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第14回国際エイズ会議参加報告書
 

国立名古屋病院・臨床研究部  金田 次弘

1. はじめに

国際エイズ会議参加は今回初めてでありましたが、初日の参加登録の際に入手しましたUNAIDSの報告を読み、改めてHIV感染症・エイズ問題の深刻さについて認識させられました。中でもsub-Saharan Africaの事態の深刻さ、世界のHIV感染患者の70%がこの地域の住民であること、Botswanaでは近い将来平均寿命が30歳以下にまで低下しそうだとの報告はショックを越えた絶望的なまでの驚きでした。HAARTによる先進諸国でのHIV感染症治療の前進には目を見張る物があることは紛れもない事実ですが、sub-Saharan Africaの感染者総数が2850万人に上るとの報告に接すると、何はさておき有効なエイズワクチンの開発の成功しか、この事態を解決することが出来ないのではないかと確信しました。今回の国際会議には15000人が参加し、3.5 Kgを越える二冊の重い抄録集にまとめられた演題が提出されたことを想像していただければ、医学から社会科学までの膨大な領域の医療者、研究者、アクチビストが様々な角度から精魂を傾けたエイズと人類の壮絶な闘いをイメージしていただけると思います。国際エイズ会議で発表、討議された広大な分野の仕事を私が充分に理解できる筈もありません。自分たちの仕事に関連したごく限られた領域の報告になることをお許し下さい。


2.会議で発表した研究課題とその概要 

第14回国際エイズ会議に私達のグループから発表した演題を以下に示しました。
ポスター発表 (1) Detection and Quantification of HIV-1 Provirus by Real-time PCR and PNA-ISH 
(2) HIV-1 Provirus in the Peripheral CD4-positive T Lymphocytes from the HIV-1 Infected Patients Under Highly Active Antiretroviral Therapy  (3) Establishment of Quantitative Assay for Cellular HIV-1 mRNA by Real-time PCR。CD-ROM発表は(1) HIV-1Variants with an Insertion Mutation in the p6gag and p6pol Genes Were Selected During Highly Active Antiretroviral Therapy (2) RT-nested Touchdown PCR Is an Effective Method for Gene Amplification in Genotypic Analysis of Drug-resistant HIV-1です。以下、ポスター発表の研究課題を中心にして報告を行います。

逆転写酵素阻害薬とプロテアーゼ阻害薬の多剤併用療法であるHAARTはHIV-1感染症治療に非常に良い成績を上げています。しかし、使用している薬剤の働きから推測されるようにこの治療はHIV-1感染細胞を殺傷する訳ではありません。従って、抗HIV薬存在下ではウイルスの産生と新しい感染は阻害されますが、薬剤の服用を中止すればすぐ元の状態に戻ってしまいます。まず、定量測定の方法についてですが、私達はgag、pol遺伝子領域にプライマーとtaqmanプローブを設計しreal-time PCR法にて測定しました。対象は未治療及びHAART施行中の患者さんの末梢血CD4陽性Tリンパ球です。一方、HIV-1感染細胞はペプチド核酸プローブを用いたin situ hybridization法で検出しました。その結果、未治療時のCD4陽性Tリンパ球に検出されるHIV-1DNAの主たる分子種はunintegrated DNAであること、HAARTにより血漿ウイルス量が低値に抑制された場合検出される分子種はintegrated DNAであろうと判断されました。そして、HAART開始以降のHIV-1DNAやプロウイルスの減衰はかなり鈍感で一年間で1/5から1/10程度しか低下しませんでした。従って、HAART治療奏功のマーカーとしては血漿HIV-1RNAがはるかに優れていると結論されました。その反面、HIV-1DNAのマーカーとしての意義は検出感度以下に押さえられた時点でどれだけHIV-1プロウイルスが潜在的に体内に残存しているかを推定する良いマーカーになると思われました。次いで、そのHIV-1プロウイルスが活発に転写されうるのか否かの判定が大切になります。常識的には、前述しましたようにHAARTによって転写活性の抑制は期待できそうもないのですが、実際はどうなっているか確かめてみました。そこで、私達は転写活性をプロモートする tatやrevタンパク質のmRNA量とゲノムHIV-1RNA量を同時に測定して、それがプロウイルスの活性度をモニターできるかどうかを検討するための方法論的検討を発表しました。その方法を用いて患者検体を測定しました所、HAART有効例で転写はかなり阻害されていましたが、それでも未だ有意の転写活性が残存していました。今後、方法論の改善を行いながら多数の症例を対象にした検討が必要と思われました。


3.関連分野での興味ある発表

私達が発表しました報告に着眼点が非常に類似した発表がドイツの2つのグループからなされていました。私達の結果との相違はHAART著効例では細胞内のHIV-1RNAは検出されなかったという点でした。測定に付きものの"感度"という問題がここでも付きまとっていましたが、転写が抑制され不活化されたプロウイルスの存在が示唆された点で興味深い発表でした。案の定、彼らは、その様なグループを計画的治療中断の対象に選択する計画がある様でした。また、HIV-1プロウイルス量は潜伏感染細胞数を反映しているので、血漿ウイルス量、CD4細胞数とは独立した予後因子になり得るとの発表もありました。ドイツ、フランス、NIHを中心にしたアメリカの研究者達が私達の発表に大きな関心を持って討論に来てくれました。共通の狙い、認識が活発な討論の場を作ったと思われました。この着眼点とは逆に静止期CD4細胞中に存在する不活化されたプロウイルスの活性化が大切で、活性化させつつHAART治療すればプロウイルス量を減少させられるとの立場からの発表もありました。PNA-ISH法によるHIV-1プロウイルスの検出法の応用という点では、この方法によりHIV-1の多重感染が証明できるので多重感染のウイルス学的意義、臨床的意義を明らかにする研究に使えるとの示唆も頂きました。ドイツのグループはHIV-1感染細胞をFISH法で同定し、マイクロダイセクション法で単一細胞を採取し、PCR法でenv遺伝子のV1V2領域を増幅しました。塩基配列を決定しサブタイプの異なる2つのHIV-1の多重感染を証明し、かつその細胞がリコンビネーションの場となることも証明しました。


4.会議の成果を国内で還元する具体的計画

国立病院エイズ医療共同研究「HIV-1プロウイルスの定量法の確立に関する研究」(平成12, 13年度)に引き続き本年度より「HIV-1プロウイルスの活動度の定量とその臨床応用」の研究班が立ち上がっています。この研究班には国立仙台病院、 国立国際医療センター、国立大阪病院、国立九州医療センターの先生方にも参画していただいていますが、方法論的な確立を行った上で、全国的に共通したプロトコールで検体測定を行いたいと考えています。また、厚生科学研究・今井班においてもHIV感染細胞の検出というテーマを頂いております。今後、HIVプロウイルスのみならずHIV-1 RNAも簡便に検出できる方法を開発したいと考えています。


5.終わりに

第14回国際エイズ会議への参加という貴重な機会を与えて下さいましたエイズ予防財団に心より感謝申し上げます。