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第14回国際エイズ会議参加報告書

特定非営利活動法人HIVと人権・情報センター
管理栄養士・名古屋支部事務局長  木下 ゆり


~世界と日本のPWA/H(HIV感染者・AIDS患者)にたいする栄養支援ついて~

1998年から、毎年国際会議とアジア・太平洋地域国際会議に参加しているが、年々会議への参加者数や発表演題数は増加しているにも関わらず、PWA/H(HIV感染者・AIDS患者)にたいする栄養支援に関する発表・報告は依然として少ない。今年もこれまで同様に栄養の発表が少なかったが、そのような中で、幸運にも「日本におけるNGOによるPWA/Hへの栄養支援~PWA/Hにたいする栄養支援のニーズ調査と栄養ハンドブックの開発」というテーマでポスター発表の機会を与えられ、日本から世界に発信できたこと、また、各国の興味深い発表や意見交換の内容ついてまとめて報告する。

<PWA/Hにたいするケアが進んでいる国々では>
英国、米国、オーストラリア、カナダ、スペイン等、抗HIV薬が入手可能である経済的に豊かな国々で、さらにPWA/Hにたいするケアが進んでいる国々では、PWA/Hは感染告知間もない時期から病院やNGOによる様々なサービスを受けている。その中でも特に十分な栄養管理こそHIV感染症には重要であるという認識のもと、HIV診療病院(科)内には栄養相談室が確保され、栄養士によって栄養アセスメントから栄養指導が提供されている。

また、地域ではNGOではボランティアスタッフらによる栄養に配慮した食事提供(ラウンジやレストランでのランチ・ディナー、体調が悪いPWA/Hには自宅への配達)や勉強会の開催などのサービスを利用している。


<日本では>
今回、HIVと人権・情報センターが発表した「PWA/Hにたいして栄養支援に関するニーズ調査」の結果によると、PWA/Hの80%以上が「栄養支援を受けたい」と思っているにも関わらず、実際には病院では栄養指導を受ける機会がなかったり、必要な情報を必要な時に入手できていないのが現状がある。「栄養支援を受けたい」と答えたPWA/Hにその理由を聞いてみたところ、90%以上が「体調が悪い時(食欲がない、吐き気、下痢、口内炎)に何を食べたらよいかわからず困った」、50%が「容姿が気になる(皮膚、やせ、中性脂肪の偏在)」と答えている。

NGOであるHIVと人権・情報センターでは、1997年から今までに管理栄養士・栄養士等によって約600件の訪問カウンセリング・栄養支援を行ってきたが、このような非常に高いニーズに応えるために、当事者の視点にたった「PWA/H向け栄養ハンドブック『栄養と滋養』」の開発を行い、今回の国際会議で発表した。ハンドブックの構成は①食べ物が体をつくっていること、②栄養の基本、③免疫と栄養、④HIV感染症と栄養、⑤体調が悪い時には、⑥衛生、⑦日常生活での心得、である。取り外し可能な手帳サイズのバインダー式で、プライバシーへの配慮からHIV/AIDSという言葉入れていない。

インド、ジンバブエ、ウガンダ、マレーシア、米国、スペイン、日本等、様々な国のPWA/Hや医療関係者・NGO関係者・研究者等のHIVの栄養に関わる人々に詳しく紹介したところ、「PWA/Hのニーズに合っている」「HIV/AIDSという言葉が入っていないので安心して持てる」「レシピがついていて使いやすい」「イラストがたくさんあってわかりやすい」「自分の国で作りたいと思っていたが、たいへん参考になる」「(完全)英語版を、是非作ってほしい」「PWA/Hにとってとても意味ある取り組みでありすばらしい。嬉しい、ありがとう」という意見があった。


