらに12月には再度沖縄でG8代表、途上国代表や国際機関、NGOを招いて感染症対策沖縄国際会議を開催して協力の具体化を進めたこと、また今年になってアフリカ3カ国を訪問して感染症対策の実情を見聞した経験から、引き続きエイズなど感染症に対する協力を強化し、またアナン国連事務総長の提唱した保健基金へも相当額の協力を行うことを述べ、基金の適切な運営を求めた。

最後の全体会議---宣言の採択

第3日午後の総会では、各国代表に続いて、国際赤十字・赤新月連盟、EC, 太平洋島嶼フォーラム、ILOなど種々の地域組織、国際団体、機関の演説に続き、エイズ関連NGO代表の演説も行われた。

6時からの最終全体会議では、公式行事である4つのラウンド・テーブル・ディスカッションの内容紹介が座長あるいはその代理から行われた。

RT1. 予防、ケアとサポート  これらの3つは分けがたく、お互い関連する領域であり、エイズ流行の程度や各国の社会文化的な背景を考慮しながら、短期から長期的な対策まで樹立する必要がある。エイズの流行が貧困をもたらしているので、弱者に重点を置いて対策を進めねばならない。サハラ砂漠以南のアフリカの状況は深刻で、早急に基金を設立し、対応せねばならない。正しい知識の普及から、性行動の変化、検査の実施からカウンセリング、さらに治療を受けられるようにするなど、一連の対策を、それを最も必要としている者に届くように配慮する。性感染症の治療、血液の管理、垂直感染の防止も緊急な課題である。ワクチンの開発など研究開発の促進、啓発活動の強化も忘れてはならない。

RT2. HIV/AIDSと人権  人権の尊重が対策の基本である。各国間の社会文化の違いを尊重しながら、性による不平等、偏見、差別などに社会が早く対応し、これらをなくするように努める。対策を強化し、それを維持する際に、弱者に重点を置く。説明責任(accountability)も大切な問題である。知的所有権を尊重するべきであることはいうまでもないが、人権との兼ね合いにも配慮せねばならない。差別をなくすことを目標に、沈黙を破り、強く主張しようではないか。コンドームの使用の問題でも、女性は男性の要求を拒みにくいという性による不平等がある。今回の宣言の尊重を基本とするべきである。

RT3. 社会経済的な影響  エイズに罹患し、死亡することは収入の減少に直結し、貧困の原因となっている。若い人達の性行動を変える必要がある。保健医療のインフラや社会資本のネットワークを強化し、各国固有の文化、価値を尊重しながら予防やケアが全員に行きわたるように努力することが必要であり、その実施には政府がエイズ対策を最重点施策とすることを公約することが重要である。

RT4. 国際的な財源造成と協力  今後のエイズ対策には、どのようにして国際的に財源を動員するかが重要である。各国の公私を含めた自助努力が基本であり、これに外からの支援を加える。途上国自体もエイズ対策の予算を増やし、市民社会からの協力を強化せねばならない。国際保健基金には92億ドルが予定されているが、ゲイツ財団の協力のように民間からの協力を広く求めねばならない。政府がエイズ対策は重点施策であることを公約することも重要である。エイズの少ない富める国が、貧しいエイズの多い国を援助するのはモラルの問題である。ボツワナのようにそれほど貧しくないのに、エイズが強く蔓延している国については、その理由を解明する必要がある。治療に要する経費が高いことは大きな問題であるが、軽減のための努力は続けねばならない。地域社会のレベルに財源を投入して、対策を強化する必要がある。

次いで宣言の採択が議題となった。議長から、フランス語とスペイン語の訳に一部不適切な部分があるので修正するとした上で討議を開始。宣言の原案を作る際に中心となったオーストラリアのウェンズレイ大使とセネガルのカー大使が発言。ウェンズレイ大使は、宣言案の11の各章の冒頭に要点を記載し、また時期を指定した目標を示した。人権の尊重、性(gender)の問題、文化、宗教の違いを実行できることを記載し、その際に弱者の尊重を基本においたと発言。
カー大使は宣言案の内容を要約して紹介。
議長から満場一致で宣言の採択を提案し、反対なく決議を採択。
関連発言が4つ。ネパールは、第83パラグラフ(先進国にGNPの0.7%をODA予算に組み、GNPの0.15-0.2%を後発途上国へのODA予算とすることを求めた条項)を、既に目標を達成している国が、そのことを途上国への支援を断る理由に使わないように要望。ローマ法王庁は、宣言を満場一致で採択するので反対はしなかったが、sexual health, sexualityという言葉はモラルに反する。人権の尊重は相互理解に基づいて行う必要がある。危険な行動についての説明が不十分である旨を記録に残しておきたいと発言。次いでメキシコがスペイン語圏を代表し、フランスがフランス語圏を代表して訳の不適切な部分の修正を求めた。
これですべての議事が終了。黙祷の後午後9時ころに散会、
 
