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第14回国際エイズ会議参加報告書

東京大学大学院医学系研究科微生物学講座助教授  俣野 哲朗

エイズ予防財団の国際会議派遣プログラムにて、第14回国際エイズ会議(2002年7月、スペイン・バルセロナ)に参加する機会を得た。本会議の内容は、「A.基礎、B.臨床、C.疫学、D.社会」に分類されるが、このうち、「A.基礎」を中心とした内容について、以下に報告する。


(1) 今回の会議のメインテーマ: エイズワクチン

私は前々回1998年の本会議に出席したが、その際は、プロテアーゼ阻害剤の開発に基づく抗ウイルス剤併用療法が話題の中心であり、特にこの化学療法の限界および問題点がメインテーマであった。一方、今回のメインテーマはエイズワクチンであったといってよい。エイズワクチン研究にたずさわる私にとっては、特にすばらしい学会であった。ワクチン研究は、感染・発症防御に結びつく宿主免疫の研究(細胞性免疫・液性免疫など)、免疫誘導法の研究(手法の開発・抗原の選択)、評価系の研究(preclinical [動物実験]・clinical [臨床試験])に分けられるが、これら基礎的な領域から臨床的な領域まで幅広くトップクラスの専門家が参加し、招待講演においてもこれまでのreviewだけでなく新しい報告も盛り込まれ、レベルの高い議論が積み重ねられた。おおよその流れは以下の通りである。


1.宿主免疫の研究: HIVの感染抑制において「まずHIV特異的細胞性免疫が重要である」という認識には変化はない。その解析対象として、細胞傷害性T細胞(CTL)だけでなく、ヘルパーT細胞についても研究が進展していた。ワクチンによる誘導免疫としては、CTLに加えて中和抗体も考えられているが、この中和抗体誘導法の開発に関しては大きな進展は認められなかった。

2.免疫誘導法の研究: ワクチン手技として、現時点で最も有望なものは、各種DNAワクチン、各種組換えウイルスベクターワクチン、および、DNAワクチンと組換えウイルスベクターワクチン併用によるプライムブースト法である。本会議での焦点は、抗原の選択であった。数多くの抗原を併用するのが一般的ではあるが、特にGag抗原あるいはGag由来のエピトープを用いることについては、ほぼコンセンサスが得られていた。さらには、Tat・Rev・Nefの各抗原が注目を集め議論されていた。今回、私が「Vaccines: preclinical to clinical」のセッションで発表した内容は、われわれの開発したプライムブースト法におけるTat抗原の適性についての解析結果であり、Tatをワクチン抗原として使用する際の問題点を指摘するものであった。

3.評価系の研究(preclinical): これまで報告されてきたワクチンでは、preclinicalレベル(サルエイズモデル)におけるエイズ発症防御効果が認められなかったが、2000年から2002年にかけて、われわれを含めて数グループが、SHIVを用いたサルモデルでの急性エイズ発症阻止に成功した。本会議では、その次のステップとして、慢性期の解析結果が注目されたが、まだ充分な結果はでておらず、免疫反応からのエスケープ変異の出現などを含め、「慢性エイズの発症防御にはさらなる進展が必要である」という認識であった。

4.評価系の研究(clinical): 上述のように、エイズ発症防御にはまだ克服すべき問題が数多く残されているが、少なくとも「CTL誘導は有意義である」という考えで、CTL誘導型エイズワクチンの臨床試験研究は進められている。特に、組換えカナリーポックスベクターや組換えMVAベクターを用いたものは、ある程度の効果が期待されており、第3相試験開始に向けて研究が進展している。



(2) 興味深く思われた発表について

本会議にて、特に興味深く思われた発表は以下の通りである。

1.#MoOrA1090: 「サルの体内におけるCTL活性を直接測定する方法を開発した」という報告である。標的細胞と対照細胞とをそれぞれ蛍光色素で標識して、体内での細胞数の減少をFACSで測定するというものであるが、予想以上に感度がよく、順調に研究が進展すれば期待しうるものであった。

2.#MoOrA1092: DNA/MVAプライムブーストエイズワクチンの、SHIV感染サルモデルにおける長期解析の報告である。時間とともにCTLエピトープが次々に変化していくことを示唆する内容で、CTLエスケープ変異の出現をどこまでコントロールできるかという点が注目された。

3.#TuOrA1179: 「SIV感染サルモデルの感染急性期におけるCTLエスケープ変異の出現がいかに早いか」ということを示した報告である。本会議前にNature Medicineに報告されたTatの解析に加えて、SIVのほぼ全抗原についての解析結果が紹介された。

4.#WeOrA197: 「HIV-1のあるstrainに感染しコントロールできていた患者が、別のHIV-1 strainの感染をコントロールできなかった」という報告である。最初の感染において、かなりbroadにCTLエピトープが認められていたにもかかわらず、別のHIV-1 strainの感染をコントロールできなかったわけである。この結果は、生ワクチンでさえエイズ発症阻止効果に限界があることを示唆するもので、HIV-1の多様性に対応するワクチン開発の難しさを指摘している。

5.#WeOrA209: 各種SIVおよびその変異株を用い、中和抗体誘導に影響するEnvタンパク質の構造について解析した結果の報告である。特に、EnvのV1・V2領域の影響が示唆されていた。

 

(3) エイズ予防財団の国際会議派遣プログラムについて
 エイズ予防財団の国際会議派遣プログラムでは、「A.基礎、B.臨床、C.疫学、D.社会」の4領域をあわせて約20名の参加者がいて、朝食時あるいは夕食時に、適宜、参加者の方々と顔をあわせて話をする機会に恵まれた。元来、各領域間の交流の重要性は認識しているものの、私の研究内容は「A.基礎」に属し、現実的には、他の「B.臨床、C.疫学、D.社会」の領域の方々と接する機会は多くはなく、今回は貴重な経験であった。この機会を与えていただいたエイズ予防財団に感謝させていただく次第である。今後も、各領域間の交流という点もふくめ、このようなすばらしいプログラムを維持・発展していただくことを期待している。