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第14回国際エイズ会議参加報告書

エイズ治療・研究開発センター 看護支援調整官  渡辺 恵


今回、私は3つの目的 1)日本におけるHIV/AIDS患者の生活の質(QoL)調査(第2報)のポスター発表、2)抗HIV療法とアドヒアランス育成支援に関する新たな情報の入手、3)HIV/AIDS専任コーディネーターの今後の活動に有効な示唆を得ること、をもってTrack B : Clinical Sciences and Careを中心にこの会議に参加した。

Ⅰ.会議全体の印象

2年前のダーバン会議以降、臨床系や基礎系のセッションが一部分化し、エイズ国際会議の間年に「国際エイズ学会」として開催されることになり、2001年7月にブエノスアイレスで第1回が開かれたばかりである。そこでIL-2、STI、IFN/RBV療法などに関するディスカッションはすでにされていたためか、本会議では治療に関するセンセーショナルな情報は特になかった。そのため、臨床家や基礎系の専門家達にとっては静かな会議となり、心理・社会系色の一層濃い会議という印象を受けた。また、ダーバンでは市、いや国を挙げての一大イベントで、予防啓発や経済収入等の恩恵を最も受けたのは、南アフリカ国民であったと言われた。しかし、バルセロナでは市内に「ガウディ生誕150周年」のポスターは多くみられたが、エイズ国際会議については、会場を一歩出ると、市内にはどこにも表示がみられないという感じであった。CNNでは毎日、会議のトピックスを扱っていたが、国際会議の開催市として、また初交年齢が若く、HIV感染者が増加している都市として、もっと市民に向けたPRがあってもよかったのではないかと感じた。


Ⅱ.Track B : Clinical Sciences and Careから
抗HIV療法が可能な国では、アドヒアランスが治療成功を決める重要な鍵であるとの認識が年々高まっている。本会議では、「knowledge to action」というテーマどおり、これまでのアドヒアランスの要因分析から、アドヒアランスを高めるための具体策、例えばどの時期に、どのようなアセスメントを行い、どのようなシステムで実施するのかといった、まさにactionレベルの報告が印象的であった。ただしこういう議論では、ともすれば医療者が「どうしたら患者に薬をきちんと飲ませることができるか」というスタンスに陥りがちである。患者が治療方針の決定に参加するという過程を重視したアドヒアランスの考え方を見失い兼ねないという、若干の懸念も感じた。当センターのHIV/AIDS専任コーディネーター(以下、CN)の治療に関するスタンスは、「治療開始」が決してゴールではなく、「治療開始後に継続できるか否か」を一つの基準として、「今、開始するか否か」を一貫して考えてきた。つまり、そこには「今は治療を開始しない」という決定もある。ただし、その場合は、予測される健康問題が生じないよう、あるいは生じても早期に対応できるよう、定期受診による健康管理が必須であることを、患者と医療者はともに十分理解しておかなければならない。それが理解され、受診が続けられるような人的・物的環境が整うことこそ、まず重要なアドヒアランス要因と考えている。


1. 治療開始までの活動について

1)初期の対応

受診中断(hospital readmission)の要因を知るべく、カリニ肺炎または細菌性肺炎で入院治療した患者のうち、退院後2週間以内に受診中断した患者について調査した報告では、医療者の示す治療方針(medical advice)に納得できず退院した患者は、早期に受診中断するリスクが最も高かった。これに、貧困地区在住という条件が加わると、リスクが2倍になっていた。そして、早期受診中断におけるプライマリケアの影響や社会的支援について、さらなる研究が必要であるとまとめている。当センターCNが行った受診中断・再開・継続に関する調査でも、医療者との信頼関係や治療方針を理解できなかったり、受け入れられていない場合には、受診中断がおこりやすかった。しかも、初診から半年以内に中断が生じやすかったことから、初期に患者との信頼関係を形成する関わりが重要であることを再確認した。

2)治療開始前のアセスメント

いくつかの発表から、治療開始までに、治療継続に関する要因について充分なアセスメ ントを行う重要性の認識が高まっていると感じた。抑鬱傾向、病気について誰にも告白していないために生じるストレス、低学歴などの心理社会的・人口統計学的因子は、治療効果を下げ、治療に取り組む患者の能力を決定づける因子であるとし、これらについてできるだけ早期にアセスメントを行うことにより、治療開始前に患者の治療に対する自信や信念、信頼を向上、改善させることができるとの報告があった。当センターでは、初診からCNが患者担当制でかかわり、患者教育や服薬支援、サポート形成支援を行ってきた。これらの支援は、治療に臨む患者の自信や医療者との信頼関係を形成するのに有効であり、最終的にアドヒアランスを育成することにつながっている。

 