宣言の概要

前文  エイズの蔓延状況が深刻な事態にあることを述べた後、タイやウガンダ、セネガルなど若干の国では対策に成功しているが、その背景には政府の強い意思とリーダーシップ、しっかりした対策の樹立と広報活動、地域、市民社会、PLWHA(People Living with HIV/AIDS)、弱者との提携、人権の尊重があることを強調。これを全世界に拡大したい。途上国の債務を破棄し、これをエイズを含む保健医療に使えるようにアピール。PLWHA、若者、市民社会のエイズ対策に対する積極的な発言と参加を要望。人道団体の努力に感謝。以下の各章で、各国政府に原則として2003年までに計画を立て、2005年から実行することを要請。

リーダーシップ  社会のすべてのレベルでの強いリーダーシップが対策成功の鍵。政府のリーダーシップが基本で、これに市民社会、実業界、民間が協力する形が望ましい。

予防は対策の主役  15-24歳のHIV感染を、高度蔓延国では2005年までに、全世界で2010年までに25%減らすことが目標。2005年までに15-24歳の若者の90%に情報提供と教育の機会を与え、2010年までにこれを95%に拡大し、乳児の感染を2005年までに20%、2010年までに50%減らすことが目標。

ケア、サポートと治療は対策の基本  抗エイズ薬を途上国でも使えるようにし、患者や家族に対して精神的、社会的なケアもできるようにする。

エイズと人権  PLWHAの人権を尊重することによって、エイズ対策が加速される。あらゆる差別の撤廃が目標で、被害を最も強く受けている女性、少女の人権尊重が特に重要。

弱者は対策の最重点対象  危険な性行動(宣言には記載されていないが、MSM,CSWなど)やIDUなどを行う者に対する対策の強化が必要。

孤児対策  HIVに感染している孤児に対するケア、教育などを含む特別な対策の実施。

社会経済的な影響の軽減  エイズ対策への予算の配分は、持続する開発への投資である。エイズ流行の社会経済的な影響を評価し、それに対する対策を樹立する。

研究開発の重要性  未だエイズを治す薬はなく、ワクチンもない。これらの開発には、総合的な研究能力の整備と協力が必要。

紛争・災害地域のエイズ  紛争や災害はエイズ流行の拡大をもたらす。国際機関からNGOまでを動員しての支援が必要。軍隊やPKO要因に対する教育にエイズ対策を含めることも必要。

対策の強化には新たな財源が必要  新たな、持続的な財源が対策の強化に必要。エイズ対策の実施には毎年70-100億ドルが必要。GNPの0.7%をODA予算に支出し、0.15-0.2%は後発途上国の援助に向けることが望ましい。援助の重点はアフリカ、カリブ海諸国である。途上国の債務の棚上げも必要である。世界エイズ保健基金の募金を2002年から開始する。

勢いの維持と事業の進展状況の追跡が必要  国、地域、世界のレベルで事業を維持し、その成果を評価することが必要。

結語  エイズ流行への関心を高めるという難しい試みに取り組む努力をした多くの人々に感謝。政府の強いリーダーシップと、国連、すべての多国間協力、市民社会、実業界、民間部門が全面的に、活発に参加する調和の取れた努力に期待する。すべての国が、多国間、二国間のパートナー、市民社会と連携を強め、協力しながら、この宣言を実施するのに必要な方策を取ることを要請する。

