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第14回国際エイズ会議参加報告書

芳賀赤十字病院小児科 三浦 琢磨

今回の国際エイズ会議は前2回と比べて、革新的な話題が出たわけでなく、政治的な動きもそれ程インパクトが強い会議ではありませんでした。また運営自体がやや不手際な点が目立ちました。しかし、いくつか興味を引く演題がありました。臨床の立場として参考になった演題を中心に報告します。

1)治療開始はいつがよいのか?

この問題についていくつかの演題がありました。HAARTを開始してからの予後は開始時と6ヶ月後のCD4数に相関しますが、開始時のウィルス量は105以上でなければ相関せず、6ヶ月のウィルス量とは相関したとの報告がありました(TuOrB1140)。またウィルス学的な失敗はCD4<350では高く、より早期におきるとの報告と(TuOrB1141)、CD4数が201以下まで治療開始を遅らせるのは不利であるとの報告(TuOrB1143)がありました。

2)初期治療

初期治療として短期の抗ウィルス療法を行った報告では、治療による耐性は出現せず、安全で特異的CD4 T-helper responseを惹起し、今後の検討に値するとのことでした(TuOrB1185)。また2種類の治療として、ddI+d4T+NFV→ZDV+3TC+NEVとddI+d4T+NEV→ZDV+3TC+NFVを比較したところ12ヶ月で特に差は認めなかったという演題(TuOrB1186)がありました。CD4<100の214例に対するEFVとPIの効果の比較(TuOrB1187)、233例でのNFV/NEVとRTV/SQVの比較でも12ヶ月で差は認めませんでした(TuOrB1188)。さらにABC/3TCとEFV,APV/RTV,d4Tの比較を291例に行った検討でも48週で3群ともRNA<50は70%以上と好成績でした。すなわち初期治療としての効果は現在使用されている治療法ではそれ程変わらないという成績であり、治療の選択は値段、入手可能か、アドヒアランス、副作用等を考慮して決定する必要があると感じました。また治療の交替も可能であるとの意を強くしました。

3)治療経験者における抗ウィルス療法

治療変更に関する演題では、PI+2NRTIをNEV,EFA,ABAに変更した460例の検討がありました。ITTでは差はなく。ABA では副作用による中止は少なかったが、ウィルス学的失敗が多かったとのことでした(WeOrB1262)。またSQV400/RTV400のSQV1000/RTV100 1日2回への変更では、安全で服用可であったが、TG、T-cholの低下が報告されました(WeOrB1263)。IDV800/RTV100とSQV1000/RTV100の比較では、副作用はIDV/RTVの方が多く、効果は差がありませんでした(WeOrB1265)。

治療失敗例におけるジェノタイプ耐性試験(GRT)と血漿薬物動態測定PDMの効果の評価では、GRT単独とGRT+PDMの群で比較し、差は認めませんでした(WeOrB1264)。

4)抗ウィルス療法の毒性

治療を長期間続けていく必要があるHIV感染症では毒性は最も重要な問題の一つです。

ミトコンドリア毒性の演題が興味を引きました。d4Tはミトコンドリア毒性と高乳酸血症と関連づけられてきています。これは末梢血液細胞のmtDNAの枯渇と関係あるとされてきました。mt/nDNA比(ミトコンドリア/核DNA比)を検討した結果、d4Tなしのレジメンではmt/nDNA比が高かいという成績でした(WeOrB1304)。また同様にAZT単独ではmtDNAレベルの変化は起きませんが、48週間のAZT+ddI or ddCでは20%の減少が起きるとの結果が報告されました(WeOrB1305)。

PIの治療に関するものでは、PIを含んだレジメンと含まないレジメンでは最初の2-3年では治療による脂肪の分配には差が無かったとの報告がありました(WeOrB1306)。また冠動脈病変の頻度とPIとの検討では、3年間のprospective, randomized studyで、PIグループの21%にリポジストロフィー(その内76%に代謝の変化あり。代謝変化なしでは3%。)を認めました。冠動脈疾患は9.8/1000対0.8/1000。心筋梗塞は5.1/1000対0.4/1000と、有意に多いという成績でした。また冠動脈疾患はdyslipidemia、lipodystrophy、smokingに関連していました(WeOrB1307)。PI治療群では禁煙を勧めることも重要と感じました。

最後にアフリカでのHAARTの副作用は他のグループとそれ程変わらず、HAARTの延期の正当化には使用すべきでないとの演題(WeOrB1303)もあり、目を引きました。

5)戦略的治療中断(STI)