<抗HIV薬がない国々では>
抗HIV薬が入手できない国々では、薬による治療以外のケアの方法として栄養支援は非常に重要であると認識されている。HIV感染・AIDS発症による体重減少や、栄養障害の問題から栄養支援が必要であることは言うまでもないが、経済的に貧しい国々での栄養の問題は、まず食糧調達を指す。いかに継続的に食糧を供給するか、またどのようにPWA/Hに配分するかが重要な課題となっている。また、ほとんどの国では家族の規模が大家族であり、PWA/Hのいる家庭(家族)全体への食糧提供(ケア)していかなければPWA/Hの栄養が確保されない場合もある。

HIVに感染している妊婦・母親にたいする母子感染予防のための教育プログラムを行っている国も多い。高価な抗HIV薬、そして高度な医療サービスが受けられない国々での母子感染、そして子どものHIV感染の問題は深刻で、栄養の分野においても大きな課題となっている。


<子どものHIV感染と栄養>
子どもがHIVに感染している場合、多くが発症している。食生活の状況について聞き、栄養について指導するという取り組みは、子どもには不可欠であり、子どもと両親の双方に積極的な働きかけが必要である。また、子どもの感染者のニーズは多様化しているため、個人に合わせたオーダーメードのサポートが重要である。
これまで子どもにたいする栄養評価基準がほとんどなく、子どもの成長、感染の期間、検査数値、個人の栄養の歴史等をふまえて、HIVに感染している子どもの栄養ガイドラインが必要である。


<抗HIV薬の副作用による中性脂肪の上昇と運動療法>
ここ数年、抗HIV薬(プロテアーゼ阻害剤)による副作用による、血中の中性脂肪値の上昇やお腹等への中性脂肪の偏在が問題となっている。これらの症状を改善するために、栄養療法と運動療法を併せて取り組むことが注目されている。

米国のメディカルクリニックにおいて、栄養相談の中で希望があった場合に、運動療法(水泳・エアロバイク等の有酸素運動と、ウェイトリフティング等の筋力トレーニングである無酸素運動)を取り入れて脂肪の燃焼を試みた例があった。栄養療法の内容としては、①食物繊維を多く摂る、②魚や植物性の脂肪を多く摂る、③低脂肪ミルク、ヨーグルト、脂肪の少ない肉を摂る、という指導を行った。しかし、運動療法は短期間に効果を出すことは困難な上に、定期的に継続することも困難であるため、改善した例は少なく、この二つの療法を試みても結局改善されない場合も多い。

オーストラリアのNGOでも運動療法としてエクササイズの講座を開設している。PWA/Hから人気があり、参加が多いという。
しかし、残念ながら抗HIV薬の副作用による中性脂肪の上昇は、生活習慣病によるものとは異なり、運動・栄養療法に積極的に取り組んでも容易には改善できず、最終的には中性脂肪を下げるための薬を服薬する方法をとらざると得ないというケースが多いのが現状である。


<様々な職種のスタッフにたいする栄養教育・研修の必要性>
HIV感染者が直面する問題(体重の減少、抗HIV薬の副作用による中性脂肪の増加等)について、栄養士が栄養支援をすることは当然のことではあるが、それ以外の様々な職種のスタッフ(ソーシャルワーカー、カウンセラー、ナース、薬剤師、医師等)が、栄養について伝えることも非常に重要である。各スタッフが、お互いの仕事の内容や役割をしっかり理解し、協力しあうことで、PWA/HのQOLをより高めていくことにつながる。

来年の第7回アジア・太平洋地域AIDS国際会議(神戸)では、今まで以上に栄養の分野についても充実したプログラムとなることを願っている。今後も世界、アジア、日本の現状を踏まえ、PWA/HのQOL向上のための重要な鍵となる栄養について、取り組んでいきたいと思う。


謝辞
最後になりましたが、財団法人エイズ予防財団派遣事業でスカラシップをいただいて、国際会議に参加させていただきましたことを、心からお礼申し上げます。今後、様々な機会を通じて、広く一般の方々や専門家の方々に、国際会議で学んだことをお伝えしていきたいと思います。本当にありがとうございました。