総会点描
さすがに国連総会となると、各国の元首の出席、演説も多い。元首の演説の際には、制服のガードが2名、演壇の両脇で警備に立つ。元首でない場合には、「総理大臣」級でもそのような扱いはない。
演者は演壇後方の控え室に10数分前に案内され、エスコートする職員によって演壇まで案内されるが、女性がエスコートする場合に、民族衣装的な服を着ていた。その中の一人は、日本人ではないが、浴衣に帯を着用しており、着付けがいかにも下手で、もう少しまともな格好をしてくれたらという思いがした。
各国代表の演説は、ほとんどの場合内容が印刷物で配布されるので、あまり熱心に耳を傾ける人はいない。しかし、世界保健総会での経験では、悪口をいわれた場合には、反論せねばならない。日本は幸いに先ず悪口の対象にはならず、JICAの協力などに対して謝辞をいわれることはある。今回は森首席代表、植竹外務副大臣などVIPが同行していたので、外務省関係者はVIPの国連事務総長や主要国元首などとの面会のお世話に忙しく、筆者は時々日本代表の席に座って、演説を拝聴した。聞くところによると、各代表席に誰かいるかどうか、演説の終了時に拍手をしているかどうかチェックしている由で、その点では日本代表団の点数を少しは上げることに貢献したかもしれない。今回の場合には、日本への言及や、世界エイズ保健基金への拠出額などが、演説をチェックする際のポイントであった。因みに米国や英国の基金への2億ドル拠出、フランスの1.5億ユーロの拠出などは、代表演説の中で行われた。

総会での感想

各国代表のマナーの悪さ  総会議場では1国に机のある3席とその後ろの控えの3席が与えられている。各国代表の演説中に、席を離れて他国の代表団と立ち話をする者も多く、また携帯電話が持ち込まれ、大声で話す者もあり、議長からしばしば「国連の尊厳のために、場内での立ち話や携帯電話の使用を慎むよう」要請があったが、改善は見られなかった。何回か出席した世界保健総会より、国連総会のほうがマナーが悪いというのが率直な感想である。ただし、米国のパウエル国務長官の演説の際には、会場が静かになり、長官は原稿なしで演説をして、さすがという印象であった。 
各国国連代表部の住所  各国の演説内容を印刷した文書を見ていると、各国の国連代表部の住所も印刷されている。先進国は国連本部の近くに代表部を置いているが、小さな国ほど国連本部から離れた住所であることが印象的であった。
宗教や基本的な理念で合意することの難しさ  エイズ問題はアフリカやカリブ海諸国を中心に大きな被害を与えており、誰でも何らかの行動をしなければならない程度に達しているので、今回の特別総会が開かれたが、宗教や基本的な理念が関与する事項に関しては、合意が困難であるということを痛感させられた。ゆるい枠組みにすると合意はしやすいが、後で内容の解釈に差異が生じる。枠組みを厳しくすると、解釈の差は少なくなるが、合意は困難になる。最も合意が困難なのは、宗教的、思想的な信条に関する部分である。
エイズが人のsexualityと関連することから起こる諸問題  実際にはほとんどの人が性行動を行い、時には悩み、苦しんでいる。日本では裁判官まで買春をする時代になっている。しかし、一般的にいえば、未だ日本でも、また国際的にも、オープンに性について社会で議論できる雰囲気は生まれていない。特に、MSMに対する感情は宗教によってかなり異なり、存在を認めない場合すらある。国際的な場で、また日本国内でも、性の問題をまじめに、オープンに議論できるようにするにはどうしたらよいであろうか。当財団の果たすべき役割は大きい。
CSWの感染は悲劇的  CSWは人権尊重、性差別撤廃の立場から見れば、最も悲劇的な、あってはならない存在であるが、多く存在しているのも実態である。CSWの場合、わが身を守るためにもコンドームの使用は必須であるが、弱い立場で相手に強く要請できない場合も少なくない。タイでは警察の協力を得て、業者を指導し、全業者にどこでも使用することを強く要請した。これがタイでの成功の要因である。全業者が協力すれば、コンドーム装着のルールは守れる。事前の十分な話し合い、警察の協力は、このような対策の成功には不可欠である。
血液を介する感染も悲劇的  血液の安全管理は最重点施策の一つで、日本ではNAT検査(核酸増幅法)の使用で、window period の感染をほとんど防げるようになった。途上国では血液の管理は未だ整備されていない国が多く、世界で安全な血液が保証されるのは何時のことであろうか。
新設の国際エイズ保健基金は国際的な修羅場  国際エイズ保健基金の設立は結構なことであるが、その事務局をどこが担当するかで、水面下で激しい争いが起こっている。森代表が演説の中で述べたように、適切な形での設立と運営が望まれる。

(2001年7月10日記)