2年程前から報告され始めましたが、まだ実験途上の治療と言う感じです。効果がある例があるのは確実ですが、どういう対象が治療に適しているのかの検討が重要です。治療前のウィルス量はそれ程関係ないという報告(WePeB5905)と、開始時のCD4の高値とウィルス量の低値が効果予測に役立つとの報告(ThOrB1438)がありました。また失敗例ではcytotoxic activityのあまりないimmature CTLの増加を指摘している演題もありました(ThOr B1442)。急性HIV感染症では全体としては30?70%ぐらいが有効であるとの報告がありました(ThOrB1437、ThOrB1438、ThOrB1439)。また治療ガイドラインの変更により、現在では治療を遅らせている患者が多いが、古いガイドラインによって早期に治療を開始した患者は中止できる可能性が高いという報告があり、興味を引きました(ThOrB1439、ThOrB1440)。

6)ワクチン

今後、低効果のワクチンが開発されたら、最初の5年間にハイリスクの2億6千万人に使用され、高効果の場合は6億9千万人に使用されと考えられます。しかし現在の供給能力は低いため、19-36%しか供給されません。必要性と供給能力のギャップを埋めることと行動の変容による感染の阻止が問題でしょう。ワクチンは万能薬ではなく、予防パックの一部であるべきであるとの報告がありました(WeOrD1297)。また第一世代のワクチンは完全な防御でなく、病気の進行に対する効果に対する評価が大事です。そのためワクチン接種による感染者のウィルス量の低下は効果の指標となるとの指摘もありました(WeOrD1298)。現在タイで世界初のphase III vaccine trial (bivalent B [MN] /E [A244] rgp120; AIDSVAX & reg;B/E, VaxGen,Inc., USA)と北米とヨーロッパでのbivalent rgp120/HIV-1 vaccine(AIDSVAX®B/B)の検討が行われており、2002?2003年にかけて終了する予定であるとのことでした(WeOrD1300、WeOrD1299)。

7)C型肝炎の重複感染

日本では血友病患者におけるHIV感染者が多く、そのため、肝炎の重複感染が重大な問題となっていますが、外国でも最近重複感染の演題が増加してきています。C型肝炎の進行度は重複感染では有意に早く(MoOrB1057)、またHIV感染者の生存の指標としても肝機能は肝炎の有無にかかわらず、重要でした(MoOrB1058)。HAART治療中のC型肝炎の治療のためのインターフェロンとリバビリン併用療法はある程度安全に行え、効果もそれ程悪くありませんでした(WePeB6042、WePeB6045)。また症候性高乳酸血症の頻度は、HAART治療のみの時と同様でした(MoOrB1059)。AIDS、CD4低下、コンプライアンスの低下、線維化、肝硬変の患者は治療不適でした(WePeB6042)。さらに肝移植も21例に行った報告があしました(MoOrB1060)。

8)母子感染

値段が安いことと半減期が長く1回投与でよいことから、NVPによる母子感染予防の報告が目立ちました。HIVNET 012はウガンダでのphase II randomized open label trialで、HIV感染の母親の分娩開始時と新生児にNVPを与えて、分娩中と分娩後1週間のZDV投与に比較して42%の効果があったと報告していました(TuOrB1174)。また南ウクライナでの検討でも7.4%の感染率でした(TuOrB1175)。

母乳感染の時期の検討では64%が生後4週以前の感染で(TuOrB1177)、早期からの栄養への介入が必要と考えられました。

9)暴露後予防(PEP)

針刺し事故対策の演題を出している関係上、PEPに興味をもっており、今回も何題かの演題を聞きました。

HIVの性的あるいは血液による感染の予防に200mgのNVPを週1回あるいは2回12週間投与の検討では、副作用もほとんど無く、トラフ濃度もIC50以上で、実用的とのことでした(MoOrD1105)。非職業上のPEP(nPEP)の使用頻度と効率の検討でも、212例にnPEPが提供され、207例(95%)が開始。78%で完了。12%が修飾され、10%で中止。4-6週で27%、6ヶ月で6%が経過観察中でした。28週のd4T/3TCの1例が陽転したとのことでした(MoOrD1107)。その他nPEPの演題がありましたが(MoOrD1108、MoOr1109、MoOrD1110)、まだ症例数も少なく、標準的な方法も確立されてはいませんが、今後先進国では予防法として重要なものとなると思われました。

以上簡単ですが、まとめてみました。
最後ですが、閉会式にクリントン元米国大統領とマンデラ南アフリカ大統領を呼んでいましたが、やや違和感を覚えたことを付け加えたいと思います。