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第14回国際エイズ会議参加報告書

国立国際医療センター エイズ治療・研究開発センター
リサーチ・レジデント 土屋 亮人


専門分野でのセッションの概要

今回の派遣事業において私が担当させて頂いたTrack B: Clinical Science and Careは、臨床研究中心の分野で大変興味深い研究報告が多数見られた。特に新規抗HIV薬の有効性や副作用、新規治療法の効果、抗HIV療法における副作用、治療失敗後のSalvage療法、薬剤耐性ウイルスの出現例および検査法について新しい知見が得られた。

新規抗HIV薬は、核酸系逆転写酵素阻害剤(Nucleoside reverse transcriptase inhibitor; NRTI)のEmtricitabine(FTC)、非核酸系逆転写酵素阻害剤(Non-nucleoside reverse transcriptase inhibitor; NNRTI)のCapravirine(CPV)、プロテアーゼ阻害剤(Protease inhibitor; PI)のAtazanavir(ATZ)やTipranavir(TPV)、融合阻害剤(Fusion inhibitor)のPentafuside(T-20)など近い将来米国食品医薬品局で承認されるであろう薬剤の治療効果や副作用、血中濃度の推移などの発表が多く見られた。特にT-20は、今までの抗HIV薬とは作用機序の異なる融合阻害剤で承認間近とのこともあり、どの発表においても質問が集中していた。新規治療法では、昨年欧米で承認され、日本国内ではまだ未承認であるTenofovir disoproxil fumarate(TDF)の治療効果に関する発表が時期的にも多く見られた。特にTDFを含むSalvage療法では、服用開始6ケ月後のOn treatment analysis(OT)とIntent-to-treat(ITT)analysis(VL<50 copies/mlを成功例、n=120)の結果はそれぞれ64%、47%であった。この値は、今後日本でTDFをSalvage療法として用いる際の参考となった。抗HIV療法における副作用は、低頻度ではあるが重篤な副作用であるNRTIによる乳酸アシドーシス(Lactic acidosis)、そして以前から問題となっているPIによるリポディストロフィー(Lipodistrophy)の発表などが多く見られた。特にLactic acidosisでは、NRTIとミトコンドリア毒性を関連させ、ミトコンドリアDNA量と細胞核DNA量との比をミトコンドリア減少の指標としている研究発表が目立った。治療失敗後のSalvage療法では、Kaletra(Lopinavir/Ritonavir)にSaquinavir softgel capsuleやAmprenavirなど他のPIを組み合わせ、血中濃度を上昇させて治療効果を得るとの発表があり、薬物動態学的にも治療効果面でも大変面白い結果が出ていた。しかしKaletra+Amprenavirの組み合わせについては、Lopinavir血中濃度が50%程度減少するとの報告もあり、今後併用する際には注意すべき点であった。薬剤耐性ウイルスの出現例および検査法については、私を含め多くの発表があった。特に目を引いたのはGenotypeとPhenotypeやVirtual phenotypeとの比較であった。GenotypeとVirtual phenotypeの2群に分けてProspective studyを行ったグループでは、その後の治療効果については両群ともそれ程大差がないとの結果であった。これら治療失敗における薬剤耐性ウイルスの出現は、特に抗HIV薬を入手できる先進国で進んでおり、各セッションでも大きく取り上げられていた。

その他参考となった研究発表の内容と理由

新しい概念として、薬剤血中濃度のtrough値と50%ウイルス増殖阻止濃度(EC50)との比から抗HIV薬の抗ウイルス効果を推定するInhibitory quotient(IQ)や薬物トランスポーターであるP-glycoproteinの遺伝子一塩基多型(Single nucleotide polymorphism; SNP)の違いから薬剤血中濃度の個人差を検討した薬理遺伝学(Pharmacogenetics)など今後の研究に参考となる発表があった。抗HIV療法においても薬剤血中濃度測定の重要性が改めて示されている結果だと思う。薬剤血中濃度と薬剤耐性ウイルスや副作用の出現には明らかな相関があることから、今後は個人個人の遺伝子に応じた内服量で最適な薬剤血中濃度を維持させるオーダーメイド医療へと抗HIV療法も進んで行くのであろうと思われる。

選考基準となった会議における公的役割の成果

本会議において、「プロテアーゼ阻害剤未治療患者におけるNelfinavir108週までの継続率と耐性変異の出現」についてポスター発表を行った。

Nelfinavir(NFV)は、強力な多剤併用療法(Highly active anti-retroviral therapy; HAART)に組み合わせるプロテアーゼ阻害剤として、臨床的に優れた治療成績を収めている。本研究では、NFVを含むHAARTの臨床的な効果および抗ウイルス効果、失敗例におけるPrimary mutationの出現時期について検討した。対象患者はNFVを含むHAARTを開始したプロテアーゼ阻害剤未治療患者51例で、NFV開始108週後の治療継続率は78%、ウイルス学的成功(VL<400コピー/ml)例は63%であった。12週後のVLが400コピー/ml以上だった患者30例においては、108週後までに11例でNFV耐性ウイルスの出現が見られた(P<0.05)。また、Cox比例ハザード分析を用いてNFV耐性ウイルスの出現リスクを解析した結果、治療開始前の諸因子によって2倍程度のリスクは見られたものの、有意差は見られなかった。最終的には77%の患者において、NFV耐性ウイルスの出現なしに治療を継続することができた。そしてこれらの結果は、12週後のVLがその後の治療効果の指標となりうることが示唆された。以上の発表を行ったが、ポスターを貼り出している最中でも数名に質問され、関心の高さを伺い知ることができた。しかし質問をしてきたのがほとんど先進国の人達であり、それらの国々では抗HIV療法における薬剤耐性ウイルスの出現が大きな問題となっていることを肌身で感じた。

会議の成果を国内で還元する具体的計画

今回の会議で得られた多くの知見は、日本国内でのHIV/AIDS治療および臨床研究の中心機関である国立国際医療センター エイズ治療・研究開発センターのリサーチ・カンファレンスにおいて一部報告した。特に日本ではまだ未承認であるTDFの治療効果については臨床医からの関心も高く、今後当センターにおいて使用される際の参考資料となると思う。また、この会議から今後の研究に役立つ情報も多数得られたことから、国内の学会発表や論文発表時にAbstractを参考文献として用い、広く国内外へと報告したいと思う。

会議の感想

今回初めて国際エイズ会議に出席したが、この会議は基礎から臨床、疫学、社会科学など幅広い分野の方々が国境を越え共に協調し、そして発展し合おうとしている姿勢がとても素晴らしいと感じた。またこの派遣事業を通じて、普段あまりお会いする機会の少ない疫学や社会科学の先生方とゆっくりお話しできたことも、自分自身のHIV/AIDSに関する知見や考え方の幅を広げることができ、今後HIV研究を行っていく上で大きなプラスになったと思う。最後になりましたが、第14回国際エイズ会議へ派遣させて頂き、発表する機会を与えて下さった財団法人エイズ予防財団へ深く感謝致します。