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第14回国際エイズ会議参加報告書

東京医科歯科大学歯学部附属病院 感染対策歯科治療部 松本宏之人

1. はじめに

スクリーニングテストを実施することなく血液に直接触れる機会が多い歯科診療においては、歯科診療室の汚染が進みやすく水平感染を容易にするといわれている。そのため、日本の開業歯科医院においては、HIVを危険な感染源の一つとして捉え、院内感染をどのように予防するかについて関心が多く寄せられているのが現状である。残念ながら、今回の国際会議において歯科分野に関するシンポジウムのような大きなセッションはなかった。しかし、ポスター発表において歯科分野に関心のある研究者たちと意見交換をする機会を得ることは有意義であった。


2.歯科分野について

HAARTによりHIV関連口腔軟組織疾患発生数は減少してきた。発展途上国での歯科分野研究者による口腔軟組織疾患のケースでは口腔カンジダ症に関するものが最も多く報告されていた。さまざまな理由にてHAART服用が困難な地域におけるPWAの口腔軟組織疾患の発症数はいまだ増加傾向にある。今後、歯科医師は一般的なHIV関連口腔疾患を確認するのみならずPWAのHAART服用状況、最新の副作用状況をも認識したMedical historyを採取してゆくべきでとなった。

今回の会議ではカンジタ関連の基礎的研究発表が増加していた。口腔カンジダ症はAIDS発症の初期または後期の特徴的な口腔症状として認められているが、UCSFのGreenspanらは硬組織検査と同様に日常的な軟組織検査も必要であると報告した。
また、歯周病に関するものも報告されていた。キューバのPumaらは、歯周病疾患がHIV関連の特徴的な口腔疾患としてとらえていた。それら軟組織疾患の経過観察については、今後日本と共同で行ないたいとのことであった。また、カナダのSusan Fletcherらは下顎前歯部の歯周病由来の急速な下顎骨吸収について全身状況と併せたモニタリングの必要性を報告した。今後PWA歯科治療では唾液分泌機能状態を考慮した口腔疾患発生関連の考え方が必要であると主張していた。

一方、診療体制についての報告が前回に引き続き今回の会議でも認められた。ルーマニアでは日本の歯科事情と同様にPWAの歯科診療拒否がある。そこで、彼らはPWAを取り巻く資源のネットワーク構築化をも目的とした歯科診療チームを結成し、特別車両により全国の訪問歯科診療をしていた。一般に歯科診療は、医科と違い集中して継続的にかかる診療症例もあることから、演者らは歯科受診を必要とするPWAの負担をできるだけ少なくして安心してかかれる身近な歯科診療体制やその質を整えることをも目標としていた。すなわち歯科医療者のためのものでなくPWAにとっての歯科サービス質改善のシステムを構築中であった。日本においては、比較的規模の大きい病院等または特定の時間のみに歯科診療対応をするという病院診療所の整備を検討している傾向があり、PWAの選択肢が少ないのが現状である。日本の地方歯科診療にあたる歯科医療従事者は、診療を受けるPWAの観点から見たさまざまな課題を整理する必要があると思われる。歯科医療従事者側から医療サービスに外に出て行くルーマニア方式は参考になる。PWAに通院制限や個人情報開示の負担がかかるような日本のシステム(医療側に都合がいいだけの感染事故防止目的の対応)では今後に疑問が残る。HIV感染症関連予算がまだあるうちはそれで表面的に対応できるとしても、予算がなくなったら継続されなくなるというようなことになりかねない。サービスを利用するPWAが安心して利用できる歯科診療システム整理が必要である。日本の地方歯科診療問題は何なのか、そして私たちには何ができるのかを改めて考えさせられた。
また米国の研究者からは、最も歯科患者数の多い黒人女性を対象とした歯科実態報告の中で、時間や予算の科学的妥当性を予め予測して限られた資源のなかで実践モデルの追求を提示していた。

また、oral sexについて多くの報告があった。オーストラリアのRichtersらはoral sex によるHIV感染の危険性は極めて少ないと報告していた。しかし、歯科医師は観血的な歯科治療を行なうケースもしくは歯周病が重症で常時ポケットから出血しているPWAにはoral sexによる感染リスクを知らせる必要があると思われた。

