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第14回国際エイズ会議参加報告書

国立社会保障・人口問題研究所 小松 隆一


世界のHIV/エイズ流行とサーベイランス
 

はじめに

第14回国際エイズ会議がバルセロナで開催され、それに合わせて世界のエイズの状況について多くの情報がリリースされた。会議そのものは、エイズ問題を解決しようという人々の熱気にあふれたムーブメントを感じさせるものであった。とりわけ、途上国での治療薬へのアクセスを改善し予防活動を拡大することが重要なテーマであった。

HIV流行状況

2001年末現在のHIV感染者の推定数は4000万人に達しているとUNAIDSは報告している。また、すでに2000万人以上がHIVに感染して死亡したと考えられている。今回の会議でとりわけクローズアップされていたのは、若者の感染についてであった。現在、新たな感染の5割が15~24歳という状況のうえ、世界でHIVに感染している若者の数は1180万人と推定され、将来を担う世代に蔓延しつつあるHIV感染に対する強い警告が発せられている。

サハラ以南アフリカでは2850万人が感染していると推定されていて、HIV感染がもっとも集中している。今後数年のうちにこれらの人々がエイズを発症し死亡することを避けるためには、途上国での効果的で安価な治療薬の供給とそれを処方し管理をするキャパシティーの確保は世界的な緊急課題である。一方、サハラ以南アフリカでの15~24歳の若者の感染は860万人であり、67%は女子である。人数が一番多いと考えられているのは南アフリカで、女子93万~140万人、男子38万~58万人と推定されている。若者の中でも特に若年で性行動が開始される年代での有病率(prevalence)は、それ以前からの感染や感染後の死亡が比較的限られるため、新規感染(incidence)を反映していると考えられる。この数値には、サハラ以南アフリカでも希望が見えてきている。例えば、強力なリーダーシップがあったウガンダでの予防活動の成果として、首都カンパラの15~19歳の妊婦は1990年には22%がHIVに感染していたが、2000年には7%まで低下し、20~24歳でも33%から11%まで低下している。同様に、ザンビアの首都ルサカでも、強力な予防プログラムに伴い、コンドーム使用が増加する一方、性パートナー数が減少し、15~19歳のHIV有病率は1993年の28%から1998年の15%まで低下している。若者は感染に対して脆弱であるが、同時に、予防に対する反応も良いことが会議では強調されていた。
深刻なのは決してアフリカだけにとどまらない。近年特に逼迫した問題となっているのが、東欧と中央アジアでの主として注射薬物使用による感染である。この地域では、2001年だけで、25万人の新規感染が発生し、現在100万人が感染していると推定されている。つまり、実に4分の1の感染は去年一年間に発生していると見積もられているのである。また、ハイチ(成人有病率6%)やバハマ(成人有病率3.5%)などアフリカに次ぐ水準の流行となっているラテンアメリカ・カリブ海諸国や、2001年には100万人が新たにHIVに感染し、660万人が現在感染していると考えられているアジア・太平洋地域も、深刻な状況である。先進国についても、バンクーバー、マドリッド、サンフランシスコなどでMSMの間でHIVの新規感染が増加していることや、日本でも流行が拡大しつつあることなどが脚光をあびている。

方法上の新たな展開の一つとしては、エイズによる孤児数の推計モデルが以前よりいっそう精緻になったことが挙げられる。新しいモデルでは、母親のエイズによる死亡とその他の死因による死亡、父親のエイズによる死亡とその他の死因による死亡を区別して推計している。その結果、サハラ以南のアフリカでは3400万人以上いる孤児のうち、1100万人がエイズによるものである。一方、アジアでは実に6500万人の孤児がいるが、現在のところエイズによる孤児は180万人にとどまっている。また、cross-sectionalの血液調査から新規感染率を推定する方法としてDetuned Elisa法の様々な応用例の報告がされているが、さらに簡便な方法として、guanidineを抗体検査の際に加えることで最近の感染を特定するという方法が報告されている。

第2世代サーベイランス

UNAIDSとWHOは第2世代サーベイランスとしてHIVサーベイランスと行動サーベイランス調査(BSS)の併用を推進してきている。伝統的なサーベイランスは疾病がどこで流行しているかを観測するのに対し、行動サーベイランスでは、HIV感染の伝播が人間の行動に依存していることを活用し、HIVが今後どこで流行する兆候があるかを観測する。具体的には、質問調査を実施することにより、定点観測される集団でどのようなリスク行動がどれほどあるかをモニタする。それにより、流行が広がる前に予防活動を強化したり、予防活動のリソース配分を決めたり、あるいは予防プログラムの効果を測定したりすることができる。BSSを実施する国がここ数年で増加してきていて、今回の会議でも多くの演題があった。

行動サーベイランス調査で一際目立ったのはインドで2001年から02年にかけて実施されたBSSであった。女性セックスワーカーとその客がそれぞれ約6000人、男性とセックスをする男性(MSM)と注射薬物使用者(IDU)がそれぞれ約1400人、一般国民については8万人以上の大規模調査がインド全土で体系的に行なわれている。こうした情報はインドのこれからのエイズ対策に充分活用されるだろう。インドでは、さらに2003年と05年に同様の調査を実施する予定である。

さらに、こうした調査を行う際に、「リスク行動集団」をもとに標本を得るのではなく、地域に存在する性パートナーとの出会いや薬物使用の「場所」を基準に標本を得ようとするPLACE法がUSAIDから資金を得ているプロジェクトであるMeasure Evaluationによって提唱され、実施例が報告されている。そのような「場所」には、バーや街角、公園などはもちろん、学校や教会すら含まれうる。それぞれの場所や利用者の特性をはじめ、パートナー交換やネットワーキング、コンドーム使用、エイズ予防プログラムやコンドーム入手の状況などを調査しようというもので、今後の方法論的な展開と世界各地での実践例が期待される。

おわりに

エイズを巡る世界の状況は近年ますます急速に展開している。疫学研究のためのツールは次々と開発され、現実に応用されているし、そうして得られた疫学的知見に基づく対策についてもいっそうの進展が見られる。来年のアジア・太平洋エイズ会議(7th ICAAP)の日本での開催を控え、こうした波に乗り遅れないようにする必要があるだろう。

謝辞

財団法人エイズ予防財団の派遣事業により第14回国際エイズ会議に参加した。本報告書の紙面を借りてお礼申しあげたい。