2.HIV担当看護師による取り組み

アドヒアランスの要因分析が進む一方、アドヒアランスを支援する活動には生かされていないとして、SOS(Sustain Orientation Solution)という独自のプロジェクトを実践している報告が興味深かった。このプロジェクトの目的は、抗HIV療法やHIV関連の治療に対する患者個々のコンプライアンスを改善することであり、患者に対して多角的なアプローチを行うため、訓練を受けたチューター・ナース(tutor-nurse)が実践している。チューター・ナースの役割は、アドヒアランス向上につながる様々な段階(targets)に、患者がたどり着けるよう支援することである。対象となる患者は、ウイルス学的失敗例、自己申告によるアドヒアランス不良例、チューター・ナースを希望する患者である。プロジェクトの目標は、基本的には治療成功(virological response)である。そのため、ルティーンのケア以外に、耐性検査(genotyping)や患者からの電話相談、残薬確認、治療内容の単純化、薬剤費対策(drugs collection facilitation)、アドヒアランス良好な患者との面接(ピアカウンセリング)、各種情報の提供、DOT(直接監視下療法)、特殊な問題に対応する他の医者・パートナー・ケア提供者等の関係者を巻き込むこと等、様々な活動を行っていた。日本ではすでに当センターのCNや8ブロック拠点病院の実務担当看護師が同様の活動を行っている。この報告の最後には、患者のウイルス量や治療薬の変更の有無などの治療成績を一つの評価指標として、SOS前後の比較を行いチューター・ナースの活動が有効であったと評価していた。我々も活動評価を急務の課題としているが、CNや実務担当者の活動は、エイズ医療体制と同時にスタートしており、この報告と同様の手法では難しい。しかし、治療成績やQoL等、多方面からの評価を実施していきたいと考えている。


3.精神的な問題をもつアドバンスケースへの対応

精神的な問題をあわせもつ患者への対応が困難であるとする報告も、多かった印象を受けた。直接、情報交換した欧米各国の医療者からは、特にEFVを使用した場合、これまで潜在していた精神的問題が増強される状況が聞かれた。そして、時に自殺企図に至るほど事態は深刻で、EFV使用前には特に、アセスメントが重要であり、その結果によっては、他の薬剤を選択する、または治療開始を見合わせる、精神科を中心とした診療体制を組むといった慎重さが重要という意見で合意した。EFVによる中枢神経系の副作用のうち、特に3ヶ月以降に出現する症状について検討した報告によると、睡眠障害と気分障害(mood disturbances)は、QoLへの影響とそれによる治療中断率への影響が大きかった。また、精神的な問題を併せ持っている患者について、10年前の状況と比較した調査では、抑鬱(10年前20%→今回61%)、アルコール飲酒歴(20%→25%)、薬物使用歴(19%→50%)のある人の割合が、特にこの3年間で増加していると報告していた。

HIV脳症等の精神症状を来す疾患への対応やHIVに関連しない他の精神疾患、神経疾患等との鑑別が重要であり、今後、この領域を専門とする医療者との協働により治療継続を支援することがますます重要になると実感している。さらに、精神疾患の診断がされないまでも、境界型と思われるような難しいパーソナリティーをもつ患者については、日常的に心療内科等の専門医と協力し、基本的なところとして精神面の健康管理を並行することが重要である。当センターでは、開設当初から国立国際医療センターの精神科と連携してきた。今後は、アディクションや人格障害等の要因をもつ患者について、院外の専門家とも連携が必要と考えている。

 

4.エイズ医療体制

都市の急性期ケア病院では、入院中の患者に治療失敗例が多く見られ、その原因は治療 に対する病院スタッフの教育不足と不慣れによるものとの報告があった。医師の書いた指示の43%が不正確で、PIの食事制限に関する間違い率は93%と特にひどかった。そして、看護師も薬剤師も間違った指示に従っていた。この問題を解決すべく、医師、看護師、薬剤師に対して、教材を用いて特別に教育を実施した結果、感染症の医師が「抗HIV薬の処方をする前に、このような教材や教育が必要である」という新たな認識をもち、抗HIV療法に関する医療者への教育が開始されるようになった。

我が国のエイズ拠点病院体制は、診療経験の格差と病院機能の評価という観点で、数年前から体制見直しの必要性が指摘されている。平成13年度 拠点病院の機能見直し検討会の中間報告では、ACCおよびブロック拠点病院は、専門医による初期治療計画の立案と実務担当看護師等による患者教育、拠点病院は、継続治療や日和見感染症、副作用の早期発見、治療という役割分担を提唱している。これにより、「治療経験はないけど、拠点病院だから患者を治療しなければならない」という医療者側の思い込みを解消し、拠点病院として患者発見後、速やかに専門病院にコンサルテーションするという、重要な機能が強調された。その際、当センターやブロック拠点病院の専門医や実務担当看護師は、コンサルテーション後も継続して紹介元である拠点病院との教育的な情報交換を行い、患者数が少ない中での貴重な学習機会を支援する対応が、必要であると考える。当センターでは、患者が転院後もCNが継続して患者からの相談に対応すると同時に、医療者からの診療相談にも対応して、教育的な支援を行っている。


Ⅲ.最後に

1997年に設置された当センターと、同時に誕生したHIV/AIDS専任コーディネーター(CN)は、当初から一貫して外来中心の患者担当制というシステムをとってきた。それは、患者主体の医療体制そのものが、患者のアドヒアランス向上に寄与するという経験則に基づいたためである。このような新しいシステムで行うヘルスプロモーションやセルフケア支援は、広く慢性疾患患者への医療サービスのモデルである。本会議中、各国で我が国のCN体制と同様の活動報告および評価がみられたことから、それを婉曲的な評価と受け止め、我々自身による評価を実施しなければならないと、改めて決意した。