歯科診療におけるOPEPは、診療室内で針刺し事故発生時にスタッフにすぐわかる所に最新プロトコールの設置が必要と思われた。

3. 会議における公的役割の成果

東京でのPWA口腔状況調査結果を紹介することと各国の歯科分野関係者との情報交換の場を構築することを目的として、私は本学会に参加させていただいた。国内外でエイズ関連の学会がいくつか存在しているが、歯科についてのセッションは数少ない。このことをポスター発表に参加している演者らと話しあった結果、歯科関連という枠での初めて複数の国にまたがるネットワークを構築することを話し合った。歯科分野の問題点は、虫歯等の対処治療だけでなく、PWAの口腔症状の予測なども含めたいと考えている。具体策としては、PWAの日常生活での口腔ケアの留意点について歯科診療で、具体的にどのようなことに注意すればよいか、歯科の薬とHAARTとの関係、PWAの全身状態把握のため主治医との望ましい連携の方法、あるいは連携できない場合はどうするか。歯科診療におけるシステム管理などについて関係する研究者らと連絡を取り合い意見交換をしていきたい。特に米国の歯科大学関係者を中心として次回の国際学会までに歯科のネットワークを構築したい。

4.国内で還元する具体的計画

日本での歯科におけるエイズ講演の多くは、特徴的な口腔病変報告から歯科や口腔外科が最初にHIV感染症を発見する手がかりとなる症例の紹介及び一般的な院内感染対策に関するものである。歯科医師の中にはPWAが薬を適切に服用していれば、ほぼ一般的なの口腔状況であることに気づいていない者が多い。東京都におけるエイズ歯科診療の多くは硬組織治療が主である現状である。多くの歯科医師はPWAの病んでいる硬組織疾患には関心があるが、病んでいるPWA自身は内科で診るものと信じている。すなわち、歯科医師はPWAの社会環境、薬物治療の生活、人生観すなわちPWA自身を理解することにはあまり関心がないと思われる。

会議の成果を国内に還元する具体的な計画として、私はまずPWA歯科診療に関心のある開業歯科医院の従業者を主な対象とした講演会において今回の国際会議報告を行いたい。そこで、各国の歯科医療サービスに対する需要の現状と今後の供給側の情報(特に、歯科医療サービスの質に関する点)世界の新しいHIV口腔疾患の現状を国内にて報告し、歯科医療従事者のPWAへの関心を少しでも高めていきたい。

そして、大きな計画としては、今秋の日本エイズ学会において歯科関連セッションを開催である。そこで、バルセロナでの歯科テーマを伝え、今後のエイズ歯科診療における新しい対応の参考となるようにしたい。進歩していくエイズ治療状況のみならず各国のさまざまな環境を把握しながら最新エイズ歯科情報を入手し続け、海外の口腔ケアに関する情報をフィードバックし、今後の国内歯科における新しい医療安全体制をも提言していきたい。また、内科医との連携体制から唾液腺内viral load 測定を中心とした口腔疾患予防対策法も検討していきたい。問題点の列挙だけではなくて、今後の歯科診療の現場にための実行可能なモデルを提示していきたい。国内PWAの立場に立った歯科医療体制構築のため、さまざまなNGOと連携して歯科サービスの質的改善の行動計画を具体化させるため歯科医療従事者とPWAとの関り合い方のマニュアル作成及び他の疾患合併PWAの歯科診療システムを構築していきたい。

5.最後に

前回のダーバンの会議では、歯科分野関連報告の演題登録はしたものの発表をしないケースが多く認められたが、今回は比較して少なかった。会議で特徴的だったことは、歯科分野からの報告は毎日いくつかあったが、それらがさまざまなトラックで発表されていたことだった。歯科分野として独立したセッションが行なわれなかったのは、大変残念だった。

最後になりますが、第14回国際エイズ会議へ派遣していただき貴重な機会を与えていただいたき心から感謝しております。会議に参加した成果を国内で還元するべく、今後尚一層の努力をしていきたいと考えております。