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第14回国際エイズ会議参加報告書

特定非営利活動法人 動くゲイとレズビアンの会 風間 孝


今回は、当会が実施したリスクアセスメント・アンケート調査の結果報告(ポスター発表、7月10日)とともに、各国で男性同性間への予防介入がどのように行われているのか、その介入及び効果評価手法に関する最新の趨勢を知ることを目的に会議に参加した。

以下では、まずCトラック(疫学)における男性同性間のHIV感染や性行動に関する研究結果の概要を紹介する。その後に、Dトラック(予防科学)及びEトラック(社会科学)の社会・心理的観点からの調査結果について報告する。そのうえで、全体的な所感を記したい。 

Cトラック(疫学)のうち、オランダ、イギリス、オーストラリア、アメリカの報告に共通していたのは、男性同性間のHIV感染率およびリスク行動の増加という結果であった。

まずアムステルダムの調査では、34歳以下は91~96年の陽性率2.5%が97~01年3.6%に、35歳以上は91~96年1.1%が97~01年4.3%(p=0.03)に上昇したこと、および最近同性間で感染した男性の70.3%がSTD感染していたという結果が報告された。

イギリスの調査では2000年の無防備なアナル・インターコースが48.4%になっており、過去5年間の性感染症感染率も男性同性間は10.9%と、全男性の2%と比べて高率であることが報告された。

シドニーの報告でも、無防備なアナル・インターコースの上昇が報告されていた。96年16.9%が2001年35.0%へ、まったくコンドームを使わない者の割合も96年2.2%が2001年3.2%へと上昇していることが報告された。無防備なアナル・インターコースをしている人の特性としては、長期間の付き合いがあり、HIVステイタスが同じで、カジュアル・パートナーを持たないレギュラー・パートナーどおしであることが指摘された。

ニューヨークとサンフランシスコで行われた、Dippingという射精を伴わずコンドームを用いない短時間のインターコースに着目した調査の報告もあった。男性同性間では29%が陽性か陰性かわからない人とのセックスでDippingをしているという結果であった。 またアンケート調査においても、Dippingを無防備なアナル・インターコースに含めず回答している者の多いことが指摘された。以上の結果を踏まえての報告者の結論は、「Dippingは無防備なアナル・インターコースへの序曲となるものであり、勧められない」。

Dトラック(予防科学)及びEトラック(社会科学)における社会・心理的観点からの男性同性間の調査では、主としてインタビュー等を用いた質的調査法によるアプローチが目立った。

数量的なアプローチを採用したアメリカの調査は、エイズ・ボランティア活動やゲイ・グループ等への参加を指標とするコミュニティ参与(community involvement)の低さと内面化されたホモフォビアがHIVリスク行動に影響を与えていることから、コミュニティ参与の促進と内面化されたホモフォビアの改善を積極的に予防介入で扱う必要があることが示された。

オーストラリアの調査は、インタビューをもとに、どのような場合にコンドームを用いないアナル・インターコースが行われやすいかを分析したものだった。結果は、カジュアル・パートナーとのセックスで極度に興奮しているとき、ステディ・パートナーとの間に感情的な親密さがあるとき、だった。また、コンドームを用いたアナル・インターコースやオーラル・セックスは、カジュアルな相手とのセックスで典型的に見出され、この場合にはセイファーセックスについての会話も頻繁に行われていた。以上を踏まえた報告者は、HIV予防のプログラムは、ステディ・パートナーとセックスおよびカジュアル・パートナーとの極度に興奮した場面でのセックスに焦点を当てる必要があると結論付けていた。

以上の西洋における感染率及びリスク行動の上昇を示唆する疫学的調査と、質的調査を用いた社会・心理的アプローチについての簡単なコメントをしておく。

疫学調査について。この結果は、ゲイ・コミュニティが一時的に感染者・感染率の抑制に成功したものの、再び上昇の傾向に直面していることを示していると思われる。とりわけ、無防備なアナル・インターコースの割合として示された数値が35~50%であることは、(単純比較できないことを承知の上で述べれば)日本において「動くゲイとレズビアンの会」が行った調査結果が25%前後であったことから見ても、かなり高い割合を示しているといえる。しかしながら、発表を聞いているかぎりでは、その要因についての深い考察は為されていなかった。たとえば、イギリスで疫学調査を行った報告者は、感染リスクの上昇の背後に同性愛に対する非難の減少があると指摘していたが、どうして非難の減少がリスクの上昇を生み出すかについては十分な説明がなかった。これは一歩間違うと、リスク行動の減少には同性愛に対するスティグマの維持が必要であるという議論にもなりかねないものであり、慎重に議論されねばならない。しかしながら、リスク行動や感染率の上昇の背後にある要因の詳細な分析を、疫学調査に求めるのは困難なのかもしれない。

むしろそのような分析は、社会・心理的な調査こそ、得意とするものと考えることができる。その点においてオーストラリアの質的調査が示していたのは、レギュラー・パートナーとの間では無防備なセックスをするという同意が作られつつあることと、カジュアル・セックスにおいて極度に興奮していたさいに無防備なセックスが行われやすいということであった。レギュラー・パートナーとのセックスに対してもコンドームを用いるよう勧めるキャンぺーンがなされてきたにもかかわらず、それが無効になりつつあるのが現実だとすると、どのようなアプローチが有効なのかについては、これまで以上に行為者の心理分析と、従来とは異なるアプローチ法が必要になってくるだろう。また、極度に興奮したさいのカジュアルな相手とのセックスでリスク行為をとりやすいという結果に対しても、それが交渉力の欠如・不足によるものなのか、それとも別の心理的な要因によるものなのかについてもさらなる分析が必要であり、結果次第では新たなアプローチ法の開発が求められよう。

だが、これまでの日本のゲイ・コミュニティコミュニティにおける予防介入の経験から述べるならば、レギュラー・パートナーであれば無防備なセックスをしてもよいのではないか、カジュアルなセックスの場面で魅力的な相手のときにはセイファーセックスがどうでもよくなってしまうということはこれまでよく耳にしてきたことである。このような現実にどのようにアプローチしていくのかまでは今回の会議で参照できるような事例を得ることはできなかったが、こうした問題を解き明かしていくには質的調査にもとづく社会・心理的なアプローチを積極的に用いていく必要があると思われた。
 
以上